Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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無料で聴講いただけます!岐阜大学リベラルアーツGlocal Lesson「COVID-19 後遺症としての認知機能障害」

2024年06月27日 | COVID-19
Glocalとは「地球規模で考え,地域で行動する」という意味です.岐阜大学ではGlocal Lessonと称して,本学教員によるミニ講義を通じて,岐阜大学の魅力を知っていただき,かつ教養として知っておきたい情報を提供するという試みを始めました.リベラルアーツ教育の一環で,メールアドレスのみの登録で,どなたでもご覧いただけます.ほとんどの講義を無料で聴講いただけます.

今回,学外の方からリクエストを頂き,COVID-19 後遺症の最新情報について講義をさせていただきました.1回10分程度で5回に分けてのレクチャーになります.よろしければご視聴いただければと思います.

【COVID-19 後遺症としての認知機能障害 】
 Lesson1 Long COVIDの基礎知識
 ▶https://www.gu-glocal.com/distribution/view/243/

 Lesson2 COVID-19と認知症(注目される臨床研究)
 ▶https://www.gu-glocal.com/distribution/view/244/

 Lesson3 注目される画像・病理研究
 ▶https://www.gu-glocal.com/distribution/view/245/

 Lesson4 注目される病態研究
 ▶https://www.gu-glocal.com/distribution/view/246/

 Lesson5 Long COVIDの性差研究と注目される治療研究
 ▶https://www.gu-glocal.com/distribution/view/247/


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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(6月23日)  

2024年06月23日 | COVID-19
今回のキーワードは,long COVID患者由来の自己抗体を注射したマウスにlong COVIDの症状が再現された!COVID-19感染後,虚血性脳卒中,アルツハイマー病,パーキンソン病の発症リスクは増加する,COVID-19感染後のパーキンソン病の発症リスクには神経炎症が関与している,抗ウイルス薬リトナビルの15日間内服はlong COVIDに無効であった,COVID-19後の認知機能障害の機序にIL-1βが関与し,ワクチン接種は発症リスクを軽減する,です.

世界ではCOVID-19の脳への影響が注目されています.神経・血管における炎症を引き起こし,long COVID(疲労やブレインフォグ)を起こすだけでなく,脳梗塞,血管性認知症,アルツハイマー病,パーキンソン病発症の危険因子となります.今回,パーキンソン病のモデル動物にSARS-CoV-2ウイルスを感染させたところ,αシヌクレイン病態が促進されることが示されました.また治療として期待された抗ウイルス薬リトナビルの長期投与はまったく無効であることも報告されました.同様に持続感染を標的とする臨床試験が複数進行中ですが,期待できないのかもしれません.最後にCOVID-19後の認知障害の機序として,サイトカインIL-1βにより海馬の神経新生が阻害されることが明らかにされましたが,嬉しいことにこれはワクチン接種で抑制されました.まとめるとCOVID-19後の神経障害を抑える治療は今のところワクチン接種しかないという結論になります.認知機能の低下は検査でもしない限りなかなか自分では気が付きません.科学的根拠の基づくワクチン接種の有用性を多くの人に知っていただきたいと思います.

◆long COVID患者由来の自己抗体を注射したマウスにlong COVIDの症状が再現された!
SARS-CoV-2ウイルス感染は,軽症感染でも,多様で機能的な自己抗体を生成する.米国Yale大学から,21,000のヒトタンパク質を含むHuProtヒトプロテオームアレイを用いて,long COVID(LC)患者の症状と相関する自己抗体の標的を検討した研究が報告された.神経症状の強いLC患者55人,回復期対照42人,非感染対照39人を比較した.結果として,まず神経系のタンパク質に対する自己抗体の増加は,神経症状を有するLC患者で認められた.これらの患者から精製したIgGは,免疫染色ではヒト橋などと反応し(図1),さらにマウスの坐骨神経,髄膜,小脳とも反応した.LC患者のIgGは脳の様々な部位を染色し,何人かの患者は,複数の中枢神経領域を染色した.上述のヒトプロテオームアレイの解析では,自己免疫疾患で知られる自己抗原だけでなく,中枢神経に発現する多様な抗原に反応する自己抗体が多かった.マウス坐骨神経および髄膜に反応する抗体は,患者の頭痛および見当識障害と相関していた.



つぎに患者から精製したIgGを健常マウスに受動移入し,行動分析を行った.最も顕著な表現型は,熱に対する疼痛感受性が亢進(反応するまでの時間が短縮)していたマウスで,神経障害性疼痛を有するLC患者からのIgGを投与されていた(図2).



握力が低下したマウスのほとんどは,頭痛患者由来のIgGを投与されていた.同様に,ロータロッド試験でバランスの障害を示したマウスは,めまいを有する患者のIgGを注射されていた.最後に疼痛感受性の機序を調べる目的で,皮内神経線維の数と量を測定したところ,IgGを投与されたマウスは,small fiber neuropathyのマーカーであるIENFが急速に減少した.以上より,自己抗体がLC患者の一部に関与し,それを標的とする治療が有益である可能性が示された.
Guedes de Sa KS, et al. A causal link between autoantibodies and neurological symptoms in long COVID. medRxiv. June 19, 2024.(doi.org/10.1101/2024.06.18.24309100)

◆COVID-19感染後,虚血性脳卒中,アルツハイマー病,パーキンソン病の発症リスクは増加する.
既報の3つの論文からCOVID-19による脳血管障害および神経変性疾患のリスク増加を検討した小論文が報告された.COVID-19感染後6ヶ月間の虚血性脳卒中のリスクは2.8倍,12ヶ月間では2.7倍に増加した.神経変性疾患に関しては,6ないし12ヶ月後の相対危険度はアルツハイマー病で3程度で,入院と外来でほとんど変わらなかった(図3).またパーキンソン病も外来患者で相対危険度が2.5程度であった.神経炎症や酸化ストレス,アミロイド形成などが神経変性のメカニズムとして推測された.
Bonhenry D, et al. SARS-CoV-2 infection as a cause of neurodegeneration. Lancet Neurol. 2024 Jun;23(6):562-563.(doi.org/10.1016/S1474-4422(24)00178-9)



◆COVID-19感染後のパーキンソン病の発症リスクには神経炎症が関与している.
SARS-CoV-2ウイルス感染がパーキンソン病(PD)の進行に及ぼす影響については不明である.韓国から,ヒト胚性幹細胞(hESC)由来のドーパミン作動性(DA)ニューロンとヒトACE2(hACE2)Tgマウスモデルを用いて,SARS-CoV-2ウイルス感染がPD発症リスクを高めることを示した研究が報告された.具体的には,SARS-CoV-2ウイルス感染は,ヒトαシヌクレインpreformed fibrils(hPFFs)で前処理したDAニューロンの細胞死を悪化させた.さらに,SARS-CoV-2ウイルスの経鼻感染はhACE2 Tgマウスの脳内に伝播し,DAニューロンにまで感染が及び,hPFFによる障害を悪化させた(図4).SARS-CoV-2ウイルスに感染したマウスは,ウイルスが脳内で検出されなくなった後も,60日以上にわたって神経炎症の長期化をもたらした.包括的な解析から,アストロサイトとミクログリアによる炎症反応が,PD発症感受性に寄与している可能性が示唆された.
Lee B, et al. SARS-CoV-2 infection exacerbates the cellular pathology of Parkinson's disease in human dopaminergic neurons and a mouse model. Cell Rep Med. 2024 May 10:101570.(doi.org/10.1016/j.xcrm.2024.101570)



