Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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SCA 20番台

2005年12月27日 | 脊髄小脳変性症
follow up しきれない常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症の報告(ついにSCA28!).若年発症し,緩徐に進行する,4世代にわたるイタリア人家系1家系(11人の罹患者)の連鎖解析が報告された.平均発症年齢は19.5歳,表現促進現象なし.初発症状は体幹失調,歩行障害.注視方向性眼振も病初期からみられる.経時的にslow saccades,眼球運動障害,眼瞼下垂が見られるようになる.8割の症例で下肢の腱反射は亢進.遺伝子診断および連鎖解析で既知のSCAは否定された.genome-wide screen analysisではchromosome 18のマーカーへの連鎖が確認された(D18S53に対しlod score 4.20).ハプロタイプ解析ではcritical regionはD18S1418,D18S1104間の7.9 Mb(18p11.22–q11.2),この領域をSCA28 locusと名づけた.原因遺伝子は未同定.
以下にSCA20番台を列挙する.

SCA20;Anglo-Celtic originの1家系.発症年齢は19~64歳(平均46.5歳).初発症状は構音障害であることが特徴的で,のちに小脳失調,錐体路徴候,palatal tremorが出現する.CTで小脳歯状核石灰化を高率に認めることも特徴的.遺伝子座(11p13-q11)はSCA5と重複し,同一疾患か今後の検討が必要(Brain. 127:1172-81, 2004).

SCA21;4世代にわたるフランス人1家系(11人の罹患者).症状はさまざまで小脳失調, akinesia,構音障害,嚥下障害,hyporeflexia,振戦,筋強剛,認知障害など.発症年齢は 6~30歳で,表現促進現象はあるかもしれないと.遺伝子座は7p21.3-p15.1.(Ann Neurol 52: 666-670, 2002).

SCA22;中国人1家系の報告だが,のちにSCA19(ドイツ人1家系)と同じ遺伝子座に連鎖することが判明.ドイツ人家系は比較的軽度の小脳失調に,認知障害,ミオクローヌス,振戦を伴っていたが,中国人家系は軽度の小脳失調のみでADCA-IIIの範疇に分類されていた.表現促進現象はあるらしい.遺伝子座は1p21-q21(Brain 127: e6, 2004).

SCA23; 3世代にわたるオランダ人1家系.発症年齢は40~60歳代.表現促進現象は不明.小脳症状と深部覚の障害,腱反射の亢進を認める.1例で剖検が行われ,プルキンエ細胞層,歯状核,下オリーブ核の神経細胞脱落と小脳橋路の菲薄化,脊髄の後索・側索の脱髄,さらに若干の黒質ニューロンにおいてubiquitin陽性核内封入体(1C2抗体陰性)を認めた.遺伝子座は20p13-12.3(Brain 127; 2551-2557, 2004).

SCA24;なぜか常染色体劣性遺伝(注;SCA#は優性遺伝にのみ付けられる).よってOMIMではSAC24ではなくspinocerebellar ataxia with saccadic intrusions (SCASI)の名称で登録されている.小脳失調,錐体路症状,ミオクローヌス,眼球運動障害,pes cavusを呈する(Ann NY Acad Sci 956: 441-444, 2002).

SCA25;フランス人1家系.小脳失調を呈さない感覚性ニューロパチータイプから,小脳失調も認めるフリードライヒ型まで症状は様々.染色体2番短腕に連鎖し,剖検組織の1C2抗体では陽性に染色される構造物はなし(Ann Neurol 55: 97-104, 2004).

SCA26;ノルウェー人1家系.緩徐進行性の純粋小脳失調.発症年齢は26~60歳.MRIは小脳の萎縮のみ.染色体19p13.3における15.55cMの領域に連鎖.この遺伝子座はCayman ataxia(Cayman Islandで認められた常染色体劣性SCD.精神運動発達遅延と小脳失調を呈する.原因遺伝子産物caytaxin)とSCA6の遺伝子座位の近傍(Ann Neurol 57: 349-354, 2005).

SCA27;fibroblast growth factor-14(FGF14)遺伝子変異(13q34)に伴うSCDがいつの間にか SCA27と名づけられていた.最初の報告は3世代にわたるドイツ人家系.現在,10家系以上の報告がある.症状は小児期に振戦にて発症し,その後,dyskinesiaと緩徐進行性の小脳失調を呈する.(Am J Hum Genet 72: 191-199, 2003).

