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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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未知の脳炎「GFAP-IgG様抗アストロサイト抗体陽性自己免疫性脳炎」の特徴 from 岐阜大学

2025年02月08日 | 自己免疫性脳炎
自己免疫性GFAPアストロサイトパチーは,2016年にMayo clinicのグループが,アストロサイトに豊富に発現する中間径フィラメントの1つであるGlial fibrillary acidic protein (GFAP)に対する自己抗体(GFAP抗体)を有する髄膜脳炎・髄膜脳脊髄炎として報告したことにはじまります.本邦では2019年に私どものグループが,国内で初めて14名の患者さんを発見し報告しました(doi.org/10.1016/j.jneuroim.2019.04.004).この疾患では患者脳脊髄液中に,ラット脳組織を用いた免疫染色(tissue-based assay;TBA),およびGFAPαをHEK293細胞に発現させて行うcell-based assay(CBA)の両者でGFAPα抗体を確認することにより診断します.ところが,TBAで抗体陽性でありながらCBAでGFAPα抗体陰性という症例が存在することが分かりました.そのような症例を,当科の木村暁夫先生,竹腰顕先生が丁寧に検討した研究が,Journal of Neuroimmunology誌に掲載されました.

対象は2019年から2022年にかけて岐阜大学に集積された445例の中枢神経系の炎症性疾患患者で,その脳脊髄液を検討しました.このうち28例がTBAで陽性,CBAでGFAPα抗体陰性であることが分かりました.このアストロサイトを認識する抗体を(単一の抗体とは限りませんが)ここでは「GFAP-IgG様抗アストロサイト抗体」と命名しました.1症例のTBAを下図に示しますが,髄膜下領域,脳室周囲,小脳,海馬などのアストロサイトに対し抗体が強く反応している様子が分かります.



これらの症例の症状は多様で,初発症状としては発熱>頭痛>疲労,食欲低下を認め,神経所見としては意識障害>髄膜刺激徴候>腱反射亢進>排尿障害などを認めました.頭部MRI所見では,脳室周囲の白質や基底核,視床,小脳などにおけるT2/FLAIR高信号病変を認め,一部の患者では,自己免疫性GFAPアストロサイトパチーにおいて知られる血管周囲放射状ガドリニウム増強が認められました.脊髄MRIでは,長大病変が約60%の症例で確認され,これは視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)や自己免疫性GFAPアストロサイトパチーと類似する所見でした.免疫療法は高い有効性を示し,87%の患者が免疫療法を受け,そのうち93%が改善しました.

今後,GFAP-IgG様抗アストロサイト抗体の標的抗原を特定し,診断法の確立と治療戦略の最適化を目指すことになります.今後,新たな自己免疫性脳炎が分離されるものと思います.自己免疫性脳炎患者は明らかに増加していますし,がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の使用で今後さらに増加すると思います.自己抗体のみならず細胞性免疫の関与等,分からないことが非常に多く,課題が山積していると思います.当科では自己免疫性脳炎を研究したい大学院生を全国から募集しておりますので,よろしければ見学にお越しください.

Kimura A, Takekoshi A, Shimohata T. Clinical and neuroimaging findings of patients with glial fibrillary acidic protein-immunoglobulin G-like anti-astrocytic antibodies in cerebrospinal fluid. J Neuroimmun. 2025;400:578545. 全文をご覧いただけます.

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なぜIgG4抗体が主役となる自己免疫疾患でIVIgが効きにくいか?

2025年01月30日 | 自己免疫性脳炎
自己免疫性ノドパチーなど,IgG4抗体が関与する自己免疫疾患に関する総説がNeurol Neuroimmunol Neuroinflamm誌に公開されています.IgG4抗体による自己免疫疾患の病態機序,そしてその病態に合わせた免疫療法として何が最適かを解説しています.結論を言うと,IgG4抗体は,他のIgG抗体サブクラス(IgG1~IgG3)と異なり,炎症を介さず,主にタンパク質間相互作用を妨害するため,IVIgの主要な作用メカニズムが働かず,効きにくいということになります.

