神田須田町の下町さんぽで、界隈の歴々たる江戸の老舗の中から、藪蕎麦のせいろで昼ごはんにするつもりが、出くわしたこの店にハートがっちり鷲掴みにされてしまった。「六文そば」は、三角の区画の頂点の角っちょにある小さい店。他の店々とは違う意味で、たいそうな趣がある店構えである。
昨日の竹むらとはこれまた違う意味で年来ある、傾いたカウンターの丸椅子にギシリと腰掛けると、ガラスケースに真っ茶のカリカリに揚がった天ぷらがズラリ。いかげそそばがお勧めのようで、「当店オリジナル」「一度食べたら忘れられないよ」「お腹、肝臓、腸を整えるタウリンがたっぷり入っています」と、推し麺らしき能書きが目立つ。
げそ天をのっけたものかと思いきや、そばにのってるのは分厚くまん丸なかき揚げ。刻んだゲソがたっぷり入っていて、サクリ軽くクイッと甘くと、歯ごたえも味もなかなか。これが小麦粉ベースでふがっとしたそば、醤油味が鋭角に切り込む真っ黒なつゆの、いかにもな立ちそば仕様となかなか合う。ゲソがひと口大なのでかみ切らずに食べやすく、つゆに溶けスペクタクルしてからは「いかブツそば」としても悪くない。
今時もう見かけない、コインタイプのレトロなキャッシャーで支払いを済ませ、ごちそうさま。店頭を改めて見回すと、またまた違う意味で味わいある文字の能書きで、びっしり埋め尽くされている。「鰹と鯖の本ダシを使用」「早く安く最高の味」などなど、400円のそばにも藪やまつやに負けず劣らずの矜恃が込められている、のかも…。
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