ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…福島県いわき 『貝鮮はまこう』の、メヒカリ焼き

2017年08月12日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
相馬駅からさらに常磐線を南下すること50分、浪江駅が現在、仙台側から電車で行ける終点である。ここから先は代行バスに乗り換えて、いわきや水戸方面への電車に接続する竜田駅へと向かう。わずか4駅分ながら、空間線量の高い「帰宅困難地区」を通っているため、乗り込むと単なる連絡バスではない雰囲気が。アナウンスで「帰宅困難地区を通過するため窓は開けないように」と念を押され、モニタには車内の線量と乗車中の総被曝線量も表示されるなど、満席の車内にはピリッとした空気が張り詰めている。

人の気配がない浪江の街を後に、国道6号へ入りやや行くと、信号がすべて黄色の点滅となり、帰宅困難地区へ入ったことが分かる。沿道には草に埋もれた住宅や、窓に板が打ち付けられた商店、店頭や看板が破損したままの郊外店舗も目立つ。大熊町に入ると福島第一原発から3キロほどのところを通るため、さらに緊張感が増す。時折、送電線の鉄塔が密になるところがあり、遠方へと目を凝らすがそれらしい建物は見えない。原子炉の破損による放射性物質の流出、その後の汚染水の海への放出。福島沿岸の漁業を操業停止に追いやった施設だけに、窓越しでもひと目見ておきたかった気がする。

竜田駅から再び常磐線に揺られてやってきたいわきは、茨城県と接する浜通りの南端に位置する市である。北端の相馬市でローカル魚を味わえずだったので、福島県を後にする前にここで今一度あたっておきたい。駅前の繁華街で店頭の品書きに「カツオ」「メヒカリ」の文字を見つけ、「貝鮮はまこう」の暖簾をくぐる。どちらもいわき市にある小名浜漁港の地魚で、お姉さんにまずはメヒカリからオーダー。あぶった一夜干しを頭からいくと、小ぶりながら味が詰まっており、白身の乳製品的なまろやかさが後から膨らむ。醤油ダレがしょっぱいぐらい効いているが、香ばしさが負けずに極まった、芯の通った小魚である。

メヒカリは名の通り青く目が光る、沖合の水深200メートルほどに棲息する小魚である。常磐沖が全国有数の漁場で、いわき市では「市の魚」にも制定されているローカル魚だ。棲息域が沖合かつ深海のため、原発事故による海洋汚染がないと判断され、試験操業の対象魚種に選定されたのは、2013年10月と早い。そのため少量ながら、地物がいわきなどで流通していると聞いており、期待してお姉さんに尋ねたが、お隣の茨城で水揚げとのこと。ならば、と追加しようとしたカツオも、千葉と宮城のものを使っているそうで、相馬に続いて地物はあいにくの空振りとなってしまった。

試験操業の目的のひとつには、市場への流通状況の検証もある。安全性の確保あっての実施なのは当然だが、現実的には依然「福島県水揚げの魚介」に対する風評が、拭いがたいようである。消費者が持つ抵抗感に加え、漁業者は高値が付かないため、県内の漁港への水揚げに難色を示すことも。店のお姉さんも、福島の魚はまだ扱うのが難しいです、と表情を曇らせる。一方、試験操業の対象魚種は順次増えており、長期の操業自粛が資源回復に繋がったなど、プラスの話題も出てきている。被災から6年、受けた痛手の大きさからすれば、それでも着実に歩みを進めている、といえるのではなかろうか。

ならば地物はさておき、店名に惹かれて追加はツブ貝やトリ貝の刺身をアテに地酒で一杯、と思いきや、青春18きっぷの旅ゆえの帰京できる終電が近づいてきた。メヒカリとビールの一献一品だけとなり、お姉さんに謝意を告げつつ店を後に。ちなみに常磐線の不通区間のうち、2017年10月に竜田駅〜富岡駅間が運転再開する旨が発表された。復旧が少しずつ進む新装なった鉄路を列車に揺られつつ、漁業事情が徐々に好転した県北と県南で、沿岸の地魚に舌鼓を打つ。そんな再訪時の旅の期待を胸に、上野へと遠路鈍行に揺られ行く、福島・浜通りのローカル魚探訪である。

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