Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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ホモシスチン値の上昇は脳梗塞をもたらす.でも日本人では・・・

2004年10月21日 | 脳血管障害
高ホモシスチン血症に伴う脳梗塞のリスクについては,以前よりnon-prospective cohort studyの結果,指摘されてきたが,十分なエビデンスには乏しい状態であった.
今回,血漿中のホモシスチン値の上昇が,白人及びヒスパニックにおいて脳梗塞のリスクを有意に増加させることがprospective study(Northern Manhattan Study)の結果,明らかになった.方法はpopulation-based cohort studyで,2939人に対し,総ホモシスチン値を測定.基礎値は黒人が白人・ヒスパニックと比べ高く,男性が女性より高い傾向を示した.また65歳以上で高値の傾向を示した.追跡調査では,5年間の経過観察において103の脳梗塞が生じ,血漿ホモシスチン値が15nol/L以上の群では,10未満の群と比較し,血管障害に伴う死亡(脳梗塞+心筋梗塞)に関するハザード比は6.04(95%信頼区間3.44-10.60)であった.脳梗塞の発生に関してはハザード比は2.01(95%信頼区間1.00-4.05)であった.総ホモシスチン値と脳梗塞に関しては,白人,ヒスパニックでは有意な相関を認めたが,黒人では有意差を認めなかった.この相関は年齢・性別にも関係はなかった.
 いつものことながら日本人におけるデータはない訳で,このような論文を読んでおきながらデータを使用できないのは何とももどかしい.

Stroke 35;2263-2269, 2004

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むずむず脚症候群に対するドパミン・アゴニストの長期的効果

2004年10月21日 | 睡眠に伴う疾患
むずむず脚症候群(Restless Leg Syndrome; RLS)は,脚の不快感(しばしば脚の内部を蟻が這いずり回るような感覚と表現される)を主訴とし,この不快感から逃れるために脚を動かさずにはいられない状態となる疾患である.症状は安静時,およびベッドに横になっている時に出現することが多く,しばしば重篤な不眠の原因となる.通常,40歳代前後で発症し,徐々に悪化する.RLS患者の多くに周期性四肢運動異常症(PLMD;前脛骨筋におけるIVM)を合併する.ドパミン・アゴニスト(DA)の短期的な効果が実証され第一選択として使用されることが多いが,その長期的な効果や副作用については明らかではない.
 今回,DAの長期的効果に対する検討がBaylor大学から報告された.対象は83名で,パーキンソン病,尿毒症,薬剤使用に合併すると考えられた症例は除外.観察期間は平均39.2ヶ月.この期間を通してDAは有効であったが,薬剤使用量は増加傾向を認めた.副作用は56.7%で認めたが(眠気,吐き気,四肢浮腫の順),重篤なものはなし.またDAはaugmentation(症状の増大や悪化)を引き起こすことが報告されているが,実際に48%で認められた.しかし一般にその程度は軽度で,家族歴のある症例や,末梢神経障害を伴わない症例ではaugmentationを呈する傾向が見られた.
本研究によりDAは長期的にもRLSに対して使用可能な薬剤であることが分かった.本邦では本疾患に対する医療サイドの認知度は低い状態と言わざるを得ず,まず的確な診断を行うことが重要と言えよう.

Arch Neurol 61;1393-1397, 2004

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「良性」の多発性硬化症の定義

2004年10月19日 | 脱髄疾患
多発性硬化症(MS)に関して,20年間にわたるpopulation-based follow up studyの結果がMayo Clinicより報告された.結論としては「長期間にわたり障害が軽度である症例ほど,その後の症状は安定しており,進行しにくい」というもの.具体的には,10年ないしそれ以上の経過観察期間において,EDSSが2.0以内にとどまっている症例では,93%の症例で次の10年の間に障害の進行はない.EDSSが2.5~4.0の場合,その値は43%となり急激に低下する.以上より,著者らは「良性のMS」を少なくとも10年の経過観察期間において,EDSSが2.0以内にとどまる症例と定義づけた(Olmsted Countyのコーホートにおける17%に相当する).このデータは免疫抑制剤などの治療選択の際に有用なデータになるものと思われる.
このデータを見て第一に感じるのは,ほとんどの症例が進行性であるということ.問題点はこのデータが日本人に当てはめられるか分からないこと.本邦でもEDSSをきちんと評価し,長期予後を検討する必要があると思われる.

Ann Neurol 56; 303-306, 2004

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バルプロ酸は脳梗塞に有効?

