ステージおきたま

無農薬百姓33年
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コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

老舗の底力!前進座公演『たいこどんどん』

2016-12-06 09:50:13 | 劇評

 裏切られた!楽しく嬉しく唸った。あの前進座がこんなアクロバティックな舞台作るのか!

 あの、って言ったって、見たのは7月の『怒る富士』だけなんだけどさ。あれは、ちょっとぉ、最後まで座ってられなかった。演出にも演技にも新味なし、なんか数十年前に引き戻された感じがして、今どきこれ?と、座席が石になった。セリフがよく聞こえなかったし、震災便乗ものだろって忌避感もあって、もう、忙しい中、来たのにさぁ、いい加減してよ、と休憩時途中退場。

 どうせ、だろ、きっと、に違いないさ、って高くくるっていうか、馬鹿にするっていうか、公演の前日まで見るかどうか迷っていた。まっ、フレンドリープラザだしな、こんとこお客さん減ってるしな、プラザ演劇公演、ここは一つ、頭数ってことで、見ることにした。

 オープニング、出演者総出の町衆ダンス。なんでみんな下駄なんだ?と思ったら、タップもたっぷり盛り込んでた。(のっけから駄洒落?そうさ、この作品、駄洒落全開なんだから。)全員が傘を使った振りも、おっ、いいね!やるじゃないの!と、体を乗り出したけど、演技の方は、やっぱり、固いんだよなぁ。たいこ持ち桃八、熱演は熱演だけど、なんか、こう芸人の軽さとか粋さとか、足りないんだなぁ。遊んだことないだろ、あんた、ってところ。ご機嫌取り、お座敷芸、滲み出すものがないんだなぁ。踊りなんかも決まってて、うん、さすが、前進座、しっかり舞踊も身につけてるわ!でもなぁ、定規あてて書いた絵みたい。肝心なものが欠けてる。

 なんて、偉そうに一歩引いて眺めてたんだけど、場が進むに従い、こ、これは!いいじゃないかぁ!さすがだね、と変わって行った。なにが凄いって、場転の数だ。「たいこどんどん」ってこんなにべら棒にシーン多かったかねぇ?もう、矢継ぎ早ってぇか、めったやたらってぇか、のべつ幕なしてぇか、とにかく、ワンシーン10分持たない。作者の井上さんのいたずらだ。驚いたのは、その井上さんのお茶目に真正直に応えてるってことなんだ。どのシーンも一切手抜きなし。きっかり書割出して(大量にあるのですべて布に書いたもの、しかもその精密さがお見事!)、仕掛け作って、衣装変えて、鬘かぶり直して、・・・その都度場転では、お客飽きさせないように、凧上げたり、ショートコントでつないだり、果ては口上まで入れてのあの手この手。その間、暗転幕の後ろではなぐりの音やらなんやら響いていて、うわーっ、必死で立ててるぞ、装置!役者たち、走り回って早着替えしてるぅぅ!

 夢中で走り回って演じてると、役者たちの体温も目いっぱいヒートアップしてきて、それが演技に現れて、固さもいつの間にかぐんぐんほぐれて、笑いも次々爆発するようになって行った。途中、途中で、拍手も起きて、完全に舞台と観客が一体になっていた。フィナーレのダンスは、全員が明治文明開化の姿で踊る。そして、今度も傘!ただし、洋傘!どこまでもサービス精神溢れかえった3時間だった。

 終演後のばらし手伝って、またまた、驚き。「装置運びはいいから、楽屋の方、お願い」って、珍しいよねぇ。言われるままに行ってみて驚いた。20畳ほどのスタジオが衣装、鬘部屋!そこだけで5,6人が立ち働いていて、部屋中広げられ衣装や鬘の数々。仕事は次々木箱に納められる鬘をトラックまで運ぶこと。そうか、そうだよな!あんだけ場転したんだもの、その都度替えてりゃ、あの人数だ、このくらいは必要なんだ。で、これすべて前進座の財産!!!

 さすがに名門だ!老舗だ!創立85年は伊達じゃない。この財産。この裏方、あればこそだよ、こんなとてつもない芝居が出来たたのは。きっちり作る、律義に仕上げる、前進座の精神が存分に生きた『たいこどんどん』だった。

 

コメント
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