ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん47…愛媛・八幡浜 『どーや市場』の、瀬戸内・宇和海・太平洋の魚介

2006年11月10日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 早朝に松山を出発した特急列車は、内子や大洲など「伊予の小京都」と称される町を経由しながら、山間から田園へとひた走る。小さな峠を越えると風景がやや開け、列車は八幡浜駅へとすべり込んだ。四国屈指の水産都市の玄関口にしてはずいぶん小ぢんまりした駅で、駅前広場に出たら町の中心部へ向かうバスがちょうど出発するところだ。あわてて乗り込み、運転手に八幡浜漁港へはどこで降りると近いか聞くと、「商店街の外れのバス停で降りても、まだ歩いて結構あるよ」。教えてもらったバス停で下車するといかにも町外れ、といった雰囲気で、漁港の町らしさはあまり感じられない。さらに海の方へ向かって歩くこと10分ほど、沿道に鮮魚店や蒲鉾の店などが目立ち始め、突き当たったところに九州へ向かうフェリー乗り場、そして広々した港の周囲に市場や直売所の建物が点在しているのが見えてきた。港はみかん畑の山に面しているところが、いかにも愛媛の漁港、といった感じである。

 愛媛県の佐多岬半島の付け根に位置する八幡浜漁港は、四国一の取扱量と水揚げ額を誇る漁港だ。近海で操業する小型底引き網漁と、遠方へ出漁する沖合底引き網漁(トロール)、アジやサバを狙った巻き網漁の漁船の拠点で、瀬戸内海に宇和海、さらに太平洋に到るまで、対象となる漁場は広範囲にわたる。フェリー乗り場から右へ入っていくと突き当たりに卸売市場があり、覗いてみるとちょうど競りや仕分けの真っ最中。ぶらぶら覗いてみたいところだが「関係者以外立ち入り禁止」の看板があり、隣接する直売所の『どーや市場』へと足を向けてみた。体育館のような建物の中に、真ん中の通路を挟んで左右に仲卸組合の魚屋が20軒ほど並び、朝6時の競りと同時に仕入れられた、イキのいい魚介が揃っている。浜値で売るため市価よりも割安で、底引き網の水揚げが中心の漁港だけに大衆魚が中心で魚種は豊富と、何か珍しい地魚に出会えそうで楽しみである。

 建物は天井が高く通りが広いため、どこかがらんとした感じがする。コンクリのたたきにスチロール箱を並べただけと、店舗の造りもまた簡素。観光客や買い物客向けの市場というよりは、業者向けといったたたずまいである。売り方も同様に、基本的にスチロール箱単位の箱売りで、品札には魚の名前はかかれておらず、重さと値段を書いた札だけが置いてあるのみ。小魚がたっぷり入った箱、カツオぐらいの中型魚が整然と並ぶ箱、大きな魚がドンと1匹入った箱など、中身は種々様々。いくつかの店の店頭を眺めて歩くと、巻き網漁の漁獲であるアジ、サバをはじめエビ、アナゴ、カサゴ、太刀魚、中には真っ赤なヒレが大きなホウボウ、がま口のような口をしたマトウダイ、異星の生物のような巨大なシャコエビにクルマエビ、高級魚のイサキやカンパチまで、店によって扱っている魚種も異なるようである。

 市場の中程にある「三原鮮魚店」の店頭には、色々なエビやアナゴ、ウマヅラなどに並び、様々な小魚がごちゃまぜに入った箱が面白く、思わず立ち止まる。おばちゃんに箱の中身を聞くと、「タテジマで細長いのがトラハゼ、エラが赤いのがチダイ、銀色で口が長いのがカマスでクロカマスとシロカマスがありシロがうまい、おでこが広いのが甘鯛、ほかアナゴや小さいスルメイカも入ってお得よ」。これで1000円ちょっとだから、まるでお魚の福袋、といった感じだ。「昨日は日曜だから、結構お客が入っていたけどね」と話すおばちゃんは、客が少なく手持ちぶさたといった感じで、話し相手が見つかったとばかり、魚や市場についていろいろと話してくれる。ちょっと殺風景な感じのこの建物は仮設で、数年後に新しい建物に移転する予定、と教えてくれた。

 八幡浜漁港の水揚量ベスト3はアジ類、太刀魚、イカ類。中でもアジ・サバ・イワシ・太刀魚は通年とれる、八幡浜漁港の主要な漁獲だ。また次いで水揚量の多いエソ類は新鮮なため弾力があり、これを素材にしたかまぼこが地元の特産となっている。主な漁法である小型底引き網は中〜小型の漁船を使い、豊予海峡や宇和海で操業している。漁場が近いため夕方の16時頃に出航、夜中から朝にかけて帰港して水揚げ、セリにかけるから、魚の鮮度がいいのが自慢。漁期は通年だが、8月に半月ほどの休漁を設けている。一方もうひとつの主要な漁法であるトロールは、大型船を1ヶ統2隻の組で、高知沖や鹿児島、宮崎、大分沖など遠方で操業する。1航海で3〜4日かかる、かなり大掛かりなものだ。漁期は9月〜4月で、こちらも夏の時期は休漁。「暑い時期は、魚も水温が低い底のほうへ潜ってしまい、あまりとれないからね。人間も魚に合わせて夏休み」とおばちゃんは笑っている。

 話が盛り上がると、トロールならこの人がやってたから詳しいよ、と、おばちゃんは向かいの店の親父さんをひっぱってきてしまった。恐縮しながら話を伺うと、元現役だけに色々と深い話が出てきた。トロールはかつて6ヶ統が操業していて、文字通り八幡浜の漁業の主力だった。ところが現在、操業している漁船は1ヶ統のみ。小型底引き網船と違って沖泊まりで漁をするため、魚の鮮度がどうしても落ちてしまうことに加え、馬力がある船で底引きするため、岩など産卵場や稚魚のすみかも根こそぎ掘り起こしてしまうなど、漁法そのものに問題があるのだとか。小型底引き網漁も同様に、最近は資源が減ってしまった影響で稚魚までとってしまい、「魚が太る間がないから、どんどん魚が小さくなってくる」とおばちゃんが話す。巻き網漁もアジやサバは量はたくさんとれるものの、魚価が安いため値段は箱でいくら、といった感じ。今年はハモが大漁だが、おかげで魚価が落ちてしまったそうで、「例えば伊勢エビとか、魚価が高いものが継続的にとれると助かるのだけれど」と、魚価は漁家の生活に関わる問題だけに、なかなか深刻である。

 漁業の諸問題となると、ともすれば暗い話題になってしまいがちなので、このあたりで話題を変更。市場の店を巡り歩き、底引き網や巻き網で水揚げされる面白い地魚を探して歩くことにしよう。という訳で、八幡浜の地魚編は、次回にて。(2006年8月8日食記)


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