Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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多系統萎縮症の臨床評価スケール ~UMSARS~

2004年10月31日 | 脊髄小脳変性症
これまで多系統萎縮症(MSA)の臨床評価スケールは存在せず,MSA-CではICARS(International Cooperative Ataxia Rating Scale)を使用したり,MSA-PではUPDRS(United Parkinson’s Disease Rating Scale)を使用したりしていた.今回,UMSARS(united multiple system atrophy rating scale)が,欧米のMSA study groupにより作成された.スケールは4つのパートからなり,パート1は病歴(12項目;最高48点),パート2は運動機能評価(14項目;最高56点),パート3は自律神経機能評価(4項目),パート4は全体的な機能障害スケールである.点数が高いほど障害の程度は強い.MSA 40症例で実際に評価に使用し,その妥当性が確認された.パート2の点数は,UPDRS-III(パーキンソン病評価スケール)やICARS(international cooperative ataxia rating scale)と良好な相関を認めた.患者の障害の程度にもよるが,検査の所要時間は30-45分であった.
 本疾患の多様な臨床像を考えると,MSAに限定したスケールが作成されたことは非常に有用と思われ,今後,UMSARSがMSAの臨床評価スケールとして定着するものと思われる.しかし,パート2などでは,神経内科医の熟練度によって,評価にバラつきが生じる可能性も考えられ,とくに若いドクターは先輩ドクターと練習を行ったほうが良いものと思われる.

Mov Disord 19; 1391-1402, 2004

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細菌性髄膜炎の臨床的特徴および予後因子

2004年10月30日 | 感染症
急性細菌性髄膜炎に罹患した成人患者の臨床的特徴・予後因子を明らかにするため,オランダで全国規模の研究が行われた.方法は1998~2002年にかけて,髄液検査にて市中感染性の急性細菌性髄膜炎と診断されたオランダ人患者全員をprospectiveに評価.入退院時に神経学的検査を行い,GCSにて転帰を分類(不良;GCS=1~4 点,良好;5 点),ロジスティック回帰分析により予後因子を明らかにした.結果としては,696 例の急性細菌性髄膜炎を検討.病原菌は,S. pneumoniae(肺炎連鎖球菌;全体の51%)と N. meningitidis(髄膜炎菌;37%)が最も多かった.発熱・項部硬直・精神状態の変化という三徴を呈したのはわずか44%であったが,95%で頭痛・発熱・項部硬直・精神状態の変化の 4 症状のうち 2つ以上が出現した.入院時,患者の14%が昏睡状態,33%が局所的な神経異常を示した(失語,片麻痺,脳神経麻痺;Ⅷ>Ⅲ>Ⅵ>Ⅶ).全死亡率は 21%.死亡率は肺炎球菌性髄膜炎のほうが髄膜炎菌性髄膜炎よりも有意に高い(30% vs 7%).全症例の34%で転帰が不良.転帰不良の危険因子は,①高齢,②耳炎または副鼻腔炎の存在,③発疹がないこと,④入院時のGCSスコアが低いこと,⑤頻脈,⑥血液培養陽性,⑦赤血球沈降速度亢進,⑧血小板減少,⑨髄液中の白血球数低値であった.予後不良の最も強い危険因子は,全身状態不良を示唆する要因,意識レベルの低下,S. pneumoniae による感染であった.
本研究は,細菌性髄膜炎の予後予測に非常に役に立つ報告である.

