ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん69…広島・鞆の浦 『衣笠』の、鯛づくし膳にかぶと煮

2007年03月29日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 瀬戸内に面した小さな町・鞆の浦は、かつて潮待ちの港だった名残をとどめ、落ち着いた町並みが広がっている。町歩きの前に、体にいいという伝統の「保命酒」の蔵元を訪れて試飲。ついでにおみやげの瓶も買い求め、まだ日が高いうちから酒瓶をぶら下げて町歩きをすることに。町の南端の高台にある福禅寺を目指して、再び古い町並みの中を歩き出すことにした。ここの本堂に隣接する対潮楼には、その名の通り海を見下ろす座敷があり、狭い水路を隔てて目の前に仙酔島が浮かぶ様子が、手に取るように分かる。鞆の浦の春の風物詩といえば、ここで5月に行われている「鞆の浦観光鯛網漁」だ。これは、冬を外洋で過ごして、産卵のために春に瀬戸内海の燧灘周辺に戻ってきた旬の真鯛、通称「桜鯛」を狙って、約380年前から伝わる伝統漁法を再現したものである。仙酔島の砂浜で大漁祈願をした後、漁船が船団を組んで出漁して、親船から降ろされた網を勇ましいかけ声と共に徐々に揚げていくのだが、漁というよりもむしろ祭事という意味合いが強いようだ。見学のための観光船も出ており、網を絞ったところの写真を撮ったり、何と船の上から鯛を買うことまでできるのだとか。

 そんな具合にあれこれと、座敷から海を見ながら鯛のことばかり考えていたら腹が鳴る。おかげで、昼食にはどうしても魚料理が食べたくなってしまった。しかし、時計を見ると13時過ぎ。対潮楼を後にして料理屋を探して街を歩き回ってみたものの、やや時間がずれてしまったせいもあり、どの店も行列だったり、すでにオーダーストップだったりで、なかなか適当な店が見つからない。空腹を抱えて右往左往しているうち、偶然通りかかったのがさっき訪れた保命酒の店だった。先ほど色々説明をして下さった店の方に事情を話すと、鞆の浦で鯛を食べるなら、バス停に近い『衣笠』という店がいい、と勧めてくれた。さらに、わざわざ店へ確認の電話をして頂いた上、「今から行くから、席を空けておいて」と、ありがたいことに予約までしてくれたのだ。

 丁寧にお礼を述べてから店を後にして、来た道をバス停の方へ向かって引き返して、「衣笠」の暖簾をくぐった頃には、時計の針は1時半を回ろうとしていた。遅くなったが、何とか昼御飯を頂けることができてひと安心である。ここは、原漁港のすぐそばにある和食店なだけに、品書きには地元の旬の鮮魚を使った料理が豊富だ。中でも鯛料理の充実には、目を見張るものがある。奮発して頼んだ「鯛づくし膳」は、造り、かぶと煮、ちり蒸し、鯛めしなど、鯛料理がなんと7品勢揃いという豪華さなのに、割安な値段にも驚きである。

 中でも、大きなかぶと煮が運ばれてきたときには思わず感激。箸をあてるだけで、ほろりと実が崩れるほどの柔らかさで、口に運ぶとみりんと醤油でじっくりと煮てあるからこってりと甘辛く、いい味だ。鯛をつまんでいると、さっきは甘い保命酒を頂いたから、今度はきりっとした味わいの普通の酒が飲みたくなった。店の人に聞いたところ、広島の酒処である西条の銘酒「賀茂鶴」があるとのこと。さっそく冷やで1本頼んだら、鯛の頭をつつき、ほじっては、賀茂鶴の冷やをグッと一杯、を繰り返す。特に頬の部分と胸びれの付け根が、よく動いていた部位なだけに身の味が濃くておいしいのだが、どちらも2つずつしかないのが惜しい。

 この日は旅行の最終日で、明日からはまた仕事、仕事の毎日が始まる。鯛の頭を見ていると、仕事先の人達がそれこそ、船団で網を構えて待ちかまえているのをつい思い出してしまう。しかし、おいしい鯛をたらふく食べた上、健康にいい保命酒も飲んだおかげで、ばりばり働く元気が出てきたようである、というのはやはりオーバーだろうか。(9月食記)



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