Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウィルス感染症COVID-19:不足する医療資源をいかに公平に配分すべきか?

2020年03月30日 | 医学と医療
今回のキーワードは,医療資源の配分と優先順位,つまり臨床倫理的問題です.重大な問題であるため,今回は要約ではなく,この問題に絞って詳しく記載します.私は海外の医療崩壊の状況下において,限られた医療資源(N95マスク;図1,個人防護具,人工呼吸器,ICUベッド,新規治療薬など)の配分,もしくはトリアージ(緊急度に従って優先順をつけること)を行う医師の心理的負担が極めて大きな問題になっていることを知りました.その問題にどう対処すべきかを議論した論文が,米国,カナダ,英国の複数の倫理,法律,公衆衛生の専門家らによってNEJM誌に報告されています.以下,解説します.



【4つの価値観】
論文ではまず不足する医療資源についての情報を提示したのち,医療資源の配分に関して基本となる,4つの価値観を紹介している(図1).
1.医療資源によって得られる利益を最大化する
→ より多くの人の命を救えばよいか,もしくは救命後の生存期間も含めて考えるべきか?
2.患者の治療を平等に行う
→ 早く来院した患者が優先されるべきか,それとも無作為化による選択を行うべきか?
3.医療における他者への貢献を考慮する
→ 患者の治療に貢献する(した)医療者や研究者は優先すべきか?
4.最悪の事態を解消する
→ 重症者や若い人は優先されるべきか?



【6つの推奨】
その上で,単一の倫理的価値観では,医療資源の配分を決めることは難しいため,以下の6つの推奨を示し,これらをもとにガイドラインを作成して,公平で一貫した配分を行うべきと述べている.
◆1. 利益の最大化を目指す
医療資源を投入すれば回復する見込みのある人を優先するとi
うことである.救急の場面においては命を救うことが優先されるが,患者の希望(ACP)の考慮も必要である.さらに治療の差し止め(withdraw)が生じることも医療者,患者とも認識すべき.
◆2. 医療者を優先する
不足する医療資源は,代わりのきかない医療者を優先すべき.もし生命が失われれば,COVID-19のみならずその他の疾患の患者を含めて治療ができなくなり,多くの生命が奪われる.ただしこれは乱用(拡大解釈)すべきではない.お金持ち,有名人,政治家などは該当しない.
◆3. 来院の順番に治療が優先されるというバイアスを避ける
病院の近くに住む人が得をするとか,社会的距離政策を守らず感染した患者の治療が優先され,しっかり守って最後に感染した人が治療を受けられないという事態は不公平で,避ける必要がある.
◆4. 科学的エビデンスに従う
年齢ごとの予後の違いを考慮すると,不足する治療薬はは医療者>高齢者・併存疾患あり>若年者の順に行うべき.しかし若年者にワクチンをしたほうがウィルス伝播を抑制できるというエビデンスができたり,新規治療薬の効果は若年者ほど期待できるというエビデンスができたりすれば,若年者が優先されることになる.
◆5. 臨床試験参加を考慮する
ワクチンや新規治療薬の臨床試験中の患者は,未来の患者に貢献することを踏まえて,幾分の優先権が与えられる.これは臨床試験への参加を促すことにもなる.ただし予後が同じ患者において適応される.
◆6. COVID-19とそれ以外の疾患の同等性を確保する
医療資源の不足は,がんや心疾患など他の疾患患者にも同様に影響する.利益の最大化はすべての疾患を対象にして行われるべきである.

【専門委員会をつくり,現場の医療者の負担を軽減する】
重要なことは医療資源の配分の決定は,「最前線に立つ医療者が行うのではなく,臨床経験豊かな医師や倫理学者からなるトリアージ専門委員会が行うべき」で,最前線の医療者の心的負担を軽減すべきである.

【専門委員会の役割】
また同じ号にハーバード大学の複数の医師が短報を発表し,上記論文と同様に,トリアージは,最前線に立つ医療者以外のメンバーからなる委員会が行い,家族に適切に,誤解のないように話し合う役割を果たすべきと述べている.さらに人工呼吸器の差し止めについてもこの委員会が判断し,患者・家族の緩和ケアと精神的サポートを行う必要があると述べている.
また「米国の医師はこれまで経験はおろか想定もしたことがない決断に迫られるだろう.おそらくトリアージ委員会は一部の人から『death panels(死の判定団)』と非難されるかもしれない.しかしむしろ逆で,その目的はいかに多くの人の命をこれまで経験したことのない危機から救うことができるかである.委員会の存在は最前線の医療者の感情面,精神面での大きなダメージを軽減するものである」と述べている.

【我が国の課題】
以上を考慮すると3つの課題がある.(1)医療資源不足が起きないように全力で中央,地方の政治が動くこと.(2)それでも不足した場合のために,医療資源の配分に関する,我が国に合ったガイドラインを策定すること.(3)トリアージや医療資源の配分を決める専門委員会を各病院で準備することである.感染爆発を目前にし,迅速な対応が求められる.

Emanuel EJ, et al. Fair Allocation of Scarce Medical Resources in the Time of Covid-19. N Engl J Med. 2020 Mar 23.
Truog RD, et al. The Toughest Triage - Allocating Ventilators in a Pandemic. N Engl J Med. 2020 Mar 23.

追伸:生命・医療倫理研究会より「COVID-19の感染爆発時における人工呼吸器の配分を判断するプロセスについての提言」が発表されました(3月30日).
http://square.umin.ac.jp/biomedicalethics/activities/ventilator_allocation.html




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新型コロナウィルス感染症COVID-19:一人ひとりが行動変容を!行政は医療者を守る施策を!

2020年03月25日 | 医学と医療
今回のキーワードは,医療者の保護,マスクの合理的使用,クラスターと2次感染,呼吸器外症状(消化器症状,心筋症,嗅覚低下),アビガンの有効性です.「日本は現在,ギリギリの状況に置かれている」という認識を共有し,一人ひとりが「3つの条件が重なる場所」を避けるなどの「行動変容」を徹底して何とかオーバーシュートを防いでいきましょう.

