ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル祭りのハレごはん…大阪・天神祭/『萬彩』の、白天

2018年07月01日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
関西を代表する夏の魚といえば、ハモが真っ先に挙がるだろう。京都の祇園祭の際の料理として知られるが、大阪の夏祭り「天神祭」との関わりも深い。大阪天満宮の界隈では、祭りの時期には親戚一同が集まるために、宵祭りから本祭りにかけて大ご馳走を振る舞う風習がある。その際、つけやきやハモチリ、酢の物の皮ざくざくといった旬のハモを用いた料理が、卓上を彩ったそうだ。その豪華さは正月並みというから、この祭りに対する大阪の人たちの思い入れ、もてなしの心がうかがえる。

天神祭は7月末の本祭りに向け、様々な行事が順次行われていく。そこで、ゆかりの地を巡りハレの料理を味わって、雰囲気を感じてみるさんぽに出ることにした。まず目指すは「船渡御」の出発地・天満橋のたもとへ。その前にハレごはんを手に入れるべく、大阪市民の台所・黒門市場へと立ち寄った。千日前通り側の入り口そばにある練り物屋「萬彩」は、狭い間口に小さなショーケースの、昔ながらの店構えがいい。いつの間にか外国人だらけになってしまったこの市場で、ホッとするたたずまいである。店番のおばちゃんにお目当の「白天ある?」と聞くと「まだ仕込み中、10分ほど待って」。開店間もないため、奥で親父さんが今日売る分をせっせと揚げている最中のようだ。

白天は関西地方特有の練り物のため、東日本の人にはあまりピンと来ないかもしれない。すり身に糖分を入れず低温で揚げており、揚げ色がつかず白い見た目が特徴の練り物である。使う魚はもちろん白身魚で、グチやスケトウダラほか、関西で代表的な夏のローカル高級魚のハモを使うことも。そのため天神祭の期間、界隈の家庭ではハモ入りの白天を食べる慣わしがあるのだそうだ。店頭から丸見えの板場を覗くと、おばちゃんがまな板上のすり身を取り分け、親父さんが油鍋に落とし込む様子が望める。程なくして揚がってきた練り天は、まんまるで名の通りきれいな白地に仕上がっている。

揚げたてアツアツ、油がジュクジュクしているのを袋に入れてもらったら、祭りゆかりの地に向けて地下鉄に乗り北浜駅へ。赤煉瓦の中央公会堂を眺めてから、中島公園の東詰にあたる天満橋のたもとまでやってきた。アーチ型のレトロな橋の北詰めが、渡御船の発地にあたる。ここから大川上流の飛翔橋まで、神輿の御座船を中心に従する船、見物する船など、総勢100隻が巡行。船上では能楽や神楽が奉納され、河岸には篝火が焚かれるなど、まるで絵巻物のような幻想的なシーンが繰り広げられるという。時折行き交う水上バスを見ながら、当日の川面の賑わいを想像してみたりして。

祭りまでひと月近くあるため、中之島公園付近は休日を憩う人たちで、まだのどかな雰囲気が漂っている。なので白天を味わいながら渡御風景に思いを馳せようと、袋からガサッとまず1枚。地下鉄で三駅乗ったのにまだアツアツで、よく見るとたくさんの黒い片が練りこまれているのが分かる。白天には刻んだ昆布やキクラゲを混ぜるのも特徴で、ハモの皮をイメージしているとの説がある。かじりつくと吸い付くようにもっちり、グニグニの弾力にキクラゲのコリコリが好対照な食感。白身の甘さをキクラゲの塩っぱさか引き立て、これはガツガツいける練り天である。

ちなみにこの白天、祭りの主役であり天神様にも所以があるという。冤罪により没して天神様となった菅原道真が落とした雷で、白くなった空をモチーフにしたのだとか。二枚目をかじっていると、西に広がる雲に夏のスコールの兆しが出てきた。この分だと、おいしくいただいたら雷鳴を受ける前に、近くの天神様へ早々にお参りに行かねばなるまい。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