T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

「闇の掟、公事宿事件書留帳(1)」を読み終えて!

2011-08-04 09:07:07 | 読書

 澤田ふじ子さんの小説は始めて。

 場所が江戸でなく京都、しかも、現代の民事訴訟を扱う公事のための司法書士や弁護士の役割も担う旅籠、その銭と色の人間の欲望が展開する公事宿を舞台にした時代小説は読む前から興味があった。先日、テレビを見て一層読みたくなった。もう一つ読み易い小説なので、読みだしたら止まらない。

 「京都東町奉行所同心組頭の家に長男として生まれながら、訳あって公事宿・鯉屋に居候する田村菊太郎。京都の四季の風物を背景に、人の心の闇に迫る菊太郎の活躍を追う時代小説シリーズの第一作。難航する犯人探索の中、菊太郎の推理が光る。」(裏表紙より)

 解説文を借りて人間味溢れる主人公の菊太郎を紹介しておこう。

 「30歳に手が届こうという年だが、いまだに独身で鯉屋の居候だ。用心棒でもあり、また相談役でもあるという設定。

 京都東町奉行所同心組頭の田村銕蔵は異腹の弟だ。

 菊太郎は18歳ごろまでは品行方正で神童とまで噂された。それがある日から突如として遊蕩を始め、出奔し、各地を無頼漢として渡り歩いた末、京に戻ってきて鯉屋の居候になった。

 じつは菊太郎は町奉行所同心組頭を務める父が祇園の茶屋娘に産ませた子だった。こうした事情から菊太郎は、世襲の役職を正嫡の弟に継がせるため、自己韜晦して家出したのだ。銕蔵はもとより両親とも菊太郎の心の優しさに感じ入っている。菊太郎が鯉屋の居候に招かれたのは、鯉屋宗琳が菊太郎の父の贔屓を受け、公事宿を開いたという恩誼があるためだ。

 鯉屋は今は長男の源十郎が譲り受け、居候の菊太郎と隔意なく何でも話せる息の合った間柄になっている。」

「火札」 放火犯と判決を受けた男の無実を明かす話

 放火犯の兄・長吉の無実を晴らしたいと、遊郭に自らの身を売って訴訟費用をつくり、鯉屋に救援を求めてきた妹の訴えを聞いた菊太郎が、長吉の放火犯の判決はおかしいと調べだした。

 長吉が父の代の貸金の取り立ての訴訟に来たのに、そんな中で火札を作れないし、金を貸している相手に放火しても得にならないと考え、奉行所内を調べたら、菊太郎が牢に出入りすることを快く思っていない与力がいることが分かった。

 その与力は妾をおいていて、その金の工面をするために、借金は支払い済みだと訴訟相手に嘘をつかせ、火札も他人に作らせたものだった。

 菊太郎は与力の妾の家の前で調べ済みのことを告げて、その場を去った。与力は翌朝自刃していた。

「闇の掟」 木材の横流しで刑を受け、それを逆恨みして別の公事屋を狙撃した話

 源十郎夫婦ら公事屋組合の仲間18人が暑気払いに出かけた琵琶湖竹生島詣での途次、一行の中の相模屋の主が、比叡山近くの山峡で何者かに狙撃殺害された。

 菊太郎は狙撃には何か目標が必要だと、一行の構成を源十郎に聞いた。蔦屋だけが藪入り代わりにと10歳の小僧を連れていた。

 相模屋が足を痛め、その小僧と最後尾で手当てをしていた時に狙撃されたと知り、蔦屋に関係ありと調べ出した。

 鯉屋が幹事でもあったので、蔦屋が5年以前に関係した公事を調べたが、それらしきものは出てこなかった。蔦屋自身も逆恨みの相手が解らず用心棒も付けて用心した。 公事屋として、逆恨みをする者のことを何でも奉行所に助けを求めるのではなく、断固とした態度で当たる、公事屋にも意地がある。「闇の掟もある」と源十郎は菊太郎に言う。

 鯉屋の牢座敷で預かっていた土井式部という浪人(借用証文を書くのに五両も取ったと訴えられていた)から、嫌疑がはれた時に、夜中に座敷牢の横の蔦屋の裏路地を毎夜のように歩く人がいたと、犯人解明のきっかけになることを話してくれた。

 裏路地を行く人間と蔦屋の雇人が内通していることが分かった。菊太郎が裏路地を去っていく奴を付けると、木材を横流しして島送りになっていた大工の家に入り、蔦屋の主の動向を知らせていた。

 菊太郎は、その場で、闇の掟だと言って、刀を横殴りに一閃した。二人の身からの鮮血が天井に吹き上がった。

「夜の橋」 刑を終え、好きな女との世帯を夢見て懸命に働く男の給金を預かったまま土左衛門にした雇い主の話

 賀茂川に、二の腕に前科を示す刺青があるのに、脚には脛巾をつけ手は仕事で荒れている土左衛門が上がったところに菊太郎は行き合わせた。菊太郎は、刑を終えて懸命に堅気に暮らしていた男と判断した。

