ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…福島県相馬 『美帆寿司』の、上にぎりのホッキ

2017年08月12日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
2011年3月の東日本大震災の発生時、福島県内は甚大な被害を受け、不通区間が多発したJR常磐線。順次復旧が進捗し、現在列車が運行できないのは、浪江〜竜田の4駅分のみとなった。この区間の運行再開は2020年春とまだ先で、現在も空間線量の高い双葉町・大熊町・富岡町の「帰宅困難区域」を通っていることが、その理由。仙台から列車に揺られると、ところどころで新設された路盤や真新しい駅舎を見かけ、鉄路復旧に向けた足取りが着実に感じられる。しかしながら、地震や津波による破壊とはまた別の、原発事故に関連する被害は、一筋縄ではいかない時間と苦労がかかるようである。

途中下車した相馬駅は、かつて原釜漁港を訪れた際、松川浦へ向かうバスに乗り換えたことがある。広大な潟湖が海と繋がる松川浦大橋の直下に位置し、沖合には親潮と黒潮が交わる好漁場を控えるなど、底引き網や巻き網漁業の基地として賑わった。しかしここも津波による被害を受け、漁業施設は壊滅状態に。加えて福島第一原発の事故の影響で、近海に棲息する魚介の安全性が懸念され、沿岸漁業と底引網漁業の操業自粛が余儀なくされることとなった。一方で近年、魚種によっては少しずつ出荷制限が解除され、漁業再開に向けた情報収集のための「試験操業」も始められている。こちらも鉄道の復旧と同様に、一歩ずつだが歩みを進めているようである。

松川浦周辺でも、試験操業が開始されたローカル魚があると聞き、閑散とした駅周辺に点在する数少ない飲食店を、懸命に巡る。すると駅のすぐそばの寿司屋にお目当の「ホッキ貝」の文字を見つけ、思わず嬉しくなる。この「美帆寿司」の扉をくぐり、ホッキの握りが含まれているのを確認の上で、上にぎりを注文。舌にとろける中トロをはじめ、ウニ、イクラ、甘エビと全国区のスターたるネタが続く中、本日のメインは地元のタレントとばかり、ひと口で放り込む。ふっくらした身ながらしゃっきりした歯ごたえで、軽やかな甘さが口内でねぶるたびに膨らんでいく。

松川浦の沿岸にある3つの漁港のうち、ホッキ貝漁を行っているのは、潟の奥寄りにある磯部漁港である。古くから貝桁網漁が盛んだったのに加え、休漁や漁獲制限による資源保護、グループでの操業や利益を漁業者全体で分配する「プール制」の導入、消費拡大のためのPRなど、独自の取組も進めまさにホッキ貝を柱とした漁業を柱としていた。福島第一原発の事故の影響で操業停止となっていたが、その間に継続していた放射能検出検査の結果、問題なしとの判断が下され2016年6月に試験操業が決定。名物魚介の復活に向けて、地元では期待が高まっているようだ。

そんな漁業背景をかみしめつつ、1カンながらしっかりと味わい、おかみさんに謝意を伝えたら、「…このホッキ、北海道のなんですよ」と申し訳なさそうに返された。ホッキ貝の試験操業は再開されたものの、漁は週に2回程度で漁獲量もわずかに制限。加えて安全に関わる件のため出荷基準も厳しく、まだあまり市場に出回ってないそうである。とはいえ試験操業の結果によると、選別規定の4種のサイズが各種揃っており、身の詰まりも良いのだそう。数年間の操業自粛が、結果的に資源保護につながったようで、今後の本操業に期待ができそうだ。

ちなみに相馬界隈は7〜9月のこの時期は、底引や巻き網などの大型船が休漁しており、近海の地物の流通が少ないらしい。小型船で操業しているウニ漁も、試験操業の対象とか。上にぎりにはホッキもウニも、さらに「常盤もの」として代表的なヒラメもラインナップされているが、諸事情を踏まえ今日のところは、地物に想いを馳せつつ味わっておこうか。

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