漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

風の強い日

2006年03月17日 | 汀の画帳 (散文的文体演習)
 風の強い日、色とりどりの細くて軽い紐が空を舞うのを見た。飛びながら、柔らかく絡まりあい、また離れ、それは虹のように見えたり、神経の繊維のように見えたりした。私はその紐を目で追いながら、片道だけの切符を持って、列車に乗り込もうとしていた。
 紐は太くなったり細くなったり、長くなったり短くなったりした。そして、強い風にはためいて、太陽の光に柔らかく輝いたり、鋭く輝いたりした。時々、跳ねるように飛んできた木の葉や鳥の羽が羽に触れた。そして、微かに痺れるように震えた。
 それはいつの事だろうと私は思った。列車に乗り込みながら。今目の前に見ている。その光景が遠いようだった。いつの事だろう。それは今ではなく、一回り昔の今なのかもしれないと思った。
 紐はしなやかで、けして切れる事はない。常にしなやかに絡まりながら、虹のように鮮やかに、針葉樹の少し上を舞う。やがて花びらが舞う頃には、その紐は鮮やかな色彩に、素敵なアクセントを加えるだろう。
 列車が動き出す。列車の音に、風の音が同調して、鳴った。