大切な「まっとうさ」
予報に反し、昼間は全く雨が降らない。最高気温も30℃前後が続いている。
「深川澪通り燈ともし頃」を読み終えた。中身は中篇二話からなっている。
「藁」
両親を知らない不良の政吉が塩売りの時に木戸番小屋の夫婦と知り合い、煙草売りとなり笑兵衛から字を習い、狂歌の師匠の料理屋の女中のおきくと世帯を持ち、煙草屋の主人となって江戸でも有名な丸屋三鶴という狂歌師となる。
狂歌の師匠が亡くなり、政吉は自分の見栄と社中の行末のことから狂歌師としての仕事に大半の仕事をとられ、女房のおきくは使用人と駆落ちをした。
それでも狂歌師の仕事は止められず、ふとしたことから私娼の労咳持ちのおうたと知り合う。
添削依頼の狂歌を遊女屋で無くすこともあり同人からは中傷を受け、生きる力を失い、足が自然に木戸番小屋に向いて行く。
おきくも苦労の挙句、小田原宿から政吉に会ってから死のうと木戸番小屋に身を売りながら辿り着く。
笑兵衛は「俺達なんざ、溺れる者が掴む藁で大して役に立ってないのにさ」と照れて背を向ける。
「たそがれ」
仕立屋で一人暮らしのお若は、ひょんなことから駿河に妻子のいる薬売りの綱吉を愛するようになり、別れたくなくて15年経っていた。
近所に住んでいた針子のおとよは藍玉問屋へ嫁ぎ、おとよの弟の三次郎は不良で皆に心配かけていたが、狂歌師の政吉だけは可愛がっていた。
そんななか、政吉が身請けしたおうたが死亡し、元の女房のおきくや政吉と付合いのある人々が集まり、そのお通夜の席でお若は笑兵衛とお捨夫婦と知り合い、夜のしじまの中を、年をとっての一人暮らしの寂しさを想像しながら、笑兵衛達と帰路を共にした。
お若には通いの三人の針子がいて、その内の一人のおみやが三次郎といい仲になった。お若は三次郎に騙されているのだと諭すのだが、おみやは、お師匠さんだって騙されたと判っても別れようとしないでないかと言われ、つい惚れているからだと言ってしまう。
綱吉と疎遠になっている今はその言葉も虚しく、お若は淋しい気持ちをどうすることもできずに、足は自然に木戸番小屋に向かう。
ある時、雨の中、三次郎がお若の家に、姉が家出して行方が判らなくなったと言って来た。お若の予想通り、おとよは木戸番小屋に来ていて、呉服屋の手代と不倫しているという噂を家族まで信じるようになって居られなくなったとのこと。
笑兵衛とお捨におとよを任せ、家に帰ったが、雨が酷く、多くの人とお寺に非難した。翌日は川水が流れ込んだ家の後始末に大変だった。
お若一人で後片付けをしていたところに、おえいと暮らしている仁吉が手伝いに来た。暫くして、おえいもやって来たが、仁吉は生活を変えたい為かその場から去っていった。
そんな中、おとよが今度は赤ん坊を抱いて現れ、呉兵衛の気持ちが離れてしまった今は葛西屋に居れないと再度家出してきて、三次郎が自分の長屋に連れ帰った。
おえいは仁吉に去られて自棄になり居酒屋で酒浸りになる日が多く、ある日、連れ帰ろうとしたお若は、おえいが投げて割った徳利の欠片で足を怪我をし、そこに居合わせた呉兵衛に背負われて医者に行ったが、その姿を三次郎に見られていた。
時が経って、呉兵衛はおとよを連れ戻しに来たが、姉に対する仕打ちの他に誤解しているお若とのこともあり三次郎に追い返される。その後、今度は笑兵衛を伴ってやってきたが、三次郎は出刃で呉兵衛を刺そうとしてやり損なう。しかし、最後はおとよの説得で目覚めた。
おとよも呉兵衛の改心を知り葛西屋に戻った。呉兵衛は三次郎を引き取るつもりだったが、三次郎は独り立ちしたいと、おみやと世帯を持つことにした。
おえいとお若はお互いに取り残されたねと言い合っていたが、お若は、燈ともし頃に木戸番小屋の癒しの明りが灯っている間は、精一杯見栄を張って暮らせそうだと思う。