ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん38…広島・本通り 『若貴』の、生エビ生イカたっぷりのお好み焼きスペシャル

2006年02月20日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 広島のお好み焼きの殿堂的存在の「お好み村」でお昼を頂いた後、食後に原爆ドームと平和記念公園をぶらりと散歩。小1時間歩き回ったせいか、おやつ代わりにもう一枚、お好み焼きが食べたくなった。そこで「お好み村」に向けて引き返す途中、本通りのアーケードで「広島名物、お好み焼き『村』」との垂れ幕を見かけ、思わず足を止めた。ランドマークビルの4階にある店、『若貴』の宣伝のようで、すぐそばのお好み村に対抗してか、何とも思い切った表現だ。広島の市街にはおよそ2000軒ものお好み焼き屋があり、店同士でも激しくしのぎを削っているという。2枚目はせっかくだから、「殿堂」のお好み村以外の店で頂いてみるのもいいかも知れない。

 エレベーターで4階へ上がって扉が開くと、屋台風のコーナーの前にテーブル席がいくつも並んでいる。何とフロアひとつがすべて、1軒のお好み焼き屋なのだ。「うちは観光客のほか地元の客、特に広島の郊外からやってくる人も多いんです」と話す店のお兄さんによると、この店は市街で屈指の規模を誇るお好み焼き屋だという。テーブル席のひとつに腰を下ろし、壁にいくつか貼られた品書きの中から、おすすめの「お好み焼きスペシャル」を頼んでようやく一息つく。

 広島のお好み焼きのルーツは、戦前から庶民に人気があった「一銭洋食」である。ルーツと言ってもこの一銭洋食は、水で溶いた小麦粉を鉄板で焼いた後、ネギや粉カツオを上にのせただけの、かなりシンプルな食べものだったという。この一銭洋食が元になって、キャベツやモヤシなどたっぷりの野菜に、うどん、そば、中華麺など麺類と、卵や肉、魚介類といった具を重ねていく、現在の広島風お好み焼きのスタイルができあがったのは、戦後から昭和30年代にかけて。ちょうど、新天地がお好み焼きの屋台で賑わった頃である。この店でも、鉄板にまずクレープのように薄くのばした生地と卵が焼かれ、さらにキャベツに豚肉、焼きそばが順番に積み重ねられていく。店の人はこてを器用にカチャカチャと使いながら、手早く炒めたりひっくり返したりと忙しい。別に炒めたエビとイカが仕上げにたっぷりのせられたら、いよいよできあがりだ。

 こんもりと盛り上がったボリューム満点のお好み焼きを、こてで十字、さらに8等分に切って、一片を割り箸でつかんで口いっぱいに頬張る。こってりと濃厚で甘いソースがからんだ生地とそばに加えて、市内の観音町特産の千切りネギなどシャッキリと瑞々しさが残る野菜、さらにエビとイカの甘味が、それぞれ相性バッチリだ。エビとイカは生の物を使っているから、外は香ばしく、中はしっとりと柔らかい。下に敷かれた豚肉が、味の下地の旨みを出している。もちろんキャベツたっぷり、カリカリのそばもいっぱいと食べ応え充分で、わき目もふらず、ソースをからめてひと口、そしてもうひと口。

 全国からお客がやってくる観光名所のお好み村、そして地元客に評判のこの店と客層にやや違いはあるが、どちらも安くてうまくボリューム満点の、広島庶民の味の真髄を伝えていることに変わりはない。今日2枚目のお好み焼きをすっかり平らげ、店を出るともう日が傾いている。灯りはじめた流川のネオンの誘いに足を止めないのは、軽い財布のせいか、それとも満腹の腹のおかげか? (2006年2月10日食記)


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