Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新潟神経学夏期セミナーと脳研究所案内

2013年05月28日 | 医学と医療
今年も新潟神経学夏期セミナーが7月25日(木)~27日(土)に行われます.毎年,夏の3日間,全国の若手研究者を対象に神経学に関する教育を目的として行われます.特定のテーマのもと,研究所内外の専門研究者による講演と討論から,さまざまな知識を学びます.初日は基礎神経科学履修コースと,脳研レジデント(臨床)体験コースのいずれかを選択できます.後者では神経内科,脳外科,病理(Brain Cutting, CPC), 3T-MRIなど脳研の臨床を一日で体験できるコースになっています.2日目はセミナーで,今年は「最先端技術で解き明かす脳機能」,3日目は「RNA World in Brain」と題して行われます.初日のプログラムに関しては旅費の支給もありますので,ぜひご参加いただければと思います(詳細は下記リンクから).

第43回新潟神経学夏期セミナー

さて脳研究所を訪問されましたら,いろいろ見ていただきたいものがありますが,私のお勧めはつぎの2つです.

ひとつめは脳研のネームプレートです(写真1枚目).玄関にあるのですが,よく見ると「脳」の文字が普通の漢字と異なります.これは脳研究所を設立された中田瑞穂初代施設長(1893~1975)が,設立時に,脳研は学問に取り組むところという思いを込めて「文」の字(学問・芸術・教養などの意味)を「脳」のなかに入れたと伺ったことがあります.

2つ目はその中田瑞穂先生の生誕百年を記念して,平成4年に脳研前に建立された石碑です(写真2枚目).中田先生は日本の脳神経外科の開拓者の一人で高名な医学者であるだけでなく,ホトトギス派の俳人としても優れた句をたくさん残されました.そのなかで石碑に刻まれたものが下記の句です.

学問の静かに雪の降るは好き

とくに雪の日などにこの石碑を見ると身の引き締まる思いがします.この句の解釈に関して,ネット上で脳研OBの石井鐐二先生による興味深いエッセイを読むことができます(「瑞穂とみづほ」).俳人の辻桃子さんによるこの句の素晴らしい解釈です(写真3枚目).

学問は厳しいが しーんと寝静まった真夜を 一人いそしむのは ひそかに愉しい.
見ると,しらぬまに音も無く雪が ああ,学問は好きだ そして雪はもっと好きだ.みづほ.

脳研究所にお立ち寄りの際は,プレートと中田瑞穂先生の石碑をご覧いただければと思います.ぜひ夏期セミナーにお越しください.


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感染性心内膜炎に伴う脳塞栓症に対するtPA療法は症候性脳出血をきたしうる

2013年05月11日 | 脳血管障害
感染性心内膜炎(IE)は,弁膜や心内膜に細菌などの病原微生物を含む疣腫が形成され,心臓弁膜症やうっ血性心不全のほか,塞栓症や感染性脳動脈瘤破裂による中枢神経合併症をきたす.IEに伴う脳塞栓症に対するtPAによる血栓溶解療法は,「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針第二版」によると「慎重投与」になっている.指針内にはこの判断の基準についての記載はないが,脳出血合併の危険性が高くなるためと考えられる.しかし既報の症例集積研究を見ると,IEに伴う脳塞栓症に対する血栓溶解療法の是非については必ずしも意見が一定していない.

今回,フランスからの症例報告で,発症3時間以内にtPA療法を行った後に,症候性の多発脳出血を合併した症例の報告があったので紹介したい.この症例は,発症前2ヶ月間の食欲低下と体重減少を認めていた68才男性で,突然の右片麻痺と失語症を呈した.NIHSSは12点で,発熱はなく,心雑音もなし.心電図は洞調律で不整脈なし.頭部MRIでは左中大脳動脈領域のDWI高信号と,1.5テスラ-MRAにおけるM2での閉塞を認めた.T2*でのmicrobleedsは認めなかった.発症135分後にtPA静注(0.9 mg/kg)が行われたが,翌日,神経症状の増悪がみられ(NIHSS=22),CT上,多発脳出血を認めた.CRPが76 mg/lと上昇し,心エコーを行ったところ,M弁に疣腫を2つ認めたためIEと診断し,抗生剤を開始した.発症後行った3テスラ-MRAと血管造影では感染性動脈瘤を認め,閉塞していたM2は再開通していた.

この症例報告から分かることは以下の2点である.
1) tPAを使用するかどうかの判断を行う超急性期におけるIEの診断は難しい
この症例ではIEを疑う発熱,心雑音,T2*でのmicrobleedsが見られなかった.感染性動脈瘤の発見も1.5T-MRAでは難しく,今も,血管造影が診断のgold standardであるといえる.

2) IEに伴う脳塞栓症は症候性の脳出血を合併しうる
この論文では既報として,5論文7例についてレビューしている.7例のうち脳出血合併は3例,症候性脳出血合併は0例である(ただし1例は詳細不明).つまりこの症例報告が,症状の増悪をきたした症候性脳出血としては初めての報告となる.また出血合併の機序として,血管壁のびらんを伴う感染性血管炎や感染性動脈瘤の破裂などの関与を挙げている.

IEに伴う脳塞栓症に対しtPAを行うべきかの判断はなおエビデンスが乏しいが,今回のような症例が存在することを認識する必要がある.

J Neurol 260;1339-1342, 2013





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