以上.臨床的に役に立つかどうか不明(鑑別診断に上記を加えると,オタク呼ばわりされるのは間違いない).

Brain 129:235-242, 2006
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ハチ刺し療法は多発性硬化症に効くか?

2005年12月21日 | 脱髄疾患
以前,当ブログで取り上げた「宮廷女官 チャングムの誓い」の一場面で,医女チャングムが治療手段としてハチの毒針を直接皮膚に刺している場面があった.「アナフィラキシーを起こすぞ!?」なんて思いながら見た覚えがあるが,韓国や中国の一部地域で現在も行われている治療らしい(http://j.peopledaily.com.cn/2003/09/17/jp20030917_32474.html :写真).さらに驚いたことにこのハチ刺し療法は多発性硬化症(MS)の再発予防としてヨーロッパでしばしば行われているらしい.その理論的背景としては,蜂毒にはmelittinおよびadolapinという強力な抗炎症物質が含まれること,ならびに apaminというCa-activated K-channelを抑制することで神経細胞の過分極を起こすペプチドを含んでいることが挙げられている.
 今回,オランダからハチ刺し療法の効果を検証する目的でrandomized, open, crossover trialが行われた.対象は26名(RRMSないしSPMS)で,ハチ刺し療法と無治療をcrossoverしている.観察期間は24週.ハチ刺し療法は週3回行われ,最高20匹(!)もの生きたハチに刺してもらう.Primary outcomeはT1-weighted MRIで評価した造影効果陽性のプラーク数. Secondary outcomeとして,T2*-weighted MRIのプラーク数,再発回数,EDSS,疲労度,QOLスコアを用いた.結果は無治療群と比較して上記いずれの項目も改善なし.幸い,重大な副作用もなかったが,痛い思いをしたうえ効果はなく,まさに「泣きっ面にハチ」という結果になった.
 ただ今回の論文を読んで何ともつらい気持ちになった.というのはMSに対するハチ刺し療法は非医療機関において民間療法・代替療法として始められ,徐々にpopularな治療法となっていった経緯があるためだ.これは取りも直さず,再発や進行を抑制する治療に乏しいという現状と,効果的な治療を求める患者さんの切実な願いを反映するものと言えよう.
 ただ最近になり,MSに対する新たな治療として新たな光明が差しつつある.先日,α4β1(VLA-4)インテグリンに対するモノクローナル抗体natalizumab(商品名TYSABRI)で有名なSteinman Lの講義を拝聴する機会があったが,natalizumabの臨床使用は不幸にもその使用中に見られた進行性多巣性白質脳症の問題で頓挫しているものの(N Engl J Med. 353:375-381, 2005),新たな有望な治療戦略としてトリプトファン分解産物3,4-DAAがMSのようなTh1を介する自己免疫疾患に対しきわめて有効であることが最近報告された(Science ;310:850-5,2005;この治療戦略のヒントは実験脳炎マウスのDNAマイクロアレーの結果得たもの.この論文の要旨はトリプトファン分解産物3,4-DAAがミエリン特異的T細胞の増殖を抑制し,炎症誘発性Th1サイトカインの産生を阻害するということ).さらにSteinmanはスタチンやワクチン療法の可能性についても言及していた.
 ただMSに関する新たな治療を考えるときいつも考えてしまうのは研究が進歩して治療薬ができたとしても,日本で使えるかのはいつになるのかということだ.今までも何度も書いたが,IFNbeta1aやcopolymer I,mitoxantroneといったエビデンスのある治療はやはり日本でも速やかに使用できるようにすべきであろう.個人輸入などを検討しなければならない患者さんたちに本当に申し訳がたたない.

Neurology 65:1764-1768, 2005
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脳梗塞からの“再生”~免疫学者・多田富雄の闘い~

