さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

6回3分間の「リセット」に驚嘆 寺地拳四朗、京口紘人をKO

2022-11-02 17:55:30 | 関東ボクシング



ということで、ハードな旅程ですが、さいたまから帰って参りました。
いろいろと濃密な4試合をいっぺんに見てきましたが、やはりメインの感想文から。






初回、寺地拳四朗が積極的にジャブから打って出る。
京口紘人はガードが高くて「締め加減」も良い。その上で、下半身からリズムを取って身体を振る。良い構え、良い感じ。

しかし拳四朗のジャブや右ショート、軽いのも多いが、単に京口のガードを叩いてリズムを取る、というのみならず、少しずつ京口のガードを内外から叩いていくのが見える。
京口の堅陣が、徐々に揺さぶられ、削られ、崩されていくイメージが、初回から浮かびました。
京口は肘を上げた右フックなどを返すが、奏功せず。


2回には早速、拳四朗の右が京口のガードを巻くように入り、京口の足元が少しだが乱れる。
3回、京口はダイナミックな左アッパー、右ストレート応酬など、光る攻めはあるが、拳四朗は序盤の内からギアを上げ続ける風。
右応酬、遠い位置から右ボディブローを突き刺し、右カウンター、ワンツーと返し、その合間や攻めの後に、左ジャブのヒットが必ず上乗せされる。


4回、拳四朗の右アッパーから左フック返し。ファイター型が得意とするような攻撃だが、打ち終わりの足が速いし、その前のジャブによる「作り」があるので、こんな攻撃も出来てしまう。
拳四朗なおも打ちまくる。角度や距離がその都度違うショートのワンツー、右アッパーから左フック、ボディ打ち。
京口は左ボディを返すが単発止まりで、ガードして凌ぐが、ガードの戻りが僅かに、しかし確実に遅くなっているように見え、ヒットを喫する頻度が増す。
率直に言って、打ち合い、は出来ていない。打ち込まれている。
この回終盤、それでも京口がワンツー、アッパー返して出るが、そこに右ボディを二発突き刺され、ダメージ負ったか、止まる。






ここまでの展開については、ポイントがどうとか、流れがどうとかいうよりも、拳四朗の闘いぶりに、京口同様、見ているこちらも圧倒されていました。
細かく足を動かし、一発ずつ、或いはひとつのコンビやカウンターごとに、相手との位置関係に優位性を作って打ち、外し、の繰り返しをしているのは、言ってみればいつもの拳四朗でした。
しかしその密度というか、頻度というか、それが異様に高いように見える。


世界注目のビッグマッチ(試合前、全世界に配信されているとアナウンスがあり、何も知らなかったので驚きました)ということもあってか...いや、それ以前にこれまで世界王者として長いのに、言えば「メジャー」な舞台でメインイベンター、主役を務める、初めてと言って良い機会を得て、心身ともに高揚していたのか。
何しろその闘いぶりは、よく言えば非常に意欲的。しかし同時に「らしくない」とも。

そして、悪く言えばオーバーペース、とも言えるのかも、と。
4回見終えて、正直「セコンド陣は、ここまでやれ、と言っているんだろうか」と首を捻っていました。


そして迎えたのがあの5回です。
これだけ打ち込んでいるのだから、そろそろペースダウンの指示でも出るかな、と思っていたら、ものの見事に逆。
最初は左中心に見えたのですが、京口のガードの戻りが僅かに遅くなっているところに、拳四朗がジャブから右。京口ダウンを喫する。






拳四朗が詰めに出る。これについては、ここまでの展開から、そうして当然、と思いました。
また、当然詰め切って倒すだろう、と。

ところが京口、懸命にガード締めて耐え凌ぎ、少しずつ打ち返す。
拳四朗はさらにギアを上げて滅多打ち、という風でしたが、徐々にパンチのスピードが落ち、膝が伸びていく。
京口が得意の左アッパーを突き上げるのが見え、ワンツー、右アッパー。






拳四朗の手が止まり、間合いを取ろうとじりじり下がる。
そこに京口が左で飛び込む。拳四朗、手を下げて目で外そうとしたが、思うようにいかず?打たれ、ロープ際へ。
ここで手を上げたが、京口追撃のワンツーが決まり、相打ち気味の右が交差し、また京口の右クロス。
拳四朗は一度は外して回るが、また京口の右を食い、足が伸びる。あわや大逆転?場内騒然。
両者もつれてスリップし、ゴング。


