ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…小倉・旦過市場 『大學堂』の、大學丼

2017年08月04日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
旦過市場の鮮魚店は、店頭に各種魚介が並ぶものの、魚種や水揚げ地はほぼ表示されてない。ザルや皿に盛った上に、値段を書いた札だけ無造作に載せているのも、市民市場らしいというか。鯛はアラのみならず、尾頭付きの鮮魚も目立ち、中ほどの店で聞くと天然・養殖とも、熊本が主な産地という。並んでいた長崎の活けサバも目を引き、まるまるパンパンに太っていていかにもうまそうだ。漂ってくる味噌の香りに誘われて、隣の店を除くと、店頭のケースに魚の切り身の煮付けがずらり。まっ茶色に味が染みており、見るからにご飯が欲しくなってしまう。

親父さんに味噌煮ですかと聞くと、「ぬかだき」とのこと。名の通り糠漬けの糠床で魚を煮た惣菜で、古くは小笠原氏が小倉を治めていた頃に、献上品にもなったという、由緒ある当地の郷土料理なのだ。イワシとサバのがあり、おすすめはサバだそう。九州では塩サバや刺身などで、サバをよく食べるというから、まさにローカル魚のローカル料理だ。先ほどのあら炊きと同じく、小倉では魚介を「炊く」食文化が定着しているようである。

11時が近づくと食堂も開店準備にかかっている様子で、こちらも早めのお昼といきたい。すると通りの中ほどに、古い商家のような施設を見かけた。「大學堂」との屋号が掲げられ、店先には縁台や木のベンチが配され、畳の小上がりには丸いちゃぶ台が並ぶなど、昭和の雰囲気が漂っている。奥の厨房を覗くと、中からお姉さんが出てきて「大學丼ですか? ご飯用意しますね」丼飯を片手に場内を巡っておかずを載せてもらう、最近各地の観光的市場で見かけるスタイルで、この超庶民派市場で体験できるとは面白そうだ。うまいネタや安いお店などのヒントもいただいて、丼を片手に人混みの通りへと出発である。

まずは先ほどのぬかだきの店「たちばな」へ直行して、サバのぬかだきをひと切れ載せてもらう。大きさと、腹身か尾身かを選べ、丼の上からたっぷり味噌ダレをかけてもらえるのが嬉しい。これに合うトッピングを勧めてもらうと、「カナッペ」とのこと。創業100年の練り物の老舗「小倉かまぼこ」の人気の品で、すり身に玉ねぎとにんじんを混ぜ込み、薄いパンで巻いて揚げた店のオリジナルだ。ぬかだきの味噌ダレと合いますか、とおばちゃんに聞くと、「お好みで」と笑っている。さらに惣菜の店で高菜をひとつまみ、おまけで金時豆も載せてもらい、合計630円の「ぬかだきカナッペ高菜丼」の完成である。

大學堂に戻り、座敷の丸いちゃぶ台に落ち着いたら、あぐらをかいて丼にいざ突撃。まずはぬかだきで丼飯をザザッといくと、サバの味噌煮のような濃厚さの後、糠の香ばしさがほのかに残る。辛めの味噌ダレが肉厚のサバと絡み、皮目の脂甘さも相まって、これはご飯に最強の飯友だ。糠床に漬けた野菜の旨味が加わり、かつ魚の味も熟成させるため、ぬかだきは素材の相乗効果のある調理法のよう。中骨もヒレも気づかないほど柔らかく、つまみながら脇目も振らずご飯が進んでいく。

カナッペは揚げかまぼこ風で、サクッと軽い歯ごたえの後は、かなりグイグイと弾力がある。すり身には数種の魚を組み合わせているため、香りが複雑かつ後味に甘みがあり、しゃれた名前の割に硬派な練り物だ。ちなみに名前は昭和34年の発案時に、同様のフランス料理になぞらえてつけたとか。味噌ダレとの相性もなかなか良く、やわやわのぬかだきと対照的な、骨太で力強い旨さだ。合間に高菜をさっぱりとつまみ、最後は金時豆で甘く口直し。味の組み立てが絶妙のバランスの丼に、自画自賛の大満足である。

「定番をしっかり押さえた、渋めの組み合わせですね(笑)」とマイ丼を評してくれたお姉さんは、聞くと現役の女子大生だという。大學堂とは名の通り、市場の組合と北九州市立大が、商学連携で運営する公共空間なのである。市場の歴史や食流通といった文化資源を学ぶ場とともに、観光の拠点としても機能。大學丼もそのひとつで、旬の食材の発信はもちろん、お客とお店の方との会話を創り出し、ふれあいの促進も狙いという。この市場、建て替えの話があったり、お店の後継者不足など、古さ特有の課題も少なくないらしい。とはいえ特有の良さは残したいです、とお姉さんの言葉に、市場愛が感じられ応援したくなる。

ちなみに旦過市場の「旦過」とは、仏教用語で夕方に来訪した雲水が、翌朝早くにもう去ることを指す。お昼が近くなり、この店も利用者が増えてきたので、わずかな滞在ながら自分も去ったほうがよさそうだ。丼を平らげたら大學堂のお姉さんと、丼のタネを提供くださったお店に挨拶しながら、出口へと向かう。川の流れとともに歴史を重ねた市場が、今後立地を生かしどうなるのか。変化への期待とこのままであってほしい願いが入り混じる、小倉のローカル市場探訪である。

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