◆医療者の保護(1).中国34病院の医療者1257名(女性76.7%)の精神状態に対する調査.職種の内訳は看護師60.8%,医師39.2%.結果はうつを50.4%,不安を44.6%,不眠を34.0%で認め,71.5%が苦痛を訴えた.重症となる危険因子は,看護師,女性,最前線での勤務(診断,治療,ケアに関わる),武漢での勤務であった.医療の質を保つために,医療者の精神的負担を軽減する対策を早急に実行する必要がある.JAMA Netw Open. March 23, 2020

◆医療者の保護(2).Lancet誌のEditorialで,政府による医療者保護の重要性が論じられている.中国では2月末までの報告で3300人が感染し,22人が死亡した.イタリアで20%,スペインで10%の医療者が感染し,重大な問題となっている.肉体的・精神的苦痛,トリアージの難しさ,患者や同僚を失うつらさ,個人防護具(PPE)不足と高い感染リスクへの恐怖,そして家族の感染リスクに苦しんでいる.これから医療は何ヶ月にも渡って,限界を超えた状態になる.しかし医療者は,ベッドや人工呼吸器と違って急ごしらえすることも,長時間フル稼働することもできない.行政は「医療者をコマとしてでなく,人間として見る必要」がある.PPE供給はまず行うべきで,不必要な業務の中止,休養の確保,精神的支援,家族への支援などが必要である.医療崩壊は多くの人命に関わる.Lancet. March 21, 2020

◆感染と予防(1).不足するマスクの合理的な使用について.マスクに対する方針は国によってまちまちの状態.エビデンスは十分ではないが,まず着用すべき人は,WHOが推奨するように,呼吸器症状がある人や患者のケアを行う人である.つぎに検疫・自己隔離中の人が何らかの理由で外出するときには,無症状でも着用すべき.高齢者や慢性疾患をもつ人も着用したほうがよい.そしてもし供給が確保できるのであれば,すべての人が着用すれば,無症状感染者からの感染を防止できる(結局,COVID-19のような特殊な感染症の場合,全員マスクは着用したほうが望ましいということになる).一方,マスクの使用可能時間の研究や,再利用可能マスクの開発も進めるべきだ.Lancet. March 20, 2020

◆感染と予防(2).発症前の感染者からの感染の頻度についての初めての報告.2月8日までの中国の患者468人の検討.次の人に感染するまでの日数(serial interval)は平均3.96日(95% CI 3.53–4.39日)で,MERSの14.6日よりかなり短く,対策が難しい.また49/468名(12.6%)は,発症前の人からの感染と考えられた(図1).未発症者からの感染を防ぐ対策が必要となる(つまり自覚症状や検温,サーモグラフィーでは見逃しうるため,行動変容による予防対策が大切になる).Emerging Infectious Diseases. March 19, 2020



◆感染と予防(3).シンガポールでの最初の3つのクラスター(A-C)36名に関する論文.中国への渡航歴があるのはCの2名のみ.この36名と濃厚接触者425名が検疫の対象となった.ウィルスの潜伏期間の中央値は4日(IQR 3-6)で(図2),次の人に感染するまでの日数は3-8日と幅があった.Aは店頭での接客,Bは会議・会食,Cは礼拝での感染で,握手などの身体的接触があると多くの人が感染してしまう.よって一定の距離を置くことが重要である(社会的距離戦略).またそれぞれのクラスターから家族以外の2次感染はなかった.つまり家族のような濃厚接触がない限り,2次感染が生じる可能性は低い(一方,3連休に数十万人が花見をしたというニュースは,社会的距離戦略に完全に逆行).Lancet. Mar 16, 2020



◆感染と予防(4).当初,市中肺炎と考えられていたものの,のちにCOVID-19であることが判明した重症肺炎患者に対し,2 m以内の距離で,10分間以上エアロゾル発生を伴う医療行為を行った41名の医療者全員が,幸い感染しなかったという報告.41人のうち85%は手術用マスクを着用し,残りはN95マスクを付け,さらに手指消毒,その他の標準的予防を行っていた.マスク,手指消毒の重要性を改めて示す報告.Ann Internal Med March 16, 2020

◆呼吸器外症状(1).「消化器症状」を主訴とする症例は予後不良であることが報告された.湖北省の3病院の204名の検討で,99名(48.5%)が食欲低下(83.8%),下痢(29.3%),嘔吐(0.8%),腹痛(0.4%)といった消化器症状を主訴とした(図3).消化器症状を主訴とした群は,そうでない群と比べて発症から入院までの期間が長かった(9.0日対7.3日).これは非典型的な症状のため入院が遅れるためと考えられた.重症例ほど消化器症状を主訴とする頻度が増えた.消化器症状のみを主訴とした患者が7名(3%)いた.退院できた患者は消化器症状あり群で少なかった(34.3%対60%).既報の便からのウィルス持続排出や消化管のACE2(ウィルス受容体)発現を考えると理解できる結果である.Am J Gastroenterol. March 18, 2020



◆呼吸器外症状(2).米国初の重症患者の症例集積研究にて「心筋症」の指摘.対象はワシントン州318床の病院のICU(20床)に入院した21名(平均70歳).併存症あり18名(86%).急性呼吸促迫症候群(ARDS)を呈した15名全例が人工呼吸器を装着した.昇圧剤を14名(67%)で使用.7名(33%)が心筋症を呈した.転帰は死亡14名(67%),重症のまま5名(24%),ICUを退室できたのは2名のみ.心筋症はウィルスの直接感染によるものか,重篤な全身状態に伴うものかは不明と考察.しかし心筋症は他の報告でも指摘されていることや,心臓もACE2を発現することから,心筋炎に伴うものである可能性はある.JAMA. March 19, 2020

