Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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トピラマートとバルプロ酸は自閉症スペクトラム障害と知的障害のリスクを2~4倍高める

2022年07月13日 | てんかん
若い頃の話ですが,自閉症スペクトラム障害(ASD)の子供の育児に悩む母親から,私が抗てんかん薬を内服していたせいでしょうかと質問されたことがあります.当時そのようなエビデンスはなく,先天奇形のリスクが増加しない程度の内服量であり,またASDはおよそ100人に1人と稀ではないため,因果関係は考えにくいと答えました.ただ本当にそう言い切れるのかと疑問を感じた記憶が残っています.

今回,てんかんを有する女性に対して処方された抗てんかん薬が,児の神経発達障害を引き起こすかを検討した北欧のデータベース研究(SCAN-AED)が報告されました.てんかんを持つ母親から産まれた抗てんかん薬非暴露児21634人のうち,中央値8歳までにASDと診断されたのは1.5%,知的障害は0.8%でした(対照群の頻度).一方,トピラマートとバルプロ酸の単剤療法を受けた場合,ASDはそれぞれ4.3%と2.7%,知的障害は3.1%と2.4%と増加しました.トピラマート曝露後のASDと知的障害の調整ハザード比(aHR)はそれぞれ2.8と3.5,バルプロ酸曝露後は2.4と2.5でした.抗てんかん薬の使用量が多いほどaHRは高くなりました(例えばバルプロ酸は750 mgで分けるとaHR 2.27と5.64).レベチラセタム+カルバマゼピン,ラモトリギン+トピラマートの二剤併用療法も神経発達障害のリスク増加と関連しました(レベチラセタム+カルバマゼピン:8年累積発生率5.7%,aHR 3.46;ラモトリギン+トピラマート:同7.5%,2.35).レベチラセタムとラモトリギンの併用では,リスクの増加はなく,ラモトリギン,レベチラセタム,カルバマゼピン,オクスカルバゼピン,ガパペンチン,プレガバリン,クロナゼパム,フェノバルビタールの単独療法もリスク増加は認めませんでした.女性への抗てんかん薬の処方時,下図はとても重要になります.
以上より,トピラマートとバルプロ酸の単独療法,および一部の二剤併用療法は,児の神経発達障害のリスク上昇と関連することを認識する必要があります.
Association of Prenatal Exposure to Antiseizure Medication With Risk of Autism and Intellectual Disability.
Marte-Helene Bjørk, et al. JAMA Neurol. 2022;79(7):672-681. doi.org/10.1001/jamaneurol.2022.1269


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claustrum sign ―サイトカインストームの脳障害マーカー?―

2022年03月22日 | てんかん
40歳女性が,発熱後6日目に急性脳症と極めて難治性のてんかん重積発作を呈しました.頭部MRIでは前障(claustrum)のT2/FLAIR高信号病変, いわゆるclaustrum signを認めました(図上段).本例は新型難治性てんかんの亜型であるFebrile infection-related epilepsy syndrome(FIRES)と診断されました.聞き慣れない病名ですが,New onset refractory status epilepsy (NORSE)とほぼ同義,日本の指定難病では難治頻回部分発作重積型急性脳炎と呼ばれています.注目すべきはこの疾患がサイトカインストームによって引き起こされると考えられていることです.claustrum signは他にも,COVID-19関連脳症(図下段),急性壊死性脳症,immune effector cell-associated neurotoxicity syndromeなどのサイトカインストームに関連する疾患でも報告されています.以上よりclaustrum signはサイトカインストームによる神経炎症の特異的マーカーであること,そして前障はサイトカインに脆弱であることが示唆されます.ちなみに前障の機能はよく分かっていませんでしたが,大脳皮質の徐波活動を制御し睡眠に関与することが最近本邦から報告されています.

★ 同様の患者さんの経験がございましたら,免疫染色による自己抗体の検索等行いますので,ご相談をいただければ幸いです.
Neurology. 2022 Mar 8;98(10):e1090-e1091.
J Neurol. 2021 Jun;268(6):2031-2034.
Nature Neuroscience, 10.1038/s41593-020-0625-7






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認知症,変性疾患におけるてんかん発作の有病率 ―待望の剖検例の検討―

2021年10月12日 | てんかん
高齢者てんかんの診療ではその背景(原因)疾患を考えることになります.画像上,脳血管障害がなく,またアルツハイマー病(AD)も考えにくい場合,他の認知症や神経変性疾患が背景にある可能性も考えます.しかしこれまで,病理学的に診断が確定した症例を用いて,AD以外の認知症や神経変性疾患のてんかん発作の有病率を示した研究は知る限りにおいてありませんでした.今回,ドイツよりNeurobiobank Munichに登録されている454名の臨床データを検討した研究が報告されました.AD 144名,レビー小体病(LBD)103名, 進行性核上性麻痺(PSP)93名,前頭側頭葉変性症(FTLD)53名, 多系統萎縮症(MSA)36名,大脳皮質基底核変性症(CBD)25名が含まれました.全経過中のてんかん発作の有病率を算出し,疾患間で比較を行っています.

