ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん114…上大岡  『名物らーめん 一力』の、名物やわにくそば

2008年01月27日 | ◆町で見つけたオモシロごはん


 酒を飲んだ後で無性にラーメンが食べたくなるのには、生理学的な根拠があるという。アルコールの分解に肝臓が血糖を使用するため空腹感が増す、のどが渇くので汁物が飲みたくなる、嗅覚や味覚が酔ってしまうため濃い味の食べ物が欲しくなるなど、いずれも自らの経験からしても分かるような気がする。
 もちろん真夜中の寝る前に炭水化物に脂や塩分を摂取するのが、体にいい訳はないけれど、翌朝の胃もたれも、宿命的な体重増も覚悟の上で、つい誘われてしまうのが人情というか、酔っ払いの優柔不断さというか。今の時期には酔っての帰りの寒さもあって、飲んだ最後に逃れられない魔の魅力(笑)が、締めのラーメンにはあるようだ。

 神楽坂界隈で催された新年会の帰り、あまりつままずに深酒したこともあって、帰る前にラーメンを一杯食べていかないと、お腹がどうにも落ち着かない。通りにはチェーンの「天下一品」「日高屋」があるが、新年会シーズンのおかげか、終電前で込む時間帯だからか、数人の行列ができている。
 こちらも終電が微妙な時間で、何とも胃の座りが悪いがあきらめ、電車を乗り継いで最寄の上大岡駅へ戻ってきたら、すでに夜中の0時が近い。周辺でやっている店は牛丼屋ぐらいか、でも何も食べないよりましか、などと思案しているうち、5、6年前に何度か訪れたラーメン屋のことを思い出す。豚骨スープに背脂たっぷり、チャーシューもどっさりの濃ゆいヤツで、お腹にどっしりたまるラーメンだった。近頃は醤油や塩などさっぱり系のラーメンを好むようになり、足が遠のいてしまっていたが、深酒後で体がラーメンを求める典型的な状況である今は、ある意味理想的なラーメンかも。

 駅のすぐ近くということもあり足を向けてみると、営業時間0時までと、ギリギリ間に合った。久々に見た店頭は、『一力』の店名とともに「名物らーめん」と大書されたウッディな看板がライトアップされ、赤地に白文字で「麺」のひと文字が染め抜かれた暖簾が揺れる。かつて訪れていたときよりも、幾分スタイリッシュになったようだ。
 そして店内に入ってビックリ。かつてはラーメン専門店のような、内装に手をかけないシンプルな店だったのが、ひと言で言えばオリエンタルなテイストに。「香港九龍碼頭」との看板が掲げられ、ほかにも中国語の貼紙、カウンターの上にはトタン屋根風の飾りなど、香港屋台をイメージしているのだろうか。カウンターの向こうも、以前の白Tシャツ白前掛け白手ぬぐいのラーメン職人スタイルだったのが、黒いTシャツに赤いバンダナの兄さんが2人。こんな時間なのにほぼ満席の客を相手に、厨房でがんばっている。


スタイリッシュな店頭の暖簾をくぐると、中はオリエンタルムード


 ずいぶん店の雰囲気が変わったけれど、メニューのほうは食券の券売機を見たところ、以前と大きく変わっていないよう。スープは豚骨醤油スープ、トリガラ醤油スープの2種類が選べる仕組みで、かつてよく食べていた、豚骨醤油スープに背脂たっぷりの「名物ラーメン」も健在だ。
 今日のところは酒の後という勢いもあり、「名物ラーメン」のトッピングにさらにボリュームをもたせた、「名物やわにくそば」に挑戦。席に着くと、卓上にあるみじん切りのニンニクがツンと香ってくる。ほか豆板醤、ラー油、酢など薬味が豊富で、薬味で自分好みの味に微調整する「家系ラーメン」を思い出す。

 カウンターから厨房を眺めていると、スープを張った丼にゆであがった麺を入れ、メンマ、ネギ、青菜、煮卵、「やわにく」をどっさりトッピング。そして仕上げに、ザルを使って丼の上から背脂を、まるで雪を積もらせるようにサラサラとふりかけてできあがり。カウンターに置かれた丼には、スープの上から丼の淵まで、背脂がびったりとついている。全体的にえらく濃そうだが、今はこれがグッと食欲をそそる。
 突撃、とばかり、まずはひとすすり。麺はストレートでツルツル、中太麺のため食べ応えがあり、空腹の胃にしっかりたまるボリュームだ。スープはかなりこってりだろう、とレンゲですすると、塩分は濃い目だが意外に脂っこくない。脂の甘みは感じられるが胃に応えるほどくどくなく、これならサラサラと飲めそうだ。
 丼の上にのったやわにくは、豚の角煮のことで、厚切りチャーシューのような燻製臭が香ばしい。名の通りホコホコ、ホロリとした食感が心地よく、スープに浸すと脂の部分がトロリといい味に。メンマと煮卵も甘めに味付けしてあり、トッピングも全体的に味が濃い目か。どっさりのネギと青菜が、しゃっきり、さっぱりと味覚を変えてくれる。


麺は中太のストレート。結構食べ応えあり


 横浜にあるラーメン屋で豚骨醤油スープ、さらに背脂といえば、いわゆる「家系ラーメン」と思うかもしれないが、この店は家系ラーメンとは異なる。違いは豚骨やトリガラなど動物系の素材に加え、魚介系の素材を組み合わせてスープをとっている点。よって家系よりもスープはさっぱりしているのが特徴で、ヘビーな家系ラーメンがお腹にきつい人にとっては、これぐらいライトだとありがたいかも知れない。
 ある程度食べ進めたら、テーブルの上のニンニク、豆板醤もスープにぶち込んでみる。すると豆板醤の赤、ネギの緑、背脂の白と、丼の上が見た目鮮やか、ますます食欲をそそる。味も香りもツンツンのダイナマイトな味わいになり、スープでズッ、ズッとすするたびに、酔いが少しずつ覚めていくようだ。

 丼をすっかり平らげて、店を出る頃にはお腹はすっかり落ち着いたよう。体も温まったことだし、冷えないうちにタクシーに乗り込んで、帰ったらこのまま寝るとしよう。明日の腹回りが少々心配だけれど、たまの深酒、たまのラーメンだからまあいいだろう、と自らに言い訳して自己完結するところもまた、酔っ払いの締めのラーメンらしいか?
 明日は酒を控えて、スポーツクラブでがっちり泳いで今宵摂取した炭水化物を消費するか、でも確か、別の飲み会が入っていたような。優柔不断の深夜のラーメン食いは明日も続くようで、「明日から節制」の明日は永遠にやって来ず… 。(2008年1月10日食記)



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2 コメント

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Unknown (にむら)
2008-02-01 00:20:39
美味しいんですよね~…呑んだ後のラーメンって・・・特にこってりしたやつが。個人的にはあちこちにありますが○金なんかしこたま呑んだ後には惹かれます(いや身体には…(笑))。一力、今度行ってみます!
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ぜひに。 (kamimura)
2008-02-02 11:49:03
○金は以前書いた、春日の珍珍珍の近くにあり、気になる存在です。今年の健康診断の帰りに、寄ってみるかな(気の遠い話で)。

一力は私のシマ(?)である上大岡、杉田、磯子界隈のラーメン屋では3本指に入るお勧めです(もう2つは杉田家と満州軒)。よほど何か用事がなければ普通の人は遠方から来ることはない土地でしょうが、来訪のさいにはこの御三家はぜひに。
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