この論文のポイントは図1です.(A)は IgGの解説です.2本のH鎖と2本のL鎖で構成されます.そしてFc断片に自然免疫細胞のFc受容体が結合することで,貪食作用を可能にします.またIgGは特定の抗原に結合する2つの抗原結合断片(Fab)を持ちます.つぎに(B)のIgG1~IgG3抗体は,2つの同一の抗原結合部位(青色)を持ち,それらが同じ抗原(赤)に結合します.つまり同一抗原に2つのFab armで結合します.この状態を二価性(bivalent)+単一特異性(monospecific)を持つと呼びます.そして(C)の IgG4抗体では,2本のH鎖とL鎖が非共有結合によって結合しています.このためIgG4抗体は,一方のFabアームが他のIgG4分子と交換されるという「Fabアーム交換」を継続的に行います.この結果,IgG1~IgG3のように同一の抗原と強く結合することができません(図の1つは黄,もう1つは黒で書かれています).この状態を一価性(monovalent),二重特異性(bispecific)を持つと呼びます.



IgG4抗体は2つの特徴を持ちます.第1は,炎症を引き起こす能力が極めて低いということです.IgG4はC1q補体に結合できないため,補体を介した細胞傷害を起こしません.またマクロファージや他の免疫細胞に存在するFc受容体に対する結合が弱いため,抗体依存性細胞傷害(ADCC)やファゴサイトーシス(貪食作用)を誘導しにくい特徴があります.第2はIgG4抗体はタンパク質間の相互作用を直接阻害するということです.このため,例えばランヴィエ絞輪に存在する接着分子(例:Contactin-1,Neurofascin-155,Caspr1)の結合を妨げ,神経伝導障害を引き起こします.これが自己免疫性ノドパチーです(図2).同様の病態としては,MuSK抗体陽性重症筋無力症,LGI1抗体関連脳炎,Caspr2抗体関連脳炎,IgLON5抗体関連脳炎,DPPX抗体関連脳炎があります.これらの疾患では,MuSK,LGI1,Caspr2,IgLON5,DPPXといった神経伝導やシナプス伝達に関与する分子がIgG4抗体の標的とされ,機能不全が引き起こされます.



治療に関して,なぜIVIgが効果を示しにくいかについても論じられています.それは上述した通り,IgG4抗体は補体を活性化せず,Fc受容体を介した免疫応答も誘導しないため,IVIgの主要な作用メカニズムが働かないためです.しかしIgG4抗体は短命のB細胞や形質細胞によって産生されるため,リツキシマブなどのB細胞除去療法が効果的であり,長期的な疾患の安定化が期待されます.自己抗体のIgG抗体サブクラスを理解することの大切さを示す論文ですが,自己抗体が病原性を有する細胞表面抗原抗体においてとくに重要と言えるかと思います.

Querol L, Dalakas MC. The Discovery of Autoimmune Nodopathies and the Impact of IgG4 Antibodies in Autoimmune Neurology. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2025 Jan;12(1):e200365. doi: 10.1212/NXI.0000000000200365.

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典型的なPSP/CBS症例にはIgLON5抗体関連疾患はまず含まれていない!ではどのような時に疑うか?

2025年01月24日 | 自己免疫性脳炎
ご紹介する論文は,本邦の多施設共同研究「JALPAC(Japanese Longitudinal Biomarker Study in PSP and CBD)」の一環として行われた研究で,進行性核上性麻痺(PSP)や大脳皮質基底核症候群(CBS)の診断基準を満たす症例におけるIgLON5抗体関連疾患の頻度を調査したものです.岐阜大学をはじめ,鳥取大学,東名古屋病院,新潟大学など多くの医療機関によるものです.とくに大学院生の大野陽哉先生が頑張りました.

IgLON5抗体関連疾患は稀な自己免疫性脳炎ですが,運動障害や睡眠障害,球麻痺など多岐にわたる症状を呈します.一部の患者では,PSPやCBSに類似した症候を呈することがあります.しかし,臨床的にPSPやCBSと診断された症例におけるIgLON5抗体の頻度は海外における小規模な研究のみで十分に調査されておらず,本研究はその実態を明らかにすることを目的としました.

2014年から2021年にJALPACに登録された350人の患者のうち,223人がPSPまたはCBSの診断基準を満たしました(平均年齢73歳,男性が55%).PSPは106人で,その中にはリチャードソン症候群(PSP-RS),PSP-P,PSP-PAGF,PSP-Cなどのサブタイプが含まれていました.一方,CBS患者は161人で,改訂ケンブリッジ基準やアームストロング基準に基づいて診断されてました(図上).