◆抗ウイルス薬リトナビルの15日間内服はlong COVIDに無効であった.
米国スタンフォード大学から抗ウイルス薬リトナビル(300mgと100mg)の15日間経口内服によるPASC(=long COVID)への効果を検証した研究が報告された.15週間の盲検プラセボ対照無作為化臨床試験である.主要評価項目は,10週時点における6つのPASC症状(疲労,ブレインフォグ,息切れ,体の痛み,消化器症状,心血管症状)の重症度の合計である.参加者155人(女性59%)のうち,102人がリトナビル群に,53人が偽薬群に割り付けられた(2:1).ほぼすべての参加者(n = 153)がワクチン接種を受けていた.結果として主要評価項目(図5),副次的評価項目とも有意差はなく,有害事象発生率も同程度であった.以上より,PASC患者におけるリトナビルの15日間コースは安全であることが示されたが,特定のPASC症状の改善に対する有益性は示されなかった.
Geng LN, et al. Nirmatrelvir-Ritonavir and Symptoms in Adults With Postacute Sequelae of SARS-CoV-2 Infection: The STOP-PASC Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2024 Jun 7.(doi.org/10.1001/jamainternmed.2024.2007)



◆COVID-19後の認知機能障害の機序にIL-1βが関与し,ワクチン接種は発症リスクを軽減する.
SARS-CoV-2ウイルスに感染した人の最大25%が,感染後に認知機能障害を示す.このためCOVID-19に由来する記憶機能障害の症例は,世界中で数百万例にのぼると考えられている.米国からの研究で,認知機能障害のメカニズムとワクチン接種の効果を検討した研究が報告された.まずSARS-CoV-2ウイルス感染に対し,IL-1βはCOVID-19患者の海馬で上昇していた.C57BL/6JマウスにSARS-CoV-2β変異体を経鼻感染させると,脳内におけるウイルスの直接的な感染はなかったが,Ly6Chi単球(いわゆる炎症性単球)が浸潤し,ミクログリアも活性化していた.これらの細胞が神経炎症を引き起こすものと考えられた.炎症性サイトカインの産生,血液脳関門の障害,T細胞の浸潤も認められた.さらに研究では,SARS-CoV-2ウイルスが脳内IL-1βレベルを上昇させ,IL-1R1を介して海馬の神経新生の持続的な障害を誘導して認知障害を促進することが示された(この病態はH1N1インフルエンザウイルスでは認めなかった).最後に低用量のアデノウイルスベクターによるスパイクタンパク質のワクチン接種は,上述のSARS-CoV-2感染による海馬のIL-1β産生,神経新生の喪失,およびその後の記憶障害を予防することが示された.以上より,COVID-19による認知機能障害の機序にIL-1βが関与すること,ならびにワクチン接種がリスク軽減に寄与する可能性が示された.
Vanderheiden A, et al. Vaccination reduces central nervous system IL-1β and memory deficits after COVID-19 in mice. Nat Immunol (2024).(doi.org/10.1038/s41590-024-01868-z)




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オミクロン変異株でも嗅覚伝導路を伝播する脳炎が生じる!

2024年06月08日 | COVID-19
岩田一輝先生,吉倉延亮先生らの症例報告がNeurol Clin Neurosci誌に掲載されました.糖尿病と神経疾患の既往がある80歳男性が,意識障害と全身のけいれん発作のために入院しました.頭部MRIでは両側嗅球と嗅覚伝導路に相当する脳実質に異常信号を認めました(図1).COVID-19 PCRは鼻腔ぬぐい液で陽性,脳脊髄液は陰性でした.CIVID-19脳炎と診断し,レムデシビルとステロイドパルス療法を行いました.意識レベルは回復し,認知機能も感染前のレベルまで改善しました.入院33日目に退院しましたが,嗅覚は改善せず,静脈性嗅覚機能検査にも無反応でした.

パンデミック初期にも嗅覚伝導路に沿った脳炎が報告されていますし(図2),マカクザルの感染実験でも鼻から入ったウイルスは嗅覚伝導路を介して眼窩前頭皮質まで伝播してしまうことがわかっています(図3)(眼窩前頭皮質はCOVID-19後に萎縮する部位として有名です).以上のようにオミクロン変異株の時代になっても脳に伝播しますし,後遺症を呈する方も少なくありません.



日本を除く先進国は2024年も高齢者等に対し年2回以上のワクチン接種を推奨していますが,なぜか日本では定期接種1回のみの助成となってしまいました.また感染を繰り返すとlong COVIDのリスクは増加するというエビデンスも確立しています.COVID-19から脳を守るため,とくに高齢者やなんらかの疾患を有する人は,感染予防とワクチン接種を継続すべきと思います.

ちなみに下図は,2024年の先進国における高齢者等に対する年間ワクチン接種推奨回数です.日本だけ1回で,その1回の助成は自己負担7,000円,ここに各自治体の補助がはいり,3,000円~5,000円程度になるそうです.ただしワクチン接種できる病院はかなり限られているようで,岐阜県ではないらしいです.



Iwata K, Yoshikura N, Kimura A, Shimohata T. Encephalitis mediated by the olfactory pathway can occur even during predominance of the Omicron mutant strain. Neurol Clin Neurosci. 2024;00:1-2.(doi.org/10.1111/ncn3.12836

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コロナ5類移行1年 後遺症のメカニズムと治療の現在@読売新聞

2024年05月09日 | COVID-19
COVID-19が感染症法上の5類に移行して昨日で1年経ちました.読売新聞から取材いただき,後遺症について現在までに分かっていることについて解説し,コメントをしました.

下畑 享良・岐阜大教授(脳神経内科)は「ウイルスによる炎症が長引き、脳にダメージを与えることで、疲労や認知機能の低下などの神経症状が続くと考えられる。後遺症の深刻さを踏まえると、引き続きこまめな手洗いなど基本的な予防対策が重要だ」と話す。(こちらから記事全文が読めます)

図1はカナダからのデータですが,再感染するたびに後遺症の累積リスクが増加することも分かっていますので,やはり感染予防は大切です.



また記事には後遺症(いわゆるlong COVID)は「メカニズム不明」と書かれてしまいましたが,かなり判明していて,単一のものではなく,①持続感染,②自己免疫,③ウイルス再活性化(EBV,HHV-6など),④セロトニン欠乏(*),といった主に4つの原因により,図2に示すようなさまざまな現象が生じることが分かっています.つまり似たような症状であっても,人によって病態メカニズムが異なるので,その病態に合った治療を選択する必要があり,臨床試験もハードルが高いものになっています.ですから,まずは感染予防が重要ということになります.また事前のワクチン接種は後遺症の抑制に唯一,明確なエビデンスを有する治療法となっており,日本の除く先進国は2024年も年2回接種を推奨しています.



図3はセロトニン欠乏のメカニズムを示すものです.dysbiosis(腸内細菌叢の変化)による腸管からのトリプトファン(セロトニン前駆体)吸収障害と,セロトニンを貯蔵する血小板の減少が引き金となり,セロトニン欠乏が生じ,さらに迷走神経を介する脳腸連関でブレインフォグにつながると言われています.


