Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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第11回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(MDSJ 2017)@東京

2017年10月29日 | パーキンソン病
標題の学会が10月26日から28日にかけて行われました.教育的な講演から最新のトピックスまで大変充実した学会ですが,学会員が経験した貴重な患者さんのビデオを持ち寄り,その不随意運動や診断・治療について議論するイブニング・ビデオセッションは人気の企画です.ワインを飲みながらの楽しい会で,MDS(Movement Disorder Society)は,Must Drink Societyなのではと韓国のJeon教授が仰っていました(笑).
では今年の14症例の一覧を記載します.独断ですが,神経内科医がとくに覚えておくべき症例には★を付けました.

【問題編】
症例1.羞明を伴う両睫毛のつり上がりと,両眼の見開く感じが出現した82歳男性
71歳より上記症状が出現,暗所では改善した.瞬目が多く,両眼瞼は挙上し,前額部にしわ寄せあり.表面筋電図では,前頭筋と眼輪筋の共収縮を認めた.診断は?

症例2.周期的に右手を握るような不随意運動を認めた64歳女性
突然,右手指が動かしにくくなり,その2週間後に右手の不随意運動が出現した.右手は中手指節関節で屈曲位で,右手指が2-3秒毎に握るように(myoclonicに)屈曲する.右手掌の触覚低下,関節位置覚消失.MRIで右中心後回(感覚野)にFLAIR高信号病変,生検で星状細胞腫.この不随意運動は何か?

症例3.両下肢のしびれとふらつきを呈した66歳男性★
1年前から両下肢のしびれとふらつきが出現.半年前から構音障害.筋の被伸展性亢進,Romberg試験陽性,腱反射は,上肢は減弱,下肢は消失.診断は?

症例4.左半身痙攣様不随意運動と左半身麻痺を呈した21歳男性★
1ヶ月前から間欠的な左半身の痙攣様不随意運動(ヘミコレア+ヘミバリスム?)が出現.その後,進行性の左片麻痺が出現.神経学的に項部硬直,左側で腱反射亢進・バビンスキー徴候陽性.造影頭部MRIで,頭頂葉の一部に脳溝に沿ったエンハンスあり.診断は?

症例5.全身をくねらすような不随意運動を呈した57歳男性
首をくねらすような不随意運動(コレア)で発症し,両側手足や頭部に広がった.嚥下障害,構音障害,四肢腱反射亢進をみとめる.針筋電図では神経原性変化.診断は?

症例6.突然の転倒を繰り返した60歳男性★
午前中までは何ともなかったが,午後になり突然,転倒を繰り返した.上半身が突然,力が抜けるようになり,下肢にまで及び,崩れるように転倒する.見当識障害,近似記憶障害あり.低Na血症(129),AVP 3.2 pg/ml1.頭部MRI FLAIRでは両側辺縁系に高信号病変,かつSPECTで過灌流.診断は?

症例7.重度の知的障害及び運動発達遅滞を伴う難治性てんかんの16歳女性と14歳男性
1例目は生後56日で難治性てんかんを発症,1歳4ヶ月で全身性不随意運動(激しいバリスム様).14歳右淡蒼球凝固術.重症の精神運動発達遅延を呈する.2例目(1例とは無関係)は,乳児期より精神運動発達遅延と筋トーヌス低下(坐位を保てず,立位はできても体幹が前屈する).7歳上肢の肢位異常,9歳で嚥下障害.てんかんなし.いずれの症例も頭部MRIでは異常なし.両者は表現型は異なるが,同じ疾患であることがエクソーム解析の結果判明している.診断は?

症例8.動き出しにくさと喋りにくさを呈した27歳女性
4歳頃から歩きはじめの足の出にくさ,話はじめの言葉の出にくさ,閉眼後の目の開きにくさが出現したが,その後,症状の増悪はなく現在に至るまで安定.針筋電図でミオトニー放電.有効な検査および診断は?

症例9.発熱を契機とする一過性運動退行を反復し,失調を認めた4歳幼児
発熱を契機とした一過性退行(注)を認めた.1才児から失調(体幹と頭のふらつき)を含む複雑な運動症候を呈した.神経学的には小脳症状(発語不明瞭,筋トーヌス低下),下肢腱反射消失を呈した.頭部MRIでは異常なし.診断は?

