Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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ALSに対するエダラボン第2相試験(下)

2006年12月31日 | 運動ニューロン疾患
 エダラボン第2相試験の論文を読んでみたい.治験の対象は孤発性ないし家族性ALSと診断した20症例である.除外症例としては,気管切開施行例,人工呼吸器管理例,呼吸困難の訴えのある症例,進行癌患者,心不全患者,20歳未満の症例,ALSFRS-R(ALS機能障害度スコア)が安定している症例である.
 方法としては,20例のうち5例に対してはエダラボン30mg/day,15例に対しては60mg/dayを2週間点滴静注し,2週間の休薬をする.これを1サイクルとして,計6サイクル繰り返す(約半年間のstudyである).primary endpointはALSFRS-Rで,secondary endpointとして髄液中の3-nitrotyrosine (CSF-3NT)濃度を測定している.このCSF-3NTは酸化的ストレスの指標と考えられ,ALSで上昇するという報告がある.つまり本研究のデザインは,治療前後の6ヶ月間でALSFRS-Rの悪化のスピードが抑制できるのか調べようというものである.
 評価は60mg/day群のみを用いて行っている.まず20例中で60mg群の1例が診断が異なっていたことが判明し,さらに30mg群と60mg群の各1例が症状の増悪のため6ヶ月間の治験を継続できず中止し,そして60mg群の1例が副作用のため除外されている.その結果,60mgを投与した12例を用いて解析を行っている.結果としては60mg群での投与前6ヶ月間のALSFRS-Rの低下が4.7であったのに対し,投与中6ヶ月では2.3であり,有意に進行のスピードは抑制された(p=0.039).さらにsecondary endpoint のCSF-3NTも治験終了時には検出できないレベルにまで低下していた.副作用は1例で軟便・下痢を認めたが,それ以外問題となるようなものはなかった.結論としてエダラボンは安全であり,酸化的ストレスを抑制することで運動機能障害の進行を抑制する可能性がある,と述べている.

 さてこの論文の問題点について議論したい.まず試験デザインは,対照群を置かず単一施設で行われた前向きオープンラベル試験であり,対象症例数も少なく,このデザインでは患者および医師のbiasの影響は避けられず,エビデンスレベルは高くはないと言わざるを得ない.またALSFRS-Rは経過中,直線状に悪化を示すという報告はあるものの,選択したコホートが本当に直線状に運動機能の悪化を示すのか対照群を用いて示すことは必要である.そして一番の問題はITT(Intention-to-Treat)解析が行われていないことである.臨床試験のデータを統計解析するときに2つの考え方があるが,これがITT解析とPPB(Per Protocol Based)解析である(後者はon treatment解析とも呼ばれる).ITT解析とは治療しようとした全例を解析対象とするもので,多少のプロトコール逸脱例も解析対象に含める.逆にPPB解析というのはプロトコール通りに実施された症例のみを解析する方針である.ほとんどの臨床試験ではITT解析が行われるが,これは,安易に解析除外を後で行うことは薬剤の効果判定において危険であるためである.本研究の場合も,「薬を飲んでもらおうと意図した時点での効果の見積もり」を行う必要があり,症状の増悪や副作用のため治験を継続できなかった症例も解析に加えることが妥当であろう.よってそのような解析をした場合,p値は0.039ほどなので,有意差が消失してしまう恐れもある.そのほか,どの病期の症例にエダラボンが有用であるかという点が不明であること,CSF-3NTが本当にALSの分子病態に重要であるのか不明であり2次エンドポイントがどれほどの意味を持つかという問題点もある.

 本研究をEBM(エビデンスに基づく医療)の観点から読むと以上のような解釈になり,この治験のみからエダラボンが有用であると結論付けることは早計である.しかしそもそも第2相試験とは,有効性が期待される症例を対象に,用法・用量などを検討する試験であることから,今後,無作為化,マスキング化といった研究デザインや,評価の方法をより適切なものとした第3相試験が無事に終了し,その治療効果が証明されることを祈りたい.

