ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん36…広島・お好み村 『水軍』の、名物のカキがたっぷりの季節限定お好み焼き

2006年02月17日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 広島の知人に会いに行った際、広島随一の夜の繁華街である流川へと繰り出して、2軒、3軒とつい飲み歩くことに。おかげで、旅の初日に財布がすっかり軽くなってしまった。翌朝、残り少ない旅費を心配して、さて今日の食事はどうしよう、と思案していると、安くてうまい広島名物ならお好み焼きを食べてみるのが一番、と知人に勧められる。広島でうまいものといえば、カキや鯛、アナゴなど瀬戸内の新鮮な魚介を使った料理が思い浮かぶが、お好み焼きだって広島の味覚を代表する一品。しかも1000円程度の安い値段で手軽に味わえる、庶民の味でもある。

「広島でお好み焼きを食べるなら、まずはここに行きんさい」と、知人に教えてもらった「お好み村」を目指して、広島駅から路面電車に乗って八丁堀へと向かった。電停から5分ほど歩くと、「新天地」という繁華街に出る。あたりにはパルコなどファッション関連のビルが立ち並ぶおしゃれな一角で、暖簾をくぐってガタピシと扉を開けて、大きな鉄板が据え付けられたテーブルにつく、というお好み焼き屋のイメージとは、ちょっと結びつかない雰囲気だ。こんな町にお好み焼き屋があるのかな、などと思いながら教えられた場所へたどり着くと、周囲の町並みにマッチしたしゃれた外観のビルがそびえ、看板には「お好み村」の文字が見える。

 このお好み村は名の通り、1軒の店ではなくビルの2~4階に30軒あまりのお好み焼き屋が集まった、いわゆる屋台村である。お好み村がある新天地は、戦後まもなくの頃にお好み焼きを売る屋台が集中していた地区で、一時期は新天地公園を中心に50軒ものお好み焼き屋の屋台が、このあたりに集まっていたという。その屋台の一部がこのきれいなビルに引っ越しして、「お好み村」と称するようになったのは平成4年。以来、今や1日で3000人もの客がやってくる、原爆ドームに並ぶと言っても過言ではないほどの広島の名所となったのである。

 店を選びながら、まずは各フロアをぶらぶらと歩き回ってみることにした。3フロアのすべてにお好み焼きの店ばかり並ぶ様は、屋台が軒を連ねていた戦後のたたずまいを伝えているようにも感じられる。それにしても、修学旅行らしい制服姿や、大きな荷物を持った観光客がずいぶん多いようだ。お好み焼きは広島庶民の味である一方、広島を訪れる観光客おあつらえ向きの名物料理でもあるのだろう。

 あちこちから漂ってくるソースの香りに食欲をそそられて、たまらなくなって「水軍」という名の店の暖簾をくぐる。自分の出身地である芸予諸島の因島を拠点に勢力を誇った海賊、村上水軍と関係があるのか、と思って店の人に聞いたところ、ご主人が因島出身とのことだった。メニューにも餅入りの「海賊焼」、魚介類入りの「水軍焼」など、当地ゆかりのネーミングがなされているのが面白い。その中から広島ならでは、冬季限定の「カキ入りお好み焼き」を注文。生地とキャベツを焼いている隣で、中ぐらいの粒の丸々したカキを5、6個さっと炒め、仕上げにのせてからこてで目の前に運ばれてきた。

 皿に取りますか、それとも鉄板の上から食べますか、と聞かれたので、鉄板から直接、熱々のまま頂くことにする。甘いキャベツにホクホクしたカキの身、そしてもったり甘ったるい「お好み村ソース」が良く合う。こてを上手く使いながら鉄板からつまんでいるうちに、我慢できなくなって修学旅行の学生に囲まれながらつい、小ジョッキを1杯注文。安くてうまい庶民の味は、ビールが進む大人のおやつである。(2月中旬食記)

味本・旅本ライブラリー番外編…『旅で出会ったローカルごはん』が本になります!!

2006年02月13日 | 味本・旅本ライブラリー


 このたび、当ブログのカテゴリー「旅で出会ったローカルごはん」が、何と、本として出版されることになりました!

