ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん37…博多 『越後屋』の、白味噌京風仕立てのモツ鍋

2006年02月18日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 モツ鍋がかつて東京でもブームとなったのは、バブルの末期ぐらいだろうか。そもそも博多の代表的な郷土料理のひとつで、牛の内臓をキャベツやニラなどの野菜と一緒に煮込んだ、栄養満点のスタミナ料理。気取らない庶民派のこの料理が当時、トレンドのひとつになっていたとは、今思えば何だか不思議なものだ。渋谷や六本木の小じゃれた雰囲気のモツ鍋屋に、イタリアブランドのスーツに身を包んだバブル成金が、きれいどころの取り巻きをひきつれて出入りしていた… なんて話を思い出すと、上り調子の時流ならではの勢いというか節操のなさ?が、こんな時代においては懐かしく、ちょっとうらやましい気がする。

 先週末に博多を訪れた際、知人にモツ鍋屋での宴席をセッティングしてもらった。九州一の繁華街である天神や中洲へいざ、繰り出して、と気分は盛り上がるが、案内された店は博多駅から徒歩15分ほどのところ。周囲には飲食店の少ない、物静かな一画である。『越後屋』との店名が記された木板の看板に緑の大きな暖簾をくぐると、店内も木を生かした落ち着いた内装。一杯飲み屋風のモツ鍋屋の印象とはずいぶん趣が異なる、しゃれた雰囲気の店である。そして満席の店内のほとんどが、若い女性のグループ客。これまた場末の飲み屋で鍋をつつきながら一杯、といった感じの男ふたりの我々の方が、かえって浮いてしまっているほどである。

 掘り炬燵式の客席に落ち着いて品書きを開くと、モツ鍋1人前900円のほか、レバーやセンマイ刺し、酢もつなど単品のメニューも豊富だ。2000円のコースにはモツ鍋に加え、牛タン塩焼き、サラダ、キムチがつくのでそれに決定。芋焼酎「霧島」のお湯割りを傾けているとすぐに、銀色の大鍋が運ばれてきた。表面に浮かぶたっぷりのニラの緑、どっさりかかった唐辛子の赤が鮮やかである。コンロにかけて軽く煮えた頃が食べ頃で、おたまでよそうと底からモツがたっぷり。この店では小腸のみを使っているとのことで、トロリとしたゼラチン質の部分が甘く、くせのない味わいだ。

 モツ鍋は一般的に、醤油味ベースなのが中心なのに対して、この越後屋のモツ鍋は「京風白味噌仕立て」。京都直送の西京味噌を中心とした上品な味付けが、女性客に好評を博しているようだ。具は厳選した鮮度バツグンのモツをはじめ、歯ごたえのいいキャベツやゴボウ、地元福岡産のニラといった、素材の持ち味を生かしているのが身上。食べ進めるとニラの鮮烈な香りがプンプン、唐辛子の強烈な辛さが合わさり、これはスタミナがつく。プリプリのモツにゴボウの土の香り、シャッキリのキャベツの甘さと、様々な食感も楽しい。ゆずの香りがするので店の人に聞くと、「揚げ豆腐の中に、九州特産の柚子胡椒が入っています」とのこと。爽やかな香りが、甘めの味付けに締まりを出しているようだ。

 鍋をつつき、焼酎を傾けながら昔話に花が咲き、気が付けば鍋の中は白味噌の汁だけになってしまった。鍋の最後の仕上げはご飯を入れて雑炊、といくところが、チャンポンの麺を残った汁へ入れるのが地元、博多流。煮詰まって濃厚な味噌のせいで、味噌あんかけ風のこってり味の麺をすすって締めくくりとした。それにしても、女性客御用達のモツ鍋屋が繁盛しているとは、さすが、本場の博多。今では東京ではほとんど見かけなくなったモツ鍋屋だが、こんな不景気の時代こそ、心と体にスタミナと元気をつける強い味方になるのでは。(2006年2月10日食記)