Amyotroph Lateral Scler 7:241-245, 2006
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ALSに対するエダラボン第2相試験(上)

2006年12月25日 | 運動ニューロン疾患
 ALSに対するエダラボンの第2相試験の結果に関する論文が報告された.第2相試験とは,第1相試験で治験薬の安全性と薬物動態を明らかにした後,その有効性が期待される患者を対象に,用法・用量などを検討する試験である.フリーラジカル消去剤であるエダラボンは,本邦においては,患者,家族のみならず,医師にとってもきわめて関心のある薬剤である.エダラボンの薬効に関する現時点における情報を正しく理解すること,さらに将来,新薬として承認されるために今後,何が必要になるのかを考えることはとても重要なことである.
 さて,論文の話に移る前に,どのようなポイントに注意して,薬効を評価すべきかについて議論したい.その理由は,薬剤の効果を正しく判定することは実は想像以上に難しいことを認識する必要があるためである.とくに患者・家族・主治医のように新しい薬剤を切望するものにとってはバイアスbias(英語で「先入観」などの意味をもつ)のため難しくなる.例えば,患者さんに「この薬はとてもよく効く薬である」と言って薬を渡した場合と,「効果は期待できず,副作用が出てしまうかもしれない」と言って薬を渡した場合とでは,かなりの確率でその効果の結果に差がでてしまう.このように情報により招くバイアスを情報バイアスという.患者さんだけでなく医師さえも評価の際に情報バイアスに影響を受ける.よってエビデンス・レベルの高い臨床研究の際にはどれが新薬かプラセボかを患者のみならず医師も知らされないで行われる必要がある(二重盲検;マスキング).
 またバイアスにはさまざまな種類があり,選択バイアス(治験の対象に選ばれた患者と,選ばれなかった患者との間に見られる特性の差によって生ずるバイアス)や交絡バイアス(2つの因子が関連して動き,一方の効果が他方の効果と紛らわしかったり,歪曲されるとき起こるバイアス)などがある.
 バイアスにはまだまだ様々なものがあるが,これらを回避し正しい効果をもたらす薬剤であるかを正しく判断するために,最終的には被験者を恣意的に特定の治療群に割り付けるバイアスを減らすための無作為化(ランダム化)や,様々な検査値の測定や、診察・評価から主観に基づく偏り(バイアス)を取り除くためのマスキングは必須となる.さらに薬剤の有効性を正しいエンドポイント(治療行為の意義を評価する為の評価項目)で判断しているかも重要である.例えば,ある不整脈の新薬は,心電図異常の改善を指標にすると素晴らしい効果を認めたが,実は重篤な副作用のために結果的に寿命を縮めてしまう薬剤であった,ということでは困るわけである.この場合,心電図異常は代理エンドポイントと呼ばれ,臨床上重要ではあるものの,必ずしも臨床上のベネフィットを測るもの正しい指標(真のエンドポイント)ではない.言うまでもなく,真のエンドポイントは生命予後の改善である.上記の例は薬効を見るだけでなく,有害事象(副作用)についても正しく判断する必要性も示している.
 次回,ALSに対する第2相試験の結果について,上記に挙げた観点から議論してみたい.

くすりとエビデンス―「つくる」+「つたえる」

Amyotroph Lateral Scler 7:241-245, 2006
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脳血管病変を伴うアルツハイマー病

2006年12月17日 | 認知症
 アルツハイマー病は,遺伝歴を認める「家族性アルツハイマー病」と,認めない「孤発性アルツハイマー病」に大別される.また発症年齢により,65歳を境に若年性,および晩発性アルツハイマー病に分類することもできる.若年性アルツハイマー病の場合,何らかの遺伝素因が関与する可能性が高い.これまで家族性アルツハイマー病の原因遺伝子としてAPP(アミロイド前駆体タンパク質),プレセニリン1(PS1)、プレセニリン2(PS2)をコードする遺伝子が同定された.このなかでAPPは日本でも1991年にその遺伝子変異(717 valineがIsoleucineに変異する例)が新潟大学のnaruseらによって報告されたが,実際には日本人にAPP遺伝子変異が見出される頻度は少ない.

 さて今年はAlois Alzheimerが初めてアルツハイマー病を記載してからちょうど100年に当たり,種々の学術誌にもアルツハイマー病の歴史を回顧するreviewが掲載されている.その中で2006年におけるトピックスのひとつとして洩れなく取り上げられているのはAPP遺伝子の重複が若年性アルツハイマー病の原因になるという発見である.