さて結果ですが,全患者の血清を用いてIgLON5抗体をcell-based assayにて検索しましたが,いずれの患者からも抗体は検出されませんでした.この結果から,PSPやCBSの診断基準を満たす患者においてIgLON5抗体関連疾患はまずないか,あっても極めて低い可能性が示唆されました.研究の限界として,脳脊髄液での抗体検索ができなかった点が挙げられますが,過去の検討では脳脊髄液にのみ抗体が認められた患者はごく稀であることから,今回の結果に大きな影響はないものと考えられました.またJALPACの登録がMDS-PSP基準の発表前に始まったため,この診断基準が適用されていないという問題点もあります.

そうなると,どのような時にIgLON5抗体関連疾患を疑うべきかという点に関心が移ります.最近,この疾患が発見されて10年が経ち,Grausらが総説を発表していますが,そのなかで患者が病院を訪れるきっかけとなった症状を示しています(図下).多い順に球麻痺症状(構音障害・嚥下障害),異常歩行,運動異常症,睡眠障害ということが分かります.つまりPSPやCBSに類似するものの「どうも変だぞ!?」と考える臨床力が重要で,具体的には非典型的症候や進行が早いなど経過がおかしい場合にIgLON5抗体関連疾患を疑う必要があるということです.

Ono Y, Takigawa H, Takekoshi A, Yoshikura N, Aiba I, Hanajima R, Kowa H, Kanazawa M, Tokuda T, Tokumaru AM, Morita M, Hasegawa K, Nakashima K, Ikeuchi T, Kimura A, Shimohata T; JALPAC Study Group. Frequency of anti-IgLON5 disease in patients with a typical clinical presentation of progressive supranuclear palsy/corticobasal syndrome. Parkinsonism Relat Disord. 2025 Jan 15:107289.(doi.org/10.1016/j.parkreldis.2025.107289

Graus F, et al. Anti-IgLON5 Disease 10 Years Later: What We Know and What We Do Not Know. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2025 Jan;12(1):e200353.(doi.org/10.1212/NXI.0000000000200353

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抗NMDA受容体脳炎を再現する動物モデルの確立と治療効果の評価

2025年01月03日 | 自己免疫性脳炎
明けましておめでとうございます.本年もどうぞ宜しくお願いいたします.自分にできること,行うべきことを地道に頑張っていきたいと思います.

さて新年最初に注目した論文は,将来,当科でもこのような研究をしたいという初夢を思い描いた研究です.抗NMDA受容体(NMDAR)脳炎は,自己抗体がN-methyl-D-aspartate受容体のGluN1サブユニットに結合することで引き起こされる若年成人女性に好発する自己免疫性脳疾患です.この疾患は急性に発症し,精神症状や記憶障害,さらにはけいれんや運動異常を伴います.その経過から昔は悪魔による仕業と考えられ,映画「エクソシスト」の原作モデルは,本疾患であったとの指摘もあります.またこの疾患は免疫療法で改善しますが,回復まで長期を要する場合もあり,その体験談が日米で映画化されています.

さて疾患の治療開発には動物モデルが有効です.この疾患にもこれまでいくつか存在しましたが,それぞれに限界がありました.とくに新しい治療法の効果を評価するのに十分な長さの臨床経過とともに,この疾患の神経免疫学的特徴を包括的に再現することが求められていました.バルセロナ大学のDalmau教授らにより開発されたモデルは,これらの課題を克服し,より包括的な病態再現を可能にした点で革新的と言えます.

【動物モデルの構築】
8週齢の雌マウス(C57BL/6J)にGluN1356-385ペプチドを用いて,Day 1とDay 28に皮下注射して免疫化(immunization)を行い,免疫応答を促進するためにAddaVax(油中水型アジュバント)と百日咳毒素を併用しました.これによりマウスは免疫ペプチドおよびその他のGluN1領域に対するNMDAR抗体を血清および脳脊髄液中に産生しました.シナプスおよびシナプス外のNMDARクラスターが減少し,海馬の可塑性が低下しました.これらの所見は,主にB細胞および形質細胞,ミクログリアの活性化,ミクログリアとNMDAR-IgG複合体の共局在,およびミクログリア内エンドソーム内のこれらの複合体の存在と関連していました.行動テストでは,記憶障害や精神病様行動,抑うつ様行動などが確認されました.

【免疫療法とその効果】
35日目より行動の変化が現れた後,一部のマウスにはCD20抗体(35日目)を投与し,45日目から71日目まではNMDARのオールステリックモジュレーター(SGE-301;PAM-NMDAR)を投与しました.CD20抗体は,B細胞を除去し抗体産生を抑制すること,SGE-301は,NMDA受容体機能を回復させることを目的としています.実際にCD20抗体により記憶機能やNMDAR密度が回復しました.しかし,B細胞の再増殖によりその効果が徐々に薄れる傾向を認めました.一方,SGE-301はNMDAR密度を回復させ,記憶障害や行動異常を持続的に改善する効果を示しました.両治療を併用することで,効果を最大化できる可能性が示唆されました.



