漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

尾道旅行(2)

2017年08月12日 | 近景から遠景へ

 尾道の街では、まずは昔ながらのといった形容詞が似合う商店街を(とはいえ、東京にあってもおかしくないようなおしゃれなカフェが点在するのだが)、林芙美子記念館に寄ったりしながら散歩し、それから自転車を停めて、いよいよ坂道の町を散策にでかけた。
 尾道といえば、小津安二郎監督や大林宣彦監督の映画の舞台として特に名が知られるようになった町という印象がある。もっとも、小津監督の「東京物語」は非常に印象に残る良い映画だったが、中学二年生の頃に原作が好きだったからという理由で観に行った「時をかける少女」の方はムニャムニャという感じで、むしろ同時上映だった「探偵物語」の方がいくらか面白かったというやや残念な記憶があるのだけれど。
 坂道を上っていくと、古い民家に混ざって、そこをリノベーションしたと思しき、ややおしゃれな店が点在していることに気づく。そして、猫がやたらと多い。はっと気がつくと、そこに猫がいる。
 


 上にアップした写真なんて、ぱっと見にはギリシャのミコノス島の写真のようでさえある。
 坂をずいぶんと登っていった先で、志賀直哉の別邸があった。そこの縁側でちょっと休息。そこから、尾道水道が見渡せた。随分と素晴らしい眺望である。昔の文学者の住居跡は、よく記念館になっているけれど、贅沢な場所にあることが多い気がする。
 志賀直哉邸を出て、東へと向かった。
 すると、しっとりとした雰囲気の漂う一帯にたどり着く。
 「尾道イーハトーヴ」と呼ばれる一角である。
 もともとはアーティストの園山春二さんが、大正時代の古民家を改修して「梟の館」というカフェを始めたところから始まり、次第にその一角を宮澤賢治が描いた理想郷としてのイーハトーヴになぞらえて整えていったものらしい。あちらこちらに猫の置物があったりして、確かにファンタジックである。尾道に来る前から、妻がぜひこのカフェに寄りたいと言っていたので、立ち寄った。



 店内は撮影禁止ということで、写真はないが、何千という数の梟の置物に覆われた、まるで魔法使いの家のような場所である。ぼくたちが入ったときには、店内には誰一人おらず、貸し切り状態であった。窓際の席に座り、妻は小さいかき氷とコーヒーを、ぼくは小さいかき氷とビールを注文した。窓からは、尾道の風景が見渡せた。なんだか、不思議な眺めに見えた。ほっとくと、いつまででもいられそうな場所である。帰るときに、店主さんに「ふくろうの置物が、本当にたくさんありますね」と言うと、「これでもぜんぜん並べられてないんです」ということ。
 店を出たあとは、もうしばらく坂道の街を散策した。スマホで「時をかける少女」のロケ地をちょっと調べてみたけれど、なにせぼくはもう見たのも随分と昔のことだったし、よくわからずじまい。
 自転車を返却したあと、駅前の店に立ち寄って、尾道ラーメンを食べた。有名店もあるようだったが、二キロほども歩かなければならないようだったし、なにせ疲れきっていたので、まあここでいいやと入ったのだが、ずいぶん美味しく感じたので、十分に満足だった。

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