 この報告はフランスにおいて優性遺伝を示す若年発症アルツハイマー病家系のうち,APP,PS1, PS2遺伝子に変異を認めない65家系中5家系(8%)において,APP遺伝子の重複が見つかったというものである(Nat Genet 38; 24-26, 2006).最近,それらの家系の詳しい臨床像がBrain誌に報告されたが,表現型は重複のサイズとは関係がなく,APP遺伝子が存在する第21番染色体のトリソミーで生じるダウン症候群とも臨床像は似ているわけではなかった.認知症は21症例全例で見られたが(発症年齢42~59歳),興味深い点として脳出血が26%(発症年齢53~64歳),痙攣が57%で認められた.画像では12例中6例で頭頂・後頭葉に虚血性の白質変化を認めた.病理学的に検索した5症例の所見としては,アルツハイマー病に典型的な所見に加え,強度の脳アミロイドアンギオパチー(脳の血管にアミロイドが沈着し血管が脆弱化→易出血性)を認めた.さらにBrain誌にドイツからの報告があるが,4世代にわたるひとつの大家系においてAPP遺伝子重複を発見し,さらに同じ地域の65例の若年性アルツハイマー患者において1例(1.7%)にAPP遺伝子重複を認めたと報告している.

 以上の結果は,最近,パーキンソン病において報告されているα-synuclein遺伝子の重複(duplication)やtriplicationによって優性遺伝性若年性パーキンソン病が発症するというメカニズムと似ており,遺伝子量が増えることで神経変性疾患が生じうることを示唆する.さらにもう一点興味深いことは,血管が脳実質とともにアミロイド沈着の主座となりうる点である.アルツハイマー病では程度は軽いものの血管にもアミロイドが沈着しうるが,これらの家系では虚血性変化や脳出血を合併するほど血管病変が強い.そういう意味で振り返ってみると血管病変を合併するアルツハイマー病はこれまでも複数されている.

A692Q変異(脳出血+認知症)
E693Q(遺伝性脳出血;HCHWA-Dと言われる)
E693K(イタリア型)
E693G(脳出血を伴わないアミロイドアンギオパチー)
D694N(スペイン,脳出血)
L705V(脳出血を伴うアミロイドアンギオパチー)
A713T(認知症+多発脳梗塞)

 つまりAPP遺伝子変異によっては血管病変が顕著となるタイプがあることが分かり,どのような機序で脳実質とか血管とかAβの沈着部位が決定されるのか興味深い.

 さて若年性アルツハイマー病は,映画「明日の記憶」や「私の頭の中の消しゴム」でも取り上げられたが,近年,社会的関心が高まっている.旧厚生省の研究班が1996年度行ったアンケート調査の結果からは,全国の若年性認知症患者数を2万7000~3万5000人と推計している.働き盛りや子育て中に発症するため,本人や家族の経済的・精神的負担が大きいが,高齢者に比べると受け入れ施設は少なく,公的な支援は十分に整っていないという大きな問題がある.厚生労働省は,65歳未満で発症する若年性認知症について,初の本格的な実態調査を行うことを決めたが,全国の患者数の推計のみならず,医療・介護保険の状況を把握することで,適切な支援が行われることを行政に期待したい.

Brain 129:2966-76, 2006
Brain 129:2977-83, 2006
Brain 129:2984-91, 2006

明日の記憶
私の頭の中の消しゴム

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脳梗塞においてt-PAによる血栓溶解が有効であるかMRIで鑑別する方法

2006年12月09日 | 脳血管障害
 血栓溶解薬t-PAはプラスミノゲンを限定分解し、プラスミンに活性化する。 プラスミンはフィブリンを分解し、線溶反応を担う。t-PAはフィブリンヘの親和性が高く、ストレプトキナーゼなど他の血栓溶解剤に比ベプラスミン活性化が血栓表面に選択的に行われるため、副作用である出血が生じにくい。しかしながら、出血合併症は皆無ではなく、t-PAの投与により血流が3時間以内に回復すれば虚血性神経細胞死が抑制されるものの、それ以降であれば虚血性の血管障害などに起因すると考えられる頭蓋内出血により死亡率が増加してしまう。このため、t-PAでは発症後3時間以内しか使用できないという制限がある。

 しかし発症後3時間以降の患者では有効例がいないかと言うとそうではない。ECASS-I、ECASS-II、ATLANTISといった大規模studyの結果を検証してみると、有効例が約40%、増悪例が約10%、効果も悪化も見られない例が約50%と3つのグループに分けられると推定される。では、どのような症例において有効性が見込まれるのであろうか?
 