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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(5月4日)性差の機序と持続感染

2024年05月04日 | COVID-19
今回のキーワードは,long COVIDの背景には視床下部-下垂体-臓器軸(H-P-O axis)の障害とそれに伴う内分泌異常が存在する,血漿SARS-CoV-2抗原は急性感染後最大14ヵ月間持続する,軽症感染から回復した患者にもウイルスが残存している可能性があり,かつlong COVID症状と有意な関連がある,SARS-CoV-2が陰性化しても神経細胞とアストロサイトには障害が持続している,long COVIDの各症状に関連するタンパクがあり,認知機能障害においてはC1QA,Spondin1,Neurofascinが関連する,です.

Long COVID-19は女性に多く,かつ症状に性別で違いがあることが知られていました.世界のCOVID-19研究を牽引してきたYale大学のProf. Akiko Iwasakiのチームはこの問題に取り組み,結論として脳の「視床下部→下垂体→副腎や性腺組織」というホルモンの調節系に障害が生じていることを示しました(図1).過去にLong COVIDで副腎皮質ホルモン「コルチゾール」が低下することが分かっていましたが,さらに女性ではテストステロン,男性ではエストラジオール低下が long COVIDを予見するマーカーであることが判明しました.そのほか,Long COVIDの機序において重視されている「持続感染」について多くのことが分かってきました.



◆long COVIDの背景には視床下部-下垂体-臓器軸(H-P-O axis)の障害とそれに伴う内分泌異常が存在する
Long COVIDを呈する頻度は男性より女性の方が高く,かつ症状にも性差があることが知られている.しかしその基礎となる免疫学的特徴が男女で異なるのか,またどのような違いが症状の差に反映されるのかは不明である.Yale大学から165人の患者を対象とし,免疫・内分泌プロファイリングを明らかにする探索的横断研究が報告された.まず女性と男性では,症状の出現の仕方や臓器障害のパターンが異なっていた.具体的には,女性のほうが症状は重く,その症状は多臓器にわたっていた.女性優位の症状の代表は脱毛,男性優位の症状の代表は性機能障害であった.記憶障害,嗅覚・味覚障害は女性優位であった.つぎにLong COVIDを特徴づける免疫機能の男女間の差異を同定した.女性患者では,疲弊したT細胞,サイトカイン分泌T細胞の頻度が増加し,EBV,HSV-2,CMVを含む潜伏ヘルペスウイルスに対する抗体反応性が高く,テストステロン値が低かった.一方,男性患者では,単球と樹状細胞の頻度が減少し,NK細胞が増加し,IL-8とTGF-βファミリーを含む血漿サイトカインが増加した.女性ではテストステロン低下が(図2),男性ではエストラジオール低下が long COVIDを予見するマーカーであり,その背景には H-P-O axis(視床下部-下垂体-臓器系)の障害が関与しているものと考えられた.
Silva J, et al. Sex differences in symptomatology and immune profiles of Long COVID. medRxiv [Preprint]. 2024 Mar 4:2024.02.29.24303568(doi.org/10.1101/2024.02.29.24303568



◆血漿SARS-CoV-2抗原は急性感染後最大14ヵ月間持続する
Long COVIDの機序のひとつに持続感染が指摘されている.従来の研究は,症例数が小さいこと,急性感染からの期間が短いこと,ワクチン接種歴や再感染歴の記録が不明確であることなど限界があった.米国から,大部分の被験者がワクチン接種や再感染前の影響を受けていない血漿を用いて,SARS-CoV-2抗原を検討した研究が報告された.結果として,171人の被験者中42人(25%)にSARS-CoV-2抗原(スパイク,S1,ヌクレオカプシド抗原)が検出された.これらの抗原は感染後14カ月まで持続し,抗原陽性率の絶対差は,COVID-19発症後3~6ヵ月で10.6%,6~10ヵ月で8.7%,10~14ヵ月で5.4%であった(図3).また急性期に入院した被験者は,入院しなかった者に比べて2倍の確率で抗原が検出された.つまり急性期の重症度が抗原の持続に影響を与える可能性が示唆された.この抗原持続がlong COVIDの症状と関連しているかの検討が必要である.
Peluso MJ, et al. Plasma-based antigen persistence in the post-acute phase of SARS-CoV-2 infection. Lancet Infect Dis. April 08, 2024(doi.org/10.1016/S1473-3099(24)00211-1



◆軽症感染から回復した患者にもウイルスが残存している可能性があり,かつlong COVID症状と有意な関連がある
中国北京から軽症COVID-19(オミクロン株以降)から回復した患者のさまざまな組織における持続感染とlong COVID症状との関連について検討した単施設横断コホート研究が報告された.感染後約1ヵ月,2ヵ月,4ヵ月に残存手術検体,胃内視鏡検体,血液検体を採取し,SARS-CoV-2ウイルスはdigital droplet PCR法で検出した.225人の患者から317の組織検体が採取された(残存手術検体201,胃内視鏡検体59,血液検体57).ウイルスRNAは,1ヵ月目の固形組織検体で16/53(30%),2ヵ月目で38/141(27%),4ヵ月目で7/66(11%)から検出された(検出率は経時的に低下).ウイルスRNAは,肝,腎,胃,腸,脳,血管,肺,乳房,皮膚,甲状腺を含む10種類の固形組織に分布していた(検出率の高い順に,肝>腎>胃>腸>脳;図4).感染後2ヵ月の時点で,免疫不全患者9人のうち3人(33%)の血漿,1人(11%)の顆粒球,2人(22%)の末梢血単核球からウイルスRNAが検出されたが,免疫不全ではない患者10人ではいずれも検出されなかった.電話アンケートに答えた213人の患者のうち,72人(34%)が少なくとも1つのlong COVID症状を報告し,疲労(21%,44/213人)が最も頻度が高かった.回復した患者におけるウイルスRNAの検出は,long COVID症状の発現と有意に相関していた(オッズ比5.17,p<0.0001).ウイルスコピー数が多い患者ほど,long COVIDを発症する可能性が高かった.
Zuo W, et al. The persistence of SARS-CoV-2 in tissues and its association with long COVID symptoms: a cross-sectional cohort study in China. Lancet Infect Dis. April 22, 2024(doi.org/10.1016/S1473-3099(24)00171-3



◆SARS-CoV-2が陰性化しても,神経細胞とアストロサイトには障害が持続している
ニューロフィラメント軽鎖(NfL)とGFAPタンパクの血清値は,神経軸索損傷とアストロサイト活性化のバイオマーカーである.イタリアから,無症候性感染者または軽症COVID-19の成人147人を対象とし,SARS-CoV-2陰性化から1週間後および10ヵ月後のNfLおよびGFAP値と認知機能の関係を検討したコホート研究が報告された.初回の評価(T0)では,NfLとGFAPの値は,COVID-19患者群が対照群よりも高かった(両者ともp<0.001).認知障害を有する11人のCOVID-19患者では,NfLとGFAPのレベルが認知障害なしの患者よりも高かった(いずれもp = 0.005).10ヶ月後の追跡調査(T1)では,NfLとGFAPは有意な減少を示したが(NfL中央値18.3 pg/mL,GFAP中央値77.2 pg/mL),それでも対照群より高値であった(7.2 pg/mL,63.5 pg/mL)(図5).以上より,SARS-CoV-2が陰性化しても,神経細胞とアストロサイトに進行中の障害が生じていることが示唆された.
Plantone D, et al. Neurofilament light chain and glial fibrillary acid protein levels are elevated in post-mild COVID-19 or asymptomatic SARS-CoV-2 cases. Sci Rep 14, 6429 (2024)(doi.org/10.1038/s41598-024-57093-z



