スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

アルチュセール学派とスピノザ主義&思惟属性の下での解釈

2015-03-07 19:26:20 | 哲学
 『ヘーゲルかスピノザか』の日本語版には,補論として訳者のひとりである鈴木一策の「アルチュセール学派とスピノザ主義」という論考が収録されています。マシュレはヘーゲルとスピノザの間に対決という枠組みを立て,スピノザに軍配をあげています。これに対していえば,ヘーゲルに軍配をあげることを意図した論考と思われますが,もしその意図の解釈が正しいとすれば,成功していないように感じられます。
                         
 アルチュセール学派とは,アルチュセールは当然ながら,マシュレやドゥルーズ,デリダといった人たちです。鈴木はこうした識者のスピノザの哲学の見解を援用しつつ,論考を展開していきます。このために,スピノザ自身の哲学について言及するとき,不備があるという印象を残してしまっています。
 人間には認識することができない無限に多くの属性があること(第二部公理五第一部定義六),実体と属性は理性的区別で分けられること(第一部定義四),しかし属性の認識は実体の区別の方法とはなり得ないこと(第一部定理一〇備考),無限に多くの属性が唯一の実体の本性を構成して実在するということ(第一部定理一一)。こうした事柄はスピノザの哲学を理解するにあたっては基礎中の基礎です。少なくともマシュレはこの基礎を遵守しています。ところが鈴木の論考はこうした部分に精緻さというか丹念さを欠いています。結果として,スピノザの哲学に関連する論考の中心部分の主張が,ひどく的外れであると解釈できるような内容になってしまっていると僕には思えるのです。
 スピノザの哲学自体を批判するということと,アルチュセール学派のスピノザの哲学の理解の仕方を批判するということは,思索的な営為としては明らかに別の事柄であるといえます。この論考はどうもそのふたつがないまぜになってしまっているような印象を受けます。鈴木が主張している事柄の中には,確かに理があると考えられるような部分が含まれていますので,僕にはとても残念に感じられました。どちらかの観点に的を絞るべきではなかったでしょうか。

 推論の全体を概括的に述べ直してみます。
 ライプニッツの身体の中に,第三部定理七に反する運動が生じるとき,ライプニッツの身体はその運動の部分的原因です。このことから,第三部定理七に合致する運動がライプニッツの身体の中に生じるなら,ライプニッツの身体は,少なくとも部分的原因ではあり,場合によっては十全な原因であるであろうということが,容易に推測できます。第三部定理七に反することが部分的原因であるのに,一致することが部分的原因ですらないということは,それ自体で矛盾しているからです。
 そうであるなら,このことは,ライプニッツの身体の運動のすべてに適用し得るのではないでしょうか。なぜなら,この推論にとって重要なことは,それがライプニッツの身体の中で生じているか否かという点に存するのではなく,第三部定理七に反するか一致するかという点にあるからです。だからスピノザを訪問するというライプニッツの身体の運動に対して,ライプニッツの身体は,少なくとも部分的原因を構成はするだろうと僕は考えるのです。もちろんそれは,十全な原因の一部を構成するものとしての,意味ある部分的原因という意味合いにおいてです。
 たぶんこの理屈は,思惟の属性の下で考える方が承認されやすいものと思います。たとえば現実的に存在するある精神のうちで,何らかの思惟作用が生じるとします。このときその思惟作用の観念は,その限りにおいて十全であろうとそうではなかろうと,その精神の観念を有する限りで神のうちにあると説明されなければならない筈です。いい換えれば第二部定理九系を現実的に存在する精神に適用したとすれば,ある思惟作用がその精神の中で起こるかどうかとは無関係に,すべての思惟作用に対してこの系が妥当しなければならない筈です。これを否定するというのは,第二部定理一一系を否定するのと同じです。その精神の観念を有する限りでの神と,その精神という様態的変状様態化した神は,ふたつの平行論のうち,思惟の属性の内部での平行論における同一個体にほかならず,第二部定理七により,双方の原因と結果の秩序と連結は一致するからです。

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