久しぶりに銀座を訪れ、ひと仕事終えて昼飯でも食べて帰ろう、と打ち合わせ先の事務所を出たとたん、ポツリポツリと雨が降り出した。店を選びながら、早足で銀座一丁目界隈を歩いていくが、時計を見ると12時半過ぎ。オフィス街のランチタイムまっただ中なのに加え、雨模様のおかげで席を立つ人も少ないようでどこも結構混んでいる。次第に強くなる雨足に追われて小走り、いつしか銀座も追われてしまい、気が付くと京橋界隈まで来てしまった。このあたりになると銀座の華やかさと対称的に、事務所や事業所が入った無機質なビル街となり、雰囲気のいい飲食店もあまり見かけなくなってしまう。
地下鉄の駅に近づいたので、今日のところは地元へ帰ってからお昼にするか、と決めかけたときに、1軒の喫茶店の前で思わず足が止まった。喫茶店自体はいかにも社用打ち合わせ用といった雰囲気だが、店頭のランチメニューの看板に興味深い料理を発見。軽食や各種定食のコーヒー付きセットに混じって、「トルコライス」との文字が懐かしい。かつて長崎に出掛けたときに食べたことがある、一風変わったご当地料理で、東京の片隅にあるこんな普通の喫茶店で出しているとは。雨足も強くなってきたこともあり、ここで雨宿り兼昼食、とばかり、雑居ビルの半地下にある店へと階段を下りていくことにした。
以前、日本最東端の町である北海道の根室で、「エスカロップ」という洋食を食べた話をここで書いたことがある。アイヌ語のような、すぐ近くのロシア語のような響きのこの料理、正体はタケノコ入りバターライスの上にトンカツを載せ、デミグラスソースをかけたもの。カニだジャガイモだが名物の北海道にあって、かなり異彩を放つ名物料理だった。この「東の謎の洋食」に対し、「西の謎の洋食」トルコライスは、チャンポンや皿うどんが幅を利かせる長崎が発祥の地である。ひとことで言えば、トンカツ、ピラフ、スパゲッティーをひとつの皿にのせた料理。長崎の洋食屋や喫茶店、レストランには必ずといっていいほどある定番メニューで、観光客には知られていない長崎庶民の味なのだ。その内容から一部では、「大人のお子さまランチ」とも呼ばれているのだとか。
スーツ姿のサラリーマンが打ち合わせをしている横を通り、一番奥の席へと落ち着いて、注文はもちろん、トルコライス。お姉さんから厨房へオーダーが伝わるとすぐに、ピラフを炒め、オムレツを焼くチリチリとした音が店内に響いてくる。続いて揚げ物か、スパゲティーにかかるのか… と期待をしているとすぐに、「お待たせしました」と皿が運ばれてきた。見るとカレー味のピラフの上にオムレツがのり、トマトソースがかかったもので、ナポリタンもトンカツものっていない。トルコライスの厳密な「定義」によると、コンソメ味のピラフ、具なしのナポリタン、デミソースをかけたトンカツの3種盛り合わせとされているが、実際にはピラフはカレー味だったり、スパゲティーはミートソースだったりと、店によってスタイルが微妙に違うとか。ちなみにこの料理、トルコ共和国の料理が起源という訳ではなく、名の由来も諸説あり発祥の由縁の不明だとか。店によっては上にシシカバブがのっている… ということはさすがにないらしい。
そんな訳で本場のよりもかなりシンプルなのに拍子抜けしつつも、カレー味のピラフからひとさじ。具は玉ネギに小エビ、マッシュルームと、いかにも喫茶店の軽食といった定番感あふれる味わいで、スパイスがよく効きかなり辛目である。それを包み込むように被さった卵の火加減が絶妙、半熟トロトロで、刺激的なピラフの味によくからんでくる。上にかかったトマトソースの酸味も食欲を誘い、シンプルながらうまくまとまっている味だ。トンカツ+ピラフ+ナポリタンとは組み合わせが異なるが、カレーピラフ+オムレツ+トマトソースで、3種の洋食盛り合わせ、としておくか。
エスカロップが根室の港湾労働者のスタミナ源になっていたように、長崎に多かった造船所の従業員には「トルコ」と呼ばれる活力メニューとして人気だったという。今日のところはトンカツがない分、少々ボリュームが不足気味だが、自分は肉体労働者でなくデスクワーカーだからまあ、ちょうどいいかも。食後のコーヒーを飲みながらふと隣の席に目がいくと、豚焼肉や目玉焼きがのった大盛りのおかず皿に、別皿でてんこ盛りのライスが付いたランチが。戦う東京のサラリーマンを支える喫茶店のランチは、トルコ以上に強力なラインナップが揃っているようである。(2006年9月27日食記)