注:退行(regression)神経内科ではあまり使わない用語であるため辞書の記載を以下にコピー.
正常な精神機能や自我機能が低下し,幼児返りした状態。自然発生的と操作的の2つの退行に分けられる。前者には健康的退行と病的退行が含まれる。治療上問題となるのは病的退行であり,精神発達レベルを反映する。精神分析療法では退行現象を治療機序として利用する。

症例10.眼瞼下垂と四肢の不随意運動を呈した3歳女性例
生後直後から両側の眼瞼下垂と,覚醒時の持続する四肢の不随意運動が出現した.流涎過多と易刺激性あり.髄液HVA↓,5HIAA→,HVA/5HIAA↓.診断は?

症例11.動作の遅さ,手の震えを呈した62歳男性例
20歳代から慢性円盤状エリテマトーデス.発熱後,動作の遅さが出現した.とくに動き始めに目立った.その後手の震えが出現.さらに四肢,体幹に皮疹が出現した.四肢に左右差のある筋強剛,歩行時左arm swing低下.白血球減少,肝腎障害,髄液IL6上昇.dsDNA抗体陽性.MIBG心筋シンチ,DATスキャン正常.診断は?

症例12.乳児期より頸部を中心とした全身性ジストニア
在胎25週,824g.20日間人工呼吸器を装着したが,合併症なし.以後,定頸を認めず,胃食道逆流を発症.体幹の後弓反張位.5歳,体幹筋トーヌス低下,定頸なし,頸部と両側上肢のジストニア著明.診断は?

症例13.全身性ジストニアと著明な首下がりを呈した40歳男性
生後数カ月から発達遅滞,10ヶ月から強直間代発作.徐々に体幹・四肢の強直肢位,捻転運動が出現.14歳から頸部保持困難.側弯.頭部CTにて両側基底核,歯状核に石灰化.診断は?

症例14.断続的に起こる発作的な四肢の強直と呼吸困難が問題になった17歳女性★
5歳で易転倒性,12歳伝え歩き,構音不能,嚥下障害,14歳車椅子,15歳,夜間を中心に四肢を強直させ,大きく開口して,気道閉塞ないし息こらえして低酸素血漿が出現,「わー」と叫んでのたうち回る発作が数分間感覚で出現(dystonic attackと考えた).NPPVを嫌がり導入困難.徐々に体重減少.優性遺伝家系,表現促進現象あり.筋トーヌス低下,内反尖足,四肢腱反射亢進,バビンスキー徴候陽性,びっくり眼.診断は?


【解答編】
症例1.前頭筋主体の孤発性上部顔面ジストニア
前頭筋へのボツリヌス毒素注射にて症状は改善し,表情も穏やかになった.

症例2.持続性部分てんかん(Eplepsia Partialis Continua; EPC)
同速の顔面にも動悸して不随意運動あり.抗てんかん薬(クロナゼパム)で徐々に改善した.

症例3.神経梅毒
駆梅療法で下肢のしびれは消失.筋トーヌスも正常化した.梅毒は近年,増加しているため,この疾患を認識する必要がある.

症例4.MOG抗体陽性の髄膜脳炎
ステロイド投与により症状は著明に改善した.血清および髄液のMyelin Olygodendrocyte Glycoprotein1(MOG)抗体陽性が判明.良性,片側,てんかんを伴う大脳皮質性脳炎が4例(すべて男性,20-30歳代)が東北大学から報告されている.異常行動,意識障害を合併しうる.髄液単核球優位の細胞数増加,蛋白増加.ステロイドで完全回復,再発なし.
Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2017 Jan 16;4(2):e322.

症例5.ALS with PNLA(pallido-nigro-luysian atrophy)

既報では筋力低下のような下位運動ニューロン徴候にて発症しているが,本例では舞踏運動から発症した.珍しいケースだが,コレア発現の機序が不明.