2005年12月19日 | リハビリ
 10年ほど前だろうか,多田富雄先生の「免疫の意味論」を読んだ.免疫学の解説に留まらず,「自己と非自己」という免疫学における重要なキーワードを人間社会に当てはめて考察し,「自分とは何か?」「いかに自分らしく生きるか?」という問題に科学者としての立場から答えた本である(科学書というより哲学書とも言えるかもしれない).当時,私はすっかり多田先生のファンになってしまい,学術講演会にまで出かけたりした.昨今,えせ免疫学を振りかざして患者さんや医療の現場に混乱をもたらす困った免疫学者の書いた本を見かけるが,「免疫の“意味論”」はそういった本とは一線を画す名著なので一読を薦めたい.
 さて先日,「NHK特集」で上記タイトルの番組が放送された.多田先生は今から4年前,脳梗塞のため生死の間をさまよい,一命を取り留めたものの片麻痺と仮性球麻痺,運動失語という重い後遺症が残った.番組ではリハビリに励みながら後進の研究者の指導や新作能の原作者としてのお仕事に取り組まれる先生のお姿が描かれていた.病気になった身体でどう生きるのか?科学者の倫理とは何か?など,いろいろ考えさせられる内容であった.非常にたくさんのメッセージが込められていたが,私にとってとくに印象的だった後輩の研究者に宛てて書かれた以下のメッセージを紹介したい.
「日常の競争に捉われず,広い視野を持って研究に取り組んでほしい.理想の研究とは,それを僕が実現できたかは別として,一言で言えば,『寛容で豊かな研究』と言えるんじゃないかと思います.分かりにくかったら反対を考えれば分かります.反対語は『ギスギスして貧しい研究』です.『寛容で豊かな研究』と言ったら,競争に負けてしまうと言われるかもしれません.でも1年ぐらい遅れてもいいではありませんか?研究の価値はそんな短期的なもので決まるわけではありません.『寛容で豊かな研究』をしてさえいれば,流れは絶えることなく脈々と流れて支流を創るでしょう.」
 自分も生涯,生命科学者の端くれとしての矜持を失わないで生きていきたいなあと思った.

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食事をすると汗をかいてしまう ―味覚性多汗症―

2005年12月14日 | その他
 食事中に左顔面の一部にのみ汗をかいている44歳男性のビデオを,Neurologyのwebsiteで見ることができる.このひとは1年前に耳下腺腫瘍の手術をしていて,その後,しばらくしてからこのような現象が始まった.これは昔,耳鼻科で学んだFrey症候群(別名gustatory sweating;味覚性多汗症)である.はじめて実物を見た.咀嚼をすると耳介下部からやや前方にかけてジワ~と汗がにじんでくる(局所性の発汗).この症候群は食事中に生じる耳下腺領域の異常発汗を主徴とするが,ときに発赤、灼熱感を伴う.実際にものを食べなくても,食べ物のにおいをかいだり,思い描いただけで汗が出てくることがあるそうだ.
 病態機序は,耳下腺炎や外傷,腫瘍,手術などの耳下腺障害により,唾液をつくる耳下腺を支配する耳介側頭神経が障害を受け,その再生の際に汗をつくる汗腺に迷入することにより起こると考えられている.治療はボツリヌス毒素を発汗領域に注射することが現在,第一選択となっている.これは汗腺に再分布した神経終末から放出されるAchを抑制する作用によるらしい.
 さて,このFrey症候群は,1921年にこの病態を詳述したユダヤ人女性Lucja Freyの名にちなんで名づけられた.この女性は非常に勤勉で,わずか5年の間に43編もの神経内科領域の論文を発表した才媛だった.しかし1942年,The Holocaust(ユダヤ人大虐殺)の際,他の400人以上もの病院スタッフとともに殺害されてしまったそうだ.

Neurology 65; E24, 2005

追伸;耳下腺疾患は少なからずあるでしょうが,この症候群は結構な頻度で,経験するものなのでしょうか?

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「1リットルの涙」 ―言葉の障害とノーマライゼーション―