地下鉄の駅に近づいたので、今日のところは地元へ帰ってからお昼にするか、と決めかけたときに、1軒の喫茶店の前で思わず足が止まった。喫茶店自体はいかにも社用打ち合わせ用といった雰囲気だが、店頭のランチメニューの看板に興味深い料理を発見。軽食や各種定食のコーヒー付きセットに混じって、「トルコライス」との文字が懐かしい。かつて長崎に出掛けたときに食べたことがある、一風変わったご当地料理で、東京の片隅にあるこんな普通の喫茶店で出しているとは。雨足も強くなってきたこともあり、ここで雨宿り兼昼食、とばかり、雑居ビルの半地下にある店へと階段を下りていくことにした。
以前、日本最東端の町である北海道の根室で、「エスカロップ」という洋食を食べた話をここで書いたことがある。アイヌ語のような、すぐ近くのロシア語のような響きのこの料理、正体はタケノコ入りバターライスの上にトンカツを載せ、デミグラスソースをかけたもの。カニだジャガイモだが名物の北海道にあって、かなり異彩を放つ名物料理だった。この「東の謎の洋食」に対し、「西の謎の洋食」トルコライスは、チャンポンや皿うどんが幅を利かせる長崎が発祥の地である。ひとことで言えば、トンカツ、ピラフ、スパゲッティーをひとつの皿にのせた料理。長崎の洋食屋や喫茶店、レストランには必ずといっていいほどある定番メニューで、観光客には知られていない長崎庶民の味なのだ。その内容から一部では、「大人のお子さまランチ」とも呼ばれているのだとか。
スーツ姿のサラリーマンが打ち合わせをしている横を通り、一番奥の席へと落ち着いて、注文はもちろん、トルコライス。お姉さんから厨房へオーダーが伝わるとすぐに、ピラフを炒め、オムレツを焼くチリチリとした音が店内に響いてくる。続いて揚げ物か、スパゲティーにかかるのか… と期待をしているとすぐに、「お待たせしました」と皿が運ばれてきた。見るとカレー味のピラフの上にオムレツがのり、トマトソースがかかったもので、ナポリタンもトンカツものっていない。トルコライスの厳密な「定義」によると、コンソメ味のピラフ、具なしのナポリタン、デミソースをかけたトンカツの3種盛り合わせとされているが、実際にはピラフはカレー味だったり、スパゲティーはミートソースだったりと、店によってスタイルが微妙に違うとか。ちなみにこの料理、トルコ共和国の料理が起源という訳ではなく、名の由来も諸説あり発祥の由縁の不明だとか。店によっては上にシシカバブがのっている… ということはさすがにないらしい。
そんな訳で本場のよりもかなりシンプルなのに拍子抜けしつつも、カレー味のピラフからひとさじ。具は玉ネギに小エビ、マッシュルームと、いかにも喫茶店の軽食といった定番感あふれる味わいで、スパイスがよく効きかなり辛目である。それを包み込むように被さった卵の火加減が絶妙、半熟トロトロで、刺激的なピラフの味によくからんでくる。上にかかったトマトソースの酸味も食欲を誘い、シンプルながらうまくまとまっている味だ。トンカツ+ピラフ+ナポリタンとは組み合わせが異なるが、カレーピラフ+オムレツ+トマトソースで、3種の洋食盛り合わせ、としておくか。
エスカロップが根室の港湾労働者のスタミナ源になっていたように、長崎に多かった造船所の従業員には「トルコ」と呼ばれる活力メニューとして人気だったという。今日のところはトンカツがない分、少々ボリュームが不足気味だが、自分は肉体労働者でなくデスクワーカーだからまあ、ちょうどいいかも。食後のコーヒーを飲みながらふと隣の席に目がいくと、豚焼肉や目玉焼きがのった大盛りのおかず皿に、別皿でてんこ盛りのライスが付いたランチが。戦う東京のサラリーマンを支える喫茶店のランチは、トルコ以上に強力なラインナップが揃っているようである。(2006年9月27日食記)
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