地名がついた丼や麺は、後付けで名物化を狙ったあざとさが、時として感じられることがある。地元に根付いた「常食」とは別物の、観光ビジネス的名物。大概は名産の素材を継ぎ接ぎしてあるので、バランスが悪く味もまあ、という程度だ。とはいえハレの旅の場による脚色で食べる側は満足、しかも「映え」ればなおよしなので、需要に対してありはありなのだろう。
なので、市街のあちこちで幟を目にしたこの丼も、大して期待せずに押さえとして頼んだところ、前段で滔々と述べた諸々を素直に反省。白滝に牛すじの煮込み丼、しかも温玉載せとくれば、味に文句があるわけない。トロトロのスジは近江牛で、崩した黄身がこってり絡み、これまた味が染みた白滝が歯応えシャッキリのコントラスト。白滝に当地名物の「赤こん」が混じっているのが「映え」狙いっぽくもないがオーケー、味に問題なし。一気にかっ込み、やや残ったご飯は小アユの佃煮とともに平らげた。これはこれで、地元特産品との王道的組み合わせだ。
調べたところ、ひこね丼の定義は地元の近江米をごはんに使う事、具は彦根の名物を使うこととの縛りで、10の公式レシピから店ごとに選んで供しているという。天丼とかちらしとかひつまぶしとかバリエーションがある中、この店のがやはり一番旨そうだった。雨を避けてさんぽができたのに続く引きのよさで、これまた持っている彦根の旅となったかな。