Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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若手医師が語る,難病支援への情熱と関わることの難しさ

2013年11月15日 | 医学と医療
「第1回難病医療ネットワーク学会学術集会(大阪)」に参加した(2013年11月8日~9日).平成16年から行われてきた日本難病医療ネットワーク研究会が前身で,本年度から,職種や所属の枠を超え,幅広く難病の課題を検討し,医療とケア体制の向上を図ることを目的とする学会として再スタートした.国の難病対策が転換期を迎える時期にあたるこの時期に,難病対策の見直しの経緯や基本理念,今後の対策の方向性について詳しい話を聞くことができとても有意義であった.個人的には,多系統萎縮症の臨床・ケアについて教育講演をさせていただいた.

他職種の会員が集まる学会で,興味深い発表が多かったが,とくに印象に残ったのは「若手医師が語る,難病支援への情熱と関わることの難しさ」というシンポジウムであった.過去にこのような試みの記憶はなく,斬新で熱気を帯びたシンポジウムとなった.3名の若手神経内科医が難病医療に対する本音を語り,これを出発点として,今後の課題を明らかにしようとする試みである.

まずこのシンポジウムが示したものは,2名の先生によるアンケートの結果から,「若手神経内科医は神経難病医療に関心を持つ者が少ないということは決してなく,むしろ興味を持つ医師が多い」ということである.「病院で入院中担当した受け持ちの患者さんの日常生活を知りたい」,「患者さんと時間をかけて付き合いたい」「人生観を教えてもらえることに魅力を感じる」などがその理由であった.

非常に嬉しく希望の持てる結果だが,実情は容易ではない.その理由は,興味があっても現行の研修プログラムでは入院診療を除くと難病医療に関わる機会が乏しいという問題がある.例えば大学病院で訪問診療を行っているところは少なく,診断確定や治療目的など,患者さんとは一時的な関わりに終わることが多い.神経難病医療について系統だった教育プログラムを行っているところも少なく,仮に研修中,往診に同行できたとしても,短時間・短期間の関わりではなかなか実際の難病医療は理解できない.加えて神経難病の緩和ケアについてもほとんど学ぶ機会がない.

さらに神経難病医療に携わる機会を得たとしても,若手医師の不安は大きいと言う.「いかに診断を確定したらよいのか?」「告知はどう行えばよいのか?」「患者さん,家族との信頼関係をいかに築くべきか?」「胃瘻・呼吸器の導入はどのように行えばよいか?」「福祉制度はどう適応すればよいのか?」等々・・・つまり診断,治療の意思決定,福祉制度といった知識・スキルを得る機会が少なく不安の原因となっているのだ.

フロアや座長の先生からは前向きな意見が聞かれた.学習プログラムを整備し,若手医師が難病医療に参加する機会を増やそう,在宅診療に行く機会を増やすシステムづくりをしよう,学会主導で診断・治療法・福祉制度に関する知識を学ぶ勉強会やウェブページを作ろう,難病医療に携わるドクターのキャリアパスを示そう,指導医も学習する機会を増やそう等々・・・さらに知識を得るだけではなく「自分で考える」ことが大切で,それが患者さん目線の新しい治療の開発につながっていくはずだ,との意見も聞かれた.

私は幸運なことに難病医療を開拓してきた先輩方を間近に見て学ぶ機会を得たが,難病医療の発展の歴史は,福祉サービスが何もないところからスタートし,困っている患者さんや家族の負担をいかに軽減できるかを「思いやり,考えて,行動する」ことの歴史のように思っている.私のメンターは,本学会でも基調講演をされたが,難病患者さんに携わる場合に重要であることは「いかに地域で支えるか」であり,その背景となる理念としてnormalization(人としてごく当たり前の生活ができるようにする)やperson-centered care(その人らしさを尊重したケア)の考えかたが大切だと強調する.そして自分もいつ難病になるか分からない同じ人間として,その患者さんや家族の立場に立った考え方ができるか,つまり同情(sympathy)ではなく,共感(empathy)を持って接することができるかが重要と言う.さらに自分の経験を付け加えて言うと,共感のためには困った患者さんや家族の気持ちや不安を「想像できること」が大切であると思う.共感や想像,そして自分の知識やスキルを困っている人の役に立てたいという気持ちが難病医療の原動力になるのではないかと思う.いかに神経難病医療に関心を持っている若手医師を育てていくか議論が必要である.

第1回難病医療ネットワーク学会学術集会

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