ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん89…ソウル 『プロカンジャンケジャン』の、カンジャンケジャン

2009年06月13日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん

 ノリャンジンの市場食堂にて、同席した地元の親父さんたちと盛り上がり、気がつくと時計は9時を指している。昌徳宮(チャンドックン)の見学ツアーは、確か9時半からだ。
 あわてて親父さんにあいさつして店を後に、地下鉄ノリャンジン駅前でタクシーを捕まえ、片言の英語で「チャンドックン、930!」と運転手にお願い。間に合うかどうかも気になるが、親父さんたちと早朝からしこたま飲んだ真っ赤な顔で、宮廷ゆかりの施設へ入れてくれるかどうかも心配だ。
 日本語ツアーのスタート時間に何とか間に合い、入り口で赤い顔を特にとがめられることもなく、まずはほっとひと息。今日はじりじりと日差しがきつく、おかげで「チャミスル」も、宮殿内を歩いていれば抜けるだろう。

 昌徳宮は王の宮殿である、景福宮(キョンボックン)の離宮で、ここも昨日訪れたロケパークと同様、ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」ゆかりの地である。正殿の仁政殿は、王の即位式や結婚式、外国の大使を迎える場所で、前庭には「品階石」といわれる、位を示した碑が立っている。役人は、これにより立つ位置が決まっていて、その右は文官、左は武官が並んだとされる。
 チャングムは医女として、初めてこの位を授かった人物とされ、ドラマで王様から命を受けた「正三品」の碑もちゃんとある。これは大臣の次の位というから、まさに異例中の異例の抜擢だったとか。
 ほか、王の執務室や臣下の会議室、妃の神殿の大造殿(案内のお姉さんは「子作りをする場だからこの名前になりました」と、ストレートな解説をしてくれた)、王がくつろいだ楽善斎などを見学。案内のお姉さんに聞くと、チャングムは朝鮮王朝の初めの頃の話で、この離宮は王朝の終わりごろの建物なので、時代的にはずれているそうである。
 そして、この離宮で一番有名な「チャングム」ロケ地が、四角い池を中心とした庭園。ドラマの最後のほうで、チャングムと王様が散策するシーンが印象的だ。同行の日本人もドラマのシーンを思い浮かべてか、あちこちで記念写真のシャッターを押している。

 

昌徳宮の仁政殿(左)と、チャングムにも出てきた王宮の庭

 昌徳宮の見学が終わったら、ついでに隣接する古い韓国民家群が残る一角、北村(ブッチョン)へも足を伸ばすことに。ここは同じ韓国ドラマでも、「冬のソナタ」ゆかりのエリアとして、知る人ぞ知る存在。高校時代のシーンのロケを行ったソウル中央高校を、まずは目指す。
 校門に近づいたとたん、おばちゃんがやってきてパンフをくれるわ、写真を撮ってくれるわと、なかなか親切。それはいいが、そのまま校門に隣接するみやげもの屋へとエスコート。中はヨン様グッズを始め、韓流タレントのグッズがいっぱい。はやっているヨン様モチーフのテディベア(の、バッタもん)も売っている。何も買わずに出てきたが、おばちゃんは冷たいトウモロコシ茶を出してくれたり、商売中心でなく親切だったのが、日本のこの手の店とは違って気分がいい。

 近くには、ヒロインであるユジンの実家があった場所もある。おばちゃんは学校のそば、と教えてくれたが、そばどころか校門から歩いて15秒。こんなに近ければ、遅刻して塀を乗り越えるあの名シーンのようなことはなさそうだが。冬ソナ屈指の人気のこのシーン、ロケは残念ながらこの高校ではなく、高校時代編の舞台であるソウル郊外の春川でロケをしたそうだ。
 ユジンの家の建物は、ドラマのロケ後に壊されてしまい、今は空き地となっていた。ここからの、韓国民家の瓦屋根の家並みが美しく、それはそれで来る価値はある。
 韓国民家の家並みを眺めながら坂を下り、明洞へ戻る途中、マーケットのある仁寺洞(インサドン)の通りも歩いてみた。ワゴンセールでカラフルな表紙のノートが1冊50円で売ってたり、チョゴリを模したグリーティングカード、韓国布小物のポーチやきんちゃく、東大門を描いたブックマークなど、みやげに手ごろな雑貨がいろいろあり、義理みやげはここで概ねそろえることができたのがありがたい。

  

冬ソナのロケ地・ソウル中央高校(左)。韓国の伝統家屋が並ぶ北村(中)。骨董品街と露店が並ぶ仁寺洞(右)