結果としては,各疾患のてんかん発作の有病率は,AD 31.3%,CBD 20.0%,LBD 12.6%,FTLD 11.3%,MSA 8.3%,PSP 7.5%でした(図).やはりADでは LBD,FTLD,MSA,PSPと比べて有病率が有意に高いことが分かります.しかし残念なことに鑑別に役立つと思われる発作型に関する記載はありませんでした.また認知障害が初発症状である場合,そうでない場合と比較しててんかん発作の有病率が髙いこと(21.1%対11.0%),運動障害が初発症状である場合,そうでない場合と比較しててんかん発作の有病率が低いこと(10.3%対20.5%)が分かりました.これは,認知障害では大脳皮質の障害をきたしやすいためと考察されています.CBDは,症例数は少ないですが,やはり大脳皮質病変を認めるため,有病率が上がるのかもしれません.最後に,MSAのみてんかん発作を呈した症例では,罹病期間が有意に延長することが示されました(12.3年対7.0年).MSAでは神経変性が高度になると(大脳皮質に変性が及び)てんかん発作を合併しやすくなるのではないかと考察しています.

以上より,AD以外の神経変性疾患でも10~20%と頻度は高くないもののてんかん発作を呈しうること,さらに初発症状が認知症であることはてんかん発作の危険因子になる可能性があることが示されました.臨床的に有用な報告だと思いました.
Vöglein J, et al. Seizure prevalence in neurodegenerative diseases-a study of autopsy proven cases. Eur J Neurol. Sep 2, 2021.(doi.org/10.1111/ene.15089)



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脳卒中後てんかんの診断と治療

2018年09月20日 | てんかん
Epilepsy symposium in Tokai というシンポジウムにおいて,国立循環器病研究センター脳神経内科の福間一樹先生による「脳卒中後転換の最前線」というご講演の座長を担当した.とても勉強になったので,若干,文献的な記載を追加し,要点をまとめたい.

【疫学:脳卒中の7%で認められる】
脳卒中後てんかんは,脳卒中生存者の7%に認められ(東田ら.臨床神経2018;58,217-222),QOLを損なう原因の一つとなっている.またアルツハイマー病とともに,高齢者てんかんの主な原因ともなっている.しかしながら全国的にてんかんの専門医が少なく,十分に専門的診療が行われていると言いがたい.

【分類と特徴:遅発発作は再発する】
早期発作(early seizure)と遅発発作(late seizure)に分類される.早期発作は急性症候性発作のひとつとも言える.早期発作は,一般的に脳卒中発症1週間以内の発作と定義される.両者の病態は異なり,早期発作は脳卒中による脳の局所的な代謝変化や血液分解産物の大脳皮質への直接刺激等によりてんかん閾値が低下することにより出現する.一方,遅発発作は器質化機転が始まった皮質のグリオーシスにより,てんかん原性焦点が形成されたことにより出現する.てんかんは通常,24時間以上あけて,2回以上の発作を認めた場合に診断されるが,遅発発作は一度生じると,再発率が高く,1回の発作でてんかんと考えてよい.

脳卒中後てんかんの再発の予測スコアとして,脳出血ではCAVEスコア(皮質を含む出血,<65歳,血腫体積>10mL,7日以内のてんかんの4項目を各1点として, 0−4点で評価する),脳梗塞ではSeLECT スコア(脳梗塞の重症度, 大血管動脈硬化, 早期痙攣, 皮質障害, MCA領域の5項目で,0-9点で評価する)がある.

脳卒中後てんかんの危険因子としては,早期発作ではけいれん重積発作が,遅発発作では若年であることが国立循環器センターから報告されている(Tomari et al. Seizure 2017;52.22-26).後者については若年の脳梗塞では塞栓症等による大きな脳梗塞が多いことが理由として考えられている.

【診断:脳波の陽性率は低い】
脳卒中後てんかんは,明らかなけいれん発作があり,脳波でてんかん性放電が確認できれば診断は容易であるが,そう容易ではないことも多い.例えばけいれん発作を伴わない非けいれん性発作(意識減損発作)は症候の正しい評価が難しい.また発作中に脳波検査を行うことは非常に困難であり,かつ発作後(発作間欠期)に1回のルーチン脳波検査を行っても陽性率は極めて低い.国立循環器病センターが行ったアンケート調査では,86%で脳波診断に有用では無いとの回答であった.また異常検出率に関する質問で,検出率が半数以上と答えた施設の頻度は,脳波,頭部MRI,脳SPECTの順に13%(2+21/184),9%(1+15/186),11%(2+6/70)とかなり低いことがわかる(図).てんかん性放電を捉えるためにはルーチン脳波検査を繰り返す,持続脳波モニタリング(理想的には5時間以上)を行うなどの工夫が必要となる.また灌流画像としてASL(Arterial Spin Labeling)法やSPECTが有効である可能性があり,現在,検討が進められている.

