スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

努力と能動&観想と表象

2024-06-05 19:02:22 | 哲学
 努力conatusとは何かということを検討したときに明らかにしたように,現実的に存在する人間が自己の有esseに固執するperseverareことに努力するconariとき,それが能動的である場合を努力というのであれば,努力はすべての能動actioに帰せられることになります。いい換えればこの場合の努力は能動と意味の相違がないことになります。よってこのような意味において努力という語を使用することには何も意味がないことになってしまいます。
                                   
 このことから理解できるのは,スピノザの哲学で努力といわれるときには,それは能動を意味するわけではないということです。もちろん能動的に努力することもあるのですが,受動的に努力することもあるということです。第三部定理六というのは,現実的に存在する人間が能動的である場合でも受動的である場合でも適用されます。これは第三部定理九から明らかです。そしてこの定理Propositioにおいてスピノザは努力という語を用いているのですから,スピノザが努力を能動あるいは受動passioの一方と関連付けていないということは明白です。
 コナトゥスconatusを努力という日本語に翻訳するとき,気をつけなければならないことはいくつかあるのですが,このこともそのひとつであるといえるでしょう。一般的には僕たちは何事かに向けて努力するというなら,その人がその何事かに向かって能動的に立ち向かうという意味に理解するのではないでしょうか。ところがスピノザの哲学で努力といわれるときには,それは成立しないのです。それどころか,第三部定理六というのは能動的であろうと受動的であろうと成立するのであり,しかも人間は能動的であるか受動的であるかのどちらかなのですから,実はこの定理は人間が現実的に存在しているときには常に適用されるのです。そしてこのことが努力といわれるのですから,現実的に存在する人間は常に努力しているということになります。ここがとくに重要です。現実的に存在する人間は常に努力しているのであって,そこに能動も受動もないのです。

 観想するcontemplariという思惟作用は,精神の能動actio Mentisであるか受動passioであるかとは関係なく使われるということが分かりました。したがって,これはある仕方で精神mensが事物を認識するcognoscereときに,それが受動であるか能動であるかに関わらずに用いられるということになります。ではその仕方がどのような仕方であるのかということについては,國分がいっていることがヒントになるのではないでしょうか。國分がいうには,人間は自分の能力potentiaを観想することはあるけれど,自分の無能力impotentiaを観想することはないのであって,それは表象されるのだといっていて,その理由は,自己の力は自分自身を認識するだけで成立する思惟作用であるのに対し,自己の無能力は自分自身を認識するだけでは成立しない思惟作用であって,自分自身を他と比較するときに成立する思惟作用であるといっていました。つまり人間の精神mens humanaがある事物を観想するというのは,観想されるあるものをそれ単独で認識する場合に用いられる思惟作用であるということになります。
 第二部定理一七は,表象imaginatioという作用について,事物を現実的に存在するということを観想するといっていて,これは國分の指摘に反すると思われるかもしれませんが,そうともいえません。というのはこの定理Propositioでいわれているのは,ある表象像imagoが単独で認識されるということを前提しているのであって,そのような単独で認識された表象像は,やはり単独で認識された別の表象像によって排除されるといっていると解せるからです。ですから自己の無能力は観想されるということはなく表象されるのですが,だからといって表象像が観想されることはないというわけではありません。一方,自己の力は観想されるものであって,それは概念される場合もあるのですが,必ず概念されるというわけではなく,表象される,つまり自己の力が現実的に存在すると観想される場合もあるでしょう。表象するimaginariとは,事物が現実的に存在すると知覚されることですが,観想するは事物が概念される場合と知覚される場合の両方を含むので,表象像が観想されるということはあり得るのであって,ただし複数のものが比較されるなら,それは観想するとはいわれないのです。

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