症例6.VGKC複合体関連辺縁系脳症
Facio-brachio-dystonic seizure (FBDS)が短時間(3秒以内),1日で数十回から数百回出現する.片側上肢と同側の顔面に出現するが,下肢にも波及し,Facio-brachio-crural dystonic seizure (FBCDS)も生じ,歩行障害が生じうる.Cruralは脚の意味.

症例7.GNAO1遺伝子変異
本邦から特定された難治性てんかんの原因遺伝子.両親に異常のないde novo突然変異を来す.GNAO1は3量体Gタンパク質のαサブユニット(Gαo)をコードし,細胞内シグナル伝達に関与する.変異タンパク質は,細胞内局在やタンパク質の安定性などに影響をおよぼし,その結果としてカルシウム電流の異常が引き起こされる.

症例8.Short Exercise TestとNaチャネルミオトニア
SCN4A遺伝子変異.常染色体優性遺伝.発症年齢0-10歳.運動やカリウム摂取後の筋のこわばり.痛みを伴うミオトニーの頻度が高い.生命予後良好だが,全身麻酔ではリスクあり.治療はメキシレチンで症状は改善した.演者はこの症例にめぐりあい,神経内科入局を決めた(拍手喝采).

症例9.RECA(Relapsing encephalopathy with cerebellar ataxia)
ATP1A3関連疾患のうちで,非常にまれな表現型.発熱に伴い小脳性運動失調と意識障害のエピソードを繰り返す.ちなみに今年のMDS(バンクーバー)でも,ATP1A3関連疾患はビデオオリンピックで提示された.

症例10. チロシン水酸化酵素(TH)欠損症.
運動寡少,筋トーヌス低下で発症し,腱反射亢進,錐体路徴候,眼瞼下垂(交感神経作動点眼薬で改善),縮瞳を伴う.THはチロシンをドパミンに水酸化する酵素で,カテコールアミンの合成に必須の酵素.ドパミン生成障害を主体とし,ドパ反応性ジストニアの病像を呈する症例もあるが,ノルアドレナリン生成障害を併発,進行性の脳症を呈する例が主体.

症例11.パーキンソニズムを伴った中枢神経ループス
中枢神経ループスに伴う不随意運動としてはコレアが多いが,パーキンぞニズムを呈することもある.

症例12.診断未確定
何らかの遺伝子変異を持つ(セピアプテリンリダクターゼ欠損症,GCH1,THAP1,GNAO1遺伝子など)?脳性麻痺との鑑別も必要.

症例13.アイカルディ-ゴーシェ症候群(Aicardi-Goutieres Syndrome;AGS)
Fahr病やCocaine症候群が疑われたが,遺伝子診断で否定.エクソーム解析の結果,大脳基底核および白質の石灰化を特徴とする常染色体劣性の変性脳疾患であるAGSの診断.慢性の脳脊髄液リンパ球増加症および脳脊髄液中の IFNα レベルの上昇を伴い,進行性の神経機能障害を来す.乳児期に発症し,40%程度が死に至る.10-20歳代で失調にて発症する.認知症,痙性対麻痺を認める.性腺機能障害あり.高度の小脳萎縮を認める.

症例14.MJD/SCA3(ataxin-3 89リピート)
MJDに詳しい西澤正豊新潟大学名誉教授の話では,同様の発作を呈した重症例の経験あるとのこと.

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橋田さんの“安楽死宣言”から「死の医学」を考える

2017年10月07日 | 医学と医療
NHKクローズアップ現代+の「橋田壽賀子 92歳の“安楽死宣言”」を見た.「渡る世間は鬼ばかり」などで知られる日本を代表する脚本家に対するインタビューである.「安楽死・自殺幇助」と「死の医学」について改めて考えさせられた.