 銕蔵の指図で、同心が菊太郎に挨拶に来て、仏さんは安蔵といい、かって島原遊郭のごろつきであったが、下手人の手掛りがつかめないという。

 高瀬川の船会所に行って、罪人の身寄りの者が年一回罪人に品物を送った資料を調べたらどうかと言う。

 お霜という女が毎年送っていたことが分かり、彼女の家を訪ねた。

 一年前、安蔵から嵯峨野の石屋で真面目に働いている、一年後の中秋の日に五条の橋の上で会おうとの知らせがあったという。菊太郎は安蔵が殺されたことを言いそびれた。

 石屋が見つかった。欲の深い業突く張りの主が、安蔵が持っていた銭と給金を預かっておき、安蔵をこき使った。

 安蔵が元の職業の桶屋を始めたいので預けた銭を返してくれと言われたが、石屋は絞め殺して上流の川に流したといった。

 お霜は名月を仰ぎながら橋の上で待ち尽くすだろう。菊太郎は暗澹として両目を塞いだ。

「ばけの皮」 貰い子の養育料を手にしたら、その子を殺して妾を囲う寺侍の話

 由緒ある青山寺の影山という寺侍に娘を貰い子に出したが、海産物商として成功し暮らしも楽になったので、大金を積んでもいいから引き取りたいと鯉屋を通じて奉行所に申し出た。

 実の親は、暮らしが楽になったら返してもらう約束だったというが、そんな約束はなかったと反論し、育ての親の気持も大事にせねばと不裁可になった。

 しかし、実の親は子供を見るだけでもと再吟味を願い出てほしいと鯉屋に泣きついてきた。

 菊太郎は鯉屋の手代の喜六から貰い子の別の話を聞いた。商家の隠居が遊郭の女を身請けして、その女が遊郭奉公前に産んで貰い子に出した子供も引き取ってよいと言った矢先に、その女が近くの山奥で殺された。

 菊太郎は貰い子に焦点を合わせ、まず、影山の身辺の探索を銕蔵に頼んだ。

 寺院関係は管轄外の銕蔵は禁裏御付武士の友人に調べてもらった。ところが酷いことに、影山は度々貰い子をして、養育料が入ると子供を殺害して妾の家の庭に埋めていたのだ。

 銕蔵は寺院関係は奉行所では中々表沙汰にできないと言う。菊太郎は、それなら自分で始末してやろうと寺侍の妾宅に行くと、禁裏御付武士の友人がすでに首をはねていた。

「年始の始末」 汚職の罪を喜六の義兄の手代に負わせて殺した話

 鯉屋手代の喜六が正月の宿下がりで故郷に帰ったまま店に帰ってこないので、菊太郎が訪ねていくと、喜六の姉が夫を殺害したとして捕えられていたのだ。

 義兄が鰻専門の料理屋の女に夢中になり、それを嫉妬して義兄が持っていた脇差で刺殺したというのだが、喜六はそんなはずがないと絶叫する。

 牢に入れられた姉は心神喪失で一切口がきけなくなっていた。

 義兄が勤めている商家の番頭が、手代の義兄が千両近い金を横領していたといい、夢中になっていた女の名前まで陳述したので、その女を連行し尋問すると、私も騙されていたと口裏を合わし、姉にとって不利な方向に動いていた。

 喜六が義兄は鰻を見るのも大嫌いだったことを思い出した。

 早速に料理屋の女を見張っていたところ、番頭の妾で、その番頭が出入りの藩の京屋敷の用人と結託して汚職していたことが解った。

 義兄は用人の手先に殺されたのだ。

「仇討はなし」 父の仇討の途次、強盗殺人の罪を負わされた浪人の不審点を調べるうちに、その背後にあった藩がらみの犯罪を暴いた話

 父の仇討の途次、路銀を使い果たした大垣藩浪人・森丘佐一郎は薪炭商の手代を殺害し、懐から五両の金を盗んだとされるが、菊太郎に、誓って悪行はしていないと言う。

 奉行所から出向くと、大垣藩では、そのような藩士はいなかったという。

 菊太郎は諸国遍歴中、佐一郎の父に世話になった経緯があり、強盗を働くとは思えないが、佐一郎の刀が使われ、そこに置かれたままとなっていたのだ。

 菊太郎は吟味役与力と一緒にその配下の姿で大垣藩の留守居役に会って、士籍を騙った佐一郎の処刑が近々執行される旨を申し出て屋敷を出た。

 そのあとの藩の動きを待った。当の留守居役が御用商人の許へ出かけた。

 佐一郎の父は藩主の姻戚の者による木材買い付けに不正があることを知り、目付に訴える前に殺害されたのだ。

 父を殺害した仇討の相手は者は留守居役の手先ですぐに殺された。関係した商人たちは捕えられた。藩の処置は京都所司代を通じて老中のもとで行われた。

「梅雨の蛍」 狒々親父から身請けされそうになった公家の姫を助けた話

 妾宅で暮らす鯉屋隠居の宗琳が、料理茶屋・蔦重の新入りの女を身請けしようとしているようだと、妾のお蝶から源十郎に話があり、菊太郎に相談する。

 菊太郎が蔦重に様子を見に行くと、宗琳が用心棒に裏口から連れ出され殴られているところへ行き合わせた。

 宗琳は色恋からではなく、昔世話になった公家の姫が売られてきて、どこかの狒々親父からひかれようとされていたので、助けようとしていたのだ。

 菊太郎は銕蔵を連れて行き、法に違反している商売を蔦重がやっていることを種に脅かして、その姫を引き取って連れ帰る。

 その夜、お信の家の蛍を離した蚊帳の中で、菊太郎は髪を梳き終わるお信を待っていた。

 

 

 

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