ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

味本・旅本ライブラリー<3>『食の堕落と日本人』 小泉武夫著

2005年08月28日 | 味本・旅本ライブラリー
「食育」という言葉を、最近耳にする機会が多くなりました。ファーストフードやファミレス、ジャンクフードに押されていく中、失われつつある日本の食文化を見直したり、農産品の生産の現場や漁業の現場などを見に行くことは、食べ物の大切さを学ぶとても意義のあることでしょう。私もこの夏、家族で青森県の弘前郊外にある農家のお宅に泊めていただき、子供たちはリンゴ畑の草取りをやったり、畑からトマトを収穫してかじったりと、めったにない体験にたいそう喜んでいました。もっとも学校の宿題の作文に書いてあったのは、夜見に行った青森のねぶた祭りのことでしたが。

 閑話休題。著者の小泉武夫先生は東京農大の教授であり、発酵学の権威。本書では日本の食文化に並々ならぬ深い造詣と愛情をもっていらっしゃる先生が、その危機的状況に、さまざまな面から警鐘を鳴らしています。特に、食は人間の体だけでなく、心や精神の形成にも影響しているという話は実に興味深い。以前、先生の講義を聴きに言った際、「日本人は肉食をはじめてまだ百数十年しか経っていない。だから欧米の肉食文化に対応できる体質になっていない」という話がありました。農耕と漁撈で食をまかなう、温厚で我慢強い民族だった日本人がやたら「キレる」ようになったのは、この欧米の肉食中心の食文化の影響をはじめ、ファーストフードやジャンクフードの過剰摂取のおかげで不足する栄養素が生じたり、朝食ぬきの恒常化などが原因なのだとか。食生活の変化が人間の心と体に及ぼす影響は、私たちが考えている以上に多大なようです。

 そんなわけでこの本、自らの食生活を見直すきっかけになる一冊です。ややハードなテーマですが、ところどころ先生独特の軽妙なタッチで描かれているので、結構さらりと読めてしまうこと間違いなし。特に鰹節や梅干、日本酒など、代表的な食材の現状と再評価の記述の中でも、納豆とくさやに対する記述は情熱がほとばしる。くさいもの愛好家としても権威である先生の別称は「食の冒険家」。その愛称にたがわぬ、とんでもないものを食べ歩いた話が別の本にありますので、機会があればご紹介します…。

◎『食の堕落と日本人』小泉武夫著・小学館文庫刊 本体514円+税




味本・旅本ライブラリー<2>『俺たちのマグロ』 斉藤健次著

2005年08月28日 | 味本・旅本ライブラリー
 世界で一番、マグロを食べている国はどこか知っていますか?答えは日本。世界中で水揚げされるマグロのなんと3分の1を食べている、まさに「マグロ大国」なのです。
 ところが、日本をとりまくマグロ事情、最近は危機的な様相を呈しています。台湾籍の違法漁船による、資源管理条約を無視した乱獲操業。魚価の低下による、日本の遠洋マグロ漁業船主の相次ぐ廃業。実は鯨のように、アメリカの環境保護団体によって、絶滅危惧種に指定されてしまう寸前までいったという、シャレにならない話もあるんです。やれマグロの中でもホンマグロが一番とか、中トロの霜降りがたまらない、とか言っているうちに、気がつけばマグロを口にするのが難しくなる、といった時代がくるかも…。

 著者は、若いころライターをやっていたが行き詰まり、一念発起して遠洋マグロ延縄船に乗り込んでコック長として1年以上にわたる航海を経験、下船後に習志野市に「炊(かしき)屋」という居酒屋を経営しています。よってマグロ漁師と料理人という2つの視点を通してとらえた、全国のマグロ事情がなかなか興味深い一冊です。
 たとえば最近有名になった、津軽大間のホンマグロ一本釣り漁師の家に泊まりこんで漁に同行したり、築地のマグロ仲卸業者に商談しながら事情を尋ねたり。マグロの水揚げ地や流通現場からの生の声は、業者の切実な思いあり、知られていないマグロ事情ありと、日常食であるマグロについて、いろいろ考えさせられます。

 余談ですが、最近かなり出回ってる養殖のマグロは、なんと正真正銘のホンマグロ。養殖といっても孵化からでなく、子供のマグロを捕まえて人工的に育てるのですが、この方法だと赤身がない、全身がトロのマグロになってしまうとのこと。回転寿司のホンマグロ大トロサービス品はこれで、安くなるのはありがたいような、ありがたみがなくなるような…。

◎『俺たちのマグロ』斉藤健次著・小学館刊 本体1400円+税