◆long COVIDの各症状に関連するタンパクがあり,認知機能障害においてはC1QA,Spondin1,Neurofascinが関連する
英国から,入院後3ヵ月以上症状が持続するlong COVID患者657人由来の血漿タンパク質368個のプロファイリングを行った研究が報告された.結論として,骨髄性炎症マーカーと補体活性化マーカーの上昇がlong COVIDと関連していた.具体的には,IL-1R2,MATN2,COLEC12は心肺症状,疲労,不安・抑うつと関連し,MATN2,CSF3,C1QAは消化器症状で上昇し,C1QAは認知障害で上昇した.さらに,神経組織修復の変化を示すマーカー(SPON-1およびNFASC)が認知障害で上昇し(図6),brain-gut axis障害を示唆するSCG3が消化器症状で上昇した.SARS-CoV-2特異的IgGは,long COVID患者の一部で持続的に上昇していたが,喀痰からはウイルスは検出されなかった.鼻汁中の炎症マーカーは症状との関連は認められなかった.女性,特に50歳以上の女性では,男性よりも高いレベルの炎症マーカーが認められた.以上より,組織損傷に関連する特異的な炎症経路がlong COVIDの病型に関与していることを示唆する.各症状の治療には適切に標的を絞った治療戦略が求められる.

注:C1QAは補体の活性化によって放出される分解産物で,認知症に関連した神経炎症を媒介することが知られている.SPON-1(Spondin1)とNFASC(Neurofascin)はともに神経成長を調節する作用がある.
Liew F, et al. Large-scale phenotyping of patients with long COVID post-hospitalization reveals mechanistic subtypes of disease. Nat Immunol. 2024 Apr 8(doi.org/10.1038/s41590-024-01778-0






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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(3月3日)  

2024年03月03日 | COVID-19
今週号のNEJM誌にCOVID-19罹患後の認知機能障害に関する2つの論文が報告されています.いずれも,前方視的に11万人以上の認知機能を評価した過去最大の研究です.ともにCOVID-19が認知機能低下をきたすことを示した点で一致しています.2つ目の研究では,感染後の知能指数(IQ)の変化を以下のように示してあり,非常にインパクトがあります.

感染後の知能指数(IQ)(非感染対照群と比較)
4~12週で症状改善:IQ 3ポイント低下に相当
12週以上症状持続:IQ 6ポイント低下に相当
ICU入室:IQ 9ポイント低下に相当
再感染:IQ 2ポイント低下に相当

論評では「このようなエビデンスが示されても,それを否定したり軽視したりする人々は今後も存在するだろう.しかし現実に何百万人もの人々が影響を受けていることを認識し,効果的な治療法を見つけるためにさらなる取り組みを行う必要がある」と書かれています.私達もこの事実を認識し,極力感染を防ぐ必要があります.

◆感染群の認知機能は,非感染群より3年間のすべて時点で低下する.
ノルウェーで,COVID検査を受けた参加者に13項目の記憶に関する質問票(EMQ,1~52点の範囲)を用いた全国規模の検討が行われた.年齢,ワクチン接種の有無,既往症などの交絡因子を調整し,検査陽性と陰性の2群に分けて検査後3年まで評価を行った.対象は11.2万人で,うち約半数の5.7万人が陽性であった.ベースライン時のスコアはほぼ同じであったが,追跡調査中に陽性群はすべての時点で有意な低下が認められた(図1).
Ellingjord-Dale M, et al. Prospective Memory Assessment before and after COVID-19. N Engl J Med. 2024 Feb 29;390(9):863-865.(doi.org/10.1056/NEJMc2311200



◆感染症状の持続期間と変異株の種類が認知機能低下に影響する.
英国で行われた80万人の成人を対象に,認知機能(8つのタスクにわたるグローバル認知スコア)をオンラインにて評価した.11万2964人が評価を完了した.重回帰分析では,COVID-19から回復した者のうち,症状が4週間未満および12未満で回復した者は,非感染群と比較して,軽度の認知機能低下を示した(-0. 23SDおよび-0.24SD:SDは標準偏差).しかし症状が改善していない者では高度の認知機能低下を認めた(-0.42SD)(図2).そして武漢オリジナル株またはB.1.1.7株(α株)が優勢であった期間に感染した者は,それ以降の変異株(δ株,ο株)に感染した者よりも認知機能低下は高度であった.さらに入院経験のある者はない者よりも高度であった(例;ICU入室-0.35SD).この結果は傾向スコアマッチング分析を行った場合も同じであった.ワクチン接種による予防効果も認められた.SDをIQに置き換えたデータは上述の通り.



→ 軽症感染でIQが3ポイント低下するというのは、平均的なIQスコア(大人の場合は85~115程度)においては小さな変化かもしれません.実生活での認知機能にどのような影響を及ぼすかは不明ですが,その人の日常生活や職業,活動の性質によって異なる可能性があります.また上記のIQ低下はあくまで平均値ですので,認知機能障害にはかなりのばらつきがあることは注目すべきかと思います.

Hampshire A, et al. Cognition and Memory after COVID-19 in a Large Community Sample. N Engl J Med. 2024 Feb 29;390(9):806-818.(doi.org/10.1056/NEJMoa2311330

NEJM誌ではCOVID-19の認知機能障害のメカニズムについてとてもわかり易い図を掲載しているので確認していただきたいと思います(図3).



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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(2月24日)  

2024年02月24日 | COVID-19
今回のキーワードは,long COVIDの原因,持続感染の頻度は1000人から200人に1人(0.1〜0.5%),long COVIDのバイオマーカーとしてIFN-γが有望である,抑うつ症状や頭痛を合併する場合,long COVIDによる疲労は回復しにくい,我が国におけるCOVID-19罹患後症状の自然歴,ワクチン接種はlong COVIDによる負担を軽減する重要な手段である,brain fog患者における血液脳関門の破綻の初めての描出,SARS-CoV-2ウイルスは破壊されたあと二本鎖RNAと「再集合」して炎症を起こす,ウイルス制御に関連するのはT細胞応答と粘膜IgA応答である,補体系の過剰活性化はlong COVIDにも関与する,です.

つぎつぎにlong COVIDの臨床像や病態機序が明らかにされています.持続感染を呈する頻度は0.1〜0.5%,long COVIDの有望な診断バイオマーカーとしてIFN-γが同定されたことは大きなニュースです.また病態機序として明らかにされたSARS-CoV-2ウイルスが血液脳関門の破綻をきたすことや,破壊されたウイルスが二本鎖RNAと「再集合」してしつこく炎症をきたすことなどあらためて厄介なウイルスだと思いました.油断せず感染対策を行い,間隔が空いたらワクチン接種を検討することが必要だと思います.

