揖斐川の流れに面した七里の渡し跡は、かつての桑名の玄関口である。名古屋市街の宮宿から、伊勢湾を経て船で4時間ほど。桑名城の蟠竜櫓に迎えられて到着したら、伊勢路の玄関口として一の鳥居がそびえ立つ。周辺には森林王だった諸戸清六の和洋混合の邸宅「六華苑」、藩主松平氏の居城だった桑名城跡「九華公園」などの史跡も集まり、まるでこちら側が市街の中心のように思えてしまう。
常夜灯のたもとで、かつての旅の様子にしばし思いを巡らしたら、市街を貫く旧東海道を経て駅へと戻る。途中、宗社の春日神社付近の路地に、装飾あでやかな祭車を発見。ちょうど「石取祭」の初日で、駅前では鉦太鼓を打ち鳴らす「試楽」も繰り広げられていた。天下の奇祭とか、日本一やかましい祭とか称されるだけに、大人も子供も混じり踊って囃してと実に賑やか。史跡を巡り祭の片鱗を眺めてと、桑名のいいとこどりの街歩きが楽しめた気分である。
とくれば晩飯も地場産品のいいとこどりで、桑名の実力をさらにとらえたいところ。訪れた「三重人」は桑名駅から3分ほど、透かし風の飾り塀がしゃれた外観で目をひく。お通しは松阪牛の角煮と県産ふくゆたかを使った自家製豆腐、サラダは錦爽鶏のシーザーサラダ、つくりはカンパチとヘダイが地物と、名の通り三重県産食材を用いた料理が目白押しだ。
そして知名度ナンバーワンの桑名名物といえば、ハマグリをおいて他にない。まずはハマグリの陶板焼きで、粒が中ぐらいのを陶板にゴロリと並べ、蓋をして5分ほど。開けたとたんに貝の香りが湯気とともにムワッと立ち登る。殻を持って身を外し、ツルリひと口。ハマグリの汁気だけで蒸されているので、ふっくりしなやかな歯ごたえのあと、滋味あふれる芳醇な旨味がもれなく堪能できるのがいい。殻に溜まったスープも、こぼさずにスッ。箸でつまんだ身に気持ちがいきながら、左手の殻を傾けずにいただくのが難儀ながら楽しいこと。
使われているハマグリは言うまでもなく、地元赤須賀漁港で水揚げされた天然ものである。木曽三川河口の、真水と海水が入り混じった汽水域が棲息地で、岐阜や長野の山々の栄養を含んだ水が伊勢湾と混じり合い、優れた生育環境が形成されている。チョウセンハマグリやシナハマグリといった外来種が、国内で漁獲・流通するハマグリのほとんどを占める中、桑名のはれっきとした固有の地ハマグリ。コロリと丸みを帯びたその形と大きさは、「浜栗」との語源がよく分かる。
殻が薄く身が厚いため、鍋料理にも向いているのも、桑名のハマグリの特徴だ。メインはハマグリのしゃぶしゃぶで、だし汁の中に野菜と一緒に放り込み一気に加熱すると、パカパカと開きすぐ食べごろに。だしも殻で一緒にすくっていただくと、昆布と貝の旨味の相乗で膨らみのあること。シコシコと弾力のある身とシャキシャキの野菜の、コントラストがたまらない。鍋の汁を使った雑炊も、おいしいとこどりの嬉しいオプション。茶碗蒸しまでハマグリ入りで、計何粒食べたかもはや覚えていない。
東海道中膝栗毛の作品中、先ほど訪れた七里の渡しにて、弥次喜多の二人が航海の無事を祝してハマグリで一杯という場面があった。桑名城の城主だった松平定信は、「ハマグリで茶々漬け」と民謡に歌われた殿様との説がある。このように当地の歴史と関わり深い名物と思えば、昼間の散策の記憶と相まって味がさらに深まること。そういえば石取祭の祭車の装飾、蒔絵や象嵌に螺鈿細工も施されてると聞いた…、と、螺鈿の材料はハマグリではなくサザエ。どうやら皿に転がる殻の数相当に、伊勢緑茶酎ハイが進み過ぎたか?
