Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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多系統萎縮症(MSA)改訂診断基準 

2008年10月03日 | 脊髄小脳変性症
多系統萎縮症の診断基準の改訂については,過去に当ブログでも紹介したが,正式に論文として報告されたので紹介したい.ただし私の行った日本語訳は一部意訳を行っているので,ぜひオリジナルをご参照いただきたい.

<改訂診断基準>
従来通り,definite, probable, possibleに分類し,さらにMSA-PとMSA-Cに分類する.

1. Definite MSA
病理学的に,中枢神経広範に多数の-synuclein陽性glial cytoplasmic inclusion(GCI)を認め,線条体黒質系もしくはオリーブ橋小脳系の変性所見を伴う.

2. Probable MSA
孤発性で進行性の成人発症(30歳以降)の変性疾患で,自律神経障害に加え,レボドパ不応性のパーキンソニズムか,小脳症状を呈する

ここでの自律神経障害とは,尿失禁に加え,勃起不全(男性)か,もしくは起立後3分以内に少なくとも収縮期血圧が30 mmHg,拡張期血圧が15 mmHg低下する起立性低血圧のことである.

レボドパ不応性パーキンソニズムとは,寡動に加え,筋強剛,振戦,もしくは姿勢反射障害を認めるものである.

小脳症状とは,失調歩行に加え,小脳性構音障害,四肢失調,もしくは小脳性眼球運動障害を認めるものである.

3. Possible MSA
孤発性で進行性の成人発症(30歳以降)の変性疾患で,パーキンソニズム,もしくは小脳症状を呈し,加えて自律神経障害を示唆する所見(原因不明の尿意ひっ迫,頻尿,残尿,勃起不全,もしくはprobable MSAの規準を満たさないレベルの起立性低血圧)を少なくとも一つ認め,さらに以下の表からもう一つの所見を満たすもの.


1. Possible MSA-P もしくはMSA-C
腱反射亢進を伴うBabinski徴候陽性
喘鳴

2. Possible MSA-P
急速進行性のパーキンソニズム
レボドパ不応性
運動症状出現3年以内の姿勢反射障害
失調歩行に加え,小脳性構音障害,四肢失調,もしくは小脳性眼球運動障害
運動症状出現5年以内の嚥下障害
MRIにおける被殻,中小脳脚,橋,小脳の萎縮
FDG-PETにおける被殻,脳幹,小脳の低代謝

3. Possible MSA-C
パーキンソニズム
MRIにおける被殻,中小脳脚,橋,小脳の萎縮
FDG-PETにおける被殻の低代謝
SPECT もしくはPETにおける黒質線条体におけるドパミン作動性ニューロンの節前性脱神経所見

MSAの診断を示唆するred flag(警戒信号)としては,顔面や口のジストニア, 発声困難, 構音障害,手や足の拘縮, camptocormia(腰曲がり), 吸気性のため息,増悪するいびき,冷たい手足,ミオクローヌス様振戦,病的泣き笑いが挙げられる.

逆に75歳以上の発症や,失調やパーキンソニズムの家族歴,典型的な丸薬丸め様振戦,認知症は,MSA以外の疾患を示唆する.

Neurology 71:670-676, 2008
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