1)自殺幇助により息を引き取ったALS患者
番組で一番,衝撃的であったのは,ALSと思われる米国人男性が,自殺幇助(他人が自殺しようとするのを手助けすること)により亡くなる場面であった.死の直前のインタビューに「人生に疲れたわけではない,病気に疲れたんだ.これからも人生を楽しみたい,しかしそれができないんだ」と答えた男性は,タイマーで人工呼吸器のスイッチが切れるようセットしたあと,医師が処方した大量の鎮静催眠薬を自ら飲み,その後5分ほどして息を引き取った(写真上).ALS患者さんにおける自殺の問題については,当ブログにおいて二度ほど取り上げたが(下記),実際の場面を見たのは初めてであり,強いショックを受けた.
 自殺幇助を支援する民間団体で外国人も受け入れているのは,スイスにある「ディグニタスDignitas(尊厳)」のみであり,上記の自殺幇助もこの団体により行われた.世界各国から毎年数百人の入会があるという.医療記録を分析し,生き続けるのが困難だと判断され,かつ本人の判断能力が保たれていた場合のみ,致死薬が処方される.ただしスイスでも安楽死は違法で,自殺幇助のみ可能である.よって最後の瞬間は,医師が注射や点滴をするのではなく,上記のように処方された致死量の薬を自分で飲む必要がある.
 ただし入会した人で,実際に自殺幇助を受けるのは全会員の3%ということである.これは積極的に自殺幇助を望んでいるわけではなく,「人生の質の問題を改善できる選択肢を求めて入会するため」と解釈されている.ちなみに日本では積極的安楽死はもちろん,医師による自殺幇助も認められていない(写真下).

2)橋田さんが考える安楽死

橋田さんが安楽死を望む理由は「世の中の役に立たず,迷惑だけかけるようになったら生きていたくない」「ただベッドに横たわって死を待つのは嫌だ.まして,意識のない状態で延命措置をされてしまうなど,まっぴらごめんだ」という言葉につきる.また「生や死のあり方は人それぞれさまざまであって,人生の閉じ方は自身で選ぶべきもの」という考えだ.安楽死はその選択肢の一つであって,それが担保されていれば,不安を抱えず生きていけると考えている.上記の「人生の質の問題を改善できる選択肢を求めている」ことと同じように思える.
 さらに橋田さんは「安楽死はあくまで本人が希望して,家族が納得して,医師や弁護士など第三者の専門家が認めれば叶えられるという制度の上で行うべき」と提案している.いろいろな意見があると思うが,個人的には橋田さんの考えは十分に納得できるものであった.

3)「死の医学」の必要性
橋田さんの著書の「安楽死で死なせて下さい (文春新書)」も併せて読んだが,そのなかには医師に向けた印象的な言葉が出てくる.
①大学の医学部は,患者を少しでも助ける方向にエネルギーを注いで,死のことを学生に教えてこなかった.だから,死のことは苦手だと思っている医者が多い(対談をした鎌田實先生のことば).
②治療しなければ罪という文化の見直しが必要である.病気を治して患者の命を救うことはもちろん大切だが,患者をいかに幸せに死なせるかという医療分野だって,もっと発達していいはず.その人のプライドを守って,平穏に死なせてあげることも,お医者様の大きな使命であってほしい.

医学部で「死の医学」を十分に教えていないという指摘は事実であると思う.自身の経験を振り返ると,人間の死について初めて真剣に考えたのは,大学院生の時に日当直のアルバイトをした老人病院で,栄養を胃ろうから摂り,コミュニケーションも不可能なお年寄りの死亡診断書をたくさん書いたときであったように思う.当直しながらキューブラー・ロスの「死ぬ瞬間」,柳田邦男の『「死の医学」への序章』から,立花隆の「脳死」や「臨死体験」に至るまで死に関する本を何冊も読んだ.担当する疾患の特徴のため,患者さんの死にはほとんど立ち会わない診療科もあるが,このような経験がなければ,「死の医学」は苦手であると思って当然だろう.