 Stanford大学脳卒中センターのGreg Albers教授らは、発症後3~6時間におけるt-PAが有効である症例の特徴を、MRIを用いて見つけ出すことを目的とした研究を行った。彼らの仮説は、虚血性ペナンブラ(脳梗塞の周辺領域で、血流が低下しているものの、神経細胞は生存している部位)を有する症例ではt-PAによる血流再開が有効であり、虚血性ペナンブラがない症例はt-PAは無効(手遅れ)であるというものである。具体的には、虚血性ペナンブラを、「PWI(灌流画像)により評価した血流低下部位とDWI(拡散強調画像)による高信号領域(不可逆的な部位)の差」と定義し、PWIによる血流低下部位の体積がDWIによる高信号領域の体積の20%以上大きい場合、「PWI-DWI ミスマッチ陽性」と定義した。以上より、①ミスマッチ陽性群、②ミスマッチ陰性群、さらにPWIやDWIによる評価で、血流低下部位ないし高信号領域がきわめて大きい症例をMalignant MRI pattern群として3群に分類し、その予後を調べた。対象は北米および欧州の大学脳卒中センターに入院した連続する脳卒中患者74例で、症状発生3-6時間後のtPA静注による治療の直前および3-6時間後にMRIを撮像した。この研究はDEFUSE study (DWI / PWI Evaluation For Understanding Stroke Evolution)と名づけられた。

 結果としては、発症30日後の修正Rankinスケールを用いて各群の予後の比較を行うと、ミスマッチ陽性群ではt-PAによる血栓溶解は予後を有意に改善することが示された(オッズ比5.4、p=0.039)。一方、ミスマッチ陰性群では、t-PAによる血栓溶解は予後に影響しないか、むしろ悪化させること、さらにMalignant MRI patternを示す症例では血栓溶解により重篤な出血合併症を来たす可能性が高いことが判明した。
 
 以上の結果は、発症後3-6時間の症例でも、PWI-DWIミスマッチ陽性群ではt-PAが有効であることを示すとともに、PWI-DWIミスマッチ陰性群・Malignant MRI pattern群では、t-PAは再灌流障害を引き起こすことで予後を増悪させる可能性が考えられた。つまりペナンブラ領域が存在する患者を見つければ、たとえ発症後3-6時間の症例であっても治療効果が極めて良好である可能性を示している。やはり将来的には、脳卒中センターや病院では、現在の評価の標準であるCTスキャンを用いるのではなく、MRIにより脳卒中患者を評価することを考えるべきであろう。さらに血管を開通させるべきか、させないべきかという判断を考えながら治療を行うことが今後、重要になるものと思われる。つまり、Malignant MRI patternを示す症例では血栓溶解以外の方法(神経保護薬や低体温療法)を考えていかねばならないということであろう。

Annals of Neurol. publish on line; 25 Oct 2006
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ALSにおける神経保護薬の現状について

2006年12月04日 | 運動ニューロン疾患
ALSに対する神経保護薬として認可されているものは,アメリカでも日本でもRiluzole(商品名リルテック)のみである.残念ながら生存期間に対する効果は強力なものではなく,新たな神経保護薬の登場が待たれる.米国神経学会からALSに対する神経保護薬の臨床治験の状況についてのレヴューが報告されているので紹介したい.

目的は第Ⅲ相試験(実際の治療に近い形での効果と安全性を確認する試験.検証的臨床試験とも呼ばれる)を推進すべき薬剤は何であるか明らかにすることである.方法としては,識者や研究者が集まり,①理論上,ALSの病態に有用であると予想される薬剤,②すでに動物モデル(SOD1 G93Aマウス)やヒトにおける臨床試験で効果が検討されている薬剤,③ALSに対しすでに認可されている,もしくは認可が検討されている薬剤について,その有効性を,科学的根拠,安全性,動物モデルにおける有効性,ヒトへの応用の可能性という4つの観点から吟味した.結果は以下の通りである.