◆呼吸器外症状(3).COVID-19が重症化した病態として,ARDSに加えて二次性血球貪食性リンパ組織球症(secondary hemophagocytic lymphohistiocytosis; sHLH)がある.発熱,血球減少,高サイトカイン血症(IL2/6/7,GCSF,MCP1,TNFαなど),多臓器不全を呈する致死的病態で,既報の二次性の病態としてはEBウィルス感染が有名.スクリーニングには血清フェリチン↑,血小板↓,赤沈遅延,そしてHScore(https://www.mdcalc.com/hscore-reactive-hemophagocytic-syndrome)が有効.この病態には積極的な免疫抑制療法が有効である可能性が高く,ステロイドパルス,IVIG,サイトカイン阻害剤(トシリズマブ)をトライすべき.免疫抑制剤の有効性については当初から議論があったが,この病態には有効であろう.Lancet. Mar 13, 2020

◆呼吸器外症状(4).前回(3月19日)の投稿で,ウィルスによる中枢神経障害として,味覚・嗅覚障害を紹介した.経鼻的感染による嗅上皮細胞から脳幹までのウィルス伝播の可能性が示唆されていることも紹介したが,米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会は,味覚・嗅覚障害をCOVID-19のスクリーニング項目に追加することを提唱している.
https://www.entnet.org/content/aao-hns-anosmia-hyposmia-and-dysgeusia-symptoms-coronavirus-disease

◆新規治療(1).新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する薬剤標的として,ウィルスが複製に使用するメインプロテアーゼ(MPro)がある.αケトアミド分子はこれに結合し,阻害剤となることが報告されていたが,今回,MPro単独及びαケトアミド分子が結合した複合体のX線構造解析に,ドイツの研究者らが成功し(図4),MPro阻害薬のリード化合物(医薬品開発の元となる化合物)が合成された.今後,誘導体化することで,肺への特異性や効果,薬物動態などの点で改良がなされる.最終的には肺への指向性を高めた吸入薬が開発される.Science. March 20, 2020



◆新規治療(2).ウィルスRNAポリメラーゼ阻害薬ファビピラビル(FPV;アビガン®)35名 vs 対照群としてのロピナビル・リトナビル配合剤(カレトラ®)45名のオープンラベル非ランダム化比較試験が報告された.いずれの群もIFN-α1bの吸入を行っていた.主要評価項目は,ウィルスが検出されなくなるまでの期間,および14日目の胸部CTの改善とした.前者はFPV群で4日(IQR: 2.5–9日),対照群で11日(8–13日)とFPV群でかなり短縮(P<0.001;図5),CT所見が改善したのはFPV群で91.4%,対照群で62.2 %とFPV群で良好であった(P=0.004).有害事象はFPV群で11.4%,対照群で55.6%で,副作用も少ない.ランダム割り付けは倫理的な問題でできなかったが,期待できるデータと言える.Engineering. March 17, 2020



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臨床試験において今後注目されるクロイツフェルト・ヤコブ病V180I変異長期生存例の検討

2020年03月21日 | 認知症
当科の林祐一先生らが,多くの先生方のご協力をいただき,Prion誌に遺伝性Creutzfeldt-Jakob disease(gCJD)の症例報告をしたのでご紹介したい.PRNP遺伝子V180I変異例の検討である.特有の臨床像を呈する病型で,家族歴を認めないことが多く,高齢発症,緩徐進行性ですが,拡散強調画像で大脳の浮腫性高信号病変を呈する.

この病型はCJDの臨床試験のターゲットとなる可能性がある.一般にCJDは進行が急激で,臨床試験にエントリーするタイミングを逸してしまうが,この病型は罹病期間が23~27ヶ月と長く,臨床試験が可能である.より長期の生存例の存在も知られているが,その臨床病理学的な特徴は不明だった.今回,5年間という長期間療養ができた症例について検討し,脳幹が障害から免れることと経管栄養が重要であることを示した.詳細はリンクから原文(Open access)もご覧いただきたいが,「なぜCJDで長期生存できるのか?」というclinical questionを追求し,きちんと答えを出した論文だと思う.以下,症例の要約を示す.

78歳女性,物忘れと左手の振戦にて発症し,1.5ヶ月後に受診.神経学的には認知症,前頭葉徴候,左手の振戦を認めた.家族歴なし.拡散強調画像では右前頭~側頭葉を主体とする浮腫状の高信号病変あり(図は発症から,1, 9, 61ヶ月後).PRNP遺伝子解析にて診断が確定.症状は緩徐に進行し,14ヶ月後には仮性球麻痺による嚥下障害を呈したが,経管栄養を行い状態は安定していた.発症から61ヶ月後に誤嚥性肺炎にて死亡.病理学的には高度の大脳萎縮を呈し,大脳の高度の神経細胞消失,高度のグリオーシスを認めた.中等度のspongiform changeを認め,抗プリオン染色ではシナプス型のPrP沈着を認めた.これに対し,脳幹の障害はごく軽度であったことが特徴的であった.既報を合わせて検討し,本例が長期生存した要因は,脳幹障害がごく軽度であったことと経管栄養のためと考えられた.

愛知医科大学(岩崎靖先生,赤木明生,吉田眞理先生),各務原リハビリテーション病院(和座雅浩先生),長崎大学(佐藤克也先生),東北大学(北本哲之先生)との共同研究です.

Hayashi Y, Iwasaki Y, Waza M, Kato S, Akagi A, Kimura A, Inuzuka T, Satoh K, Kitamoto T, Yoshida M, Shimohata T. Clinicopathological findings of a long-term survivor of V180I genetic Creutzfeldt-Jakob disease. Prion. 2020;14(1):109-117.






