ステージおきたま

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コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

ご贔屓さん増えて、有難辛さ。『流れ旅 匂うが紅』公演終わってあれこれと

2016-12-26 09:07:55 | 演劇

 『流れ旅 匂うが紅』どうにか終わった!とんでもない舞台だった。大衆演劇一座の日々の出来事に一座の出し物が組み込まれる、という複雑なもの。それも、踊りについては藤柳美香次さん社中が出演、他団体との共演という面でも難しさは数等倍、よくぞ、乗り切った、お見事菜の花座!と、まずは言っておこう。

 芝居や役者の講評、ダメ出しは次回にするとして、まずは、お客さんの入りから。11月末のシニア演劇学校5期生公演『生前葬につき』が400人の大台を軽く突破してたからねぇ、ここは本家本元の菜の花座、半分しか入らなかった、なんてしょぼいこと言ってられない。せめて250、できれば、300越えを!と狙っていた。わざわざ藤柳社中をお招きしての公演だ、演劇は人集めにくいんですよ、なんて無様な言い訳はしたくない。それに、やたら金の掛かる舞台だ。制作が掲げたチケット販売最低ノルマは350。達成できれば、300に限りなく近づくだろう。もちろん、それでも赤字だけど。

 さて、入りの方はどうだろう?不安を感じながらの開場。シニア5期生公演ほどの賑わいではなかったが、ざっと見積もって350人。チケット販売も390枚を突破した。前回同様、開演直前に座席後方の仕切り幕を撤去しなければならなかったほど。まずは安堵。美香次さんお目当てのお客さんも多かったはずだから、この観客数を菜の花座の集客力と言い張るつもりはない。が、確実に菜の花座のご贔屓さんが増えているのを感じる。700席のホールで350って半分じゃん?なんて言っちゃならない。結構大入り感漂うんだから。

 さて、そんなたくさんのお客さん、芝居の方の反応は?しんみりとしたシーンではぐっと身を乗り出すのが感じられたし、笑いも大いに起こって、役者はとても元気つけられた。笑いの中には、役者当人への声援もあったみたいで、これは嬉しいねぇ、役者たちもとても気を良くしていた。強欲エロ爺を演じた代表なんか、20回もの認知症サポートコントで顔が売れ渡ってってんだろう。美人座長に言い寄るシーンで笑いを取っていた。いいことだ。

 ただ、そうなると、作り手としては戸惑うことも多く発生した。お客さんがやたらなことで笑うのだ。例えば、定式幕の開閉。たしかにここは、ほーっ!と軽いどよめきが起きるのは予期していた。それが実際は笑いなんだ。開け閉めを担ったNの仕草もやや滑稽じゃあったが、毎回、毎回沸き起こる笑いには驚いた。コミカルコントとコミカルダンス、これは大いに笑ってもらえて、うん、よしよし。たけど、最後の見せ場、女座長が、強欲小屋主に対して、芸も体も金で売りはしないと見栄を切ったせりふで笑いが起こってしまった。なんでだ?どうしてよ?よっ、名調子!とか、いいぞ、咲哉!なんて掛け声がかかるなら狙い通りだ。なのに、笑い!!!他にも、えっ?ここで笑い?って場面が多々あった。少年が、座長にちょっかい出すエロ爺さんに飛び掛かるシーンとかも、笑い。うーん、僕の笑いの感覚をはるかに突破している。

 この傾向は、『生前葬につき』でもあった。お客さんが笑いを待っている?笑いたくて仕方ない?そんな感じがする。菜の花座や僕が作る舞台はいつも笑いを意識して作るから、ご贔屓さんになればなるほど、菜の花座=笑い、の等式が完成してしまっているのかもしれない。さっ、笑わせて頂戴よ、ほら、次の笑いは何なの?ってわけだ。

 うーん、これは、有難辛い事態だぞ。笑いのスイッチが緩くなってるのは、喜劇を作る身としては有難い。この劇団は笑わせてくれる、って観客の待ち受け姿勢は大いに歓迎だ。こまつ座の公演なんか、明らかに、こういう常連客に支えられて大爆笑が生まれている。もちろん、そんな馴れ合いの笑いばかりじゃないが。ナイロン100℃なんかも、そんな笑ってくれる固定客をつかんでいた。劇団のイメージが、笑いとともに記憶されるのは悪い事じゃない。

 でも、こっちだって、真剣に伝えたいところはあるじゃないか。うーん、と、うならせたいシーンも作りたいじゃないか。ぐっと感極まるセリフも書きたいじゃないか。ハンカチをそっと目に当てさせたいじゃないか。いや、そんな芝居を書いてるつもりなんだ。作ってる思いなんだ。これは困った。

 お客さんを責めるなんて、作り手の人間として、傲慢な仕儀にゃ違いないんだけど、もちっと、観客の方も役者が絞り出す必死の思いを感じ取ってほしいもんだなぁ。作者や演出の意図を深いところで受け取って欲しいなぁ。何にでも笑いを嗅ぎ付ける感覚、箸が転んでも可笑しい、小娘の笑いスイッチからは卒業してほしいんだ。

 しかし、これ、手前の拙さ棚に上げた生意気な言いがかりってもんだ。わざわざお金払って、時間潰して見に来てくださってるお客様だ、どう感じようと勝手だ。菜の花座を贔屓にしてくださってるお人たちだ。どこまでも大切にせにゃならない。だから、問題の立て方が間違ってるんだ。シリアスなシーンで笑いが起きるってことは、我々の演技にどこか滑稽な要素が紛れ込んでるってことなんだ。それを敏感に嗅ぎ取っているってことなんだ。笑いなんか抑え込み、一気に心震わせる演技や演出を生み出せていないってことなんだ。作者も演出も役者も、もっともっと精進しなけりゃいけない。お客さんを意のままに引きずりまわせる実力を身につけなけりゃならない。

 2時間半もの長い舞台、飽きずにご覧いただいた(と、思う)300人超もの人たちがいたってこと、貴重なこと、ありがたいことと思わねばならない。そして、これからも、このご贔屓さんを裏切らぬ質の高い舞台を作り続けなくちゃいけない。いつかは満席!そんな野望を胸に秘めて、次回作も手抜きせず会心作に挑もう。

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