【治療:エビデンスはまだ乏しい】

治療については早期発作,遅発発作とも一次予防は推奨されていない.二次予防については,早期発作では推奨されておらず,遅発発作ではエビデンスは乏しいが,再発が高いことから臨床的に治療が行われている.前述のアンケート調査では,発作の再発抑制にはカルバマゼピン,バルプロ酸,レベチラセタムの順に第一選択薬とされていた.ここでバルプロ酸が第2位となっているが,脳卒中後てんかんは部分てんかんであることが多いことから理屈に合わないが,事実,再発が多いことが明らかとなっている.脳卒中患者では,他の薬剤の使用,脳卒中合併症,その他の併存症が見られることから,副作用や他の薬剤との相互作用の少ない第3世代抗てんかん薬が使用しやすい.

最後に抗てんかん薬の使用量については,高齢者てんかんでは少量でも有効であることが指摘されているが,脳卒中後てんかんでも比較的少量でコントロール可能な人が多いとの講師のコメントであった.

【まとめ】
臨床的に重要でありながら,診断および治療ともエビデンスが乏しい領域である.てんかん診療ガイドライン2018でも記載が乏しい.今後の研究が必要な分野である.



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いかに過剰医療を減らすか:Top Five ListとChoosing Wisely(てんかん診療を例にして)

2018年09月04日 | てんかん
【過剰医療防止のためのTop Five List】
患者さんに身体的,経済的負担をもたらし,無駄な医療費の膨張にもつながる「過剰医療」を見直そうとする試みがある.過剰医療の原因として,以下が知られている.

① 診療報酬における出来高払い制度
② 患者側の希望
③ 製薬・医療機器メーカーの営業圧力
④ コスト意識の欠如
防衛医療(医療過誤の賠償責任・刑事責任の危険を減らすために「念のために」行われるもの)

とくに⑤の問題は,日常診療でしばしば実感する.この過剰医療の実例を具体的に提唱することは,一定の抑止力となることが期待される.その試みが「Top Five Listキャンペーン」である.2010年,Engl J Med誌に,Medicine's ethical responsibility for health care reform- the top five listという論文が掲載された.テキサス大学家庭医学科のHoward Brody教授は,各領域の専門家に自らの領域を批判的に検討してもらい,エビデンスが乏しいにも関わらず,日常的に行われている診療を5つあげるよう呼びかけたものだ.

【医師と患者さんをつなぐChoosing Wiselyキャンペーン】
このキャンペーンをさらに発展させる形で,American Board of Internal Medicine財団が,2012年に「Choosing Wisely」,すなわち「賢く選ぼう」キャンペーンである.
オリジナルサイト)(日本語サイト
一般の人でも理解できる,カラフルで分かりやすい説明文書を作成し,医療者のみならずその医療を受ける患者さんにも情報の提供を開始するものである.つまり医療者と患者の会話を促進し,両者が情報や価値観を共有しながら,治療方針を決定していくShared Decision Makingを行うための有用なツールになるのである.

【てんかん診療におけるChoosing Wiselyの実例】
今回,てんかん診療におけるTop Five List,すなわち「行うべきでない5つのこと」が米国てんかん学会(American Epilepsy Society)より報告された.意外な記載も多く,とても参考になるため,以下にまとめたい.

① 発作が抑制できていて,副作用の疑いもない患者では,抗てんかん薬の血中濃度検査を漫然と行ってはいけない
抗てんかん薬の血中濃度を治療域に厳密にコントロールする必要はなく,その効果や忍容性は臨床的によって決定すべきである.血中濃度測定は,何らかの問題が生じた場合,例えば小児における体重を考慮した用量の決定,アドヒアランスの確認,毒性(副作用)疑い,妊婦といった場合に行う.

② バルプロ酸以外の治療が有効な妊娠可能女性へのバルプロ酸治療は避ける

どうしてもバルプロ酸が必要な場合は,最低用量を用いる.女性にバルプロ酸を処方する場合,その危険性について,受胎前にカウンセリングを行うべきである.妊娠第1期からの暴露は奇形を起こす可能性があること,また全経過を通しての暴露は,認知・行動異常を引き起こしうること,すなわちIQ低下や自閉症スペクトラム障害,ADHD(注意欠陥・多動性障害)のリスクが上昇しうることを説明する.

③ 失神の精査で,最初に行う検査として脳波は不要である

てんかん患者の大部分では脳波異常を認めず,逆にてんかんを認めない患者において脳波異常を認めることがある.つまり脳波における偽陽性所見は,不必要な抗てんかん薬の処方につながり,さらに失神の診断や治療を遅らせる可能性がある.脳波検査は単なる失神ではなく,てんかんの可能性が高いケース,すなわち病歴や検査,臨床症候からてんかんが積極的に疑われる場合において行う.