N Engl J Med 351;1849-59,2004

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研修医の勤務時間と医療過誤の関係

2004年10月28日 | 医学と医療
Harvard Medical Schoolから非常に意義深い2つの報告がなされた.1つ目は「レジデントの勤務時間の短縮が睡眠と注意力欠如に及ぼす影響」.レジデントの勤務時間と,睡眠時間・注意力欠如の関係について,長時間勤務シフトを含む伝統的なスケジュールと,連続勤務時間を16時間以内に制限した介入スケジュールとで比較.対象は1 年目のレジデント20 人で,観察期間はICUでの3週間の勤務を各スケジュール 1 回ずつとした.毎日,睡眠日誌と勤務日誌を記入し,睡眠日誌の妥当性はPSGにても確認した.結果は,勤務時間は従来のスケジュールでは週平均84.9時間,介入スケジュールでは平均65.4時間と,週19.5時間の短縮.これにより,睡眠時間は週5.8時間延長し(P<0.001),当直中に注意力欠如がみられた割合は半数未満となった(P=0.02).
2つ目は,「勤務時間短縮がICUにおける重大な医療過誤に与える影響」.上記の勤務スケジュール間で,レジデントによる重大な医療過誤の発生率を比較.観察期間は634件の入院を含む2203患者・日.従来スケジュールは介入スケジュールと比較し,医療過誤は35.9%多く(P<0.001),うち重大な過誤も56.6%多かった(P<0.001).重大な投薬ミス,および重大な診断ミスもそれぞれ20.8%(P=0.03),5.6 倍(P<0.001)と多くなった.
以上の結果はレジデントの長時間勤務を減らすことで,夜間勤務時の注意力欠如が減少し,ICUにおける重大な医療過誤も減らせることを示唆する.当然予測される結果であるが,このようなエビデンスを持ったデータはこれまで存在しなかったことからその意義はきわめて大きいものと思われる.当直翌日の勤務をどうすべきかなど,あらためて検討していく必要がある.

N Engl J Med 351;1829-37, 2004
N Engl J Med 351;1838-48, 2004

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急増が予測される小児期発症AIDS脳症の特徴

2004年10月27日 | 感染症
症例は過去4年にわたる上気道感染の繰り返しと,進行性の神経症状を認める13歳のインド人男子.1年前より学業成績の低下,6ヶ月前より両下肢・体幹の筋力低下を認め,2ヶ月前より起立不能.一般身体所見では肝腫大と肺ラ音,神経学的には近時記憶の低下(MMSE 10/30)と両側錐体路症状を認めた.頭部MRI FLAIRでは大脳白質のびまん性高信号を認めた.遅発性白質脳症と感染を伴う気管支拡張症と診断されたものの,知能低下が進行性であるため診断の見直しを要した.父が結核にて死亡していることから,HIV感染の可能性を疑い,血清抗体価,CD4細胞数,血漿HIV DNA-PCRの結果から感染が確認された.また中枢神経日和見感染症が否定されたことからHIV-dementiaと診断した.母親にもHIV感染が確認された.治療としてHAARTが開始され,知能低下は改善した.
 今後,小児の原因不明の白質脳症としてAIDS-dementiaも鑑別に挙げる必要がある.小児発症AIDS中枢神経症状の特徴としてcortical atrophy,錐体路症状,仮性球麻痺,精神症状を呈することが知られているが,周産期に感染し,未治療の症例では成人と比較して進行が急速であることも報告されている.本邦でも若年者におけるAIDS感染の増加が指摘されており,今後,周産期~乳幼児期感染・小児期発症パターンのAIDS脳症が増加する可能性が高いことを医療従事者は認識すべきである.

Lancet 364; 1460, 2004

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Posterior cortical atrophy(PCA)の臨床・病理像

2004年10月26日 | その他の変性疾患
Posterior cortical atrophy(PCA)は後頭葉の進行性の萎縮を来たす疾患で,本邦からも複数の報告例がある.今回,PCAに関する2つのケースシリーズがNeurologyに掲載された.まずMayo Clinicは過去14年間に集積した40例を検討した.発症年齢は60.5±8.9歳,性別は女性が男性の2倍であった.主な視覚異常は同時失認(82%;Balint症候群の一部)および視野障害(47.5%)で,そのほか,失計算(Gerstmann症候群の一部),失読,健忘性失語もしばしば認められた.病初期には病識は保たれていた.ApoEやtauのハプロ解析はアルツハイマー病(AD)のパターンとは異なっていた.9例で剖検が行われ,7例はADで,2例はCBDの病理像に類似していた.しかし,ADと類似していた7例のNFTの分布は,Brodmann 17, 18野(後頭葉)が主体で,海馬には少なく,ADのパターンとは明らかに異なっていた.
 もうひとつの報告はWashington大からの報告で,臨床的にPCAと考えられる27例(性差なし)を検討し,うち21例で剖検を施行.内訳はADが13例,AD-Lewy body variant,CBD,プリオン関連疾患が各2例ずつ,AD and PD,DLB with subcortical gliosisが各1例であった.
 以上の報告はPCDがheterogeneousな病態であること,ADと類似する病理像を呈することが多いものの,ADとは同一の病態ではないことを示唆している.