常夜灯のたもとで、かつての旅の様子にしばし思いを巡らしたら、市街を貫く旧東海道を経て駅へと戻る。途中、宗社の春日神社付近の路地に、装飾あでやかな祭車を発見。ちょうど「石取祭」の初日で、駅前では鉦太鼓を打ち鳴らす「試楽」も繰り広げられていた。天下の奇祭とか、日本一やかましい祭とか称されるだけに、大人も子供も混じり踊って囃してと実に賑やか。史跡を巡り祭の片鱗を眺めてと、桑名のいいとこどりの街歩きが楽しめた気分である。
とくれば晩飯も地場産品のいいとこどりで、桑名の実力をさらにとらえたいところ。訪れた「三重人」は桑名駅から3分ほど、透かし風の飾り塀がしゃれた外観で目をひく。お通しは松阪牛の角煮と県産ふくゆたかを使った自家製豆腐、サラダは錦爽鶏のシーザーサラダ、つくりはカンパチとヘダイが地物と、名の通り三重県産食材を用いた料理が目白押しだ。
そして知名度ナンバーワンの桑名名物といえば、ハマグリをおいて他にない。まずはハマグリの陶板焼きで、粒が中ぐらいのを陶板にゴロリと並べ、蓋をして5分ほど。開けたとたんに貝の香りが湯気とともにムワッと立ち登る。殻を持って身を外し、ツルリひと口。ハマグリの汁気だけで蒸されているので、ふっくりしなやかな歯ごたえのあと、滋味あふれる芳醇な旨味がもれなく堪能できるのがいい。殻に溜まったスープも、こぼさずにスッ。箸でつまんだ身に気持ちがいきながら、左手の殻を傾けずにいただくのが難儀ながら楽しいこと。
使われているハマグリは言うまでもなく、地元赤須賀漁港で水揚げされた天然ものである。木曽三川河口の、真水と海水が入り混じった汽水域が棲息地で、岐阜や長野の山々の栄養を含んだ水が伊勢湾と混じり合い、優れた生育環境が形成されている。チョウセンハマグリやシナハマグリといった外来種が、国内で漁獲・流通するハマグリのほとんどを占める中、桑名のはれっきとした固有の地ハマグリ。コロリと丸みを帯びたその形と大きさは、「浜栗」との語源がよく分かる。
殻が薄く身が厚いため、鍋料理にも向いているのも、桑名のハマグリの特徴だ。メインはハマグリのしゃぶしゃぶで、だし汁の中に野菜と一緒に放り込み一気に加熱すると、パカパカと開きすぐ食べごろに。だしも殻で一緒にすくっていただくと、昆布と貝の旨味の相乗で膨らみのあること。シコシコと弾力のある身とシャキシャキの野菜の、コントラストがたまらない。鍋の汁を使った雑炊も、おいしいとこどりの嬉しいオプション。茶碗蒸しまでハマグリ入りで、計何粒食べたかもはや覚えていない。
東海道中膝栗毛の作品中、先ほど訪れた七里の渡しにて、弥次喜多の二人が航海の無事を祝してハマグリで一杯という場面があった。桑名城の城主だった松平定信は、「ハマグリで茶々漬け」と民謡に歌われた殿様との説がある。このように当地の歴史と関わり深い名物と思えば、昼間の散策の記憶と相まって味がさらに深まること。そういえば石取祭の祭車の装飾、蒔絵や象嵌に螺鈿細工も施されてると聞いた…、と、螺鈿の材料はハマグリではなくサザエ。どうやら皿に転がる殻の数相当に、伊勢緑茶酎ハイが進み過ぎたか?