④ アルコールやその他薬物に対する離脱症状としてのけいれんに対し抗てんかん薬長期処方は不要

アルコール離脱症状としてのけいれん発作に対し,抗てんかん薬の適用はない.しかし,てんかんのリスクが高い場合,具体的にはてんかんの既往,アルコール中毒に伴う脳障害,離脱症状ではなくアルコール中毒に伴ってけいれんを認めた場合には必要になりうる.

⑤ てんかんと診断されている患者さんの発作のたびに脳画像検査をする必要はない
不必要な画像検査は放射線被曝を増やし,医療費の膨張につながる.画像検査は,けいれんに伴い頭部外傷を来した場合や,けいれん発作後に何らかの神経症状を呈する場合に行う.

なお上記の根拠となる論文は下記PDF(フルーダウンロード)をご参照いただきたい.
American Epilepsy Society;Five Things Physicians and Patients Should Question(August 15, 2018)
医薬ジャーナル2016; 52:27-29



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てんかん初回発作の予後と治療;米国神経学会ガイドライン

2015年05月04日 | てんかん
てんかんの初回発作の患者さんが受診した場合,その診断と抗てんかん薬の開始に関して迷うことは少なくない.その判断は,自動車の運転や就業の可否など,社会的問題にも直結しうる.今回,米国神経学会(AAN)がsystematic reviewを行い,成人のてんかん初回発作の予後と治療に関するガイドラインをまとめたので紹介したい.
 まず対象は,原因不明のてんかん,もしくはもともと存在する脳病変や進行性の中枢疾患に合併するてんかん(いわゆるremote symptomatic seizure)とし,脳卒中や外傷などの急性期に生じた症候性てんかんは除外されている.Clinical questionは以下の3つである.

1) てんかん初回発作後の再発の危険因子はなにか?
2)AEDによる速やかな治療開始は,てんかん再発の短期的リスクを減らせるか?発作の寛解といった長期的予後も改善するか?
3)AEDによる速やかな治療を開始した場合,どのような副作用が,どの程度の頻度で生ずるか?


 まずsystematic reviewは2613論文の抄録から281論文に絞り,その全文を抄読し,基準に合致した47論文について,AAN分類に従いエビデンスの評価を行い(Class I~IV),それを元に推奨レベル(Level A-C, U)を決定した.
 
1)てんかん初回発作後の再発の危険因子はなにか?
初回発作後,2年以内に 21%–45%の頻度で再発し,とくに最初の1年で頻度が高い(2つのClass I研究,8つのClass II研究).この再発リスクはAED治療により有意に減少する.
また再発リスクは以下の状況により増加する.すでに存在するてんかんを引き起こす脳病変(2 つのClass I研究,2つのClass II研究),脳波上のてんかん発作様異常(2つのClass I研究,4つのClass II研究),画像上の異常所見(2つのClass II研究,1つのClass III研究),夜間発作(2つのClass II研究).

2)AEDによる速やかな治療開始は,てんかん再発の短期的リスクを減らせるか?発作の寛解といった長期的予後も改善するか?
早期のAEDによる治療開始は,治療を行わなかった場合と比較し,2年以内のてんかん再発を,絶対危険度で約35%減少させるが(1つのClass I研究,4つのClass II研究),QOLには影響しない(1つのClass II研究).
また長期的効果に関して,早期のAEDによる治療開始は,2回めの発作まで治療を遅らせた場合と比較し,長期の再発寛解を達成できる頻度は改善しない(1つのClass I研究,1つのClass II研究).

3)AEDによる速やかな治療を開始した場合,どのような副作用が,どの程度の頻度で生ずるか?
さまざまな副作用が7~31%の頻度で生じるが,主に軽度で回復可能なものであった(4つのClass II研究,1つのClass III研究).

以上を踏まえ,ガイドラインはてんかん初回発作の成人に,以下の事柄を伝える必要がある,と推奨している.
・初回発作後の2年間以内の再発の可能性は21%~45%と高い(Level A).
・再発の可能性は,脳梗塞や外傷のようなすでに存在する脳病変(Level A),脳波上のてんかん発作様異常(Level A),画像上の異常所見(Level B),夜間発作(Level B)を認める場合,増加する.
・初回発作後の速やかなAEDによる治療は,2回めのてんかん発作を待って治療を開始した場合と比較して,最初の2年以内のてんかん再発のリスクを減少させるが(Level B),QOLまでは改善しない(Level C).
・初回発作後の速やかなAEDによる治療は,3年以上の長期における再発寛解率を改善するわけではない(Level B).
・AEDの副作用は7~31%の頻度で生じるが(Level B),主に軽度で回復しうるものである.

