さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

4ラウンズ分、遅かった巻き返し 井上拓真、ウーバーリに判定負け

2019-11-10 02:54:17 | 関東ボクシング



ということで、セミファイナルについても感想を。

両者が向かい合うと、やはり目に付いたのが、全身びっしりと筋肉の鎧を身に纏ったノルディ・ウーバーリの肉体、その迫力でした。
井上拓真はバンタム級ボクサーとして、けっして華奢なわけでなく、厚みのある身体の持ち主なんですが、比較して見ると、あまりに差があり、愕然となるほど。

過去の試合映像から見ても、身体の軸が決まっていて、下肢が安定し、そこからしっかりリズムを取り、コンパクトに打ってくるウーバーリに、正対して力勝負をするのは得策ではなさそう。
何とか前後左右に動いて、相手の「軸」を揺さぶり、バランスを崩していく展開を作れないものか。
試合前はそこに注目していました。


しかし初回、どうもそういう風ではなく、わりと普通に対して、思ったよりは間も詰まった感じでスタート。
井上拓真が右ショート浅く決める。

2回、両者どうやら距離がほぼ同じらしい、というのが見えてくる。
そして、正対してやり合うと、全体として、どうしてもウーバーリの方が押す「絵」になる。
3回、コーナーに押してウーバーリが左、右返し。守っても拓真のパンチを巧く防ぐ。






4回、拓真の細かい巧さが、ポイントに繋がらない流れの中、ウーバーリの左が決まって拓真ダウン。
途中採点、当然3-0でウーバーリ。

5回以降、拓真は地道に立て直しにかかる。右ショート上下、ロープ際から左フックカウンター、右も。
しかし6回以降、拓真本人は「やられていない」「外せている」と思っているのだろうなあ、しかしウーバーリの手数、仕掛けの回数がジャッジの印象に残っているだろう...と傍目には見える、もどかしい展開が続く。






案の定、8回終わっての途中採点では、さらにウーバーリのリードが拡大。
ジャッジ二人が大差をつけていて、ポイントでの逆転は不可能と、数字で出てしまう。

失点しても痛くも痒くない状況のウーバーリは、その状況に浮かれず、さりとて無用に自重もせず、流れのままに「対応」するのみ、という風情。
9回以降、拓真の右からの攻撃が散発的に決まり、左ボディも。

しかしこの辺も、好意的に見れば拓真だが、という域を出ない。
拓真の良さが出ているが、それは1回につき1ポイントを取る巧さでしかなく、それでは勝敗に何も影響しない。
最終回、拓真の左フックが決まって攻勢も、ウーバーリ乗りきって終了。採点は聞くまでもありませんでした。


見終えて抱いたのは、4回のダウンはやっぱり痛かった、というアホみたいな感想です。
ダメージ甚大、とまではいかなくても、当然ダメージはあり、5回以降の立て直しが「地味」なものに留まってしまった。

もし9回以降の攻勢が、5回から始まっていて、8回にダウン寸前まで打ち込む攻勢が取れていたら、残り4つで「勝負」になったことでしょう。
しかしその仮定も、言ってしまえば無意味です。そもそもウーバーリがスコアを聞いた上で流したからこその、終盤の攻勢だったわけですから。

試合後の拓真の一連のコメントは、試合中に「本人はきっと...」と想像していたものと、ほぼ一致していました。
そうでなければ、前半はともかく、ダウン取られたあとの中盤を、あの感じで闘うはずがないだろうと。


兄と違い、見た目派手な、鮮やかなそれとはまた違う巧さを持つ井上拓真は、その安定感、完成度において、展開次第で充分世界上位にも通じるものがある、と見ています。
それは今回、いわば欧州王者ともいうべきノルディ・ウーバーリと対した12ラウンズを見終えても、変わらない印象です。

しかし、相手の力強さと、そこから来る見映えを過小に見て、ダウン以外の回も取られていると、途中採点で知らされてなお、そこからの巻き返しが「あの程度」のものに留まったことが、あまりにも痛かったと思います。
毎回、ひとつずつポイントを押さえて勝つ、それが井上拓真の勝ち方である以上、そのために残り4つで慌てるのでなく、残り8つの段階から、より危機感を持って、もっと打ち、もっと外し、それがかなわなくとも「試合展開構築の意志、我にあり」という姿勢をはっきり見せていく必要があった。

しかしそこを読み違えた、のか。或いは、それが出来ない状態にあった、のか。
力や技で大きく劣っていた、という風には見ませんが、いずれにせよ、勝負どころをほぼ全て押さえられていた以上、井上拓真は明白に敗者でした。


デビュー戦から全試合を見てきた選手ですが、この一年のブランクも込みで、色々と難しいところで負けてしまったなあ、と思います。
彼が「日本バンタム級チャンピオン」として活動し、安定した好条件で闘っていけるなら、それは素晴らしいことですが、昨今の日本ボクシング界の状況は、そのような「然るべき」状況にもありません。
さりとて、周辺の状況に追い立てられるようにWBCタイトルマッチを二度戦い、一勝一敗で終わった今、言葉は悪いですが、適切な「置き所」がどこなのか、よくわからないのが正直なところです。


それにしても、いかにウーバーリが受けに回っていたといっても、最終回のあの攻勢を見ると、兄との比較さえなければ、充分に優れたボクサーである、と言える力があるのになあ、と思わずにはいられませんでした。
兄と違い、終盤ということもあって、好打したあとフォームが目に見えて乱れたりもしましたが、ある意味、あれで当然、あれが普通でしょう。

世界上位の選手相手に、これだけやれる選手、としての井上拓真は、兄を除けばやはり、日本バンタム級において現状、最高レベルの選手です。
出来ればもう一度、じっくりと再浮上への道のりに乗ってほしいものだ、と期待します。



※写真提供は「ミラーレス機とタブレットと」管理人さんです。


コメント (7)
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