◆long COVIDの原因,持続感染の頻度は1000人から200人に1人(0.1〜0.5%).
Long COVIDの機序のひとつとして持続感染が確立しているが,その有病率やウイルスの動態については不明である.英国オックスフォード大学は,SARS-CoV-2 RNAが少なくとも30日間持続して検出される381人を同定した.うち54人は少なくとも60日間ウイルスRNAが認められ,ウイルス複製が継続していることが示唆された(図1).持続感染者は非持続感染者に比べ,long COVIDを訴える頻度が50%以上高かった.著者らは0.1〜0.5%の感染者が持続感染となり,少なくとも60日間持続すると推定している.一般集団では絶滅したウイルス株に感染したままの人がいた.対照的に同じ変異株に再感染することは非常にまれであった.また65人は3回以上のPCR検査を受けていたが,大部分(82%)はウイルス量の動態が高値,低値,また高値とリバウンドしていた.これはウイルスが長期間の感染でも活発に複製する能力を維持していることを示唆するものである.
Nature (2024). 21 Feb, 2024 (doi.org/10.1038/s41586-024-07029-4)



◆long COVIDのバイオマーカーとしてIFN-γが有望である.
英国から高感度FluoroSpotアッセイを用いて,long COVID患者の末梢血単核球から持続的に高レベルのIFN-γが放出されることを示した研究が報告された.このIFN-γ放出は,急性感染から回復した患者と異なり,生体外ペプチド刺激がない場合にも認められ,long COVID患者では持続的に上昇したままであった(図2).IFN-γの放出はCD8+T細胞を介し,CD14+細胞(単核球)による抗原提示に依存していた.また症状の改善・消失は,IFN-γ放出がベースラインレベルまで減少することと相関していた.以上より,long COVIDのバイオマーカーとしてIFN-γが有望で,治療薬の探索にも有用な可能性がある.
Sci Adv. 2024 Feb 23;10(8):eadi9379.(doi.org/10.1126/sciadv.adi9379)



◆抑うつ症状や頭痛を合併する場合,long COVIDによる疲労は回復しにくい.
ドイツからlong COVIDの症状(疲労や認知機能障害)が回復しにくい危険因子を特定することを目的とした研究が報告された.参加者3038人がベースライン時(感染から9ヶ月後),FACIT-FatigueまたはMoCAを用いると,21%に疲労があり,23%に認知機能障害を認めた.これらは時間経過とともに改善し,約半数は2年以内に回復した(それぞれ46%と57%;図3).しかしベースライン時に疲労に加え,高度の抑うつ症状および/または頭痛を認めた患者は,回復の可能性が有意に低かった.また認知機能が回復しない危険因子は,男性,高齢,12年間未満の学校教育歴であった.SARS-CoV-2の再感染は疲労や認知機能障害の回復に有意な影響を及ぼさなかった.
eClinicalMedicine. 2024 Feb 3;69:102456.(doi.org/10.1016/j.eclinm.2024.102456)



◆我が国におけるCOVID-19罹患後症状の自然歴.
広島大学から2020年3月から2022年7月までのlong COVIDの有病率に関する検討.合計2421人(成人1391人,小児1030人;入院36.7%)から回答を得た.感染から調査までの期間は295日であった.初回の回復時,罹患後症状の有病率は成人で78.4%,小児で34.6%.3ヵ月後には47.6%,10.8%で,1年以上に経つと31.0%,6.8%となった.日常生活に支障をきたす症状は304人(12.6%)が3ヵ月以上持続した.危険因子として,年齢,女性,糖尿病,デルタ株期間中の感染,喫煙が挙げられた.ワクチン接種歴と罹患後症状との間に有意な関連は認めなかった.
Sci Rep. 2024 Feb 16;14(1):3884.(doi.org/10.1038/s41598-024-54397-y)

◆ワクチン接種はlong COVIDによる負担を軽減する重要な手段である.
米国からワクチン接種とlong COVIDの有病率の関連を検討した研究が報告された.成人COVID-19患者4695人のデータを用いた.罹病期間30日および90日以上のlong COVIDの調整有病率は,未接種群と比較して接種群で低かった(それぞれ0.57,および0.42).つまり発症前にワクチン接種を行った成人では有病率は43~58%低くなり,ワクチン接種はlong COVIDによる負担を軽減する重要な手段と考えられた.
Ann Epidemiol. 2024 Feb 19:S1047-2797(24)00031-0.(doi.org/10.1016/j.annepidem.2024.02.007)

◆brain fog患者における血液脳関門の破綻の初めての描出.
アイルランドから,long COVIDおける血液脳関門(BBB)の機能を検討した研究が報告された.Brain fogを伴うlong COVID患者において,BBB機能を評価する動的造影MRIやS100β蛋白質を用いてBBB破綻が生じていることを初めて示した(図4).また末梢血単核球のトランスクリプトーム解析から,brain fog患者では凝固系の調節障害と適応免疫応答の減弱が生じていることが明らかになった.さらに患者末梢血単核球はin vitroでヒト血管内皮細胞への接着が亢進し,患者血清を血管内皮細胞に暴露させると炎症マーカー発現が誘導された.以上より,持続的な全身性炎症と局所的BBB破綻がbrain fogに関与していると考えられた.
Nat Neurosci. 2024 Feb 22.(doi.org/10.1038/s41593-024-01576-9)



◆SARS-CoV-2ウイルスは破壊されたあと二本鎖RNAと「再集合」して炎症を起こす.
UCLA主導の研究チームは,宿主により破壊されたあとのSARS-CoV-2ウイルスの断片が体内の自然免疫ペプチドの働きを模倣することによって炎症を引き起こす可能性があることを示した.この免疫ペプチドは二本鎖RNAと「再集合」してハイブリッド複合体(XenoAMP-dsRNA)となり,免疫反応を刺激する.この複合体は,多様な非感染細胞(上皮細胞,内皮細胞,ケラチノサイト,単球,マクロファージ)のサイトカイン分泌を増幅する.この複合体を非感染マウスに投与すると,COVID-19患者と同様に血漿中のIL-6とCXCL1レベルが上昇した.通常,ウイルスが破壊された後,ウイルスの断片は免疫系が将来認識できるように訓練するためだけに使われるが,COVID-19ではそんな単純なものではなく,ウイルスの残骸が「ゾンビ」複合体を作り,宿主に炎症をもたらす.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2024 Feb 6;121(6):e2300644120.(doi.org/10.1073/pnas.2300644120)

◆ウイルス制御に関連するのはT細胞応答と粘膜IgA応答である.
英国で行われた人体実験との批判もあるSARS-CoV-2ヒト感染試験の論文.ウイルス接種後早期における自然免疫反応と適応免疫反応を解析した.34人の若年成人にD614G変異株を鼻腔に接種したところ,18人(53%)が感染した.鼻腔や咽頭でのウイルス量は感染後5日目が最大,これに伴い鼻腔ではⅠ型インターフェロンを含む種々のサイトカインが上昇した(自然免疫).この後,鼻腔および血中でスパイクタンパク質に対する抗体レベルが上昇するとともにT細胞の活性化が見られた(獲得免疫).これに伴い,鼻腔中のウイルスは次第に減少し,感染14日目でほとんど消失した.ウイルス制御と強く関連していたのは,CD8+T細胞応答(ウイルス感染細胞の除去)と早期粘膜IgA応答(局所でのウイルスの不活化)であった.現在のワクチンはT細胞や抗体を誘導するものの,粘膜面のIgAレベルはあまり上昇しない.今後のワクチンの課題と言える.図5に免疫反応の経時変化を示す.
Sci Immunol. 2024 Sep 2;9(92):eadj9285.(doi.org/10.1126/sciimmunol.adj9285)