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新型コロナウィルス感染症COVID-19:抗HIV薬ロピナビル/リトナビルの臨床試験結果の発表

2020年03月19日 | 医学と医療
今回のキーワードは,イタリア患者激増の理由,発熱の矛盾,重症化要因,安全な検体採取法,臨床試験の結果(メチルプレドニゾロン,抗HIV薬)です.未知のウイルスとの戦いのなか,わずか2ヶ月間で試験を成し遂げたことに,心から敬意を表したいと思います.そしていよいよ新型コロナウィルスによる脳神経症状に関する論文,議論が出てまいりました.

◆イタリア・ミラノ大学の医師らがJAMA誌に短報を発表.2月20日,Codogno病院ICUで患者の罹患が判明後,関係各所の迅速な対応にも関わらず重症患者は激増した.注目すべきはICU治療を要する重症患者の頻度.中国ではPCR陽性者の5%.これに対しイタリアでは12%,入院患者に限ると16%(!).テレビでは医療の遅れなどと解説する人もいるが,ロンバルディア州はイタリアで最も発展した地域で,医療水準は高い.著者らは遺伝的背景(ACE2遺伝子多型か?),年齢構成,併存症の差など,何か別の原因があると述べている.またLancet誌は,適切な介入ができなければ,ICUを要する重症患者数は指数関数的に増加し,3月中旬に2500床,4月中旬には4000床(!)になると予測し,極めて早急な対策を求めている(図1).COVID-19は決して良性の疾患ではない.わが国も決して気を緩めてはならない.JAMA. Mar 13, 2020;Lancet. Mar 12, 2020



◆重症化要因(1).急性呼吸窮迫症候群(ARDS)ないし死亡の危険因子についての後方視的研究.対象は武漢の201名で,84名(41.8%)がARDSを発症,うち44名(52.4%) が死亡した.両者に共通する危険因子として,高齢,好中球増多,LDH↑,D-dimer↑.高熱(≥39℃)はARDS発症に関連するが(ハザード比1.77),逆に死亡リスクは低下する(0.41)という一見矛盾する知見が得られた(これは他の試験でも認められる).また生存・死亡の2群間で見ると,ARDSよりもD-dimer↑の影響が大きく,DIC(播種性血管内業症候群)は死亡の危険因子である.またARDSに対し,当初無効と報告されたメチルプレドニゾロンは死亡率を低下させた!(ハザード比0.38)(図2).JAMA Intern Med. March 13, 2020


◆重症化要因(2).縦隔気腫(図3の矢印)が報告された.通常の縦隔気腫は自然治癒するが,COVID-19では重篤な循環・呼吸障害をきたしうる.胸痛,胸骨切痕部の皮下気腫,心拍に同期した捻髪音(Hamman徴候)にて疑い,画像検査を行う.Lancet Infect Dis. March 9, 2020


◆重症化要因(3).併存症(高血圧,糖尿病)が重症化の危険因子となる機序に関するエキスパートオピニオン.これらの治療に処方されるARBないしACE阻害薬が,ウィルス受容体であるACE2発現量を増加させ,感染を助長すると考察している.そして発現量増加の報告のないCa拮抗薬への変更についても言及している.しかし米国の3つの学会は裏付けとなる臨床データがないことから,医師からの指示がない限り,上記薬剤を中止・変更すべきではないとの声明を即座に発表した.Lancet Respir Med. March 11, 2020

◆重症化要因(4).ウィルスはACE2を発現する心臓,腎臓,消化器等も標的とするため,心,肝,腎,免疫系が障害され,併存症の悪化を招き,予後が増悪する.肺炎のみ群,併存症増悪群,最重症群に分けて治療をすることが提唱されている.Lancet. March 9, 2020

◆検査・スクリーニング(1).患者急増地域からの帰国者が新たな感染拡大の原因となる.現在,発熱によるスクリーニングのみ行われているが,長い潜伏期と無症状感染者の存在から,水際対策としてCOVID-19ではまったく不十分である.PCR検査を行うしかない.また患者急増地域からの移動制限や,帰国後14日間の自己隔離が必要となる.Trop Med Health. 2020 Mar 9;48:14.

◆検査・スクリーニング(2).PCR検査の検体として鼻・咽頭ぬぐい液を採取するが,咳やくしゃみが生じ,医療者の感染リスクとなる.喀痰が採取できれば最適だが,出ないことが多く,潜伏期ではなおさらである.今回,喀痰誘発法が報告された.3%高張食塩水10 mLを,酸素とともにマスクで6 L/minの流速で20分間,もしくは痰が出るまで吸入する.複数回の咽頭・直腸ぬぐい液でPCR陰性であった2症例で,痰のPCRが陽性になった.咳やくしゃみなく,陽性率を上昇できる.Lancet Infect Dis. March 12, 2020

◆検査・スクリーニング(3).中国からの小児患者10名の報告.成人より症状,検査所見とも軽微で,PCR検査にて初めて診断ができた(NEJM. March 18, 2020の論文も,小児171名の検討で,成人と比べ軽症,無症状が多く,感染を媒介するリスクを指摘している).また鼻咽頭からはRNAは14日で検出できなくなるのに対し,直腸からはその後も4週程度持続し排出された(図4;10名中8名で陽性).つまりウィルスは消化管に感染し,直腸から排出する.トイレを汚染したウィルスから糞口感染が起こす可能性がある.直腸ぬぐい液によるPCR検査は治療効果の判定,検疫解除の判断に有効.自己隔離では患者とトイレを分離すること,無理であれば使用後の十分な除菌が必要.Nat Med. March 13, 2020


◆神経症状と機序(1).いよいよ脳神経に関する議論が出てきた.まず未査読論文だが,PCRで診断した武漢214名(うち重症88名:41.1%)の検討.神経筋症状は78名(36.4%)に認められ,内訳はめまい(16.8%),頭痛(13.1%),筋障害(10.7%),意識障害(7.5%),味覚障害(5.6%),嗅覚障害(5.1%).重症例ほど神経筋症状の合併が多く(45.5%対30.2%;P<0.05),とくに筋障害(19.3%対4.8%),意識障害(14.8%対2.4%),脳卒中(5.7%対0.8%)は有意に多い.次に述べるが,意識障害,嗅覚障害の機序はとても気になる.medRxiv 2020.02.22.20026500

