エダラボン第2相試験の論文を読んでみたい.治験の対象は孤発性ないし家族性ALSと診断した20症例である.除外症例としては,気管切開施行例,人工呼吸器管理例,呼吸困難の訴えのある症例,進行癌患者,心不全患者,20歳未満の症例,ALSFRS-R(ALS機能障害度スコア)が安定している症例である.
方法としては,20例のうち5例に対してはエダラボン30mg/day,15例に対しては60mg/dayを2週間点滴静注し,2週間の休薬をする.これを1サイクルとして,計6サイクル繰り返す(約半年間のstudyである).primary endpointはALSFRS-Rで,secondary endpointとして髄液中の3-nitrotyrosine (CSF-3NT)濃度を測定している.このCSF-3NTは酸化的ストレスの指標と考えられ,ALSで上昇するという報告がある.つまり本研究のデザインは,治療前後の6ヶ月間でALSFRS-Rの悪化のスピードが抑制できるのか調べようというものである.
評価は60mg/day群のみを用いて行っている.まず20例中で60mg群の1例が診断が異なっていたことが判明し,さらに30mg群と60mg群の各1例が症状の増悪のため6ヶ月間の治験を継続できず中止し,そして60mg群の1例が副作用のため除外されている.その結果,60mgを投与した12例を用いて解析を行っている.結果としては60mg群での投与前6ヶ月間のALSFRS-Rの低下が4.7であったのに対し,投与中6ヶ月では2.3であり,有意に進行のスピードは抑制された(p=0.039).さらにsecondary endpoint のCSF-3NTも治験終了時には検出できないレベルにまで低下していた.副作用は1例で軟便・下痢を認めたが,それ以外問題となるようなものはなかった.結論としてエダラボンは安全であり,酸化的ストレスを抑制することで運動機能障害の進行を抑制する可能性がある,と述べている.
さてこの論文の問題点について議論したい.まず試験デザインは,対照群を置かず単一施設で行われた前向きオープンラベル試験であり,対象症例数も少なく,このデザインでは患者および医師のbiasの影響は避けられず,エビデンスレベルは高くはないと言わざるを得ない.またALSFRS-Rは経過中,直線状に悪化を示すという報告はあるものの,選択したコホートが本当に直線状に運動機能の悪化を示すのか対照群を用いて示すことは必要である.そして一番の問題はITT(Intention-to-Treat)解析が行われていないことである.臨床試験のデータを統計解析するときに2つの考え方があるが,これがITT解析とPPB(Per Protocol Based)解析である(後者はon treatment解析とも呼ばれる).ITT解析とは治療しようとした全例を解析対象とするもので,多少のプロトコール逸脱例も解析対象に含める.逆にPPB解析というのはプロトコール通りに実施された症例のみを解析する方針である.ほとんどの臨床試験ではITT解析が行われるが,これは,安易に解析除外を後で行うことは薬剤の効果判定において危険であるためである.本研究の場合も,「薬を飲んでもらおうと意図した時点での効果の見積もり」を行う必要があり,症状の増悪や副作用のため治験を継続できなかった症例も解析に加えることが妥当であろう.よってそのような解析をした場合,p値は0.039ほどなので,有意差が消失してしまう恐れもある.そのほか,どの病期の症例にエダラボンが有用であるかという点が不明であること,CSF-3NTが本当にALSの分子病態に重要であるのか不明であり2次エンドポイントがどれほどの意味を持つかという問題点もある.
本研究をEBM(エビデンスに基づく医療)の観点から読むと以上のような解釈になり,この治験のみからエダラボンが有用であると結論付けることは早計である.しかしそもそも第2相試験とは,有効性が期待される症例を対象に,用法・用量などを検討する試験であることから,今後,無作為化,マスキング化といった研究デザインや,評価の方法をより適切なものとした第3相試験が無事に終了し,その治療効果が証明されることを祈りたい.
Amyotroph Lateral Scler 7:241-245, 2006
方法としては,20例のうち5例に対してはエダラボン30mg/day,15例に対しては60mg/dayを2週間点滴静注し,2週間の休薬をする.これを1サイクルとして,計6サイクル繰り返す(約半年間のstudyである).primary endpointはALSFRS-Rで,secondary endpointとして髄液中の3-nitrotyrosine (CSF-3NT)濃度を測定している.このCSF-3NTは酸化的ストレスの指標と考えられ,ALSで上昇するという報告がある.つまり本研究のデザインは,治療前後の6ヶ月間でALSFRS-Rの悪化のスピードが抑制できるのか調べようというものである.
評価は60mg/day群のみを用いて行っている.まず20例中で60mg群の1例が診断が異なっていたことが判明し,さらに30mg群と60mg群の各1例が症状の増悪のため6ヶ月間の治験を継続できず中止し,そして60mg群の1例が副作用のため除外されている.その結果,60mgを投与した12例を用いて解析を行っている.結果としては60mg群での投与前6ヶ月間のALSFRS-Rの低下が4.7であったのに対し,投与中6ヶ月では2.3であり,有意に進行のスピードは抑制された(p=0.039).さらにsecondary endpoint のCSF-3NTも治験終了時には検出できないレベルにまで低下していた.副作用は1例で軟便・下痢を認めたが,それ以外問題となるようなものはなかった.結論としてエダラボンは安全であり,酸化的ストレスを抑制することで運動機能障害の進行を抑制する可能性がある,と述べている.
さてこの論文の問題点について議論したい.まず試験デザインは,対照群を置かず単一施設で行われた前向きオープンラベル試験であり,対象症例数も少なく,このデザインでは患者および医師のbiasの影響は避けられず,エビデンスレベルは高くはないと言わざるを得ない.またALSFRS-Rは経過中,直線状に悪化を示すという報告はあるものの,選択したコホートが本当に直線状に運動機能の悪化を示すのか対照群を用いて示すことは必要である.そして一番の問題はITT(Intention-to-Treat)解析が行われていないことである.臨床試験のデータを統計解析するときに2つの考え方があるが,これがITT解析とPPB(Per Protocol Based)解析である(後者はon treatment解析とも呼ばれる).ITT解析とは治療しようとした全例を解析対象とするもので,多少のプロトコール逸脱例も解析対象に含める.逆にPPB解析というのはプロトコール通りに実施された症例のみを解析する方針である.ほとんどの臨床試験ではITT解析が行われるが,これは,安易に解析除外を後で行うことは薬剤の効果判定において危険であるためである.本研究の場合も,「薬を飲んでもらおうと意図した時点での効果の見積もり」を行う必要があり,症状の増悪や副作用のため治験を継続できなかった症例も解析に加えることが妥当であろう.よってそのような解析をした場合,p値は0.039ほどなので,有意差が消失してしまう恐れもある.そのほか,どの病期の症例にエダラボンが有用であるかという点が不明であること,CSF-3NTが本当にALSの分子病態に重要であるのか不明であり2次エンドポイントがどれほどの意味を持つかという問題点もある.
本研究をEBM(エビデンスに基づく医療)の観点から読むと以上のような解釈になり,この治験のみからエダラボンが有用であると結論付けることは早計である.しかしそもそも第2相試験とは,有効性が期待される症例を対象に,用法・用量などを検討する試験であることから,今後,無作為化,マスキング化といった研究デザインや,評価の方法をより適切なものとした第3相試験が無事に終了し,その治療効果が証明されることを祈りたい.
Amyotroph Lateral Scler 7:241-245, 2006