◆補体系の過剰活性化はlong COVIDにも関与する.
英国より,SARS-CoV-2の感染歴がある健常回復者79人およびlong COVID患者166人における補体を定量した研究が報告された.古典的経路(C1s-C1INH複合体),代替経路(Ba因子,iC3b),終末経路(C5a,TCC:終末補体複合体)の活性化マーカーは,long COVID患者で有意に上昇していた.これらのマーカーの組み合わせによるAUCは0.794であった.その他の補体蛋白や調節因子も,健常回復者とlong COVID患者で異なっていた.さら機械学習により臨床的に扱いやすい組み合わせであるiC3b,TCC,Ba因子,C5aが0.785の予測能を持つことが示された.以上より,補体バイオマーカーがlong COVIDの診断を容易にし,さらに補体活性化阻害薬がlong COVIDの治療に使用できる可能性が示唆された.
Med. 2024 Feb 14:S2666-6340(24)00041-2.(doi.org/10.1016/j.medj.2024.01.011)



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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(1月29日)  

2024年01月29日 | COVID-19
今回のキーワードは,ワクチン未接種のLong COVID患者の症状改善にワクチン接種は有効で,sIL-6Rが上昇した人で効果を認める,ワクチン接種をした非入院者に対しパキロビッドはLong COVIDの発症を抑制しない,シンバイオティクスはLong COVIDの症状の改善に有効である,腸管粘膜組織は感染後数ヵ月間,SARS-CoV-2ウイルスを保持する,Long COVIDではアンチトロンビンIIIは低下し,トロンボスポンジン1とvWF因子は増加する,労作後倦怠感の原因として骨格筋の構造・機能異常があり,激しい運動で増悪する,中脳ドパミンニューロンにおけるSARS-CoV-2ウイルス感染後の炎症と細胞老化による消失です.

Long COVIDの治療に関する論文を3つ,病態に関する論文を3つ,そしてパーキンソン病の原因となる中脳ドパミンニューロンの消失がSARS-CoV-2ウイルス感染による生じうるという論文の紹介です.治療に関して,Long COVID患者でワクチン未接種であった人は今からでも接種したほうが良さそうです.Long COVIDに対する抗ウイルス薬の効果(PaxLC試験)は今後発表される予定ですが,急性期に内服してもLong COVIDの予防効果はなさそうです.Long COVIDの機序にひとつに腸脳連関による脳障害がありますが,シンバイオティクスは腸内細菌叢障害を改善する薬で有望かもしれません.アルツハイマー病の危険因子としてのCOVID-19はほぼ確立していますが,同様のことがパーキンソン病でもいえそうな雰囲気になってきました.第10波中ですが,脳を守るために感染予防とワクチン接種を心がける必要があります.

◆ワクチン未接種のLong COVID患者の症状改善にワクチン接種は有効で,sIL-6Rが上昇した人で効果を認める.
米国Yale大学を含む複数施設が,COVID-19ワクチン未接種のLong COVID患者16人を対象に,ワクチン接種後の症状および免疫応答を検討した前方視的研究が報告された.結果は,ワクチン接種後12週目の自己報告では,16人中10人が健康状態の改善,3人が変化なし,1人が悪化,2人がわずかな変化を認めた(図1).ワクチン接種6週後および12週後に,SARS-CoV-2スパイク蛋白質特異的IgGおよびT細胞の増加がほとんどの患者で認められた.ヘルペスウイルスや自己抗原に対する反応性に変化は認めなかった.また症状の改善と関連するのはベースラインのsIL-6Rが高いことで,改善なしと関連するのはIFN-βとCNTFが高いことであった.以上よりワクチン未接種のLong COVOD患者に対するワクチン接種の有効性が示唆されるが,少人数の検討であることからさらなる検証が必要である.
medRxiv 2024.01.11.24300929(doi.org/10.1101/2024.01.11.24300929)



◆ワクチン接種をした非入院者に対しパキロビッドはLong COVIDの発症を抑制しない.
急性期経口治療薬ニルマトルビル/リトナビル(パキロビッド)がLong COVIDの発症リスクを低下させるかを検討した観察コホート研究が米国から報告された.ワクチン接種済みで,COVID-19に初めて感染した非入院患者にうち,パキロビッドを使用した353人と非使用の1258人におけるLong COVID発症率は,感染後5.4±1.3ヵ月の時点で16%と14%で,パキロビッド使用とLong COVIDとの関連は認められなかった(OR 1.15;95%CI 0.80-1.64;p=0.45).
J Med Virol. 2024 Jan;96(1):e29333.(doi.org/10.1002/jmv.29333)

◆シンバイオティクスはLong COVIDの症状の改善に有効である.
Long COVIDの病態機序の一つとしてdysbiosis(腸内細菌叢のバランスが乱れた状態)がある.シンバイオティクスとは生きた有用菌とその栄養源を同時に摂取することで腸内環境を整える.香港からシンバイオティクス製剤(SIM01)の6ヵ月間経口内服がLong COVIDの14種類の症状緩和に有効か検討した無作為化二重盲検試験が報告された.SIM01投与群232名と偽薬群231名に無作為に割り付けた.6ヵ月後,SIM01投与群では疲労(OR 2.273,p=0.0001),記憶障害(1.967,p=0.0024),集中力低下(2.644,p<0.0001),胃腸の不調(1.995,p=0.0014),全身倦怠感(2.360,p=0.0008)は偽薬群と比較して改善した.有害事象の発生率は同程度であった.症状改善の予測因子は,SIM01による治療,オミクロン変異株の感染,ワクチン接種,軽症感染であった.
Lancet Infect Dis. 2023 Dec 7:S1473-3099(23)00685-0. doi: 10.1016/S1473-3099(23)00685-0.

◆腸管粘膜組織は感染後数ヵ月間,SARS-CoV-2ウイルスを保持する.
エジプトからCOVID-19の既往のある患者における持続性腸内感染の陽性率を検討した研究が報告された.対象は上部消化管内視鏡による生検を受けた166例と下部消化管内視鏡による生検を受けた83例.ヌクレオカプシド蛋白に対する免疫染色陽性の頻度は,上部で37.34%,下部で16.87%(図2),有意に上部で高かった(P = 0.002).喫煙者および糖尿病患者は,持続的なウイルス腸内感染のリスクが高い可能性がある.以上より,腸管粘膜組織はSARS-CoV-2ウイルスのリザーバーであることが示された.
Endosc Int Open. 2024 Jan 5;12(1):E11-E22.(doi.org/10.1055/a-2180-9872)



◆Long COVIDではアンチトロンビンIIIは低下し,トロンボスポンジン1とvWF因子は増加する.
COVID-19罹患者113人を初回感染後1年間追跡調査し,Long COVIDに関連するバイオマーカーを同定したスイスからの研究である.6ヵ月後の追跡調査では,40人の患者がLong COVIDの状態であった.プロテオミクスにより血清中の6500以上のタンパク質を測定した.この結果,Long COVID患者は急性期に補体の活性が亢進し,6ヵ月後の追跡調査でも持続していたが,回復したlong COVID患者で補体レベルは正常化していた(補体系は感染に対抗したり,感染し傷害した細胞を除去する作用がある).補体系の活性化の結果,補体C5b-C9からなる終末補体複合体(TCC)が形成され細胞膜に結合し,細胞溶解を引き起こす.これを反映し,C5bC6複合体は増加,C7を含むTCCは細胞膜に取り込まれて減少,TCCにより細胞膜が損傷する(このため血管内皮障害マーカーvWF↑,赤血球溶解マーカーHeme↑)(図3).またC5活性化のためのトロンビン↑となるため,これを抑制するアンチトロンビンIIIが消費され↓.また血小板が刺激されるため血小板活性化マーカー:トロンボスポンジン1と血小板・単球凝集体↑.さらに抗CMVおよび抗EBV IgG抗体レベルの上昇と関連していた.以上よりLong COVIDは,補体活性化,血管内皮障害,血小板活性化,ウイルス再活性化といった特徴を示す.
Science. 2024 Jan 19;383(6680):eadg7942.(doi.org/10.1126/science.adg7942)