◆神経症状と機序(2).ウィルスの神経向性(neurotropism)について言及した総説が2つ発表された.既報のコロナウィルスはほぼ全て中枢神経に浸潤することが知られている.感染経路は2つあり,SARS/MERSウィルスのマウス感染実験で,嗅上皮細胞から脳幹まで伝播したことから,まず経鼻的に感染する可能性がある(このための嗅覚低下か?Netland J et al. J Virol 2008).そして肺・下気道から機械・科学受容器を介して,経シナプス的に延髄へ伝播する可能性も指摘されている.ヒトSARS剖検脳や髄液の検討で,両者にウィルスが存在することも証明されている.そして著者らはCOVID-19の呼吸不全・死亡の原因として,ウィルスによる脳幹障害を考えている!根拠として眠ると呼吸停止してしまう患者も紹介している(脳幹病変による意識障害もあるか?).J Med Virol. Feb 27. 2020; ACS Chem Neurosci 2020


◆最後に中国から早くも抗HV治療薬ロピナビル/リトナビル(カレトラ®)のランダム化対照オープンラベル試験の結果が発表された.対象はSaO2 94%以下(room air)あるいはPaO2/FiO2 300 mmHg未満の成人の入院患者199名.実薬群が99名で,ロピナビル/リトナビル(それぞれ400 mg,100 mg)を1日2回,14日間.対照群は標準ケア.主要評価項目は,臨床的改善までの期間,具体的には割り付けから7つのスケールのうち2つの改善まで,もしくは退院までのうち,いずれか早いほうまでの期間)とした.結果は残念ながら無効.修正ITT解析で標準治療群に比べ,1日だけ改善が早くなったものの,基本的に臨床的改善はなく(図5),28日目における死亡率も差はなし.咽頭ぬぐい液におけるRNA量も差はなし.消化器症状のため,23.8%で治療が早期に中止された.試験は失敗したが,今後の臨床試験の成功のために学ぶべき点は多い.

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新型コロナウィルス肺炎(COVID-19):科学的エビデンスに基づいた議論の必要性.

2020年03月13日 | 医学と医療
今回のキーワードは,死亡の危険因子,子宮内感染,遠隔医療,隔離,感染メカニズムと治療標的分子,そしてもうひとつ「学校閉鎖のエビデンス」です.

◆「米国も学校閉鎖を行うべきか?」という問題に対する,イエール大学Christakis教授の解説.学校閉鎖は患者発生後に行うreactiveと,発生前に行うproactiveに分けられる.前者は多数の研究があり,中等度の感染力であれば感染率を25%程度低下させ,ピークを2週間遅らせる効果がある.一方,日本でも行っている後者は,薬剤以外で,エビデンスのある最も強力な介入方法である.スペイン風邪における研究が有名(proactiveな学校閉鎖を行ったセントルイスは,reactiveな学校閉鎖を行ったピッツバーグの1/3の死亡率で済んだ).子供がウィルスを媒介しない場合でも,親の行動を抑制するため感染抑止に有効.子供が媒介するCOVID-19ではより高い効果が期待できる.しかし学校の再開時期については研究がなく不明で,学校閉鎖に伴う経済的打撃については公的援助が不可欠.Science Mar 10, 2020

◆中国から死亡の危険因子についての報告.対象は18歳以上の入院患者191名(死亡54 名!).91名(48%)に併存症あり(高血圧,糖尿病,冠動脈疾患の順).多変量回帰分析で明らかとなった危険因子として,高齢(オッズ比1.10),SOFAスコア(5·65:重要臓器の障害度を数値化した指数), 入院時d-dimer>1 g/L (18.42) を見出した.有意差はつかなかったが,死亡者ではリンパ球数↓,IL6↑,フェリチン↑,高感度心筋トロポニンI↑,LDH↑を認めた(図1;赤線が死亡者).ウィルス排出は,退院した患者では20日間(最長37日間)であったが,死亡者では死亡まで持続した.Lancet March 11, 2020



◆中国から感染妊婦における臨床像と子宮内感染(母子感染)の検討が報告された.対象は入院した9名の妊婦.全例,妊娠第三期に帝王切開を行った.臨床像はさまざまだが,通常と大きな違いはなく,主症状は発熱と咳嗽で,重症肺炎や死亡例はなし.全例,生児出産し,新生児仮死はなかった.羊水,臍帯血,母乳,新生児の咽頭ぬぐい液のPCRはいずれも陰性で,垂直感染が起きる根拠は今のところない.Lancet 2020 Mar 7;395(10226):809-815.

◆中国から周産期および新生児の感染予防と治療に関するガイドラインが発表された.臨床像や検査所見のほか,疑い例,確診例に対する診療フローチャート,気道管理,隔離,退院基準等が掲載されており,産科・小児科医の参考になる.Ann Trans Med 2020;8(3):47.