2004年10月19日 | 脳血管障害
バルプロ酸(VPA;デパケン)は広く使用される抗てんかん薬であるが,HDAC(histon deacetylase)inhibitorとしての作用がある.すなわち,ヒストンの脱アセチル化を抑制し,アセチル化ヒストンの状態を保つことで,遺伝子発現(転写)が生じやすいようにする働きがある.
今回,ラットの脳梗塞モデル(MCA一過性閉塞モデル;いわゆるsuture modelで,虚血時間は1時間)に対し,VPAを300mg/kgずつ,12時間おきに皮下注し,その効果を24ないし48時間目に検討した.この結果,脳梗塞巣は著明に縮小し,caspase-3活性化の減少,アセチル化ヒストンH3の上昇,HSP70の上昇を認めた.すなわち,VPAは遺伝子発現の上昇とHSP70を介してneuroprotectiveに作用する可能性がある.
VPAをはじめ,HDAC inhibitorは以前より神経疾患への応用が検討されており興味が持たれる.実際にデパケンを内服されている患者さんの脳梗塞は予後が良いのでしょうか?あとHDAC inhibitorについても薬剤によってどのような転写が活性化されるのかを明らかにしておかないと,却って悪い方向に作用しかねないような気もする.

J Neurochem 89; 1358-1367, 2004

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Donepezil はアルツハイマー病に対しcost-effectiveではない

2004年10月17日 | 認知症
Donepezil(アリセプト)は,英国でアルツハイマー病(AD)に対し,最初に認可されたコリンエステラーゼ阻害剤である.今回,英バーミンガム大が中心となって実施された臨床試験「AD2000」の結果が報告された.非認知機能と行動的症状の改善に関して有効か,さらにcost-effectiveであるかに注目.軽症から中等症のAD患者565名を,ランダムにdonepezil群(5mg/day)とプラセボ群に割り付けた.エンドポイントは施設入所および障害の進行.
結果はDonepezil群ではMMSE(mini-mental scale examination)で平均0.8ポイント良好,機能的にも若干良好であったが,施設入所率はdonepezil対プラセボで,42% vs 44%,障害度進行58% vs 59%でいずれも有意差なし.再割り付けでdonepezil 5mgと10mgを比較しているが差異なし.以上よりDonepezilは費用効果的でないと結論付け,医師はルーチンにこの薬剤を処方することに対して疑問を持つべきだと述べている.
読んだときは少し驚いたものの,確かにその程度の効果のような気もする.最近の新薬はいずれも高価なものばかりで,そのcost performanceを検討することは非常に大切であると思う.欧米で認可されている他のコリンエステラーゼ阻害剤やmemantine(NMDA受容体拮抗作用をもつ)などについても同様の検討が必要でしょう.

Lancet 2004; 363: 2105-15

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核内封入体は神経細胞の防御反応?

2004年10月16日 | 脊髄小脳変性症
神経細胞における細胞内封入体は多くの神経変性疾患で認められるが,その意義については不明な点が多い.ハンチントン病(HD)をはじめとするポリグルタミン病では,1997年に初めて核内封入体(NII)の存在が報告されて以来,NIIが細胞障害を引き起こすのか,逆に防御的に働くのか,もしくはそのいずれでもないのか議論が重ねられてきた.
今回, NIIの意義に迫る研究が報告された.HDの病因蛋白であるハンチンチン(Htt)の伸長ポリグルタミン鎖を発現するexon1部分にGFPを融合させた蛋白をラット線条体初代培養細胞に一過性に発現させ,同一の細胞を経時的に顕微鏡下において観察できるautomated microscope systemを用い,NIIの有無が生存期間に及ぼす影響が検討された.結果としては,細胞死は発現蛋白量と伸長ポリグルタミン鎖長に依存すること,NIIが形成されない細胞では細胞死を来たすが,NIIが形成された細胞はより長期間生存することが分かった.すなわち,NIIは細胞内にびまん性に存在するHttのレベルを低下させることで生存期間を延ばすものと著者らは結論付けた.
この研究は,長く続いたNIIの意義に関する論争に終止符を打つものとしてNature articleに取り上げられたものと思われるが,今回の結果をin vivoにおいてそのまま当てはめてよいものか少々疑問を感じる.つまり①培養細胞を用い,②Httのexon1部分のみを,③一過性に強制発現させた実験が,ヒトの脳内で長期に亘って生じていることを正確に反映しているのであろうか?何となくすっきりしないが・・・・

