Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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脊髄小脳変性症2型(SCA2)の頸部ジストニアに対するL-DOPA補充療法

2009年09月21日 | 脊髄小脳変性症
 SCA2ではパーキンソニズムやジストニアなどの錐体外路症状を合併するが,その治療法については十分に検討はなされていない.今回,SCA2における頸部ジストニアに対し,L-DOPAと抗コリン剤が有効であった症例が本邦より報告されている.

 症例は家族歴を有する51歳の男性で,44歳時に失調歩行にて発症した.神経学的には,四肢・体幹の運動失調,眼球運動制限,緩徐眼球運動,断綴言語,四肢腱反射減弱,前頭葉徴候を認めた.頭部MRIでは,小脳・橋が萎縮しており,遺伝子検査ではataxin 2遺伝子におけるCAGリピートの伸長(42リピート)を認め,診断を確定した.

 不随意運動は50歳頃より頚部に認められるようになった.胸鎖乳突筋の筋トーヌスが右優位に亢進し,かつ左右交互に収縮するため,頭部は左へ回旋し,さらに 4Hzの振戦様運動を呈した.表面筋電図でも同様の所見が確認され,かつ感覚性トリックも認めたため,頚部の不随意運動はジストニアと診断した(dystonic tremor).治療としてL-DOPAを開始したところ不随意運動は明らかに軽減した.トリヘキシフェニジルの追加により,さらに改善を認めた.

 SCA2では頸部ジストニアの合併はまれではない.Boeschらは,SCA2の18例のうち11例(61%)に頸部ジストニアを認め,7例は側屈のみ,3例は側屈と頸部回旋,そして1例に頸部dystonic tremorを認めたと報告した.またZárubováらは,30代前半に小脳失調にて発症し,41歳時に頚部後屈を伴う頸部dystonic tremorを呈した症例を報告している.これらの原因として,黒質の変性,基底核サーキットまたは橋小脳路の機能障害が関与する可能性が示唆されてきた.

 本症例においてL-DOPAが有効であったことは,黒質の変性が,頸部dystonic tremorに関与しているという仮説を支持するものである.黒質の変性はドパミン系とコリン系の不均衡を生じ,この不均衡を是正する抗コリン剤も症状の改善に有効であったものと考えられた.しかしSCA2では病期の進行に伴い,D2受容体の減少・消失が生じることが報告されていることから,L-DOPAの効果は徐々に減弱する可能性がある.今後,症例を蓄積し,SCA2の不随意運動に対するL-DOPA,トリヘキシフェニジルの有効性を検証する必要がある.

Mov Disord. 2009 Sep 4. [Epub ahead of print]

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むずむず足症候群患者脳におけるドパミン系障害および鉄欠乏

2009年09月15日 | 睡眠に伴う疾患
むずむず足症候群の病態に関して,治療としてL-DOPAやドパミン作動薬が有効であることから,ドパミン系の障害が指摘されている.また,脳内鉄の欠乏が関与している可能性も示唆されている.しかし,実際の患者脳組織においてドパミン系の障害が生じていることは証明されていない.今回,患者剖検脳の被殻および黒質を試料とし,ドパミン代謝にかかわる種々の因子を定量的に検討した研究が報告された.

方法としては,むずむず足症候群患者8名と年齢,性別をマッチさせた15名の脳について検討を行った.むずむず足症候群の死亡年齢は53歳から84歳で,罹病期間は32年から78年であった.いずれの患者も連日のむずむず足症状を呈し,IRLSSスコア(国際RLSスコア)は平均31点で,重症例であった.

結果としては,被殻においてD2受容体の発現は,対象と比較して約30%低下していた(P=0.028).一方,D1受容体,ドパミントランスポーター,小胞モノアミン輸送体,ドパミンには有意差はなかった(各抗体によるWestern blotで得たバンドをdensitometoryで定量化している).被殻におけるD2受容体の発現低下は,疾患重症度と相関していた(R=0.80, P=0.018).また患者脳の黒質において,チロシンヒドロキシラーゼ(TH)が上昇していた.さらに被殻および黒質において,THの活性化型であるリン酸化チロシンヒドロキシラーゼ(pTH)が上昇していた.

従来の研究で,鉄欠乏とむずむず足症候群の関連が報告されていることから,ラットおよびカテコラミン系培養細胞(褐色細胞腫細胞)の鉄欠乏モデルを用いて,鉄欠乏がTHやpTHに与える影響を検討した.この結果,いずれの系においても鉄欠乏はTHおよびpTHの上昇を引き起こすことを示した.

ドパミンD2受容体は患者脳において減少し,その減少は重症度に相関したという結果は,本疾患におけるドパミン系異常の重要性を再確認させるものとなった.またラットおよび培養細胞モデルでの結果は,本疾患の病態において患者脳における鉄欠乏が重要であるということを示した点で重要な報告である.

Brain 132; 2403-2412, 2009 
Comments (2)
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