以上のエビデンスを元に,医師は個々の患者さんにおいて再発リスクと副作用の出現を評価し,治療を決定する必要がある.また早期のAEDによる治療開始は長期的な再発寛解率を改善するものではないが,最初の2年間における再発を抑えることを伝える必要がある.以上,初回発作後,単純にAED治療を開始すればよいわけではなく,医師は患者さんとよく話し合い,患者さんの置かれている状況,AED開始によるメリットとデメリットなどを考慮して決めることが大切であることを示している.

Evidence-based guideline: Management of an unprovoked first seizure in adults 




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脳卒中に合併するてんかんの治療

2013年01月16日 | てんかん
最近,脳卒中に合併するてんかんの治療について勉強する機会をいただいたので,そのエッセンスをまとめたい.脳卒中後のてんかん発作は部分てんかんであることが多く,その場合,第一選択薬としてCBZが使用されるが,新規抗てんかん薬の登場により今後,患者さんの状況を考慮したうえでの薬剤の選択が可能となる.

A. 脳卒中患者におけるてんかん治療の重要な点

①対象として高齢者が多いこと,②急性期のみならずリハビリ期,外来通院まで見越した薬剤選択をすることが挙げられる.①に関しては高齢者の薬剤代謝(腎機能低下)や副作用の出現のしやすさを考える必要がある.②に関してリハビリや外来通院を妨げない抗てんかん薬を使用する必要がある.とくにリハビリ期,外来通院時では発作抑制だけではなく,副作用を抑え,内服を継続していただく工夫が必要となる.てんかん治療の原則は,「発作ゼロ,副作用ゼロ,発作以外の問題(社会的問題)ゼロ」であるが,これは脳卒中患者のてんかん治療では特に重要となる.

B. 発作ゼロに関して

発作抑制に加え「内服継続率」を重視すべきである.継続率に関する代表的なエビデンスとしてはLTG/GBP/CBZを比較した研究がある(Rowan AJ et al. Neurology 2005;64,1868-1873).65歳以上の新規発症593名に対する前方視的二重盲検無作為化試験で,LTG 150mg/ GBP 1500mg/ CBZ 600mgによる介入を行った.この結果,発作抑制率はCBZがやや上回るものの,発作抑制・投与継続率はLTGとGBPが優れていた.つまり発作抑制のみならず継続率が重要であることを研究である.

C. 副作用ゼロに関して

高齢者では抗てんかん薬による副作用が出現しやすい.とくに眠気,運動失調(ふらつき),認知機能低下がリハビリを進める上で問題になるが,これらはほとんどの薬剤に認められ,かつ用量依存性に増強する.またうつや気分障害,骨粗鬆症に伴う骨折もリハビリの妨げとなる.

①眠気・運動失調
最も多い副作用で,いずれの抗てんかん薬にも認められる.用量依存性である.特に注意すべきはPHTによる眠気・ふらつきで,小脳萎縮を来たし,不可逆性となることがある.眠気に関して,LTGはMSLT(睡眠潜時反復検査)による客観的な眠気の評価で眠気を来たしにくいことが報告されており,眠気の強い患者さんに対しては検討に値する(Placidi F et al: Acta Neurol Scand 102: 81-86, 2000)

②認知機能低下
PB,CZPは影響が大きく,CBZ,VPA,TPMも影響があることが知られている.脳梗塞に対する部分てんかんで第一選択となるCBZでは新規抗てんかん薬と比較し認知機能低下が見られるため(Meador KJ et al. Neurology 56:1177-1182, 2001),注意が必要である.

③うつ・気分障害
脳卒中患者ではうつの合併が多いが,てんかん患者におけるうつの合併はQOLを増悪させることが知られている(Gilliam F:Neurology 58:S9-S20, 2002).よってうつの治療は脳卒中患者でてんかんを認める患者さんにおいても重要である.脳卒中治療ガイドライン2009では治療として,抗うつ剤の使用がGrade Bで薦められているが,抗てんかん薬の中にはそれ自身が情動安定化作用のある薬剤もあり(LTG,CBZ, VPA)効果が期待できる.

④骨粗鬆症・骨折
CBZ,PB,PHT,VPAは,骨粗鬆症のリスクファクターである.一方,LEV とLTGは影響が少ないため使用しやすい.

D. 社会的問題ゼロに関して
重要な問題として,運転と医療費の問題を取り上げたい.

①運転
重要なことは道路交通法に基づいて運転の可否を説明することである.「道路交通法施行令」の具体的な運用基準である「一定の病気に係る免許の可否等の運用基準(別添)」から「てんかん」関連を抜粋すると以下のようになる.

てんかん(令第33条の2の3第2項第1号関係)
(1) 以下のいずれかの場合には拒否等は行わない。
ア 発作が過去5年以内に起こったことがなく、医師が「今後、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合
イ 発作が過去2年以内に起こったことがなく、医師が「今後、x年程度であれば、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合
ウ 医師が、1年間の経過観察の後「発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発作に限られ、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合
エ 医師が、2年間の経過観察の後「発作が睡眠中に限って起こり、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合

イのような状況での判断を迫られる場面が臨床現場では多い.X年に何と記載するかは難しい判断である.この場合重要なのは「発作ゼロ+内服継続」ができているかであり,前述のような副作用対策はとても大切になる.