◆NEJM誌ではスマホ,タブレット,WEBカメラ付きPCを使った「遠隔医療」への移行について議論している.利点として,① forward triageの実現,すなわち患者が外来を受診する前に自らを隔離できる(医療崩壊リスクを低減できる).②発症者のビデオ診察が可能になる.③定期受診する外来患者の感染リスクを減らせる等がある.①で問題になるのはPCRを含む検体検査であるが,病院以外の検査専用施設,テント,ドライブスルー,自宅採取などを遠隔医療のワークフローに組み込めば良い.今回を好機として,日本も遠隔医療を本格導入すべきであろう.NEJM March 11, 2020

◆ジョン・ホプキンス大学による湖北省以外の患者181名の潜伏期の検討.潜伏期の中央値は5.1日.感染後2.2日以内の発症は稀(2.5%未満).感染後11.5日以内に全体の97.5%は発症する(図2).今回の検討では患者1万人のうち101人が検疫・隔離の標準である14日以降に発症することになる.暴露から14日という検疫・隔離期間は妥当であるものの,見逃しも生じうる.例えば個人防護具(PPE)を装着せずに患者を診察したといった感染ハイリスクな場合では,14日間以上モニタリングすることが良識的である.Ann Intern Med March 10, 2020

◆英国から総合診療医向けガイドラインが発表された.BMJ誌名物であるvisual summaryを用いて,診療の全体像が分かりやすくまとめられている(図3).例えば自己隔離は,換気できる部屋を選ぶこと,家族や他人との接触を避けること,食器やタオルは共有しないこと,可能ならトイレも共有せず,無理な場合には使用後除菌すること,ゴミ袋は二重にし,PCRの結果が出るまで外に廃棄しないことが記載されている.日本プライマリ・ケア連合学会の「初期診療の手引き」も分かりやすく,看病の担当者は限定すること,患者の入浴は最後にすること,部屋を出る際にはマスクと手指消毒をすること,定期的に換気することなどを記載している.BMJ 2020 Mar 05;368:m800.



◆英,独,シンガポールの公衆衛生学者らは,COVID-19は2003年に流行したSARSと同様の方法(患者の積極的な発見,濃厚接触者の追跡,検疫・隔離)では封じ込めができない可能性を指摘している.理由として「2つの疾患の感染のしやすさと重症度の差」を挙げている.COVID-19は軽症者が多く,見逃し例や隔離できない例が生じ,感染が広まりやすい.また種々の封じ込め政策は無期限に行うわけには行かず,現実的には封じ込め政策から,被害を最小限にすることを目指す政策に移行しなければならない事態が生じうる(論文発表から1週間が経過し,複数の国や地域がその状況に移行した).Lancet Infect Dis March 05, 2020

◆ここから基礎研究.新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)の感染メカニズムが明らかにされつつある.まず中国からウィルスとその受容体であるヒトACE2のクリオ電顕による構造解析が報告された.ウィルスのスパイク糖タンパク(Sタンパク質)の三量体2つと,ACE2ヘテロ二量体が一挙に結合する(図4).ACE2もしくはSタンパク質に,より強く結合し,感染を防ぐ中和抗体やおとりリガンドの構造の決定に重要なデータである.Science Mar 04, 2020



◆米国からSARS-CoV-2がよりヒトに感染しやすい理由として,SARSコロナウィルス等と違い,Sタンパク質のS1/S2サブユニットの境界に4残基が加わっており,セリンプロテアーゼであるフューリン切断領域があることが関係している可能性が指摘された(肺・肝・小腸を含むヒト組織の多くにフューリンが認められ,多くの臓器が攻撃の対象になる).またウィルスの結合時に,Sタンパク質三量体は部分的に開口して,病原性を高める可能性も指摘された.さらにSタンパク質で免疫したマウス血清が,ウィルスの培養細胞への感染を対照の10%程度まで抑制することも確認された.Cell Mar 09, 2020

◆ドイツからの報告で,SARS-CoV-2はヒトACE2に結合するために,セリンプロテアーゼであるTMPRSS2を必要とすることも報告された(図5).これに合致するように,2016年,本邦から,in vitro実験で,セリンプロテアーゼ阻害剤nafamostatが,MERS-CoVの感染を阻止することが報告されていた.このため膵炎治療薬として承認されているTMPRSS2阻害剤メシル酸カモスタット(フォイパン®)の効果を確認したところ,ウィルスの肺細胞への侵入を防ぐことを確認した.以上よりTMPRSS2も治療標的と考えられる.Cell March 05, 2020; Antimicrob Agents Chemother. 2016;60:6532-6539.



◆最後に中国から,宿主(ヒト)側の感染要因について報告された.ACE2遺伝子多型と,ACE2遺伝子発現に影響を及ぼすexpression Quantitative Trait Locus(eQTL)の検討を行っているが,ACE2遺伝子自体にはSタンパク質の結合に抵抗を示す変異は認めなかった.eQTLの検討では,人種間で差が見られ,ACE2の高発現をもたらすアリル頻度は東アジア人で高かった.感染のしやすさに影響するのか,さらなる検討が必要.Cell Discovery 2020;6:11

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統合失調症は神経解剖学的に2つのサブタイプに分類される-機械学習の威力-

2020年03月12日 | その他
脳神経内科疾患ではないが,Brain誌に興味深い論文が報告されたので紹介したい.統合失調症は,主に急性期に見られる陽性症状(妄想や幻覚など),消耗期に見られる陰性症状(無表情,感情的アパシー,活動低下,会話の鈍化,ひきこもり,自傷行為など),そしてその他の症状(認知機能障害,感情の障害,パニック発作など)に分類される.これらの症状をもとに,ICD-10では分類がなされ,「妄想型(妄想・幻覚が主症状)」「破瓜型(感情・意志の鈍麻が主症状)」「緊張型(筋肉の硬直症状が特異的)」といった代表的な3つの病型に分けられる.しかしこの分類は神経生物的に根拠のあるものとは言えず,事実,病態メカニズムの研究において十分な貢献はしていない.科学的根拠に基づく新たな病型分類が求められている.

さまざまな試みがなされているが,その代表が画像解析研究である.これまでの複数の研究が共通して指摘しているのは灰白質の萎縮である.健常対照と比較して,辺縁系を含む広汎な灰白質体積や皮質厚が減少しているというのだ.しかし脳の形態は個人差や加齢による変化が大きく,診断基準に追加できるものにはなっていなかった.

