スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

三四郎と代助&第三部定理五五備考

2024-06-08 19:05:31 | 歌・小説
 『なぜ漱石は終わらないのか』の第八章で,『それから』の代助が三四郎の後身であるということが語られています。『三四郎』,『それから』,『』は三部作といわれていて,それぞれの主人公といえる三四郎,代助,宗助がそれぞれ似たところを有しているのはある意味では当然のことといえます。ただこの部分では,それが独特の観点から指摘されているのです。
                                        
 『それから』の平岡は新聞記者という設定になっています。ここでは新聞というのが隠されたモチーフとして設定されているのだと小森が述べています。これは説明すると長くなってしまうので,ここでは省略します。しかし代助はその新聞の役割というのを具体的にはまったく理解していません。というか,理解していないように書かれています。これは代助がボンボンであって,世の中のことをよく理解していないからです。平岡の方はこのことに自覚的であって,だから自分の立場を利用して代助に脅迫めいたことまでするのですが,代助はそのあたりの事情がよく分かっていないのです。
 こうした代助の設定が,三四郎によく似ているというように石原はいっています。『三四郎』には新聞のモチーフは出ていませんが,三四郎は熊本から出てきたばかりであって,世の中のことをよく理解できていない,抽象的にしか理解できていないという点で,代助と共通します。ボンボンであるというところも一致しているといっていいでしょう。しかしただそれだけではなく,『三四郎』には三四郎にはよく分からないことが,小説の地の部分には書かれているように,『それから』では代助には分からないようなことが小説の地の文章に表出しているのであって,新聞を巡るプロットはそのひとつを代表するようなものなのです。つまりこのような点においても,小説の主人公として,代助は三四郎の後身であると石原は指摘しています。
 代助が三四郎の後身であるのは,単に恋物語を巡る文脈の中でそうであるといえるのではありません。小説を書く技術の側面からも,代助は三四郎の後身なのです。

 ここで國分が第三部において重要な定理Propositioのひとつとしてあげていた,第三部定理二八に着目します。ここから僕たちは,喜びlaetitiaを希求し悲しみtristitiaを忌避するということが分かります。第三部定理五三系でいわれている賞賛lausは喜びですから,僕たちによって希求されることになります。いい換えれば僕たちは,他者からの賞賛を欲望するようなコナトゥスconatusあるいは同じことですが現実的本性actualis essentiaを有していることになります。
 このことの否定的な側面をこれから論考していくことになりますが,この現実的本性は,否定的な側面だけを有しているわけではないということを,前もっていっておきましょう。というのは,僕たちは他者からの賞賛を欲望するがゆえに,他者に賞賛されるようなことを実際になすということがあり,そうしたことのためになす行為のうちには,他者に喜びを齎すことも含まれるであろうからです。単純ないい方をすれば,褒められたいがためにいいことをするということは僕たちには生じ得るのであって,このような効果が賞賛を欲望する現実的本性から生じるのであれば,この現実的本性は結果effectusとしてよいことを僕たちに生じさせるでしょう。ですから賞賛を欲望するということは,人間の現実的な生活の上で,全面的に否定的な要素だけ含んでいるというわけではありません。
 それから賞賛は,自己満足acquiescentia in se ipsoあるいは自己愛philautiaという別の喜びを強化する感情affectusでもあります。したがって,ほかの条件が同一であるならば賞賛はほかの喜びよりも強く希求されることになります。いい換えれば一般的に喜びを希求するというよりも強く,僕たちは賞賛を希求するのです。
 ではこの現実的本性の否定的な側面は何かといえば,それはスピノザ自身が第三部定理五五備考の中で語っています。スピノザはこの備考Scholiumの中で,自己愛と自己満足を分けているのですが,それに続けて次のようにいっています。
 「そしてこの喜びは人間が自己の徳あるいは自分の活動能力を観想するたびに繰り返されるから,したがってまた各人は,好んで自分の業績を語ったり,自分の身体や精神の力を誇示したりすることになり,また人間は,このため,相互に不快を感じ合うことになる」。
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