学会の症例提示で,神経性食欲不振症患者における低血糖発作後の遷延する意識障害についての報告があった.低血糖脳症が原因として鑑別に上がるが,同時にrefeeding症候群についても考える必要がある.
Cf; Refeeding症候群の症候
電解質異常(低カリウム血症,低マグネシウム血症,低リン血症)
うっ血性心不全
水分貯留による全身浮腫
意識障害(Wernicke症候群など)
乳酸アシドーシス
神経性食欲不振症やアルコール多飲者,担がん患者など慢性の低栄養状態(飢餓状態)にある場合,その栄養療法は慎重に行う必要がある.なぜならば,急速に栄養の投与を行うと,意識障害や,電解質異常,数日して心機能も低下することが起こりうるためだ.このような飢餓状態での栄養投与が,致死的な身体合併症を引き起こす病態をrefeeding症候群と呼ぶ.つまりこの病態を知らないと,低血糖脳症と誤解する可能性がある.以下,病態と治療について記載する.
A. 再栄養時の代謝
飢餓状態では糖質が不足するため,体脂肪を分解し,遊離脂肪酸とケトン体をエネルギー源とする代謝を行なっている.低栄養状態における糖の大量投与→インスリン分泌亢進→解糖系の不活化→ピルビン酸デヒドロゲナーゼの補酵素のビタミンB1とマグネシウムの枯渇(飢餓状態ではビタミンB1(健常人で約21日で枯渇)や,マグネシウムは欠乏状態にある→TCA回路が回らず嫌気性解糖が進む→乳酸産生(乳酸アシドーシス)→ビタミンB1,マグネシウムがさらに減少→Wernicke症候群,脚気心(高拍出性心不全)が生じる.
またインスリン分泌亢進は,細胞内へブドウ糖の取り込みと電解質の細胞内移動(特にカリウム,リン)を起こす.その結果,低カリウム,低リン血症が生じる.低リン血症は以下の病態を介し,多臓器不全を起こす.
1.赤血球中2, 3-DPGが減少し,ヘモグロビンの酸素親和性が低下,末梢組織への酸素供給が低下
2.ATP産生が低下,エネルギー枯渇
この結果,意識障害,痙攣,筋力低下,不整脈,心不全,呼吸不全等をきたす(とくに血清リン値1.0 mg/dl以下の場合).
また飢餓状態では,感染しても発熱や白血球増多,CRP増加が生じにくく,治療が遅れる可能性がある.筋量も減少しているため検査データのみでは腎不全も見逃しやすい.
以上の変化は,投与エネルギーが多く,増量が早いほど起こりやすい.つまり「飢餓状態があるので,高カロリー輸液をしなければ・・・」という発想は最も良くない.
B. 対処方法
栄養療法開始前からの電解質の補正を行う(文献1のNICEガイドラインではこれについては記載がないが,行なっておくほうが安全)
水分やエネルギー補正は少量から開始し漸増する(過小栄養投与の許容が原則)
開始後のモニタリング(カリウム,リン,マグネシウム,ビタミンB1,微量元素)
心肺機能と下肢の浮腫の出現,体重増加に注意
リン低下時の迅速なリンの補充(経口のリン製剤なし,注射製剤としてリン酸二カリウム液がある)
グルコースだけでなく,脂肪乳剤の使用は良い(リンを含むこと,カロリーをブドウ糖以外で与えることができる)
まず大事なことは「Refeeding症候群」について認識することである!
1) De Silva A, et al. Attitudes to NICE guidance on refeeding syndrome. BMJ 337:a680, 2008.
2) Marinella MA. Refeeding syndrome: an important aspect of supportive oncology. J Support Oncol 7:11-16, 2009.
Cf; Refeeding症候群の症候
電解質異常(低カリウム血症,低マグネシウム血症,低リン血症)
うっ血性心不全
水分貯留による全身浮腫
意識障害(Wernicke症候群など)
乳酸アシドーシス
神経性食欲不振症やアルコール多飲者,担がん患者など慢性の低栄養状態(飢餓状態)にある場合,その栄養療法は慎重に行う必要がある.なぜならば,急速に栄養の投与を行うと,意識障害や,電解質異常,数日して心機能も低下することが起こりうるためだ.このような飢餓状態での栄養投与が,致死的な身体合併症を引き起こす病態をrefeeding症候群と呼ぶ.つまりこの病態を知らないと,低血糖脳症と誤解する可能性がある.以下,病態と治療について記載する.
A. 再栄養時の代謝
飢餓状態では糖質が不足するため,体脂肪を分解し,遊離脂肪酸とケトン体をエネルギー源とする代謝を行なっている.低栄養状態における糖の大量投与→インスリン分泌亢進→解糖系の不活化→ピルビン酸デヒドロゲナーゼの補酵素のビタミンB1とマグネシウムの枯渇(飢餓状態ではビタミンB1(健常人で約21日で枯渇)や,マグネシウムは欠乏状態にある→TCA回路が回らず嫌気性解糖が進む→乳酸産生(乳酸アシドーシス)→ビタミンB1,マグネシウムがさらに減少→Wernicke症候群,脚気心(高拍出性心不全)が生じる.
またインスリン分泌亢進は,細胞内へブドウ糖の取り込みと電解質の細胞内移動(特にカリウム,リン)を起こす.その結果,低カリウム,低リン血症が生じる.低リン血症は以下の病態を介し,多臓器不全を起こす.
1.赤血球中2, 3-DPGが減少し,ヘモグロビンの酸素親和性が低下,末梢組織への酸素供給が低下
2.ATP産生が低下,エネルギー枯渇
この結果,意識障害,痙攣,筋力低下,不整脈,心不全,呼吸不全等をきたす(とくに血清リン値1.0 mg/dl以下の場合).
また飢餓状態では,感染しても発熱や白血球増多,CRP増加が生じにくく,治療が遅れる可能性がある.筋量も減少しているため検査データのみでは腎不全も見逃しやすい.
以上の変化は,投与エネルギーが多く,増量が早いほど起こりやすい.つまり「飢餓状態があるので,高カロリー輸液をしなければ・・・」という発想は最も良くない.
B. 対処方法
栄養療法開始前からの電解質の補正を行う(文献1のNICEガイドラインではこれについては記載がないが,行なっておくほうが安全)
水分やエネルギー補正は少量から開始し漸増する(過小栄養投与の許容が原則)
開始後のモニタリング(カリウム,リン,マグネシウム,ビタミンB1,微量元素)
心肺機能と下肢の浮腫の出現,体重増加に注意
リン低下時の迅速なリンの補充(経口のリン製剤なし,注射製剤としてリン酸二カリウム液がある)
グルコースだけでなく,脂肪乳剤の使用は良い(リンを含むこと,カロリーをブドウ糖以外で与えることができる)
まず大事なことは「Refeeding症候群」について認識することである!
1) De Silva A, et al. Attitudes to NICE guidance on refeeding syndrome. BMJ 337:a680, 2008.
2) Marinella MA. Refeeding syndrome: an important aspect of supportive oncology. J Support Oncol 7:11-16, 2009.