◆労作後倦怠感の原因として骨格筋の構造・機能異常があり,激しい運動で増悪する.
オランダからLong COVIDにおける労作後倦怠感の病態機序を検討するために,患者25名を対象とした縦断的症例対照研究が報告された.これらの患者では広範な骨格筋の傷害を認め,患者の運動能力の低下と関連していた.さらに骨格筋のミトコンドリア機能異常と代謝障害を認め,労作後倦怠感の誘発後に悪化した(→よって,Long COVID患者にとって激しい運動は良くない).またアミロイドを含む沈着物を筋線維のあいだに患者でより多く認め,この所見は激しい運動を行うと増加した(図4).ウイルスの持続感染が関与している可能性を考え,ヌクレオカプシドタンパクを免疫染色で評価したところ,long COVID患者と感染後に回復した人は同程度であった.労作後倦怠感を軽減するためには,現時点では激しい運動を避けることを勧めるしかない.
Nat Commun. 2024 Jan 4;15(1):17.(doi.org/10.1038/s41467-023-44432-3)



◆中脳ドパミンニューロンにおけるSARS-CoV-2ウイルス感染後の炎症と細胞老化による消失.
米国からヒト多能性幹細胞(hPSC)由来の中脳ドパミン(DA)ニューロンが,SARS-CoV-2ウイルス感染に対して選択的に感受性を持つことが報告された.まず上記DAニューロンへのSARS-CoV-2感染は,炎症と細胞老化(cellular senescence)を引き起こした.この細胞を用いてハイスループットスクリーニングを行い,感染による細胞老化反応を抑制できる薬剤として,イマチニブ,リルゾール,メトホルミンを同定した(図5).さらにCOVID-19感染剖検患者の黒質において,炎症と細胞老化のシグネチャーと低レベルのSARS-CoV-2転写産物を同定した.加えて重症例では,ニューロメラニン陽性,かつチロシンヒドロキシラーゼ陽性DAニューロンと神経線維の数が減少していることが分かった.以上より,COVID-19罹患者における将来のパーキンソン病発症に関して,注意深い長期的観察が必要である.
Cell Stem Cell. Jan 17, 2024(doi.org/10.1016/j.stem.2023.12.012)



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COVID-19感染後認知症は20歳の加齢に相当し,感染から1年経過しても脳損傷が持続する!

2024年01月15日 | COVID-19
英国からCOVID-19染後の認知障害と血清バイオマーカー,神経画像所見との関係を検討した前向き縦断研究が報告されました(査読前論文ですが,インパクトの大きな研究です).長期観察研究なので,対象はパンデミック初期の,かつ入院を要した中等症~重症感染者になりますが,衝撃的なのは「認知機能障害の程度は20歳の加齢に相当する」ということと,「1年を経過してもなお神経細胞・アストロサイトの障害マーカー(Nfl-L・GFAP)が高値である」ということです.既報と考え合わせると,中枢神経への直接的(=ウイルス感染)ないし間接的(=サイトカイン)原因に伴う神経炎症が持続しているのだと考えられます.また急性期にステロイドを使用すると認知機能障害は抑制されるという重要な知見も明らかにされました.

以上の結果は,軽症例や最近のCOVID-19罹患において一般化できるものではありませんが,中等症から重症のCOVID-19後の認知機能障害は長期間持続すること,かつ免疫介在性に生じることを認識する必要があります.最近増加している,免疫回避能力の高いJN.1株も神経炎症を引き起こす可能性が高く,認知症予防には感染予防とワクチン接種を心がける必要があると思われます.以下,論文の結果のサマリーです.

【研究の対象】
入院を必要とした351人のCOVID-19患者(ワクチン接種率19%)で,2927人の対照群と比較している.患者の54%が神経・精神症状を呈し,neuro-COVID群に分類される.

【認知機能障害は全般的に生じ,その程度は20歳の加齢に相当する】
認知機能障害(Global Deviation from Expected(GDfE)スコアで評価)は特定の領域に障害を認めるものではなく,すべての領域にわたるグローバルな障害で,その程度は20歳の加齢に相当する.neuro-COVID群では脳症,ついで脳血管障害で認知機能障害の低下が目立つ(図1).



急性期後の評価から3ヶ月後に改善を認めたが,6 ヶ月後では有意な変化はなく回復は頭打ちになった(図2).またCOVID群の多変量モデルでは,認知機能障害はうつ病,パンデミック初期(とくに第1波)の感染,COVID-19の重症度と関連していた.また副腎皮質ステロイドによる治療には保護効果が認められた(p=0.0048).



【COVID-19の1年後も脳損傷が持続して生じている】
1年後の血清Nfl-L(軸索損傷のマーカー)およびGFAP(アストロサイト損傷のマーカー)の中央値は,COVID-19患者で有意に上昇し,さらにneuro-COVID患者で上昇を認めた(図3).タウはneuro-COVID患者でのみ上昇していた.バイオマーカーの半減期を考えると,急性期から1年が経過しても,神経学的合併症のない患者においてさえ,神経細胞・アストロサイトの障害が持続していることが分かる.



【認知機能障害は前帯状皮質体積の減少と相関する】
認知,注意,感情を結びつける機能的役割を持つ前帯状皮質の両側体積はコホート全体(R=0.299), COVID群(R=0.307),Neuro-COVID群(R=0.307)において認知機能障害と有意な相関を認めた.



Research 05 Jan, 2024 (preprint) https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-3818580/v1

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(12月9日)

2023年12月09日 | COVID-19
今回のキーワードは,long COVID患者では認知機能障害が顕著である,long COVID患者脳において神経炎症が生じている,COVID-19患者脳では老化細胞が増加する,3回のワクチン接種によりlong COVIDは73%抑制できる,ニルマトルビル・モルヌピラビルはlong COVID発症を低下させるがその効果は小さい,パクスロビドは31あるlong COVID症状のほとんどを抑制できない,ボルチオキセチンはCRPで調整すると認知機能を改善する,です.

Long COVIDに伴う認知機能障害に関する研究が引き続き報告されています.Long COVIDに伴う神経炎症(ミクログリア活性化)を画像化した研究が動物での既報に続き,ヒトでも報告されました.また老化を細胞レベルでとらえ,老化細胞を体内から除去しようとするsenolyticsという概念がありますが,long COVIDに伴う細胞老化も明らかにされました.治療に関しては感染前ワクチン接種の有効性はかなり明確になってきましたが,期待された持続感染に対する抗ウイルス薬は旗色が悪いようです.Long COVIDの複数の病態を結びつける分子としてセロトニンが報告されましたが,セロトニン代謝に複数の作用を有するボルチオキセチンが条件付きですが“認知機能”を改善する可能性が報告されました.