②医療費
新規抗てんかん薬は効果である点が大きな問題である.以下,代表的な新規抗てんかん薬の代表的な用量の1ヶ月の薬価を計算する.

ラモトリギン 
– 200~400 mg/日(1T 100mg→2T~4T)
– 1T=266円 ∴532~1064円/日
– 1万4896円~2万9792円/月

レベチラセタム 
– 1500~2000 mg/日(1T 500mg→3T~4T)
– 1T=230.8円 ∴692.4~923.2円/日
– 1万9387円~2万5850円/月

患者さんに説明もなく新規抗てんかん薬を処方すると,支払の時,大変驚かせてしまうことになる.やはり医療費を軽減する工夫が必要で,具体的には①精神障害者保健福祉手帳,②厚生労働省自立支援事業を検討する.後者は通院を継続的に要する場合,通院医療費が一割負担になる(診断書 2年に1 回必要).

E. まとめ
脳卒中患者のてんかん治療では,①発作抑制効果と長期継続性を両方もつ薬剤を選択すること,②リハビリの妨げとなる副作用を未然に防ぐこと,③運転や医療費など発作以外の問題にも注目すること,が必要と考えられる.


薬剤略号
LTG;ラモトリギン(ラミクタール®),GBP;ガバペンチン(ガバペン®),CBZ;カルバマゼピン(テグレトール®),PHT;フェニトイン(アレビアチン®),PB;フェノバルビタール(フェノバール®),CZP;クロナゼパム(リボトリール®),VPA;バルプロ酸(デパケン®),TPM;トピラマート(トピナ®),LEV;レベチラセタム(イーケプラ®)

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てんかん治療の最前線(神経治療学会@北九州市)

2012年12月03日 | てんかん
神経治療学会@北九州市に参加した(2012年11月28~30日).興味深い発表がいくつもあったが,「てんかん治療の最前線」というシンポジウムがとくに勉強になったので,新規抗てんかん薬の使用方法と生活とケアに分けて,エッセンスをまとめたい.重要な治療の目標は「発作をゼロにすること,抗てんかん薬による副作用をゼロにすること,発作以外の問題をゼロにすること」である.

A. 新規抗てんかん薬の使用方法

ほかの抗てんかん薬(AED)との相互作用のない新規AEDは,ガバペンチン(ガバペン®)とレベチラセタム(LEV;イーケプラ®)である.CYP代謝を受けないためである.

ガバペンチン(GBP;ガバペン®)は副作用として眠気,だるさが問題.

トピラマート(TPM;トピナ®)はCYP代謝を受けるため,PHT,CBZ,PBにより濃度低下する.副作用として体重減少,抑うつ,発汗減少,下痢,腎結石が問題.中断率は高い.

ラモトリギン(LTG;ラミクタール®)は同様にPHT,CBZ,PBにより濃度低下する.バルプロ酸は半減期を2倍に伸ばす.副作用として薬疹が問題.

レベチラセタム(LEV;イーケプラ®)は副作用として眠気,ふらつきあり.ピーク到達時間は短く,早く定常状態になる.部分てんかんに対する新規AEDのなかで有効性が高いが,値段が高く経済的負担が問題である(1000mg/日=461.6円.28日で12,900円余り,1割負担で月1,300円くらい).精神障害者保健福祉手帳や厚生労働省自立支援事業を使って経済的負担を減らす工夫が必要となる.

自立支援医療は通院を継続的に要する場合,通院医療費が一割負担になる(診断書2年に1回必要).てんかん発作がなく落ち着いていても申請可能.

AEDによる体重変化は以下の4剤で生じる.
増加;VA,GBP.減少;TPM,ゾニサミド(ZNS).

認知機能に対してはPB,クロナゼパム(CZP)は影響が大きい.VA,CBZも血中濃度が高いと影響あり.TPMも量が増えるとタスク処理能は低下する.LEVの中枢神経系副作用は少ない

妊婦におけるVAの高用量は奇形のみでなく,子供の認知機能低下ももたらす.裏を返せば低用量であれば危険性は低くなる(ゼロではない).奇形予防には少なくとも用量1000 mg以下で,血中濃度は70 μg/ml 以下を保ち,葉酸を使用する(0.4 mg/day).授乳は可能だが,半減期の長いAEDでは児に傾眠が生じうる.


B. 生活とケア

徐々に高齢者てんかんが増えている.症候性てんかんと考えられる.しかし半数は画像を確認しても病変を認めない.加齢が関連していることは分かるものの詳細は不明の状態.

