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2冊ほど、少々ハードな内容の本が続いたので、ここで趣を変えてマンガの登場です。様々なタイプの、食やグルメをテーマにしたマンガが出ていますが、色々読んでみた結果、大まかにいくつかのタイプに分けられます。この「グルメマンガジャンル分け論」はいずれ、「まったりとこくがある…」「あるぢを呼べっ!」「…では一週間後に」などの名セリフで一世を風靡した『あのマンガ』を紹介する際にじっくり触れようと思います。
そういう意味では初手に紹介するこのマンガ、いきなりで何ですがいずれのジャンルにも分類されません(笑)。主人公の独特なキャラクターと、食事シーンの緻密な描写が特徴の、独自の路線を行くグルメマンガでしょう。
このマンガの登場人物は、輸入雑貨の貿易商を営む主人公・井の頭五郎だけ(その名すらよく読まなければ気付かないほど)。商談や打ち合わせなどを終えて、あるいは向かう前に、空腹を抱えた彼が町をさまよった挙句、1軒の店に入って飯を食う、ただそれだけのお話がずらり18話並びます。ひとりひたすら食事をする五郎さんの姿は、孤独を楽しんでいる風にも見える一方、失われた過去をあきらめて退廃的になっている風にも見えてしまう。シンプルかつちょっとシュールなストーリーです。
ちょっとニヒルな優男である五郎さんが訪れるのは、ある時は下町山谷の定食屋、あるときは赤羽の早朝営業の赤ちょうちん、さらに石神井公園の屋外売店や池袋のデパート屋上のうどんスタンド、江ノ島の観光客向け食堂…。時折、昔付き合った女性と訪れた思い出をたどる場面などもあり、孤独でなかったころの彼の姿もちらりと垣間見られます。面白いのはいずれの店も、スーツにネクタイ姿の彼にとっては不似合いなところばかり。店は実名を出していないが、その町を知っている人ならよく画を見るとすぐに分かるかも?
この本で特に好感が持てるのが、各ストーリーのクライマックスである、食事のシーンの描写です。たったひとり何者にも邪魔されずにひたすら物を食べる姿が、孤高というか美学というか、独自の世界観を作り出していて思わず引き込まれます。出てくるネームといえば、「ズッ」「もぐもぐ」「…はあ、」「これこれ!」「…うん、うまい」など、ほとんど擬音とひとりごとだけ。うんちくをひけらかしたり、グルメぶった評論などは一切出てきません。以前、テレビのグルメ番組で、レポーターのタレントがひと口食べるたびにカメラ目線であれこれしゃべりまくるシーンを見た時、レポーターはしゃべらず、黙ってひたすら飯をかき込んでいるところの画を流したほうが、視聴者においしさが伝わるんじゃないかな…と思ったことがありましたが、考えてみれば、うまいものに夢中になっている時って、確かに無口ですよね。
このマンガは、かつて週刊Spa!の月間版として刊行されていたPanjaに連載されていました。作画の谷口ジロー先生は著作に「坊ちゃんの時代」「神々の山嶺」、最近ではリニューアルした漫画アクションの「シートン」などで活躍中。どこか懐かしい、温かみのある画風がほのぼのと郷愁を誘います。
最後に、無口な五郎さんが、食べている目の前で手際の悪い店員を大声で叱りどつきまくる店の親方に対して、思わず語るシーンをちょっと引用。本の中で最も印象に残ったセリフで、ものを食べるって、やはり人間にとっての最重要事項なんだな、と改めて感心してしまいました。
『モノを食べるときにはね、誰にも邪魔されず自由で、何というか救われていなきゃあダメなんだ。独り静かで、豊かで…』
◎『孤独のグルメ』 谷口ジロー画・久住昌之著 扶桑社刊 本体1143円+税
そういう意味では初手に紹介するこのマンガ、いきなりで何ですがいずれのジャンルにも分類されません(笑)。主人公の独特なキャラクターと、食事シーンの緻密な描写が特徴の、独自の路線を行くグルメマンガでしょう。
このマンガの登場人物は、輸入雑貨の貿易商を営む主人公・井の頭五郎だけ(その名すらよく読まなければ気付かないほど)。商談や打ち合わせなどを終えて、あるいは向かう前に、空腹を抱えた彼が町をさまよった挙句、1軒の店に入って飯を食う、ただそれだけのお話がずらり18話並びます。ひとりひたすら食事をする五郎さんの姿は、孤独を楽しんでいる風にも見える一方、失われた過去をあきらめて退廃的になっている風にも見えてしまう。シンプルかつちょっとシュールなストーリーです。
ちょっとニヒルな優男である五郎さんが訪れるのは、ある時は下町山谷の定食屋、あるときは赤羽の早朝営業の赤ちょうちん、さらに石神井公園の屋外売店や池袋のデパート屋上のうどんスタンド、江ノ島の観光客向け食堂…。時折、昔付き合った女性と訪れた思い出をたどる場面などもあり、孤独でなかったころの彼の姿もちらりと垣間見られます。面白いのはいずれの店も、スーツにネクタイ姿の彼にとっては不似合いなところばかり。店は実名を出していないが、その町を知っている人ならよく画を見るとすぐに分かるかも?
この本で特に好感が持てるのが、各ストーリーのクライマックスである、食事のシーンの描写です。たったひとり何者にも邪魔されずにひたすら物を食べる姿が、孤高というか美学というか、独自の世界観を作り出していて思わず引き込まれます。出てくるネームといえば、「ズッ」「もぐもぐ」「…はあ、」「これこれ!」「…うん、うまい」など、ほとんど擬音とひとりごとだけ。うんちくをひけらかしたり、グルメぶった評論などは一切出てきません。以前、テレビのグルメ番組で、レポーターのタレントがひと口食べるたびにカメラ目線であれこれしゃべりまくるシーンを見た時、レポーターはしゃべらず、黙ってひたすら飯をかき込んでいるところの画を流したほうが、視聴者においしさが伝わるんじゃないかな…と思ったことがありましたが、考えてみれば、うまいものに夢中になっている時って、確かに無口ですよね。
このマンガは、かつて週刊Spa!の月間版として刊行されていたPanjaに連載されていました。作画の谷口ジロー先生は著作に「坊ちゃんの時代」「神々の山嶺」、最近ではリニューアルした漫画アクションの「シートン」などで活躍中。どこか懐かしい、温かみのある画風がほのぼのと郷愁を誘います。
最後に、無口な五郎さんが、食べている目の前で手際の悪い店員を大声で叱りどつきまくる店の親方に対して、思わず語るシーンをちょっと引用。本の中で最も印象に残ったセリフで、ものを食べるって、やはり人間にとっての最重要事項なんだな、と改めて感心してしまいました。
『モノを食べるときにはね、誰にも邪魔されず自由で、何というか救われていなきゃあダメなんだ。独り静かで、豊かで…』
◎『孤独のグルメ』 谷口ジロー画・久住昌之著 扶桑社刊 本体1143円+税
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