2005年12月13日 | 脊髄小脳変性症
 「1リットルの涙―難病と闘い続ける少女亜也の日記」については10月25日に少しコメントした.言いたかったことは,脊髄小脳変性症にはさまざまなタイプがあり,経過や予後は患者さんによってまったく異なるので,ご自身,ないしご家族の症状や経過については,ぜひ主治医の先生に詳しく伺っていただきたいということである.ドラマに対する関心の高さを反映してか,堅い内容にもかかわらず多くの方が読んでくださったようだ.さて現在,9話までドラマは進んだが,心に残った言葉がいくつかあったので,その中のふたつを紹介したい.
 ひとつは「伝えたい気持ちが強ければ,そして聞きとろうとする気持ちが強ければ,その気持ちは必ず伝わるから・・・」という主治医水野先生の言葉.これは言語障害(注1)が出現し始めた主人公亜也さんへのアドバイスである.脊髄小脳変性症に限らず,脳梗塞や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの多くの神経疾患で言葉の障害が出現するが,患者さんの伝えたい気持ちを,自分自身,どれほど強い気持ちを持って聞き取ろうとしていたか考えさせられた.この言葉は今後,忘れずにいたいと思った.
 もうひとつは亜也さんがボーイフレンド麻生君に言った「住む世界が違っちゃったのかも・・・」という言葉.これは脊髄小脳変性症という病気を発症し,「障害者」になった亜也さんが健康なひとと同じように生活ができない現実をたくさん突きつけられた結果,自然に出てきた言葉なのかもしれない.この場面で思い浮かんだのは「ノーマライゼーション(normalization)」(注2)という理念.ここでいう「normalにする」とは,「正常化する」ということでなく,「普通にする.当たり前にする」という意味である.つまり,「障害を持った人の生活環境を,地域社会全体が責任を持ってごく普通に,当たり前の状況に整えようとすること」である.言い換えるならば「障害者を排除するのではなく,障害を持っていても健常者と均等に当たり前に生活できるような成熟した社会に改善していこう」という営みを指す.実はこの考え方の基礎に存在するのは「自己決定(autonomy)」という考え方であり,自分の人生,自分の生き方は患者さん自身が決めるべきものであるということである(ドラマでもこの言葉こそ出てこないが,繰り返し,その考え方の大切さが強調されている).患者さんの生き方を決めるのは,医者でも,行政でも,社会でもなく,あくまでも患者さん自身であり,患者さんの持つ多様な価値観を認め,それをサポートするのが,医療従事者や行政も含めた社会全体ということである.患者さんの希望を実現できるように,患者さんとご家族の周りに社会全体が輪を作っていくことができるならば素晴らしい社会になるのではないだろうか?単に主人公が「かわいそう」で終わるのではなく,一人ひとりが障害を持った人に何をすることができるのか考えていくきっかけになるのであれば,このドラマの意義は計り知れないものになるのであろう.

注1;脊髄小脳変性症の言語障害.言葉が不明瞭・緩慢(slurred speech)になったり,途切れ途切れ(断綴言語:scanning speech)になったり,構音障害といって一つ一つの発音がしにくくなったりする.例えばドラマの中で水野先生の診察で「ルリモハリモテラセバヒカル」という呪文のような言葉を亜也さんにしゃべらせていたが,この文章には舌をうまく動かさねば発音できないラ行の音(専門的には口舌音という)がたくさん含まれていて,構音障害の程度を評価するのに役に立つ(話はそれるが,語源は「瑠璃も玻璃も照らせば光る」という諺で,瑠璃とは青色の宝石,玻璃とは水晶のこと.素質のすぐれたものは,ちょっと光をあてただけで輝くのですぐにわかる,転じて優れた素質や本能を持つものはどこにいても目立つ,という意味).

注2;神経難病の患者さんのnormalization に関する詳しい解説は以下のホームページを参照.上記ブログもこのホームページの記載を参考にした.
http://www.angel.ne.jp/~polar/hiroba3/als.htm

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両側性横隔神経麻痺

2005年12月10日 | その他
 特発性呼吸困難の稀な原因として横隔神経麻痺が挙げられる.文献的には感染後や手術後に発症し,頚部や肩の痛み,上肢の麻痺を合併することが多い.immune brachial plexus neuropathyの範疇で捉えられることが多いようだが,今回,頚部・肩の痛み,上肢の麻痺,さらに先行感染も認めない両側性横隔神経麻痺(bilateral isolated phrenic neuropathy; BIPN)の4症例がStanford大から報告されている.
 典型例を提示すると,43歳男性が息切れで発症.亜急性の経過で数日かけて増悪,呼吸困難により10m程度しか歩行できなくなった.先行感染,外傷,最近のワクチン接種なし.胸部X線では横隔膜の挙上は当初一側に認められたが,のちに両側性になる.呼吸機能は1秒率正常,%VCは22%まで低下.髄液蛋白は61mg/dlで細胞数は正常.AchR抗体,GM1抗体,血清CK値は正常.電気生理学的には横隔神経刺激でM波は認められないが,上肢の伝速や,脳神経領域を含む反復刺激は正常.右横隔膜の針筋電図ではvoluntary motor unitは認められず,脱神経電位の所見.3ヶ月ごとに繰り返したIVIgは無効,発症後7年経過して改善なし.
 その他の3例も同様で,40~70歳代で発症,麻痺は一側から両側に進行し,横隔神経以外の神経障害は伴わない.検査では%VCは22-47%,髄液蛋白上昇を認めない例もある.3例でIVIgを施行したが無効,1例はステロイドパルスを選択したがこれも無効.いずれも予後不良.
 問題はこの病態が独立した疾患であるのか,そして,もしそうであるならば原因は何かである.PubMedをチェックしたところphrenic nerve palsyの原因で圧倒的に多いのが,手術後に合併するもの,つぎに immune brachial plexus neuropathy,稀なものとしてCMT type 2C(横隔神経麻痺と声帯麻痺が特徴)といったところなので,やはり独立した疾患の可能性はある.原因については今のところほとんど手付かず.横隔神経の性格上,伝導ブロックの有無も調べられない.まずはこの疾患がどの程度の頻度で存在するのか検討すべきと思われるが,そのためにはこういう疾患概念が存在することを認識する必要があるのだろう.