今年の、いや、これまで見た数多の試合の中でも、ベストラウンド候補になろうかという3分間。
拳四朗のオーバーペースが、好機に来て祟った、とも言えるでしょうが、それよりもやはり、京口の反撃は驚異でした。
人間の極限を超えた闘い。真の、世界最高峰を争奪する者ならではの闘志。
京口紘人の神々しくさえある姿に、ただ感嘆するのみ、でした。


そして、この試合はこの先どうなり、どちらの手に落ちるのか、もはや神のみぞ...などと思っていたところ、それをいわば、人知の及ぶところに引き戻したのが、拳四朗の方でした。


6回、最初はパンチの交換もあったが、徐々にペースを落とし、ほぼ左一本で組み立てる。
リズムを整え、乱れたバランスを回復させ、距離はセーフティに確保し、当てて離れ、躱す。

気付けば、寺地拳四朗は、この凄まじい試合展開を、それもほとんど、自らが作り上げた激闘の展開を、素知らぬ顔で「リセット」してしまった。
拳四朗は、かなりのところまでダメージを回復させ、スタミナも同様。言えば、試合開始時点の状態にかなりの部分「戻った」。
対する京口は変わらず疲弊し、ダメージも抱え、精神的にも追い詰められたままの状態。


改めて、拳四朗畏るべし、と驚嘆しました。
単に巧いの速いの強いの、というだけでは収まらない、本物のチャンピオン、その凄みを見たような気がしました。


そして、これは京口、大ピンチだ、と思いつつ始まった7回、やはり拳四朗が着実にヒットを奪っていく。
拳四朗のワンツーが入る。京口、遠目にも足元が怪しく、腰が据わっていない。あと一押しで倒れそうに見える。
拳四朗のパンチは、もう打てばほとんど、京口のガードをすり抜けてヒットする。


しかしそこからなお、京口が打ち返す。ワンツー、左右アッパーを打ち返す。信じられない...。
とはいえ、もう無理だろう、とも同時に見えたところ、拳四朗のワンツーが決まり、京口の身体がロープの間に落ちかける。
レフェリーが京口を抱きかかえ、ストップとなりました。













試合全般を通じて、世界最高峰を争うに相応しい、高度で、余りにも激しい闘いが見られました。
間違いなく世界最強を証明した寺地拳四朗、そして最強王者をその闘志で苦しめた京口紘人。
二人の闘いは、勝敗を超えて感動的だったと、ありきたりですが思います。


やっぱりこういう試合、怖れずに組むべきものなのだ、とも思いました。
昔の常識なら、おそらく組まれることのなかったカードなのでしょうが、両者共に王者として堂々たるキャリアを重ねてきた者同士。
その誇りと闘志が激突する闘いは、あまりに濃密で激しく、見る者の目を釘付けにして離さない、どこへ出しても通るもの...これぞボクシング、これこそがボクシングです、と声を大にして言えるものでした。


そして、その上で思います。
もはや誰の思うようにもならないはずの、嵐のただ中にあるような激しい闘いのさなかにあって、再び自分本来の持ち味に立ち返り、試合を、そして自分自身を立て直し、勝利を必然のものとしてその手に掴んだチャンピオン、寺地拳四朗の偉大さが、この試合を終えて見えた、最大の輝きだった、と。
この勝利で、その名は、本来あるべき高みにまで上がることでしょう。それもまた、大きな喜びです。







昨日と今日はかなりタイトなスケジュールで動くことになりましたが、会場に行って良かったです。
行かなかったら後悔してました。
アンダーは色々ありましたが、終わって見ればメインの満足感が全てですね。

ひとつだけ気になったのは、セミとメインの試合後、WBO王者ジョナサン・ゴンサレスと、拳四朗とが揃って、インタビューで統一戦希望を語っていたこと、くらいですかね。
まあ、あまりこういうこと、言うたり書いたりせん方が良いのかもしれませんが...「要りますか、その試合」と思った次第であります、ハイ。

冗談抜きで、本当にそう思ってしまうくらい、108ポンド級世界最強を決めるに相応しい、神々しくさえある試合でした。
ふたりの偉大なボクサーに、拍手と感謝を送りたいです。素晴らしかった!




※写真提供はいつもどおり「ミラーレス機とタブレットと」管理人さんです。
いつもありがとうざいます。
KOシーンの連写は圧巻。凄いです。




コメント (5)
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