ビジネスホテル新川@宇部

宇部での宿は、駅前のビジネスホテル新川。家族経営らしいアットホームな宿で、部屋も値段相応に広く綺麗。窓を開けるとお寺の本堂の屋根が見下ろせるテンプルビューだ。

宇部の魚は何度か巡っているため、夜は街へ食べに出ず、2食付き7000円のプランに。夕食はトンカツにエビフライに野菜炒めがメインの、いかにもビジネス宿らしい組み立てながら、きちんと手作りでできたてを厨房から運ばれるのが沁みる。勢いで唐揚げも追加したりして。

食後は興産の工場夜景を見にさんぽでもと思ったが、猛暑でバテ気味のため、今宵は宿で大人しく。

ローカル魚でとれたてごはん…小倉・旦過市場 『大學堂』の、大學丼

旦過市場の鮮魚店は、店頭に各種魚介が並ぶものの、魚種や水揚げ地はほぼ表示されてない。ザルや皿に盛った上に、値段を書いた札だけ無造作に載せているのも、市民市場らしいというか。鯛はアラのみならず、尾頭付きの鮮魚も目立ち、中ほどの店で聞くと天然・養殖とも、熊本が主な産地という。並んでいた長崎の活けサバも目を引き、まるまるパンパンに太っていていかにもうまそうだ。漂ってくる味噌の香りに誘われて、隣の店を除くと、店頭のケースに魚の切り身の煮付けがずらり。まっ茶色に味が染みており、見るからにご飯が欲しくなってしまう。

親父さんに味噌煮ですかと聞くと、「ぬかだき」とのこと。名の通り糠漬けの糠床で魚を煮た惣菜で、古くは小笠原氏が小倉を治めていた頃に、献上品にもなったという、由緒ある当地の郷土料理なのだ。イワシとサバのがあり、おすすめはサバだそう。九州では塩サバや刺身などで、サバをよく食べるというから、まさにローカル魚のローカル料理だ。先ほどのあら炊きと同じく、小倉では魚介を「炊く」食文化が定着しているようである。

11時が近づくと食堂も開店準備にかかっている様子で、こちらも早めのお昼といきたい。すると通りの中ほどに、古い商家のような施設を見かけた。「大學堂」との屋号が掲げられ、店先には縁台や木のベンチが配され、畳の小上がりには丸いちゃぶ台が並ぶなど、昭和の雰囲気が漂っている。奥の厨房を覗くと、中からお姉さんが出てきて「大學丼ですか？ ご飯用意しますね」丼飯を片手に場内を巡っておかずを載せてもらう、最近各地の観光的市場で見かけるスタイルで、この超庶民派市場で体験できるとは面白そうだ。うまいネタや安いお店などのヒントもいただいて、丼を片手に人混みの通りへと出発である。

まずは先ほどのぬかだきの店「たちばな」へ直行して、サバのぬかだきをひと切れ載せてもらう。大きさと、腹身か尾身かを選べ、丼の上からたっぷり味噌ダレをかけてもらえるのが嬉しい。これに合うトッピングを勧めてもらうと、「カナッペ」とのこと。創業100年の練り物の老舗「小倉かまぼこ」の人気の品で、すり身に玉ねぎとにんじんを混ぜ込み、薄いパンで巻いて揚げた店のオリジナルだ。ぬかだきの味噌ダレと合いますか、とおばちゃんに聞くと、「お好みで」と笑っている。さらに惣菜の店で高菜をひとつまみ、おまけで金時豆も載せてもらい、合計630円の「ぬかだきカナッペ高菜丼」の完成である。

大學堂に戻り、座敷の丸いちゃぶ台に落ち着いたら、あぐらをかいて丼にいざ突撃。まずはぬかだきで丼飯をザザッといくと、サバの味噌煮のような濃厚さの後、糠の香ばしさがほのかに残る。辛めの味噌ダレが肉厚のサバと絡み、皮目の脂甘さも相まって、これはご飯に最強の飯友だ。糠床に漬けた野菜の旨味が加わり、かつ魚の味も熟成させるため、ぬかだきは素材の相乗効果のある調理法のよう。中骨もヒレも気づかないほど柔らかく、つまみながら脇目も振らずご飯が進んでいく。