発作時に使用するチェックシートを用意しておくと便利.てんかん発作で確認をすべき点をチェック項目にまとめ,さらに部分てんかんや全般てんかんに特徴的な症候についてはそれぞれ色をつけておくとひと目で鑑別ができる.

てんかん重積発作時の対処法についてはてんかん治療ガイドライン2010が使用しやすい. PB静注は比較的使いやすい印象.

発作間欠期のケアとして発作の完全抑制,合併症・副作用の軽減,日常生活・社会生活問題の軽減が重要.

発作は完全抑制を目指す.そうでないと患者さんのQOLは改善しない.

QOLを悪化させているのは発作頻度のみでなく AEDを複数使用することによる副作用も重要である.複数のAED内服している症例において単剤に減らしても,70%以上の症例で発作頻度の悪化はなく,QOLが改善しうるという報告もある.

難治てんかんの場合,①診断が間違っていないか,②治療薬の選択が間違っていないか,③実は薬を飲んでないのではないか,これらを完全に除外することが必要.ただ診断が確定した時,難治てんかんに対する明確な方針は現在決まっていない.

認知症患者のてんかん治療の難しさは,①発作の有無や特徴についての情報が得られにくい,②内服アドヒアランスが不良,③患者教育が難しい点に起因する.

睡眠時無呼吸症候群(SAS)を認めるてんかん患者さんではSASの治療でてんかん発作が改善することがある.

精神疾患の合併も高く,とくにうつ病が多い.治療としてSSRIが比較的安全と言われている.重症の発作が発現した後に,一定の意識清明期を経て精神病状態が発現する「発作後精神病」も見られる.

てんかん患者では次の場合に該当すると運転免許が許可される.免許の可否は,主治医の診断書もしくは臨時適性検査にもとづいて行われる.
①過去に5年以上発作がなく,今後発作のおこるおそれがない.
②発作が過去2年以内に起こったことがなく,今後X年であれば発作が起こるおそれがない(Xは主治医が記載する).
③1年の経過観察後,発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発作に限られ,今後症状の悪化のおそれがない.ただし,運転に支障をきたす発作が過去2年以内に起こったことがないのが前提である.
④2年の経過観察後,発作が睡眠中に限っておこり,今後症状の悪化のおそれはない.

②のX年をどのように判断するかは難しいが,長期間発作がないと根拠をもって保証することは現実的には難しい.

②に関して,過去1年以内に短縮すべきという考えがあり欧米ではそのような地域が多い.2年間運転できないため内緒で運転を始めきちんと治療を受けないよりも,観察期間を短縮して治療をきちんと受けてもらったほうが良いのではないかという考え方である.
 
初回てんかん発作の際の対応については法律上明確な記載なし.つまりてんかんとして扱い2年間運転できないという判断をする医師と,てんかんとはいえないので3~6ケ月様子を見て判断する医師がいる.判断は難しいが運転能力がどうであるかが重要で,判断の拠り所になる.

大型車に関して日本てんかん学会は「てんかんに係る発作が,投薬なしで過去5年間なく,今後も再発のおそれがない場合を除き,通常は,大型免許及び第二種免許の適性はない」という立場である.

患者さんにおすすめの本.「やさしいてんかんの自己管理―本人と家族のために ポケット版(医薬ジャーナル社)」
早速購入しましたが,とても分かりやすい本です.病気の説明,生活指導にも役に立ちます.

こちらの本も分かりやすく書かれていてお勧めです.
プライマリ・ケアのための新規抗てんかん薬マスターブック


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てんかん重積状態に対する病院到着前から開始する治療

2012年08月26日 | てんかん
てんかん重積状態を早期にベンゾジアゼピン系抗てんかん薬で止めることは予後の改善につながることが知られている.日本ではてんかん重積状態に対する治療として,ビタミンB1,グルコース投与に引き続き,ジアゼパム静注,これで止まらなければフェニトイン静注,さらに全身麻酔療法(プロポフォール,チオペンタール等)と続く.しかしいずれの治療も救急外来到着後に開始される.一方,米国では,より早く治療開始する方法として,病院到着前にparamedicによる抗てんかん薬の筋注などが行われるようになっている.ちなみにここでのparamedicの意味は,看護師・理学療法士などの医師以外の医療従事者の意味ではなく,「米国の救急医療隊員」を指す.米国のparamedicは,日本の救命救急士よりも医療的・外傷的救急にあたって行なうことのできる医療行為の範囲が広く,また可能な医療行為のレベルは州ごとに,また資格の段階によって異なっているそうだ.

