スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

現在と未来&第三部諸感情の定義一説明

2024-05-21 19:10:36 | 哲学
 支払いの例から分かるように,第四部定理六四第四部定理六六は両立します。すなわち,悪の認識は混乱した認識cognitioであり,それは理性ratioによる認識ではあり得ないのですが,僕たちは理性に従うのであれば,より大なる未来の悪malumよりもより小なる現在の悪を欲望することになるのです。このことをどのように論理づけていくかが課題です。
                                   
 まず,課題の中で,わりと簡単に片づけられることをあげておきましょう。
 第二部定理四四系二にあるように,ものを永遠の相aeternitatis specieの下に認識するpercipereということは理性の本性natura Rationisに属します。よって,もしも理性が悪を認識するということがあるのなら,それがいつ与えられる悪であるのかということは関係ありません。ですから理性は単に大なる悪よりは小なる悪を欲望するのであって,それが現在の悪であるのか未来の悪であるのかということは関係ありません。つまりここでいわれていることのうち,その悪が未来に関係するか現在と関係するかということは,条件としては無視することができます。逆にいえば,理性は大なる悪よりは小なる悪を欲望するというだけで,未来の大なる悪よりも現在の小なる悪を欲望するということは帰結するのです。このことは,第四部定理六五でいわれていることなのであって,すなわち第四部定理六五でいわれていることが真verumであるのなら,第四部定理六六でいわれていることも真であるということが帰結するのです。よって,第四部定理六五は,ふたつの悪を理性が認識するということを前提としていますので,これがなぜ第四部定理六四と矛盾しないのかということを解決することができれば,第四部定理六六と第四部定理六四の間にあると思われる矛盾も解消されます。
 そこでここからは,第四部定理六五が,どのようなことを前提としていわれているのかということを考えていくことにします。

 第三部諸感情の定義一によれば,欲望cupiditasとは,与えられる各々の変状affectioによって,現実的に存在する人間が何事かをなすように決定される限りにおいて,人間の現実的本性actualis essentiaであるとなっています。したがって人間の現実的本性は,受動状態においてという限定をつけなければなりませんが,人間を何事かをなすように突き動かす力potentiaといえます。この力は第三部定理九備考でいわれている衝動appetitusにほかなりませんし,第三部定理七でいわれているコナトゥスConatusにほかなりません。したがってこの定義Definitioは,同じく第三部定理九備考でいわれている,欲望は意識を伴った衝動であるCupiditas est appentitus cum ejusdem conscientiaということを,否定しているわけではないことは理解できるでしょう。
 第二部定理二三は,現実的に存在する人間の精神mens humanaが,自身の精神を認識するcognoscereのは,その人間の身体humanum corpusが外部の物体corpusによって刺激されるaffici観念ideaを通してのみであるといっています。他面からいえば,僕たちはこの様式を通してしか自分の精神を認識しないのです。第三部諸感情の定義一が,各々の変状について言及しているのは,なぜ人間が自身の欲望を認識できるのかを示すことよって,第三部定理九備考でスピノザがいっていたことの妥当性の根拠を示すためであったと國分は指摘しています。確かに第三部定理九備考は,その全文を通して,人間の身体が外部の物体から刺激を受けるafficiこと,およびその刺激を受けた身体の観念を形成するということには触れていません。一方,第三部定理九は,人間が自己の有に固執していることと自己の有に固執していることを意識していることを等置しているように解釈できますが,なぜそのように解釈することができるのかということはまったく示していません。これらを合わせて考えるならば,この國分の指摘には一理あるといわざるを得ないでしょう。
 このことはスピノザの説明からも明白です。スピノザは,欲望を,人間があることをなすように決定される限りで人間の本性であると定義することができたけれどもそうしなかったことについて,次のように説明しているからです。
 「だがこの定義からは(第二部定理二三により)精神が自己の欲望ないし衝動を意識しうるということは出てこない」。

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