今回紹介する論文は,多数例の統合失調症の頭部MRIを機械学習プログラムで検討したところ,上述の灰白質が萎縮するタイプに加えて,何と大脳基底核が増大するタイプが見いだされたというものである. HYDRA(ひとすじなわではいかない難問)という名前の機械学習プログラム(正確には「半教師あり学習」,つまり少量のラベルありデータを用いることで,大量のラベルなしデータをより学習に活かせることができる学習方法)を用いて,個人差ではなく,疾患に伴う神経解剖学的パターンの発見を目指した.対象は米,独,中の3つのコホート(PHENOM consortium)からなる307名の統合失調症患者と364名の健常対照で,画像データと臨床データを解析した.画像解析では灰白質,白質,髄液について部位ごとに体積測定を行い,サブタイプ分類を試みた.

さて結果であるが,従来から報告されていた広汎な灰白質の体積の減少があり,とくに視床,側坐核,内側側頭葉,内側前頭前,前頭,島回の体積減少を認めたが,これ以外に,基底核と内包の体積の増加を認め,それ以外の部位は正常体積という一群の存在を見出した.前者をサブタイプ1,後者をサブタイプ2と名付けた.サブタイプ1は全体の67%を占めた.



サブタイプ1:全体に灰白質の萎縮が目立つグループ
サブタイプ2:灰白質の萎縮はほとんど存在せず,逆に大脳基底核の増大がはっきりしているグループ


またサブタイプ1の灰白質体積は罹病期間とのあいだに負の相関を認めたが(r = -0.201, P = 0.016),サブタイプ2では相関はなかった (r = -0.045, P = 0.652).このことから2つのサブタイプにおける病態や経過の相違が示唆された.

臨床的特徴に関しては,2つのサブタイプのあいだで,年齢,性別,罹病期間,発症年齢,陽性症状,陰性症状,抗精神病薬の使用量・タイプに相違はなかった.しかしサブタイプ1は学業的達成(学歴)が,サブタイプ2と比較して有意に低かった(P = 0.041).

結論として統合失調症は神経解剖学的に2つのタイプに分類されることが示された.サブタイプ1は罹病期間に相関する広汎な灰白質萎縮を呈し,発病前より知的機能の障害を認めるもの,サブタイプ2は,基底核と内包の増大を除いて正常で,経時的変化のないものである.2つのサブタイプではその病態が異なる可能性が示唆された.今後,この分類が,より正確な診断,臨床試験の改善や層別解析などに役立つかもしれない.個人的には統合失調症はdisconnection仮説(複数の脳領域間の機能的結合性の障害によって生じるという説)に基づく疾患と考えていたので,拡散テンソル画像のようなコネクトームの画像化により病態や分類が初めて明らかになるものと思っていた.まさかMRIで分類がなされるとは思っていなかった.データからルールやパターンを発見する機械学習の威力は素晴らしく,他の神経疾患への応用が期待される.

Brain. 2020 Feb 27. pii: awaa025.



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新型コロナウィルス肺炎(COVID-19):infodemicに屈せず,正しい情報を伝える大切さ.

2020年03月06日 | 医学と医療
今回のキーワードは,ウィルス排出の持続,小児例,検疫の失敗,予後不良因子,RNA血症と抗体,東京オリンピックです.そしてもうひとつ,Lancet誌で「infodemic」について議論されています.災害時にデマはつきものですが,現代ではソーシャルメディアによりその情報が増幅し,ウィルスのように伝播します.その意味で「infodemic」という言葉ができました.WHOはネットを巡回し,デマを見つけては正しい情報を提供し,GoogleもCOVID-19などが検索された場合,正しい検索結果を示す努力をしています.マスメディアも情報源の確かさを吟味し報道する必要があります.学術論文でさえ玉石混交であり,チェックが必要です.Lancet. 2020 Feb 29;395(10225):676

◆NEJM誌に,これまでで最多の1099人の入院患者の症例集積研究が報告された.結論は「症状・重症度・画像所見は多様で,診断は容易ではない」ということ.最も頻度の高い症状は発熱で入院中には88.7%に認めるが,初診時は43.8%のみ.咳67.8%,倦怠感38.1%,喀痰33.7%,息切れ18.7%,筋肉痛14.9%,咽頭痛13.9%,頭痛3.6%,下痢3.8%.診察所見も軽微で,咽頭発赤1.7%,扁桃腫脹2.1%,リンパ節腫脹0.2%,発疹0.2%のみ.潜伏期は中央値4日.複合エンドポイントは67名(6.1%),内訳はICU入室が5%,人工呼吸器管理が2.3%,死亡が1.4%.NEJM. February 28, 2020

◆シンガポールからの論文を3つ紹介したい.まずPCRで診断した18名の症例集積研究.鼻咽頭からのウィルス排出は7日間以上持続が15/18名(83%).最長で24日(!).ただし感染を起こすかは不明.転帰は軽症10名,酸素吸入6名,ICU 2 名,死亡なし.酸素吸入を要した6名のうち5名に抗HIV薬ロピナビル/リトナビルを使用したが,3例は改善したものの,2例は呼吸不全で,有効性は不明.JAMA. 2020 Mar 3.

◆2つ目は感染様式について.患者3人が入院する隔離病室を調べたところ,1名の部屋がウィルスで汚染されていた.部屋の13/15箇所と,トイレの3/5箇所(便器,流し,ドアノブ)で陽性.飛沫や便により部屋が汚染し,感染をもたらす.PPE(個人用防護具)の靴前面も汚染されていた.他の2名の部屋は,ジクロロイソシアヌル酸による除染が有効だった.確実な除染と手洗いが必要.JAMA. 2020 Mar 4.

◆3つ目は,母から感染した生後6ヶ月児の報告.ほぼ無症状であったが,鼻咽頭から高いウィルス排出量が認められ,16日目まで持続した.血液,便からも検出.小児は軽~無症状だが,感染源になる可能性がある.In Infect Dis. 2020 Feb 28.