このモデルは,抗NMDAR脳炎の病態解明や治療法開発において非常に有用であると考えられます.自己免疫性脳炎をきたす抗神経抗体は非常に多く,それぞれの病態機序や最適な治療法の解明はほとんどできていない状況です.今後,各脳炎においてこのような動物モデルを作成することが重要だと思いました.
Maudes E, et al. Neuro-immunobiology and treatment assessment in a mouse model of anti-NMDAR encephalitis. Brain. 2024 Dec 24:awae410.(doi.org/10.1093/brain/awae410)




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進行性核上性麻痺(PSP)様の症候を呈する自己免疫性脳炎と傍腫瘍性神経症候群を見逃さないために注意すべきこと

2024年10月17日 | 自己免疫性脳炎
ご紹介する論文は当科の大学院生,山原直紀先生が初めて挑戦して英文総説です.共著者も意見をしたりチェックをしたりしましたが,ほぼ自分で書き上げて立派なものだと思いました.進行性核上性麻痺(PSP)は核上性注視麻痺,姿勢保持障害,パーキンソニズムなどを呈するタウオパチーですが,稀ながら自己免疫性や腫瘍に関連したケースでも似た症候が現れることがあります.治療可能であることから,近年,注目されています.

私たちは,自己免疫性脳炎(AE)や傍腫瘍性神経症候群(PNS)が引き起こす,いわゆる「PSP mimics」に注目し,これらの症例をいかに診断し,どのように治療すべきかを検討するためにナラティブレビューを行いました.IgLON5抗体,Ma2抗体,Ri抗体などの自己抗体が関与する症例についての詳細なレビューを行っています.いかに診断をするかが重要で,その要点は下記のTable 3にまとめられていますが,このような特徴を持つ場合にはAE/PNSの可能性を考慮する必要があります.

【PSPに類似したAE/PNSを示唆する臨床的特徴】
(1) 若年発症(40歳未満)
(2) 急性または亜急性の進行
(3) 腫瘍の合併
(4) 脳脊髄液異常(蛋白上昇,細胞増多,IgG idex↑,OCB陽性など)
(5) PSPを示唆するMRI所見がない
(6) PSPで認めない各種抗体に特徴的な症状(IgLON5抗体では睡眠障害,行動変化,呼吸不全,起立性低血圧,Ma2抗体ではナルコレプシー様症状など)
(7) PSPではあまり認めないその他の症候(顕著な体重減少,運動失調など).

オープンアクセスでフリーにDLできますので,ご一読いただければと思います.
Yamahara N, Takekoshi A, Kimura A, Shimohata T. Autoimmune Encephalitis and Paraneoplastic Neurological Syndromes with Progressive Supranuclear Palsy-like Manifestations. Brain Sci. 2024, 14(10), 1012; https://doi.org/10.3390/brainsci14101012


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抗LGI1脳炎はfacio-brachio-crural dystonic seizureやdrop attackに伴う転倒を約1/4の症例で来たしうる!

2024年06月30日 | 自己免疫性脳炎
抗LGI1脳炎はてんかん発作,意識障害,認知機能低下,低Na 血症,睡眠障害(パラソムニア,不眠症,過眠症)などを呈する急性の自己免疫性脳炎です.Neurol Clon Pract誌に米国Mayo Clinicから,臨床をしっかり見ていて流石だなぁと思った論文が掲載されていますのでご紹介します.

抗LGI1脳炎136名における転倒やそれに準じる状態の頻度,原因,転帰について後方視的に検討しています.結果として,まず27%(36/136例)の症例に「発作」に関連した転倒またはそれに準じる状態が見られました.36例の年齢中央値は67歳(49~86歳),男性が64%(23/36)でした.原因としては,facio-brachio-crural dystonic seizure(FBCDS)が58%(21/36例)と最多,ついでdrop attack(転倒発作:意識消失の有無にかかわらず,姿勢時筋トーヌスの消失により突然,転倒すること)が25%(9/36例)でした(図A).ちなみにFBCDSのcruralは「脚の」という意味で,ラテン語のcrus「脚」から派生したものです.古典的なfacio-brachial dystonic seizure(FBDS)と同時に,同側の下肢の収縮と屈曲が起こるため,下肢の予期せぬバックリンクが生じて転倒します.

