安岡章太郎が死去したというニュースが飛び込んできました。
92歳。
第三の新人と言われた一群の作家の一人でした。
今思うと、三島由紀夫よりも年上だったのですね。
安岡章太郎というと、第二の太宰なんていう人もいました。
しかし太宰治ほどの物語作者としての才能には恵まれず、その代わり太宰治には無い乾いたユーモアがありました。
中学生から高校生の頃、私はこの人の作品を愛読しました。
「ガラスの靴」や「悪い仲間」は青春を描いて瑞々しく、しかもそこに気負った感じがなくて、何度も読み返したものです。
作者が中年になって、「海辺の光景」という、海辺の病院で狂気に陥った母親を看取る作品を発表してから、重鎮扱いされることになりました。
私は若い頃には彼の初期の作品を頭の隅に置いて、主に女性関係で悪い遊びに耽りました。
そして退屈だと思っていた「海辺の光景」に深く感じ入ったのは、昨年の3月、父を亡くした時でした。
親の死という耐え難い事態を、彼はドライに描きつくし、それは父を亡くすという一件から未だに脱出できずにいる私を驚嘆させる醒めた筆致であるということに、改めて気付かされたのです。
私はひねくれ者なのか、一般に失敗作と言われる作品に惹かれる傾向があります。
例えば三島由紀夫の「鏡子の家」。
安岡章太郎で言えば、「舌出し天使」ですかねぇ。
思うに失敗作と言われる作品には、作者の思い入れが深く、それゆえに作者の特徴がよく現われるような気がします。
私にとって安岡章太郎は、同じ第三の新人と言われた遠藤周作や吉行淳之介とは全く異なり、その作品の良し悪しは別にして、深く心に響く作品を書く小説家でした。
そしてまた、三島由紀夫や石川淳、渋澤龍彦などのきらめくばかりの才能を感じさせることも無い、なんとなく親しみの持てる作家でもありました。
今まで私を魅了してくれたことに感謝しつつ、ご冥福を祈ります。
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