スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第四部定理六六証明&第二部定理八備考

2023-08-20 18:52:52 | 哲学
 第四部定理六六を証明しておきます。
                                   
 現実的に存在する人間は,理性ratioに従っている限りでは,認識された事物が未来と関係していてもまた現在と関係していても,それによって感情affectusに刺激されるafficiとするなら,同じように刺激されることになります。なぜなら,第二部定理四四系二にあるように,事物を永遠の相aeternitatis specieの下に認識することが理性の本性natura Rationisに属しているので,その事物が現在と関係しているのか未来と関係しているのかということとは関係なく,永遠の相の下に認識されているからです。よってその認識cognitioによって刺激される感情は,事物が未来と関係しているのか現在と関係しているのかということとは関連しないのであって,永遠の相の下に認識される事物から均一的な感情に刺激されるということになるからです。
 よって,大なる善bonumあるいは大なる悪malumといった認識から刺激される感情は,それが現在と関係しているのか未来と関係しているのかということとは無関係に,同一に刺激されます。同様に,小なる善あるいは小なる悪という認識から刺激される感情も,現在と関係するか未来と関係しているのかとは関連せず,同一の感情です。
 したがって,人間が理性に従っている場合に生じる感情というのは,認識された事物が現在と関係しているか未来と関係しているのかということを考慮しなくてもいいのです。他面からいえば,理性に従っている限りで生じる感情は,その認識がなされた時点で生じる感情として理解すればよいのです。それならば,それが現在と関係するか未来と関係するかということとは関係なく,小なる善よりも大なる善が選ばれることになりますし,大なる悪よりは小なる悪が選ばれることになるのです。
 したがって,人間は理性に従う限りでは,現在の小なる善よりも未来の大なる善を欲求します。同様に未来の大なる悪よりも現在の小なる悪を欲求するのです。なおこれはそれ自体で明らかなように,理性に従っている人間は,未来の大なる善より現在の小なる善を忌避しようとし,現在の小なる悪よりも未来の大なる悪を忌避しようとするというのと同じです。

 スピノザが第二部定理八備考の当該箇所でいっている文言は,岩波文庫版では次のように訳されています。
 「円は,その中でたがいに交わるすべての直線の線分から成る矩形が相互に等しいような本性を有する。ゆえに円の中には,相互に等しい無限に多くの矩形が含まれていることになる」。
 ここでいわれていることの前半部分は,ユークリッド原論第3巻命題35でいわれていることと同じです。一方,円の中に相互に等しい無限に多くのinfinita矩形が含まれている,というのは,スピノザがこのことから導出している結論です。スピノザは,円の中で相互に交わるすべての直線の線分からなる矩形が相互に等しいということ,つまりユークリッド原論第3巻命題35でいわれていることを,円の本性essentiaとみなしています。これは備考Scholiumの文言から明白でしょう。事物の本性からはその特質proprietasが流出します。つまり,円の中に相互に等しい無限に多くの矩形が含まれるということは,円の特質,つまり円の本性から流出する特質であるとスピノザはみなしていることになります。これをいうためには,円の中で互いに交わる直線の線分というのが無限に多くあるということを前提しなければならないように僕には思われますが,とくに説明なしにそのことを前提することに大きな問題がるようにも思わないです。
 この検証から分かるように,スピノザはこの部分では明らかにユークリッド原論第3巻命題35を意識しているのです。そしてこれは重要な情報であるといえるでしょう。スピノザは第二部定理八備考の中で,神Deusの無限な観念ideaが存在する限りにおいて存在する個物res singularisの観念と,それが現実的に存在するといわれる場合の個物の観念のあり方の相違を説明するときに,ユークリッド原論を利用しているということは,『エチカ』の読者であれば知っておいた方がよい情報であるといえるからです。というのは,スピノザが論述を進めるにあたってどのような方法論を用いようとしているのかということや,スピノザが自然Naturaを原理的にどのように説明しようとしているのかといったようなことは,この一例だけをもってしても,おおよそ類推ができるようになっているといえるからです。

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