つぎに発作に関連した転倒による外傷は18/30例(60%)に認められ,具体的には皮膚の裂傷,関節脱臼,骨折から頭蓋内出血まで多岐にわたり,重篤な転倒が少なからず認められました(図B).drop attackでは外傷が高頻度の8/9例(89%)で生じていました(図C).発作に関連した転倒またはそれに準じる状態は,免疫療法により24/32例(75%)で消失しましたが,抗てんかん薬の単独では改善は不良でした(4/32例,13%).歩行補助具を使用して歩行した患者は33%にすぎませんでしたが,これはこの疾患における転倒リスクの認識不足を反映しているものと考えられました.

以上,抗LGI1脳炎ではFBDSは非常に有名ですが,発作は下肢にも及び,FBCDSを来すことを認識する必要があります.早期に診断すること,歩行補助具の使用などの転倒防止策を講じること,そして迅速に免疫療法を開始することが重要だと思いました.
Li X, Gupta P, et al. Seizure-Related Falls and Near Falls in LGI1-IgG Autoimmune Encephalitis. Neurol Clin Pract. 2024 Jun;14(3):e200301.(doi: 10.1212/CPJ.0000000000200301



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IgLON5抗体関連疾患の最近の進歩

2024年06月07日 | 自己免疫性脳炎
Curr Opin Neurol誌にIgLON5抗体関連疾患の最新の知見に関する総説が報告されていますので以下にまとめます.

1)臨床
慢性の経過をとること(ただし25%は亜急性)に加え,MRIの信号異常(5%未満),脳脊髄液の細胞増多(20~30%),蛋白の軽度上昇(40~50%)を必ずしも伴わないないことから,さまざまな神経変性疾患やstiff-person症候群などと誤診されることがある.



◆免疫療法は一般にNMDAR脳炎,LGI1脳炎などより有効ではないが,迅速に開始できれば改善しうる.
◆診断時の血清,脳脊髄液NFL高値は予後が悪い.
IgLON5 composite score(ICS)というスケールが開発された.さまざまな症候をカバーする5つのドメイン,17症状が含まれる(総スコアは0~69).(doi.org/10.1212/WNL.0000000000209213



2)病理
◆脳幹におけるタウ沈着は罹病期間の長期化と相関する → タウ沈着は病態の後期または2次的な現象である可能性が示唆される.
◆TDP-43の沈着を神経細胞とミクログリアに認めることがある.
◆早期例で,神経細胞におけるMHCクラスIの上昇,ミクログリアの活性化,B細胞やT細胞の血管周囲や実質の炎症性浸潤,ニューロピルにおけるIgG4の沈着が認められる → 病態の早期における自己免疫機序の関与.



3)病態機序
◆IgLON5抗体の主なサブクラスはIgG4であるが,ほぼ全例でさまざまな量のIgG1も有する.
◆ラットの海馬ニューロンの培養を用いたin-vitro実験では,IgG1が不可逆的内在化の原因である.
◆IgLON5抗体は培養海馬ニューロンにおいて細胞骨格の変化を招くが,それがタウオパチーを誘導する可能性がある.

Gaig C, Sabater L. New knowledge on anti-IgLON5 disease. Curr Opin Neurol. 2024 Jun 1;37(3):316-321. (doi.org/10.1097/WCO.0000000000001271

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血糖自己記録ノートへの書き込みが顕著に増えた1型糖尿病では自己免疫性脳炎を疑う

2024年05月21日 | 自己免疫性脳炎
当科の山原直紀先生らによる症例報告がNeurol Clin Neurosci誌に掲載されました.膵島関連自己抗体である抗GAD抗体は1型糖尿病の診断に役立ちます.GAD,すなわちglutamic acid decarboxylaseは,グルタミン酸からGABAを産生する際に必要な酵素ですので,抗GAD抗体はGABAの産生を抑制することで神経症状を呈することがあります.代表的な疾患としてはStiff-person症候群がありますし,小脳性運動失調や難治性てんかん,辺縁系脳炎を呈することがあります.

症例は抗GAD抗体陽性(血清中6100U/mL)の1型糖尿病の44歳女性です.1ヶ月前から血糖自己記録ノートへの強迫的な書き込みが始まり,1週間前からけいれん発作が出現し入院しました.強迫性障害(obsessive-compulsive disorder;OCD)と考えられる書き込みは,恐らく不安をかき消すために,反復的・持続的に血糖測定をしたくなる衝動により引き起こされるものと考えられました.