4)「死の医学」における神経内科の役割
逆に「死の医学」に近い位置にあり,「その人のプライドを守り,平穏に死なせることも医師の使命である」という問題に,真摯に取り組んできた診療科のひとつが神経内科ではないだろうかと思う.それにはALSという疾患の存在が大きい.「人工呼吸器を装着すべきか?」という究極の難問を提示するところから関わり,装着しないことを選んだ患者さんやご家族が,近い将来迎える死を少しでも納得できるものにするために,何ができるのかみんなが悩んできた歴史がある.
 番組の中でも,安楽死について悩む人々は,神経疾患の人が多かった.安楽死制度を認めてほしいと求める寝たきりの妻を介護する夫,安楽死を認めてほしいと願う反面,どんな状態でも生きていくべきではないかと悩むパーキンソン病類縁疾患の患者さん,「安楽死はあなたのことはもう面倒見れないと言われているに等しい」と考え,強く反対するALS患者夫婦と,神経疾患と安楽死は密接なつながっていると改めて認識させられる.すなわち,難病や認知症といった進行性で,長く付き合う必要のある病気を担当する神経内科医はこの問題を避けて通れないということだ.生かすだけの医療に専念するのではなく,患者さんのもつ個々の死生観に目を受けて,さまざまな選択肢を提供する医療を目指す必要があるのではないだろうか.

92歳の“安楽死宣言”橋田壽賀子 生と死を語る(NHK)
安楽死で死なせて下さい (文春新書)
過去のブログ記事
“私の人工呼吸器を外してください”~「生と死」をめぐる議論~
ALSにおける自殺の検討




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補体C1qに対する抗体は,視神経脊髄炎関連疾患のバイオマーカーである

2017年10月04日 | 脱髄疾患
当科のYoshikura N 先生らが,最近,J Neuroimmunol誌に報告した論文を紹介したい.補体C1qに対する抗体価が,視神経脊髄炎関連疾患(neuromyelitis spectrum disorders spectrum disorders, NMOSD)では上昇するという報告である.この抗体は,脳内において抗原抗体複合体に結合した補体C1qに結合し,補体反応の活性化を促し,免疫・炎症に関わるだけではなく,血管側ではWnt/β-cateninシグナルを活性化することが知られている.血管内皮細胞においてWntシグナルは,タイトジャンクションを形成する主要蛋白claudinの発現量を増加させる.もし抗C1q抗体がこのシグナルを阻害するとすれば,claudinの発現量が減少して,血液脳関門が脆弱になる.つまりこの抗体は,脳内でも血管でもNMOSDの病態に関与する可能性がある.

さて研究の方法であるが,急性期NMOSD患者15名(全例,抗AQP4抗体陽性),急性期MS患者13名,健常者15名にて血清抗C1q抗体を測定した.また同じNMOSD,MS患者と身体表現性障害患者(疾患コントロール)10名において髄液抗C1q抗体価を測定した.急性期NMOSD患者において,血清および髄液抗C1q抗体価と,臨床所見,画像所見との関連性も調べた.

結果であるが,血清および髄液抗C1q抗体価は,NMOSD患者では他群に比較して有意に高値であった.髄液抗C1q抗体価は急性期の重症度を示す所見,具体的にはEDSSの悪化度(急性期とベースライン時の差),脊髄病変の長さ,髄液蛋白量,髄液IL-6値,Q-alb値(髄液Alb÷血中Alb)との間にも正の相関を認めた.

以上より,髄液抗C1q抗体価は,疾患の重症度を反映するNMOSDの新たなバイオマーカーとして利用できる可能性が示唆された.また病態に関して,上記の機序のほか,アストロサイトの膜表面上に発現するAQP4,抗AQP4抗体,補体C1qからなる複合体に,さらに抗C1q抗体が結合し,より強力な補体介在性の細胞障害が生じる可能性もある.

吉倉延亮先生は本研究の要旨を第23 回世界神経学会議(WCN2017)においてポスター発表した.最初に質問をしてくれた先生はとても関心を持ってくださり,10分にも渡って次々と質問してくださったそうだ.最後にお名前を伺ったところ,その先生は神経免疫学の大家であるVanda Lennon先生(Mayo Clinic)だと分かり,吉倉先生は驚くとともに大変感動したようだ.そして動物実験等を行い,この抗体の役割をさらに明らかにするようアドバイスをいただいたそうだ.海外学会はこのように,最先端の研究者と身近に触れ合えるチャンスがある.若い先生方にはどんどん海外学会で発表し,留学もして,どんどん世界に向けて羽ばたいてほしいと思う.

Yoshikura N et al. Anti-C1q autoantibodies in patients with neuromyelitis optica spectrum disorders. J Neuroimmunol 310, 150-7, 2017


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