カナッペは揚げかまぼこ風で、サクッと軽い歯ごたえの後は、かなりグイグイと弾力がある。すり身には数種の魚を組み合わせているため、香りが複雑かつ後味に甘みがあり、しゃれた名前の割に硬派な練り物だ。ちなみに名前は昭和34年の発案時に、同様のフランス料理になぞらえてつけたとか。味噌ダレとの相性もなかなか良く、やわやわのぬかだきと対照的な、骨太で力強い旨さだ。合間に高菜をさっぱりとつまみ、最後は金時豆で甘く口直し。味の組み立てが絶妙のバランスの丼に、自画自賛の大満足である。

「定番をしっかり押さえた、渋めの組み合わせですね（笑）」とマイ丼を評してくれたお姉さんは、聞くと現役の女子大生だという。大學堂とは名の通り、市場の組合と北九州市立大が、商学連携で運営する公共空間なのである。市場の歴史や食流通といった文化資源を学ぶ場とともに、観光の拠点としても機能。大學丼もそのひとつで、旬の食材の発信はもちろん、お客とお店の方との会話を創り出し、ふれあいの促進も狙いという。この市場、建て替えの話があったり、お店の後継者不足など、古さ特有の課題も少なくないらしい。とはいえ特有の良さは残したいです、とお姉さんの言葉に、市場愛が感じられ応援したくなる。

ちなみに旦過市場の「旦過」とは、仏教用語で夕方に来訪した雲水が、翌朝早くにもう去ることを指す。お昼が近くなり、この店も利用者が増えてきたので、わずかな滞在ながら自分も去ったほうがよさそうだ。丼を平らげたら大學堂のお姉さんと、丼のタネを提供くださったお店に挨拶しながら、出口へと向かう。川の流れとともに歴史を重ねた市場が、今後立地を生かしどうなるのか。変化への期待とこのままであってほしい願いが入り混じる、小倉のローカル市場探訪である。

ローカル魚でとれたてごはん…小倉 『旦過市場』の、地魚あれこれ

「丸和」で買った南蛮漬けのおかげで、お腹が軽く落ち着いた。旦過市場の通りにも少しずつ人気が増えてきたようなので、まずはざっと場内を一往復してみることにした。通路も狭いが店の間口も狭く、川の上の限られたスペースで精一杯商いをしている感じ。生花、青果、惣菜、お茶、和菓子、洋品、履物と、扱っている品は実に幅広い。お客はショッピングカートを引いた年配客が多く、地元の生活市場らしい穏やかな雰囲気である。小倉といえば玄海育ちの荒っぽさから、割と騒々しくバタバタしている先入観があったので、少々ホッとしてしまう。

市場反対側の入り口には案内板が掲げられ、「北九州の名物」と題してフグとクジラが挙げられていた。ともに関門海峡を渡った下関が名物で、フグは集積地である南風泊市場、クジラは調査捕鯨の基地を有するからだろう。フグは活けや身欠きほか、ふぐちりのセットを販売する専門店があちこちに点在。クジラを扱う店の店頭では、赤い縁のベーコン、赤身や畝須に並び、「おばいけ」という白くフワフワした物体が珍しい。店の人によると、塩漬けした尾の身を湯通しして水にさらしたもので、辛子酢味噌でいただく高級珍味だそうだ。あとは萩や長門の箱ウニに、トレイに山型に持ったその名も「ヒマラヤ明太」など、近県の名物魚介も割と並んでいる。

もうひとつ、鮮魚店の店頭で、売り物かと不思議に思える品が目立つ。カブトやカマや中骨など、アラだけを売っているのである。メインの通りから分岐する路地「旦過中央市場」には、小さい鮮魚店が集中。タイやブリのほか、サワラなマナガツオなど大型の魚も、さくをとった残りが丸のまま並んでいた。タイのカブトを並べていた店のおばちゃんに聞くと、これらは「あら炊き」の材料とのこと。アラを醤油と砂糖、生姜で炊いた、地元の家庭料理なのだそうだ。割と身がついており、骨についた身だから味もいいそう。タイのほかヒラス（ヒラマサ）がおすすめで、これは市場食堂での昼ご飯のおかずに気になるところだ。