Neurology 63;1168-1174, 2004
Neurology 63;1175-1180, 2004

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脳卒中に対する研究費は不足している

2004年10月26日 | 脳血管障害
脳卒中は全世界において死因の第2位を占める疾患でありながら,その研究費は十分でないことがアメリカや英国の検討で知られている.今回,ヨーロッパ9カ国における脳卒中に関する研究費についての調査が報告された.期間は2000年~2001年で,脳卒中,虚血性心疾患,がんについての研究費を比較した.いずれに国においても脳卒中の研究費は少なく,がん研究費のわずか2~17%を占めるに過ぎなかった.またトルコを除くすべての国で虚血性心疾患が脳卒中の研究費を上回り,58%未満にしか過ぎなかった.すなわち,脳卒中の研究費不足は世界的な現象であると言えよう. 
 ではなぜ脳卒中の研究費が少ないのであろうか?原因は単純ではないと考えられるが,まず①治らない疾患であるという認識が強いこと(nihilism),②臨床に結びつかない基礎研究がこれまで少なからずあったこと,③heterogeneousな病態であり,研究がしにくく,研究者が少なかったこと,などが挙げられよう.しかし脳卒中がこれだけ多大な後遺症を残し,医療費に占める割合が高いことを考えると,研究ポストと研究費を増やすこと,ならびに研究の質を上げていくことは不可欠であると考えられる.もう稀な病気ばかり研究することを見直しても良い時期と思う.

Stroke 35; 2368-2371, 2004

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群発頭痛の遺伝的要因 ~ヒポクレチン系の関与~

2004年10月24日 | 頭痛や痛み
群発頭痛は,一側の眼窩から上顎や頭部へ広がる激しい痛みを主徴とし,流涙,鼻汁,鼻閉,結膜充血などを合併する.原因は不明であるが,一卵性双生児における罹患例や,同一家族内の発症率が高いことが知られており,何らかの遺伝要因が関与している可能性が指摘されてきた.また,画像解析によって背外側視床下部灰白質における異常信号が指摘され,同部位との関連も指摘されていた(Lancet Neurol 1; 251-2577, 2002).一方,神経ペプチドであるhypocretinは,睡眠や食欲に関与する神経ペプチドで,その受容体遺伝子の変異がナルコレプシー犬において発見され,さらにヒトナルコレプシー患者でも髄液hypocretin濃度が著明に低下していることが発見された.背外側視床下部にはHypocretin含有ニューロンが豊富に存在するため,今回,hypocretin遺伝子(HCRT)ならびに2つの受容体遺伝子(HCRTR1 & 2)の遺伝子多型と群発頭痛の関連がイタリアのグループにより検討された.
 対象は群発頭痛患者109名,対照は211名.HCRT2遺伝子の1246 G>A多型において両群間に有意差を認めた.オッズ比は6.79で95%CIは2.25~22.99であった.この結果からHCRTR2遺伝子もしくは同遺伝子座位のHCRTR2近傍の遺伝子が群発頭痛に何らかの影響を及ぼしている可能性が示唆される.今後,群発頭痛患者における髄液hypocretinの測定も行われることと思われ,結果が待たれる.

Neurology 63; 1286-1288, 2004

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アルツハイマー病治療にBBB通過性ACE阻害薬が有効?