Nature 43; 805-810, 2004 

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被虐待児症候群と間違えかねない glutaric aciduria

2004年10月16日 | その他
乳幼児において両側性の硬膜下血腫を見た場合,何を疑うであろうか?当然,非虐待児症候群を疑い,頭部以外にも外傷がないかを確認する必要がある.もし虐待のエピソードがない場合,鑑別診断として挙げるべき疾患にglutaric aciduriaがある.この疾患はglutaryl CoA脱水素酵素の欠損により生じる常染色体劣性遺伝の代謝性疾患であるが,症状として進行性のMacrocephalyのほか,錐体外路症状(ジストニアなど),小脳失調といった中枢神経症状を呈する.MRI画像では,大脳の萎縮,大脳白質や淡蒼球の信号異常を認めるが,さらに両側性の硬膜下血腫・水腫を認められることもあり,被虐待児症候群との鑑別を要する(Retina 23;724-725, 2003).
今回,本疾患のMRS所見が報告されたが,前頭葉白質にてNAA/Cre上昇,Cho/Cre軽度上昇,myoinositol/Cre上昇という結果であった.この結果は,本疾患では,neuroaxonal damage,demyelination,astrocytosisが生じていることを反映するものと言えよう.

Pediatr Neurol 31;228-231,2004

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若年性パーキンソニズムにおけるレム睡眠行動障害

2004年10月15日 | 睡眠に伴う疾患
レム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder;RBD)は,レム期に弛緩しているはずの筋肉が弛緩せず,体が激しく動いてしまう状態で,しばしば不快な夢を伴う.なぜかalfa-synucleinopathy(パーキンソン病,MSA,DLB)ではRBDの合併が多いことが知られ,RBDとsynuclein蓄積症との関連が指摘されていた.
一方,parkin(Park2)遺伝子変異を原因とする若年発症パーキンソニズム(ARJP)では,synuclein陽性の神経細胞内封入体は認められない.今回,Park2患者10人に対しPSGを施行したところ,うち6人にRBDを認めた.この結果から,単純にRBDがsynuclein蓄積症によって生じていると考えるのは難しいことが分かった.
RBDの責任病巣については脳幹が疑われているが,詳細についてはいまだ不明である.

Ann Neurol 56;599-603, 2004

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早期発症捻転ジストニア(DYT1)における神経細胞封入体

2004年10月14日 | その他の変性疾患
DYT1遺伝子変異を伴う早期発症捻転ジストニアは,一般に小児期に下肢より発症し,成長と共に全身性のジストニアとなる.発症年齢により予後が大きく異なる(成人発症例ではジストニアは局所にとどまる).常染色体優性遺伝の疾患で,DYT1遺伝子におけるGAG 3塩基欠失が原因であることが判明している.浸透率は低く,保因者の70%が非発症であるが,ごく最近,この遺伝子が「反復性うつ病」にも関与することが報告され注目されている(Neurology 63;631-7, 2004).
今回,病理所見の報告がなされ,中脳,とくに網様体,脚傍核,楔状核,中脳水道周囲灰白質において神経細胞の細胞質(核近傍)封入体が確認された.ユビキチン,torsin A(DYT1遺伝子産物),Lamin A/C(核膜の構成蛋白)陽性であった.黒質,線条体,海馬,大脳皮質にはこの封入体は認めなかった.
ポリグルタミン病やMSAなどと同様,細胞内封入体が神経変性の病態機序にどのように関わっているのかを解明することが今後の課題と言えよう.

Ann Neurol 56;540-547, 2004

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多系統萎縮症に対するCPAP療法

2004年10月13日 | 脊髄小脳変性症
多系統萎縮症(MSA)では夜間の喘鳴がしばしば認められ,夜間喘鳴を伴う症例は生命予後が不良であることが報告されている.その原因として声帯開大不全(VCAP)の関与が指摘され,VCAPは睡眠中の突然死にも関与する可能性が示唆されている.すでに夜間喘鳴とhypoxiaに対し,CPAP(continuous positive air pressure)が有効であることが報告されているが,今回,CPAPは長期的にも生存率を改善させることが報告された.観察期間は平均21ヶ月で,観察症例は14例.CPAP使用群の生存期間は,喘鳴を伴わない症例群と同程度までに改善した.
この結果はMSAに対するCPAP療法を積極的に勧める根拠になるものと考えられるが,MSAの突然死が本当にVCAPだけに由来するものであるのか,今後,明らかにすべきであると思われる.

Neurology 63;930-932,2004

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