Neurology 65; 1499-1501, 2005

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意外な機序で振戦が幻覚を引き起こしていたパーキンソン病の1例(2)

2005年12月06日 | パーキンソン病
 じつはこの患者さん,心エコーを施行しているといきOff状態になり,顕著な振戦(原文によるとincluding the pectoralis musclesとある)を来たした.そのあと引き続いて興奮状態になり,鮮明な視覚幻覚が出現した.心拍数は133/min,心電図はpacing波形で,QRS波の前には例外なくpacer spikeが認められた.次のL-DOPAを内服し,振戦が消失したあとに,この頻脈も消失した.エピソード後にtroponin T の上昇は認めなかった.
 結局,著者らの考えはDDD/R型ペースメーカーが,振戦を患者が運動しているものと勘違いしてしまったのだろうという結論だ.以下,その仕組みを説明すると,DDD/Rの4つの文字は,順に刺激部位,感知部位,反応様式(感知後にどのように反応するか),レート応答機能を表している.つまり,本例のペースメーカーは基本的に心房と心室で刺激し,心房と心室で感知し,反応様式としては抑制と同期の双方を行うというタイプである.問題はR(レート応答機能)だが,DDDのみのpacingの場合,運動したときに脈拍が増加しないことが起こりうる.この欠点を補う工夫がレート応答機能である.すなわち,レート応答機能がついているペースメーカーでは,体動などを感知すると自動的にペースメーカーがその動きの度合いによって刺激を出す回数(レート)を増やす.つまり運動すると脈が早くなり,運動をやめると脈が遅くなるようにペースメーカーが自動的に調節してくれるのだ.しかし,ペースメーカーが振戦を運動と勘違いしてしまう可能性は確かにありうる.実際に,この患者でレート応答機能をオフにしたところ症状は改善した.ということは単純に考えれば,振戦以外の不随意運動でも同様のことが起こりうるわけである.さらにレート応答機能は最近のペースメーカーにはほとんどがついているそうなので,このような症例は案外,見逃されてきた可能性もある.わずか2ページほどの症例報告だが,その意義は大きいのかもしれない.こんな経験された方,もしくはこのペースメーカーに詳しい方はいますか?

Neurology 65; 1676-1677, 2005 
Comments (2)
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意外な機序で振戦が幻覚を引き起こしていたパーキンソン病の1例(1)

2005年12月05日 | パーキンソン病
 MGHからの症例報告.症例は76歳男性で20年来の既往を持つパーキンソン病患者.L-DOPA合剤,DA agonisit (pramipexole), COMT inhibitor (entacapone)などで治療しているがwearing off現象あり.この3ヶ月間,進行性の昏迷,幻覚(「誰かが家に放火した!」など),体重減少を認め,これらを主訴として入院.既往歴としては冠動脈疾患があり,主訴が出現する3ヶ月前に冠動脈バイパス術,ペースメーカー(DDD/R型)植込み術が行われている.神経学的にはwearing off現象が明らかだが,見当識は比較的保たれていた.On の状態では幻覚は認めないが,Off時になると出現する.頭部CTで幻覚を説明できるほどの所見なし.入院時脈拍数88/min.薬剤の影響も考えて,単純にL-DOPAやDA agonistの減量を開始してしまいそうだが,どういうわけか幻覚は L-DOPA の内服で収まっていく.そして主治医はあるすごい原因に気がついた.さて何でしょう?(たぶん自分が主治医なら気がつかないような・・・・)

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