銘柄肉の定義で大きな基準となっているのが、肉質等級と歩留まり等級だ。よくA4とかA5とか言われるやつで、これに脂肪の込み具合の指標のBMSも合わせて、定義の基準となることが多い。日本人には霜降り人気が高いため、銘柄肉の基準イコール脂の入り具合がよい、になりがち。松坂、米沢、近江の「日本三大和牛」もそうで、赤身肉の銘柄がパッと思いつく人は、あまりいないのではないだろうか。
調べてみると、土佐の赤牛や阿蘇の阿蘇王などが挙がり、元は役牛で放牧で飼われるなどの共通点がある。黒毛和種のいわて短角和牛も、元は役牛であった地元の南部牛がルーツで、子牛のうちは親子で山間に放牧されて育つ。役牛と放牧とのキーワードの通り、運動量が豊富で余計な脂肪がつかないヘルシーな赤身肉として、健康志向の中で評判を呼んでいる。
二戸の焼肉店「短角亭」で味わったいわて短角牛は、ハラミやカルビに加え、赤身モモ肉が見事。脂のほとんどない厚切りの赤身肉は、ガシガシとかみごたえがあり、繊維が緻密なので食べ応えがどっしりしている。脂分が少ないので、ユッケやローストビーフにすると絶品、とご主人。店は精肉店の直営で、短角和牛は鉄分豊富だから体にいい、と勧めてくれる。
短角和牛は岩手県の北東部が主な産地で、粗飼料には地元のワラ、配合飼料も地元の糠のほか、名産の南部せんべいの残ぱいを混ぜているのが、何ともローカル。地元の銘柄肉として売り出してはいるものの、赤身肉ならではの課題も多い。酸化が早く色の変化が出るのに加え、脂が少ないのも評価が分かれるところ。なので流通は周辺地域の飲食店が中心で、県内にはほか盛岡などに供する店がある。ローカルミートにしては珍しい、旅でこそ味わえるタイプのようである。
脂がのったカルビに柔らかなハラミも、しっかりした赤身の味がジューシーさの下支えになっている。「短角和牛は、張りと締まりが肉の良し悪しを決める」など、短角和牛へのこだわりを語るご主人。粉雪が舞う二戸で喰らうご当地肉からは、等級云々とは別次元の、地産地消ならではのうまさが伝わってきた。
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