1. 神経保護効果ありそう → 113薬剤

2. そのうち有効性が高い → 24薬剤

3. 第Ⅲ相試験が予定されている → 2薬剤
Talampanel(抗グルタミン酸作用)
Tamoxifen(Protein kinase C阻害作用)

4. 第Ⅲ相試験 進行中 → 4薬剤
Ceftriaxone(抗酸化・抗グルタミン酸作用)
IGF-1 peptide(神経成長因子)
Minocycline(抗アポトーシス作用)
ONO-2506(抗グルタミン酸作用)

5. FDA(アメリカ食品医薬品局)認可 → 1薬剤
Riluzole(抗グルタミン酸,Naチャネル不活化)
1999年本邦でも認可.

2の24薬剤のうち,3から5以外のもの(AEOL 10150, arimoclomol, celastrol, coenzyme Q10, copaxone, IGF-1–viral delivery, memantine, NAALADase inhibitors, nimesulide, scriptaid, sodium phenylbutyrate, thalidomide, trehalose)は,有望ではあるもののさらに十分な評価を行った後,第Ⅲ相試験への移行が望ましいものである.

候補の薬剤を見て分かるように作用機序はさまざまである.今後,がんの治療などでも行われているように複数の薬剤の組み合わせによる治療も検討すべきと考えられる.また有効性がすでに示されているRiluzoleにしても,今後,類似体を開発するなどの試みも必要と考えられる.

問題点としては,よく指摘されることではあるが,家族性ALSのモデルマウスSOD1 G93Aマウスに対する効果が,ヒトの孤発性ALS の治療効果予測の目安になるかということである.実際にマウスで有用性が示されたcelebrexやcreatine,gabapentinといった薬剤はヒトの臨床治験で有効性を示すことができなかった.これはヒトとマウスという種の差や,研究室ごとに異なる実験デザインの問題なども関与しているものと考えられる.

このレヴューは毎年更新するようである.正しい評価に基づく治療薬が一刻も早く臨床の場にもたらされることを期待したい.

Neurology 67; 20-27, 2006
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治せない病気に対し、我々は何ができるか?

2006年12月04日 | 運動ニューロン疾患
ALSは神経内科医にとってきわめて重要な意義を持つ疾患である.学生や研修医にALSに対する自分たちの思いをどのように伝えていくかも神経内科医にとって大切な役目である。今回,ALSについての講義をする機会をいただいた.自分につとまるものか不安はあったものの,教科書的な話はできるだけ簡潔にまとめ,与えられた時間の多くを「治せない病気に対し、我々は何ができるか?」というテーマで話をさせていただいた.

ちょうど私が研修医であったとき,私の指導医は「神経内科には治せない病気がたくさんあるけど,それでも神経内科医にしかできないことはたくさんあるんだよ」ということを教えてくださった.その後,椿忠雄先生がおっしゃられた「治らない患者に普通の意味の医学はだめであっても医療の手は及ばないことはない」「私は神経系の神経変性疾患を治癒することはできない.しかし,患者に何らかの助けを与えることはできる」という言葉を本で目にして感銘を受けた.時間がたち,未熟なりにも若い先生方を指導する立場になったが,これら先輩からの教えを伝えることを心がけているつもりではいる.

今回の講義では,ALS患者さんにおけるコミュニケーション障害への工夫(文字盤、伝の心心がたり)、栄養管理の工夫(経鼻胃管、PEG、腸瘻、PTEG)、呼吸療養の工夫(スピーチカニューレ、BiPAP),そして治療薬開発に向けた取り組み(動物モデルや治験)を例に挙げ,まだ治せない病気に対する医療とはどういうものか説明をした.さらに告知の問題,安楽死や尊厳死・尊厳生の問題についてもALS患者さんの文章を題材にして議論した.学生もきわめて真摯に講義の内容を受け止めてくれたようだ.

「生きることの強さ,生きていく意味,人生とはどうあり,どう終わるべきか.それは,その人自身の問題だと思う.それを感じながら生きる神経内科は素敵な仕事だと素直に思った」 とても嬉しい感想を学生さんからいただいた.

最後に講義の参考にしたいくつかの本を紹介したい.

悪妻とのたたかい―神経難病ALSと共に

最高のQOLへの挑戦―難病患者ベンさんの事例に学ぶ

命の番人―難病の弟を救うため最先端医療に挑んだ男

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