免疫療法によりこれらの症状は消失しました.退院2ヵ月後に強迫的な書き込みが再発したため,一時的に免疫療法を強化し回復しました.



OCDはPANDAS,ADEM,さまざまな自己免疫性脳炎(CV2/CRMP5,Ma2,NMDAR,LGI1,GABAA)などで認められますが,抗GAD抗体陽性脳炎では初めての報告です.患者さん自らOCD症状を訴えることは少ないですが,上記のような所見をヒントとして,脳炎を早期診断し早期治療することが大切です.

なお本検討は糖尿病代謝内科 矢部大介先生らと行いました.

Yamahara N, Yoshikura N, Kimura A, Sakai M, Yabe D, Shimohata T. Obsessive-compulsive disorder as an initial manifestation of anti-glutamic acid decarboxylase antibody-associated encephalitis. Neurol Clin Neurosci. 17 May 2024 https://doi.org/10.1111/ncn3.12830


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画像異常パターンから自己免疫性脳炎を早期に発見し治療する!

2024年05月15日 | 自己免疫性脳炎
最新号のNeuroradiologyに臨床上,とても役に立つと思われる模式図が掲載されています.自己免疫性脳炎の画像所見を6群(辺縁系型,線条体型,血管周囲造影型,間脳/脳幹型,大脳皮質型,MRI異常なし)に分けて,それに対応する自己抗体と鑑別診断を示しています.画像所見から速やかに適切な抗体検索を行い,鑑別診断を除外し,早期診断・早期治療を目指すことが目的です.このなかでLGI1,CV2/CRMP5,Ma2,NMDAR抗体は商用で測定できます.また当科では以下の抗体等の測定が可能ですのでご相談いただければと思います.

・抗GFAPα抗体(GFAP astrocytopathy)
・抗mGluR1抗体(自己免疫性小脳失調症,CCA)
・抗IgLON5抗体(MSA mimics, PSP syndrome, CBS,パラソムニア等)

詳しくは当科HPの「自己抗体検索」をご確認ください.

Sanvito F, et al. Neuroradiology. 2024 May;66(5):653-675.(doi.org/10.1007/s00234-024-03318-x)オープンアクセス



(略)HSE = Herpes simplex encephalitis, SREAT = steroid-responsive encephalopathy associated with autoimmune thyroiditis, LGG = low-grade glioma, CJD = Creutzfeldt-Jakob Disease, LYG = lymphomatoid granulomatosis.

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多系統萎縮症の鑑別診断としてのIgLON5抗体関連疾患

2024年05月05日 | 自己免疫性脳炎
岐阜大学に異動し取り組んだことのひとつが「変性疾患と診断してきた症例の中に,治療可能な自己免疫性脳炎が含まれている」という仮説を検証し,免疫療法で治療することでした.ただ自己免疫性脳炎の経過は教科書的に「急性~亜急性」ですので,「慢性」に経過する変性疾患のなかに自己免疫性脳炎が隠れているという私どもの仮説はありえないとしばしば言われました.しかし事実は教科書通りではなく,慢性の経過を示す自己免疫性脳炎というものがあり,その代表がIgLON5抗体関連疾患です.

今回,Parkinsonism Relat Disord誌に掲載された当科の大野陽哉先生らによる論文は,多系統萎縮症(MSA)が疑われ,IgLON5抗体検査を依頼された35名の患者に対し,cell based assayを行い,陽性患者3名の臨床的特徴をまとめたものです.症候としてはパーキンソニズム,小脳性運動失調,重篤な起立性低血圧,急性呼吸不全,パラソムニア,声帯外転不全,錐体路徴候などを認め,一方,MSAに非典型的な症候として舌ミオリズミア,水平方向性眼球運動制限,繊維束性収縮,有痛性筋痙攣を認めました.いずれの症例も免疫療法により程度の差はありますが改善を認めました.



以上より,IgLON5抗体関連疾患はMSAの鑑別診断となりうることが示されました.本研究は,岡山大学山下徹准教授ら,山形大学太田康之教授ら,聖マリアンナ大学山野嘉久教授らとの共同研究として行いました.以下よりDLできますのでご覧いただければと思います.
Ono Y, Tadokoro K, Yunoki T, Yamashita T, Sato D, Sato H, Akamatsu S, Mizukami H, Ohta Y, Yamano Y, Kimura A, Shimohata T. Anti-IgLON5 disease as a differential diagnosis of multiple system atrophy. Parkinsonism Relat Disord. 124, 2024, 106992

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