 タイトルはほぼこれになる予定。ブログでは写真は1点だけですが、カラーページをふんだんに使い、料理や旅先の写真も盛りだくさん。北は北海道・根室から、南は沖縄・那覇まで、全国100近い「ローカルごはん」がたっぷり満載の1冊です。発売予定は4月下旬のゴールデンウィーク前、全国一斉、書店の紀行・エッセイ・食のコーナーに置かれる予定です。詳細はブログにて、明らかになり次第おしらせします。

 現在、その執筆・編集に忙殺されているため、今月に入りブログの更新が滞っております。「週4回更新!」を標榜しているのに、情けない限り…。今月末に原稿を仕上げて、出版社へ渡してしまうまで、このスローペースでなにとぞご了承ください。

 今週末からは、この本のために追加取材・撮影した、「広島~博多~佐世保~熊本~鹿児島 締め切りに追われて怒濤の食って撮って書いて3泊4日取材行」で仕込んだネタを、本の刊行に先駆けて(実験的に?)順次アップしてく予定です。観光客人気の広島・お好み村の実態は? 博多のモツ鍋屋は実はおしゃれなアイテム? 地元客は平然と2時間待ってる佐世保バーガー? など、おもしろローカルごはんをいろいろ見つけてきましたので、好ご期待ください。

旅で出会ったローカルごはん35…高山 『高山朝市』の、無添加赤カブ漬けに飛騨牛の串焼き

2006年02月02日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 奥飛騨温泉郷の最奥にある新穂高温泉からロープウェイに乗り、穂高連峰の登山口である西穂高口駅を目指す。ゴンドラの窓からは、正面にそびえる北アルプスの山々を望み、眼下には蒲田川が刻む谷間から山腹にかけて広がる、黒々とした深い森が見下ろせた。ガイドによると、この森には主に飛騨地方に分布している、朴の木も多く自生しているという。飛騨の人々の生活は山とともにあり、といわれるが、狩人や木地師たちにとって、こうした深い森は生活の糧を得るための、恵み豊かな場だったのだろう。

 西穂高口駅を起点にして、千石園地の原生林の中をハイキングしてから、この日に宿を取る高山へとバスで向かった。山歩きをして疲れているため、宿へ戻ってから早々に眠りにつき、おかげで翌朝目覚めたのは7時前。高山名物の朝市見物にちょうどいい時間である。身支度をしたら、朝市が行われている宮川沿いへと国分寺通りを歩いていく。宮川へ近づくにつれ、沿道を歩く人の数も増えてきたようで、鍛冶橋を渡ると、あたりは結構な人出。早朝であるにもかかわらず、ツアーバスの客の姿も結構見られるようだ。

 高山の朝市はここのほか、高山陣屋で行われる「陣屋前朝市」があり、扱う品数の豊富さでは宮川朝市のほうに軍配が上がる。もとは昭和20年代から行われていた交換市がルーツなだけに、野菜や果物をはじめ工芸品や民芸品、衣類など生活雑貨まで、露店の種類は種々様々。観光客向けの朝市、ともいわれている一方、泥つきの山芋や山ゴボウといった地の野菜、使い込むといい色になるというイチイ細工のアクセサリー、格安のこわれもの塩せんべいと、素朴な地の品や思わぬ掘り出し物などもあふれているように見える。

 見たところ山里の朝市だから、漬物を扱う露店が結構多い。千枚漬けや、漬物を刻んだ「めしどろぼう」、茶漬けといった品に並び、目をひくのは高山名物・赤カブの漬物だ。真っ赤なのが店頭にずらりと盛られた露店を見つけ、ひとかけら試食させてもらう。「うちでは化学調味料や着色料、保存料を使わず、味付けは塩のみ。だからあまり余計な味がしないでしょう」と店の人が言うように、えぐ味がなく野菜の味が素直に引き出された優しい味だ。使う野菜も高山郊外で栽培している自家製の有機野菜、漬けるのに使うのもプラスチック桶でなく昔ながらの木桶という、まさにこだわりの漬物である。「漬物はあまり高いと売れないから」と、ひとつ350円は朝市でのみの特別価格。昨日に続いて山の恵みのご相伴にあずかることにする。

 食べながら歩いている人を見かけて欲しくなり、朝飯がわりに「牛政」の飛騨牛串焼きを1本かじり、隣の店の「朝市牛乳」をグイッと頂く。串焼きは醤油ベースのタレで、中は赤いミディアムな焼き具合で柔らか。牛乳は牧成舎の「まぼろしの味」とあり、低温殺菌しているためスッキリした味わい。早起きして健康的に散歩して、朝市で朝ご飯を頂く。山歩きの疲れもすっかりリフレッシュしたところで、今日の散策は山から里へ。上三之町や屋台会館、飛騨の里など、山間の小京都・高山を隅から隅まで歩きまわってみよう。(9月下旬食記)