春の嵐とで言いたいような、激しい雨が降っています。
春らしく、気温は高く、事務室のなかは暖房なしでも快適です。
「春の嵐」というヘルマン・ヘッセの小説がありましたね。
はるか昔、中学生の頃読んで感銘を受けた記憶があります。
春の嵐―ゲルトルート (新潮文庫) | |
高橋 健二 | |
新潮社 |
象徴的な意味で付けられたタイトルで、何も春の嵐をつづったものではありませんが。
地震や台風、津波などは、自然が物理的な力をもって私たちを襲ってくる怖ろしいものですが、通常、自然はその魔的とさえ言える力を隠して、眠っているかのごとくです。
若山牧水に自然を眠っているかのように詠った和歌があります。
山ねむる 山のふもとに 海ねむる かなしき春の 国を旅ゆく
いかにも抒情的な、あざといくらい旨い歌ですねぇ。
若山牧水歌集 (岩波文庫) | |
伊藤 一彦 | |
岩波書店 |
それに比べ、ほどほどであれば怖ろしいものではなく、むしろ人間に恵みをもたらす雨は、眠っているようには見えませんね。
その時々のそれぞれの人の気分や状況を反映して、恵みの雨にも見え、涙のようにも見え、また、人を喜ばせもし、沈ませもする不思議なものです。
実家は寺であるため来客が多く、母は雨の日は来客が少なくて静かに過ごせるから好きだと言っていました。
学生や勤め人にとっては雨は好ましいものではありませんから、ずいぶん贅沢な話だと思ったことを思い出します。
うつ状態が激しかった頃は、雨が降ると無性に悲しくて体が重く、布団から出ることができませんでしたが、鋼の精神を身に付けた今になっては、雨が降ろうが鑓が降ろうが心にさざ波一つ立ちません。
ありがたいことです。
雨に動揺しない私を作ってくれた家族・親族・友人・医師・同僚上司に深く感謝します。
そのことに気付かせてくれた今日の雨にも。