漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

さよなら、海文堂書店

2013年09月19日 | 消え行くもの

 ネットを見ていて、神戸市元町にある老舗の書店「海文堂書店」が、今月で閉店するということを知った。
 今年の夏、神戸に行った折に海文堂に寄ったのだが、その時には閉店するということは告知されていなかったように思った。海文堂の有名な洒落たブックカバーが欲しいと思い、何か本を買おうと思ったのだが、たまたま読みたい本が見つからず、荷物もあるしまあ今度でいいかと何も買わずに出てしまったことが、今更ながら悔やまれる。海文堂は、あって当たり前の書店だったし、まさか閉店するとは夢にも思わなかった。
 とはいえ、全く予感がしなかったわけではない。実家が神戸にはなくなってしまったので、この数年はなかなか神戸に行く機会がないのだが、それでも育った町である神戸が懐かしく、数年に一度くらいは足を伸ばす。だが行く度に、神戸から元町に至る元町商店街が寂れていっているように思えて、気になっていた。記憶の中にある神戸の町は、もっと賑やかで、元気があったように思う。今からもう二十五年以上も前のことだが、僕の頭の中の神戸は、いまだにまだその当時の活気を持って浮かび上がってくる。だからこそ、現在の寂れつつある街とのギャップに混乱する。震災以降、神戸はいまだに復興を見ていないのだ。
 海文堂書店は、元町商店街にあって、モダンな神戸を代表するような書店だった。三ノ宮のジュンク堂のような広さはないが、ジュンク堂にすら在庫していないような癖のある本を多数取り揃えていたし、かつては二階にギャラリーなどもあって、昨日今日ではない、洒落た雰囲気を漂わせていたものだ。海関連の書籍の充実度には定評があったし、海図などのグッズも取り扱っていた。一階には岩波などの絶版文庫の棚があったこともある。サンリオ文庫も、サンリオが出版から撤退した後も長い間書棚に並んでいた。最後の駆け込み購入のつもりで、僕も結構な冊数を買ったことを覚えている(今でも読まないままで書架に眠っていたりする)。もっとも、高校生だったので、あるだけまとめて大人買いというわけにはゆかず、立ち寄るたびに数冊といった程度だったけれども。
 創業百年を目前にした、九十九年目での閉店である。あまり売れない本でも、置く価値があると判断した本は、返品せずに売れるまで店頭に並ばせ続けていたように思う。マンガや絵本は、数は多くはなかったが、良いものが揃っていたと思い出す。書店としての良心を持った海文堂にはファンが多かったから、惜しむ声は多いはず。僕も、とても淋しい。
 海文堂書店さま。お世話になりました。遠く東京からではありますが、別れを惜しませてください。
 ありがとうございました。

 今日は、中秋の名月。満月です。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