Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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Psychogenic movement disorderの診断・治療をめぐって

2009年10月11日 | その他
2009年10月8~10日,第3回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(いわゆるMDSJ)が東京で開催された.この学会のスケジュールはぎっしり詰まっていて,とくに恒例のイブニングビデオセッション(持ち寄った不随意運動のビデオを見て,その症候をどう表現し,どう考えるかコメンテーターが述べる名物セッション)のある2日目は,終了時間は夜9時を過ぎる.このセッションは,アルコールの影響もあって,普段の学会と違ったフランクなやり取りが行われたり,movement disorderの領域のauthorityの本音が聞けたり,とても楽しい!

今年もとても面白い話を聞くことができた.10題のビデオ演題のうち,とくにホットな議論になったのはpsychogenic movement disorderについてであった(psychogenic movement disorderについては,以前の記事を参照.下記の書籍も非常に勉強になるので,ぜひ目を通してほしい).この疾患に対する先輩神経内科医の先生方の考え方を拝聴できたのは,とても勉強になったので,以下,その中でも,とくに心に残った言葉を書き留めておきたい(少し表現が違うかもしれませんがご容赦を).

① 「psychogenic movement disorderは神経内科医がきちんと診るべき疾患である.神経内科医は,不随意運動を呈する症例の中から,神経症候学の知識をフルに活用して,psychogenicな原因を有する症例を全力で探し出さねばならない.そして適切な治療法をお示しすることは神経内科医にしかできない仕事である」
この点は個人的にはしっかり肝に銘じねばならないと思った.

② 「psychogenic movement disorderは,心理療法によって,不随意運動が消失した時点をもって診断を確定すべき」
どうみてもpsychogenicだろうと考えた症例であっても,実はorganicな原因が存在したという苦い経験を多くのベテラン神経内科医にはしていて,その教訓から上記のような慎重な態度が必要だという教訓が得られたということである.ただ一方で「psychogenic movement disorderはすべて治るというものではないので,必ずしもそうはならない」という批判もあった.確かにそうかもしれないが,診断に対する慎重な態度ときちんと治療を行うという点を強調した点で素晴らしい言葉だと思った.

③ 「psychogenic movement disorderでも後遺症が残ることがあるので(!),初期のうちに徹底的な治療介入をすべきである」
この発言にも驚いた.個人的にpsychogenic movement disorderの患者さんの経過を長くfollowできたことは多くなく,後遺症が生じうることについてはあまり考えたことがなかった.初期の治療がうまくいかず,徐々に症状がエスカレートしたらしき症例の提示もあり,とても勉強になった.

とても有意義な学会でした.とても面白い学会なので,ぜひ参加されることをお勧めします.来年は京都だそうです.

第3回MDSJ(パーキンソン病・運動障害疾患コングレス)

The Psychogenic Movement Disorders: Neurology and Neuropsychiatry (Board Review Series) 
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TDP43 遺伝子変異はハンチントン病様表現型を呈しうる?

2009年10月05日 | 舞踏病
神経細胞およびグリア細胞内のユビキチン陽性,リン酸化TDP43陽性封入体を認める疾患として,ユビキチン陽性封入体を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD-U),ALS,そして運動ニューロン疾患を伴う前頭側頭型認知症(FTLD-MND)がある.TDP43をコードするTARDBP 遺伝子の変異は,遺伝性および孤発性ALSにおいて報告されているが,さらに最近,FTLD-MNDの2症例でも,遺伝子変異が報告された.今回,このTARDBP遺伝子における既報にない変異により,前頭側頭型認知症(FTD),核上性眼球運動麻痺,そして舞踏運動をきたした症例が報告された.

症例は35歳のハンガリー人男性.家族歴では,父が52歳で肺がんで死亡,母が60歳で健康,精神発達遅滞を兄に認めるものの,そのほかは異常はない.

現病歴としては,性格変化とつじつまの合わない会話にて発症.その後,易転倒性,不安,不穏,多動,不眠,夜間徘徊,インポテンツを呈した.このため36歳時に精神科を受診し,その後,神経内科を紹介された.

神経学的には,垂直方向性眼球運動制限,上肢の舞踏運動,眼瞼痙攣,常同運動,原始反射を認めたが,筋強剛,筋力低下,小脳失調,感覚障害はなし.神経心理では,顕著な感情鈍麻,幼稚な行動,脱抑制が見られた.血液生化学,検尿,脳波には異常なし.頭部MRIでは中脳蓋の顕著な萎縮と尾状核の萎縮を認めた.臨床的にFTDと診断されたが,症状は急速に進行し,37歳時に心不全後の肺うっ血のため死亡し,剖検が行われた.

神経病理学的には,扁桃体,尾状核,被殻,淡蒼球,視床下角,oculomotor cortex,黒質等の神経細胞脱落とグリオーシスが顕著で,何とこれらの部位にリン酸化TDP43陽性封入体を認めた(409/410のセリン残基に対する市販の抗体を用いている).封入体は神経細胞の核内にも細胞質にもみられ,後者では細長いもの,球状のもの,糸くず状とさまざまな形態を示した.これらの封入体はユビキチンやp62(ユビキチン結合タンパク)による抗体で,軽度染色されたが,βアミロイド,αシヌクレイン,リン酸化タウは陰性であった.

病理所見より,TDP43 proteinopathyが疑われ,剖検脳を用いてTARDBP遺伝子の解析が行われたが,exon 6のcodon 263にK263E変異を認めた(この部位は高度に保存されているC末端領域で,遺伝子変異が集積している).この遺伝子変異は530人のコントロールDNAでは認められなかった.またProgranulin遺伝子とハンチントン病の原因遺伝子であるIT-15遺伝子に変異は認めなかった.

非常に驚いた,何ともインパクトのある症例報告である.ひとつめのインパクトは,TDP43 proteinopathyが,ALSとFTDという2つの表現型の間のスペクトラムをとるだけではなく,もっと幅広い表現型を呈する可能性があることを示したことである.もう一つのインパクトは,ハンチントン病の鑑別診断として,TDP43 proteinopatrhyを今後,考えねばならなくなるかもしれないことである(ハンチントン類似の遺伝性舞踏病はHDL1~3まであるが,もしかしたら将来HDL4になるかもしれない.このへんについては下記の邦文総説を参照).このような症例が本当に存在するのか,もしあるのであればその頻度はどの程度なのか,今後の検討がとても重要である.

Mov Disord 24; 1843-1847, 2009 
Brain & Nerve 61;963-971, 2009 

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