◆long COVID患者では認知機能障害が顕著である.
PCC(=long COVID)患者における認知機能障害を調べるために,ウェブベースの認知課題,単純反応時間(simple reaction time; SRT)と数覚テスト(number vigilance test; NVT)を行った.ドイツと英国の2つのクリニックでPCC患者270人を2つの対照群,No-PCC群(COVID-19に感染したが回復後にPCCにならなかった人),およびNo-COVID群(感染していない人)と比較した.その結果,PCC群では顕著な認知機能低下が確認された(図1:赤,重症,黄色,中等症).SRTではPCC群は対照群に比べて反応が3標準偏差ほど遅かった.この所見はドイツと英国の2つのクリニックで再現された.また疲労,抑うつ,不安,睡眠障害,心的外傷後ストレス障害などの併存疾患は,PCC群における認知障害を説明できなかった.さらにSRTの認知機能障害は,持続的注意を評価するNVTの成績不良と高い相関があった.以上より,PCC患者では認知機能障害が顕著であることが示された.
medRxiv. Dec 4, 2023.(doi.org/10.1101/2023.12.03.23299331)



◆long COVID患者脳において神経炎症が生じている.
米国からPASC(=long COVID)患者における,神経炎症を示す画像所見と血管機能障害マーカーとの関連を検討した研究が報告された.具体的には,TSPO結合性リガンドを用いることで可能になったグリア細胞(とくにミクログリア)の[11C]PBR28 PET神経画像を用いている.12人のPASC患者(オミクロン前の感染,2例のみ入院,1例のみワクチン接種)と43人の対照者を比較した.その結果,中帯状皮質,前帯状皮質,脳梁,視床,大脳基底核,脳室境界部など幅広い脳領域で,対照群と比して,PASC群で神経炎症が有意に増加していた(図2).また,神経炎症と血管機能障害に関連するマーカー(フィブリノゲン,α2マクログロブリン,orosomucoid,fetuin A,sL-selectin,pentraxin-2)との間に有意な正の相関が認められた.以上より,神経炎症と血管の機能障害との相互作用が,PASCの病態に関与する可能性が示唆された.
bioRxiv. October 20, 2023.(doi.org/10.1101/2023.10.19.563117)



◆COVID-19患者脳では老化細胞が増加する.
老化細胞溶解療法(senolytic therapy)とは,脳内の老化細胞を除去し,加齢に関連するさまざまな疾患を予防・緩和することを目的とした新しい治療法で,アルツハイマー病などで検討されている.オーストラリアから,重症COVID-19患者の死後脳では,対照群と比較して,老化細胞が増加していることが報告された.ヒト脳オルガノイドにSARS-CoV-2ウイルスを感染させると,細胞老化が誘導され,トランスクリプトーム解析によりSARS-CoV-2特有の炎症の存在が示された.感染した脳オルガノイドの細胞老化を抑制すると,ウイルスの複製が阻害され,異なる神経細胞集団における老化が抑制された.ヒトACE2過剰発現マウスにおいて,NavitoclaxやD+Q,Fisetinといった老化抑制剤を使用すると,COVID-19の臨床転帰を改善し(図3),ドパミン作動性ニューロンの生存を促進し,ウイルスおよび炎症性遺伝子の発現を抑制した.以上より,SARS-CoV-2による神経病理において,細胞老化が重要な役割を担っていること,そして老化防止剤が有効である可能性が示唆された.
Nat Aging (2023). https://doi.org/10.1038/s43587-023-00519-6



◆3回のワクチン接種によりlong COVIDは73%抑制できる.
スウェーデンからCOVID-19の一次ワクチン接種(初回2回+ブースター接種)のLong COVIDに対する有効性を調査した研究が報告された.対象は感染者58万9722人.一次ワクチン接種者29万9692人のうち,追跡調査中にPCCと診断されたのは1201人(0.4%)であったのに対し,ワクチン未接種者29万0030人のうちPCCと診断されたのは4118人(1.4%)であった.つまりワクチン接種はPCCリスクの低下と関連しており(調整ハザード比0.42,95%CI 0.38~0.46),ワクチン接種による抑制効果は58%であった(図4).1回,2回,3回以上接種の効果は,それぞれ21%,59%,73%であった.以上より,感染前のCOVID-19ワクチン接種によりlong COVIDのリスクを減少できることが示された.
BMJ. 2023 Nov 22;383:e076990.(doi.org/10.1136/bmj-2023-076990)



◆ニルマトルビル・モルヌピラビルはlong COVID発症を低下させるが,その効果は小さい.
米国の65歳以上の高齢者を対象として抗ウイルス薬のニルマトルビル(パクスロビド)とモルヌピラビル(ラゲブリオ)が,long COVIDの発症を抑制するか検討した研究が報告された.外来患者397万5690人のうち,57%が対象となった.このうち19.5%でニルマトルビルが,2.6%でモルヌピラビルが使用された.PCC発症率はニルマトルビル群で11.8%,モルヌピラビル群で13.7%,無治療群では14.5%であり,絶対リスク減少率はそれぞれ2.7%,0.8%であった(ハザード比は0.87,0.92).ワクチン接種の有無については考慮されていないという限界はあるが,感染後の抗ウイルス薬によるlong COVIDの抑制効果はあっても小さいと考えられた.
JAMA Intern Med. Oct 23, 2023.(doi.org/10.1001/jamainternmed.2023.5099)

◆パクスロビドは31あるlong COVID症状のほとんどを抑制できない.
ニルマトルビル(パクスロビド)によるlong COVID発症抑制効果を米国退役軍人において検討した研究が報告された.対象は9593人(男性86%,66歳)で17.5%はワクチン未接種であった.静脈血栓塞栓症および肺塞栓症の複合リスクの低下(サブハザード比,0.65)を除き(図5),ほとんどのPCC症状の罹患率において,治療群と対照群との間に差を認めなかった.著者は複合血栓塞栓イベントについても,多くのアウトカムを評価した結果,偶然に偽の相関が生じた可能性を議論している.
Ann Intern Med. 2023 Oct 31.(doi.org/10.7326/M23-1394)



◆ボルチオキセチンはCRPで調整すると認知機能を改善する.
カナダから,ボルチオキセチンがPCC患者の症状およびQoLへの効果を検討した研究が報告された.ボルチオキセチンはセロトニン(5-HT)の再取り込み阻害作用と5-HT受容体活性を直接調節する5-HT1A受容体刺激作用,5-HT1B受容体部分的刺激作用,5-HT3,5-HT1D,および5-HT7受容体拮抗作用などを有している.ボルチオキセチン群75名または偽薬群74名に割り付けた.主要評価項目は,数字符号置換検査(Digit Symbol Substitution Test:DSST)とした.これは注意力,集中力,短期記憶力など,複数の認知機能を必要とする操作を行わせて情報処理能力を評価する検査である.結果は,認知機能に有意差はなかった(p = 0.361).しかし完全調整モデルでは,ベースラインのCRPをモデレーターとした場合,ボルチオキセチンの有効性が示された(p = 0.012).さらにCRPが平均値以上の患者において,DSSTスコアの有意な改善が認められ(p = 0.045:図6),うつ症状(p<0.001)およびHRQoL(p<0.001)でも改善が得られた.
Brain, 2023;, awad377(doi.org/10.1093/brain/awad377)







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