 早朝から市場を訪ね、しっかり観光や町歩きもこなし、加えて昼は「ひとり焼肉」をしっかり楽しんで。早起きのおかげで一日が長く、ようやく夕食の時間となった。今夜は案内役のお勧めの店を訪れることになり、明洞から地下鉄を乗り継いで20分ほど、漢江を渡った新沙という駅へとやってきた。
 今宵のお目当ての料理は、韓国で有名な海鮮料理のカンジャンケジャン(ワタリガニの醤油漬け)。そのソウル一おいしいと名高い店が、駅から徒歩3分ほどのところにある。店名は『プロカンジャンケジャン』、カンジャンケジャンのプロ、という名に期待が高まる。
 ブルー地の看板が目立つ店頭には、ハングルとカタカナの店名に続き、日本語で「同じ店はありません」の文句が目立つ。店のパンフにもやたら、当店オリジナルと記されており、この店の人気に便乗しようとする周辺の同業店を、牽制しているようである。

 地元でも評判の店らしく、1階のテーブル席は、カニを皿に山積みにした地元客でほぼ満席で、2階の座敷へと通された。おばちゃんはやや日本語が通じ、ご自慢のカンジャンケジャンを、上手な能書きの説明とともに勧めてくれる。大は大振りの1匹で7万5000ウォン、小は中型の2匹で5万ウォンと、評判だけに少々値が張るので、数が多い小を注文することにした。
 するとすぐに、皿の上に2つに断ち割ったカニが4片、甲羅の上に積まれて登場。オレンジ色の内子(卵)が鮮やかで、身は店オリジナルの発酵醤油・チャプチャンにつけたせいか、ほんのり茶色にくすんでいる。
 半透明の身が露出してる部分から、さっそく喰らいつくと、ボイルと違って身がツルリ、続いて醤油の風味がジワッ。チョプチャンのおかげで身離れが良くトロトロ、ひたひたのジューシーで、甲殻類のうまみとこなれた醤油のコンビネーションが、実に絶妙!

 
 

外子が鮮やかなカンジャンケジャン(左上)。味がぬけずうまい蒸しガニ(右上)。
カンジャンケジャンの仕上げは、甲羅にご飯を入れて(左下)。青い看板が目印(右下)

 そして身以上にうまいのが、濃茶色の味噌とオレンジ色の内子だ。これがホクホク、ねっとりとコクがあり、ともにウニのような味わい。それぞれ微妙に味が違うため、いわば豪華2種ウニ盛りといったお得感である。
 一緒に注文した、蒸し蟹の「コッケチム」も、素材の味が逃げずに素直に出ていて悪くない。だが、食べ比べるとカンジャンケジャンのほうが、役者が1枚上。チョプチャンがカニの身のうまみを倍化していて、これこそが究極のカニの味わい方かもしれない。
 あまりに印象が鮮烈なので、半身だけで充分に満足してしまった。日本語ができるおばちゃんが、「これは脂肪少なく、たんぱく質とアミノ酸が豊富。ヘルシーだから女性はもちろん、男性も生のカニはパワーがつくよ」と笑っている。

 この店は店のパンフによると、韓国のワタリガニの醤油漬け発祥の店、とある。創業以来およそ30年続いており、カンジャンケジャンは当時から変わらぬ味を売りにしているという。「プロ…」という店名は、韓国プロ野球ブームの頃にプロ野球の選手が多く来店し、カンジャンケジャンを高く評価してくれたことによるそう。選手のひとりが「プロ」と店名につけることを提案したから、とあるのが、なんだか奇妙なような。
 
 おばちゃんは食事中、ちょくちょく顔を出しては、「はいキムチ!」と記念写真のシャッターを押してくれたり、同行の年長者に「しゃっちょうさん」と呼びかけたり(何の店だ?)、サービス精神旺盛である。 ほどほど日本語が通じるのをいいことに、料理に使うワタリガニについて聞いてみたら、郊外西海岸の仁川(インチョン)で水揚げされるもの、とのことだった。ここの市場にはいいワタリガニが揚がるそうで、船が入ったら競売で船の漁獲分すべてを買い付けるという。
 温暖化で水温が上がり、最近はあまり取れなくなってしまったため、卵が入っているメスで1匹1万ウォンと、結構高価なカニらしい。ほかの店では中国産のワタリガニが多いけど、うちは国産の地ガニしか使わないよ、と言葉に力が入る。品書きには「カニ、米、キムチの原産地は韓国」ともある。
 
 さらにこの料理、身を食べ終えた後の仕上げもまた、贅沢極まりない。卵と味噌をちょっと甲羅に入れて、その上にご飯をのせて、皿にたまったチャプチョンをスプーンでご飯の上にかけまわし、ざっとかき混ぜて食べる。これで、カニ好きは気絶してしまいそうな、カニ出汁ごはんのできあがり。これはカニのうまいとこ、全部どりである。
 カンジャンケジャンを堪能した後は、サンナクチポックム(手長ダコの辛味炒め)を追加して、マッコリを壺で頼んでだらだら飲みに。マッコリはまるでヤクルトのような甘さと飲みやすさで、ひと壺の半分以上ひとりで飲んでしまった。
 早朝は市場で魚を肴に親父と痛飲、締めはカンジャンケジャンを肴にマッコリを鯨飲と、魚介で始まり魚介で終わった2日目の夜… と、まだこの時間で終わるわけにはいかない。以下、次回にて。(2009年5月10日食記)



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