◆中国から小児を対象とした初の症例集積研究.10名,いずれも軽症.成人への感染が1名で認められ,看病の際の予防対策が必要.潜伏期は6.5日で,成人の5.4日よりも長い.鼻咽頭からのウィルス排出を全例で認め,6~22日間持続した.便も5/6名で陽性で,2週間~1ヵ月以上持続した(!).小児では抗ウィルス薬や抗生剤の予防的投与は推奨されない.Clin Infect Dis. 2020 Feb 28.

◆中国から潜伏期が年齢により異なるという報告.武漢以外の地域の正確なデータを用いて潜伏期間を検討すると,平均5.8日,中央値5.0日.しかし40歳に分けると有意差があり,40歳以上のグループでは潜伏期間が長く,ばらつきも大きい(図1).年齢によって隔離の日数を変えるべき.medRxiv 2020.02.24.20027474


◆北海道大学からの報告.ヒトからヒトへ感染が何日間で生じるか,28の事例をもとに検討したところ,中央値4.0日で,潜伏期間の約5日よりも短かった.発症前に感染を起こすことを意味し,感染予防の難しさを示唆する.medRxiv 2020.02.03.20019497

◆日本からの短報で,閉鎖環境は感染のリスクとなることが報告された.10のクラスターからなる110名の検討で,27名(29.6%)が二次感染を引き起こした.閉鎖環境にいた患者は,二次感染をきたすリスクが18.7倍も上昇した.medRxiv 2020.02.28.20029272

◆数理モデルによりDiamond Princess号の検疫を検証した研究が複数報告された.結論はいずれも検疫・隔離の失敗である.
スウェーデンの報告では,船内の基本生産数(R0;1人の患者から何人に感染させるかを表す数)は,当初,武漢の4倍以上高い14.8.もし防衛手段を講じなければ2920/3700名(79%)が感染した.検疫・隔離によりR0は1.78まで減少し,2307名が感染から免れた.しかし患者が10名発生した2月3日に,すぐ全員を下船していれば,感染者は76名で済んだと予測(注;最終的に3,711人中706人(19%)が感染した).J Travel Med. 2020 Feb 28.

◆中国の検討では,全期間のRoは2.2.患者数が2倍になる期間は4.6日と短く,早急な対応が必要であった(図2).2月15日で,PCRは285/930で陽性,うち無症状者は73名(25.6%).2月20日で,PCRは634/3063名で陽性,うち無症状は328名(51.7%!).すなわち検疫・隔離を行ったとはいえ,無症状感染者が急激に増加してしまった.疑い例を1000名下船させると,ピークが青から緑に減少,R0を1.5まで低下できればピークが3月末にずれて,その間,対策ができた.それにしても無症状感染者の頻度の高さに改めて驚く.国内でも同様かもしれない.medRxiv 2020.02.26.20028449


◆検疫・隔離が及ぼす精神的影響に関する総説が報告された.外傷後ストレス症候群,混迷,怒りなどが生じる.増悪因子は長期間の隔離,感染への恐怖,葛藤,退屈,不適切な供給品や情報など.期間は最小限度にとどめ,明確な理由,計画の情報,十分な支給品が不可欠である.検疫の意義を理解していただき,自主的に同意してもらうことが望ましい.Lancet. 2020 Feb 26.

◆つぎに予後不良を予測する因子が2つ中国から報告された(抗体高力価と血中RNA検出).まず患者173名における血清中の抗体価,IgM,IgGについて初めて報告され,seroconversion(抗体陽転)率は順に93.1%,82.7%,64.7%(図3).陽転までの期間の中央値は11,12,14日であった.抗体は発症7日目では40%未満であったが,15日には100%に上昇した.逆に血中RNAは66.7%から39%に低下した.血中RNAと抗体の組み合わせで病初期でも診断ができ,かつ抗体高力価は予後不良因子となることが分かった.medRxiv 2020.03.02.20030189


◆48名の患者において,血中におけるウィルスの検出(RNA血症)は最重症群において認められ,重症度を反映していた(図4).またRNA血症は炎症性サイトカインのIL-6レベルと相関した(r = 0.902).つまり血中のウィルス検出は重症化の原因となるサイトカイン・ストームを予測し,予後不良を予測する因子となる.またIL-6は有望な治療ターゲットである.medRxiv 2020.02.29.20029520


◆実際に関節リウマチなどに使用される抗IL-6受容体抗体アクテムラ(トシリズマブ)の効果が,中国科学技術大学において重病患者14名に対し検証され有望な効果がみられた.この抗体を有するRocheは同剤200万ドル分を中国に寄付したと公表,すでにランダム化比較試験が開始された.

◆また患者回復期血清を用いた輸血治療について議論されている.患者血清を用いた治療はSARS,エボラ出血熱,MERS等において行われ,有用性が示されている.血清中の抗体がウィルス自体や感染細胞のクリアランスに作用すると考えられる.臨床試験が開始されている.Lancet Infect Dis. 2020 Feb 27.

◆基礎研究で話題になっているのは北京大学の研究で,入手可能な103のウィルスゲノム情報を解析した結果,受容体結合ドメインの機能部位において,異なる2つのSNPs(一塩基多型)により規定される2種類のストレイン(株)の存在が示唆された.悪性度の低いS型から高いL型に進化し,ヒトへの感染が急速に拡大したと推測している(LとSはそれぞれが連鎖するSNPsのコドンがコードするロイシンとセリンに由来). L型が7割.武漢の流行初期の感染ではL型が多かったが,今年1月初めから減少傾向.しかし論文には疫学データや患者症状との関連,動物実験の記載はなく,今後の検証が必要.National Science Review. March 03

◆最後にTravel Med Infect Dis 誌は東京オリンピック開催について言及し(図5),ホスト国はその開催について責任があり,十分な疫学データによる現状の評価を行い,プレイヤーと観客のリスクについて正しく評価し,選手村における適切な予防手段を講じる必要がある提示した.PCR検査もままならず,世界と同等の科学的貢献ができていない日本には高いハードルである.Travel Med Infect Dis. 2020 Feb 26:101604.

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