2004年10月23日 | 認知症
アルツハイマー病(AD)では,中枢神経内においてRenin-Angiotensin(RA)系に異常が生じているという仮説のもと,BBB通過性ACE阻害薬の効果を検討した報告が本邦よりなされた.対象は65歳以上の軽症~中等症のAD(MMSE 13-23点)で,高血圧を合併する症例.脳卒中・IDDM・内分泌異常・気管支喘息・閉塞性肺疾患の合併例は除外.計162名をランダム化し,A群にはBBB通過性ACE阻害薬(perindoprilコバシル, captoprilカプトリル),B群にはBBB非通過性ACE阻害薬(enalapril, imidapril),C群にはCa拮抗薬を使用した.この結果,1年の観察期間でA群でのみMMSEの低下を認めなかった.
 すでにperindoprilやindapamideの使用はADの発症率を低下させることがprospectiveに報告されているが,この結果はBBB通過性ACE阻害剤がADの治療にも有効である可能性を示唆する.非常に興味深い結果であるものの,Reviewerも指摘するとおり,以下に挙げる方法論的な問題があり,妄信するのは危険である.①A群の2つの薬剤がともに効果があるのか不明,②B, C群の知能低下の程度が予想されるものより大きい,③副作用が予想以上に少ない,④ランダム化にもかかわらず,二重盲検が行われていない.⑤評価項目がMMSEのみ.Reviewerはこの論文をアクセプトすべきか迷ったようだが,その刺激的な内容を考慮して採用したらしい.本研究はADの病態機序をRA系から考えるという新しい観点が必要であることを示した点と,強固なエビデンスを作るためには良くデザインされたstudyが重要であることを示している.

Neurology 63;1324-1325, 2004
Neurology 63;1145, 2004(Commentary)

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原発性ジストニアにおけるSCA17遺伝子変異の頻度

2004年10月23日 | 脊髄小脳変性症
SCA17は本邦で発見された疾患で,TATA結合蛋白(TBP)遺伝子におけるCAGリピートの伸長により発症する.本疾患はTBP geneがcoding領域にpolymorphicなCAGリピートを持つことから,脊髄小脳変性症(SCD)の原因遺伝子になるのではないかという仮説のもと,原因不明のSCDをスクリーングした結果,小脳失調・てんかん・痴呆を呈した小児例1例(孤発例)を発見したのが発端である(Hum Mol Genet 8;2047-53, 1999).その後,家族例が報告され,SCA17という疾患名が付いた.その後の検討で,SCA17は小脳失調,痴呆,パーキンソニズム,舞踏運動など多岐に亘る臨床像を呈することが報告された.また局所性ジストニアを呈した症例も報告されている.
 今回,TBP遺伝子のCAGリピート伸長が原発性ジストニアの原因となるのかについて,ドイツのグループが検討を行った.SGCE遺伝子(epsilon-sarcoglycan gene;myoclonus-dystonis syndrome)やDyt1遺伝子の変異が否定された288人についてTBP遺伝子のCAGリピートを検討したところ,1例も伸長(47-63 repeat;健常は29-42 repeatと定義)を認めなかった.少なくともジストニアの原因として,SCA17は頻度が高いとは言えない,というのが結論である.
 話はそれてしまうが,なぜ遺伝子発現の根本とも言うべき基本転写因子の異常で,中枢神経にのみ障害が生じるのか何とも不思議である.

J Neurol 251; 1232-1234, 2004

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感染性心内膜炎に伴う脳塞栓症例に対し,いつ弁置換術を行うべきか?

2004年10月22日 | 脳血管障害
感染性心内膜炎(IE)の約20-40%に何らかの神経合併症が生じると報告されている.具体的には脳塞栓症,細菌性髄膜炎,脳出血の順に多い.脳塞栓のリスクは疣贅のサイズと相関し,抗菌剤の使用により減少することも証明されている.また抗菌薬による治療とともに検討しなければならないことは弁置換術である.当然,重症心不全を合併する際には弁置換術は不可欠であるが,それ以外の場合,①弁置換術を行うことのリスク(再梗塞)と,②弁置換術がその後の塞栓を予防しうるか,については不明である.また手術後使用する抗凝固剤による脳出血の合併・助長についても検討する必要がある.
今回,自験例12例と文献例228例の計240例のIEに対し,弁置換術の施行時期と脳梗塞の発症のリスクの関係を調べた論文が報告された.これによると脳塞栓後3日以内の手術で,再塞栓を来たすリスクは20%,4-14日の手術では20-50%,14-28日では10%未満に低下,28日以降では1%未満となる.以上より,著者らは弁置換術は基本的に塞栓後4週目以降に行うこと,重篤な心不全を合併する場合には3日以内に行うことを推奨している.
今後,Prospective studyを行う必要はあるものの,本研究は臨床的に非常に有用なデータと言えよう.

J Neurol 251;1220-1226,2004

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