ローカル魚でとれたてごはん…小倉・旦過市場 『丸和』の、自家製アジの南蛮漬け

小倉が「川の街」であることは、実際に街を訪れ歩いてみるまで、ピンとこなかった。駅から歩くこと10分ほど、市街を貫く紫川の周辺には親水園地が整備され、猛暑の中を歩いていても川面をゆく風が心地よい。勝山橋を渡ったところには、複合施設のその名も「リバーウォーク」が、小倉城に対峙してそびえ立つ。堀を挟んで白漆喰の美しい天守と、モダンなデザインの商業ビルが向き合う様は、この地独特の城郭風景といえる。

小倉市街にはこの紫川のほか、支流の神嶽川、砂津川も流れており、海からの水運が盛んなおかげで街が栄えた歴史がある。駅前の繁華街に錯綜するアーケードのひとつには、「魚町銀天街」との名が。魚町は江戸期に小倉を治めていた、細川家の時代に名付けられた町名で、玄界灘で水揚げされた魚介を、界隈で荷揚げして競りにかけた所以があるという。周辺にはほかにも船場町、船頭町などの町名が残り、水運との関わりを随所で伝えている。今は沿道に飲食店や生活雑賀の店舗が連なり、当時の面影や史跡は見られないが、市場が置かれていた頃と同様、あたりが街の賑わいの中心であったことには変わりない。

すると魚町銀天街を抜けたところで、昭和の時代にタイムスリップしたような一角が、忽然と出現した。道幅の細い古びたアーケードの入口には、「旦過市場」との名が。すぐ真横には神嶽川が流れており、橋の上から外観を見渡すと、川面から突き出た柱に長屋の建屋が支えられているのが分かる。何と、川の上に建てられている市場なのだ。大正初期に神嶽川を行き交う荷船が、ここで商売したことが始まりという、まさに川の街・小倉らしい所以の市場なのである。

旦過市場は現在、全長180メートルほどの通りを中心に、路地も含め110店ほどの店舗が店を構えている。建物はほとんどが、昭和30年代に造られたそのまま。その手付かずの古さが郷愁を誘い、地元客のみならず観光客にも評判を呼んでいる、レトロマーケットなのである。軽くのぞいたところまだ9時過ぎだからか、どの店もまだオープンの準備中の様子。業者向けの卸売市場と違い、一般のお客向けの小売市場のため、客の出足は10時過ぎごろからと遅いらしい。なので、入口にそびえるスーパー「丸和」を、まずはのぞいてみた。建物はアーケードと一体化しており、旦過市場の一部と言っても遜色ないたたずまいである。

一見、普通のローカルスーパーなこの店、実は日本初の24時間営業のスーパーなのである。地元では知られているようで、早出の買い物客でそこそこの賑わいを見せている。旦過市場の散策前の予習にと、鮮魚コーナーでローカル魚をチェックしたところ、長崎のゴマサバにキビナゴにマアジ、熊本のタイにアサリ、大分のブリなど、九州近海の品揃えが豊富なのはさすがだ。和惣菜コーナーには鹿児島産アジの自家製南蛮漬けが並んでおり、空腹にたまらず購入。店外のベンチで朝飯がわりにいただくと、揚げ浸しながら身が締まっていて味が濃く、酸味に負けずアジの味がしっかりしていてうまい。

小倉てくてくさんぽ7

小倉さんぽ、駅から徒歩10分ほど、小倉城は白漆喰の美しい姿を見せてくれる。城郭内には八坂神社、松本清張記念館、小倉城庭園などの見どころもあり、ぶらり小一時間の散策が楽しめそう。隣接のリバーウォークのカラフルさとすぐ並んだ様は、改めて独特の城郭風景といえる。

という訳で、30分ほどの昨夜のおさらいさんぽは終了。いよいよ主目的の市場、行ってみましょう。