てんかん重積状態に対する病院到着前の治療に関する臨床試験が報告されているので紹介したい.方法は成人および小児(13 kg以上)を対象とした二重盲検・非劣性試験で,paramedicによるミダゾラム10 mgの筋注とロラゼパム(ワイパックス)4 mgの静注の有用性を比較している.5分以上てんかん発作が持続し,paramedicが到着した際にも持続していた患者に対し,自動注射器による筋注か(写真),静脈投与を行った.主要評価項目は救急外来到着時にけいれんが消失し,rescue therapyが不要な状態とした.副次評価項目は気管内挿管,痙攣再発,痙攣消失に関連した治療タイミングとした.本研究の仮説はミダゾラムの筋注はロラゼパム(ワイパックス)静注に10%のマージンで非劣性である(劣らない)とした.



さて結果であるが,救急外来への到着時,ミダゾラム筋注群では448名中329 名が消失(73.4%),ロラゼパム静注群では445名中282名(63.4%)で,絶対差10%で有意差あり(95%信頼区間;4.0-16.1; P<0.001 非劣性,優性とも).気管内挿管はミダゾラム筋注群では14.1%,ロラゼパム静注群では14.4%で同等,再発率もミダゾラム筋注群では11.4%,ロラゼパム静注群では10.6%で同等.救急外来到着前に痙攣が止まった患者における治療までの時間の中央値はミダゾラム筋注群では1.2分,ロラゼパム静注群では4.8分で,治療から痙攣が止まるまではそれぞれ3.3分と1.6分であった.副作用については2群間で差を認めなかった.以上より,痙攣重積状態に対する病院到着前の治療として,ミダゾラム筋注はロラゼパム静注と比較し,少なくとも同程度に有効で安全であるといえる.

さて日本ではどうか.残念ながらいずれの薬剤も認可されてない.加えて,到着前の救急隊員による抗てんかん薬治療も認められていない.筋注うに思う.ちなみにロラゼパム静注については<a href="http://square.umin.ac.jp/jes/pdf/lorazepam-6.pdf">日本てんかん学会から未承認薬として申請がなされているようだ.このような良い治療が速やかに認められることを期待したい.

Intramuscular versus Intravenous Therapy for Prehospital Status Epilepticus
N Engl J Med. 2012 Feb 16;366(7):591-600.

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空港における神経学

2011年08月23日 | てんかん
「お医者様はいらっしゃいますか?しかも神経内科の・・・」と飛行機の中でアナウンスされたら名乗りべるべきか少し逡巡する.どんな病気をみることになるかよく分からないし,そして飛行機の中で対処できるのだろうかと不安になるためだ.

そんな疑問に答える論文がスペインから報告されている.スペインのMadridBarajas国際空港から大学病院(3次救急)の神経内科にコンサルトがあった症例について,21ヶ月間に渡る前向き研究である.対象は77名で,うち59名(76.6%)が男性.平均45.9歳(8-89歳).

さて発症のタイミングは着陸後44名(58.7%),飛行中31名(41.3%),不明2名(5.1%).問題の疾患については,39名がてんかん発作(50.9%),18名が脳卒中(23.4%),そして20名(26%)がその他の診断であった.その他は,多いものから,薬剤中毒(コカイン,睡眠薬,カルバマゼピン,メトフォルミン),非器質的疾患,失神,末梢神経麻痺(撓骨・顔面神経麻痺),認知症患者のせん妄,脳炎,片頭痛,一過性全健忘であった.

1位のてんかん発作を来した患者のうち25名(61%)にはてんかんの既往歴はなかったものの,飲酒との強い関連がった.興味深い症例として,コカイン密売人の3名が挙げられる.この3名はコカインの体内隠匿者であった.つまり密輸のためコカインの入った小さな包みを飲み込み,何らかの具合で腹部内にあった包みが破裂し,引き続いててんかん発作が生じたのだそうだ.その他,症候性てんかんの原因としては,脳梗塞,動静脈奇形,肺塞栓症がみとめられた.てんかんの既往があって,発作を来した患者の大半は,抗てんかん薬をきちんと内服していなかった.

2位の脳卒中の内訳は,脳梗塞,脳出血が8名ずつで,TIAが2名.8名の脳梗塞のメカニズムとしては5名で高度(90%以上)の内頸動脈狭窄を認めた.1名はエコノミークラス症候群であった.6名はtPAの適応があり,血栓溶解療法を受けた.

以上より,飛行機の上で神経内科医が呼ばれそうな病気は,アルコールや薬剤に関連したてんかんと,大径血管の動脈硬化に伴う脳梗塞ということになる.

あとこの論文には飛行機における治療のアルゴリズムや,飛行機に積むべきオススメの医薬キットも記載されている.ちなみに医薬キットはこんなもの.

挿管チューブ,血糖測定器,グルカゴン 1mg/ml(低血糖治療用),ロラゼパム 1mg(てんかん用,agitation後の鎮静),経直腸ジアゼパム,筋注用ジアゼパム,経鼻ミダゾラム,メトクロプラミド錠(制吐薬),メタミゾール錠・アセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)

いろいろ工夫が感じられますね.飛行機に乗ることが多いドクターはぜひ原文もご一読ください.

JNNP 82;981-985, 2011

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